八話
「やれやれ全く、娘を助けてやってくれといったが早速騒ぎを起こすとは思っても見なかったよ」
「いやあ、ははは面目ないです」
レイラを通しての報告によりちょっとした騒ぎになり生徒会や教師陣による調査隊が結成されるなどということになる一方で俺の力についてなのかは知らないがズィズィーエ学園長に呼び出されていた。
「とにかくキングゴブリンの件については一応調査しておくから迂闊に近づかないようにね、君の力ならあるいは容易なのかもしれないがあまり派手に動かれると手を回しきれない」
「ただのエクストラエンカウントならいいんですが……」
「レアケースであるが、君達が心配することはないさ。君はとにかく学園に慣れつつ娘の事に対処するんだ、いいね?」
学園長にしてみればたまったものではないだろう、ダンジョン管理は学院の責務であり最終的には学院長にそれが及ぶし娘を託した相手がそのトラブルの中心ともなればいい気分ではないはずだ。俺としては不本意ではあるが、何とか撃破できたのも偶然の産物と言っていい。一人では危うかったのもまた事実だ。
「わかりました、ルナの事はまだ流石に進展は……」
「それはわかってる、それについては急いでほしいが焦ってもらっても困る。あくまで事は慎重に迅速に丁寧に進めるんだ」
ルナが抱えているものは大きい、ゲーム本編においてもルートによっては全く救いがないというかフェードアウトしたまま敵対して終わるということさえあるが本来なら放っておいていい案件ではない。それをこの時点でどこまで把握してるかは描写されている限りではあまり深くは知っていないようだったし、やはり俺が単独で動くしかないだろう。その後は雑談で終わり別れた俺は教室に戻り事情を説明したが、学院長に呼び出された件については当然ぼかした。まあ知られてはまずいこともたくさんあるわけだしな。
◆◇◆◇◆
「それにしてもいきなり参ったものね、私達の行動は結果的によしとされたけどあのダンジョンには暫く潜れないなんてことになったら単位に関わるわ」
「そうですね、御仏様の力で何とか撃破は出来ましたがあんなものに二度と遭遇したくないものです」
3人で集まっての反省会。初めてのダンジョン攻略、練習用だったはずがとんでもないトラブルに遭遇してしまったからだ。結果オーライではあったしどうしようもないことであったのは事実だが本来ならあの場は何としても退却しておくべきだったというのが結論だ、逃げれていたかは別だが……
「ま、次頑張ろうぜ!幸いお咎めなしレベルで済んだしさ」
「全くあんたは呑気よね……」
「それが御仏様のいいところです♪」
「そりゃあ、今後も他のダンジョンを潜っていくわけだからな。宝くじに当たるぐらいの確率を引いただけさ、なーに次は大丈夫さ」
などとフラグを立てたわけではないが近日中に二人授業でダンジョンに潜ることになった、偶然にせよ上位種を倒したということでチュートリアルダンジョンではなく数階層あるちょっとランクアップしたダンジョンだ、もっともここもゲーム的には大差ないわけだが段階を踏むというのは必要だ、特に前回のようなイレギュラーがまた発生しないとは言えないのだから。ルナという爆弾を抱えたパーティーだいうことこもある、それを解決するためのアイテム探しも独自に行わなければならないが………
「そういうの、フラグっていうんじゃなくて?まあいいけれど」
「そう言うなよ、こうやってパーティーを組んだ縁なわけだしさ」
考えながら思い出したがエクストラエンカウントが発生するレベルのダンジョンであれば学院側の手により調整が行われるしそもそもチュートリアルダンジョンとして設定などされていないはずだ、ゲーム的にもこの現実的にも、だ。そこでおもいだしたのはルナに憑く存在である黒妖狐姫、体に同居している彼女の魔力が溢れて上位種のモンスターを生み出してしまったという可能性だ。本編でもほんの手を一振りでモンスターを召喚するなどとしていたので考えられない話ではない。一刻も早く魔笛を見つけてルナから引き剥がさなければ……
「御仏様、何かいい案が?」
「いやまああんなこと早々起きるはずもないからさ、気楽に行こうぜ」
内心の思考を読まれたわけではなかろうがルナの純粋な瞳で見つめられると辛いものがある。ましてや内に宿る黒妖狐姫がある日突然表に出てきて何もかもを滅茶苦茶にするという恐怖心だってないわけではない。魔笛に対抗できる聖笛を出来れば一番いいがあちらは学院の秘宝としてとある場所に封印されているしそれは主人公たる未来が手にするだろう、とりあえずは魔笛を入手するための下準備として再び単身ダンジョンへと潜ることにしたのであった。
必要だ、といったのはこの魔笛というものが非常に厄介なものでこいつは人を魅了し魔王を復活させる為の傀儡にしようとする力を持っているからだ。こいつに魅了されてしまう奴とも縁を作りたいが……これはかなり難易度が高く正直無理ゲーなので先に入手するなどで対処したい。
「魔笛の出現スポットに潜ろうだなんて無謀だよな……こっそりとはいえ成果があるといいんだが」
結局の所こうして地道にダンジョンに潜るしかないのである、自分を鍛え仲間を集めという点からは外れるが……単身でいざとなれば対峙するという状況に備えるためにも急がなかればならない、という焦りすらあるのだから。
「夢幻の洞穴……ランダムスポットとはいえよく見つかるもんだ」
夢幻の洞穴はいつ出現するかわからない未知のダンジョンで研究が進んでおらず学生の立ち入りは推奨されていない、生徒会や教師等は見つけ次第入っては探索しているようだが……魔笛ドロップのチャンスは少ない、ゲームでも手に入るのは本来終盤だがそれはゲームの都合上であって知識を駆使して探せば見つかるかもしれない、という僅かな期待を持って潜ることにしたのだ。ところがどっこい、道中でとんでもないものと遭遇してしまった。モンスター?いやいやそれならまだ可愛げがあったかもしれない、なんとそれは生徒会メンバーだったのだから。白雲会長やお付で書紀の亜々佐さんならいざ知らずもうひとりが不味かった。副会長のギルファード・スカルテッドがいたのだ、金髪をオールバックにした髪型に嫌味ったらしい眼鏡と目つき、これでいて武器メーカーシルバースターの御曹司というのだからまた鼻につくというものだ。いや、そんなことはどうでもいいとしてこんなところで遭遇していい人物ではない、何しろ主人公を始めとして敵対する多くの原因を作るのはこいつだ。悪意の塊とまでは言わずとも内に秘めた野望は大きく先述した魔笛に魅入られる筆頭といっていい、会うなら会うなりに準備を整えておきたかったし建前というものもある。
「貴様、一年生だな……?こんなところで何をしている。とっとと出ろ、ここは生徒会が巡回中だ。貴様のような下等な存在がいていい場所ではない」
「よさぬか、ギルファード。……御仏真也よ、ここは見逃す。お前の力ならあるいはここを走破することもあるいは叶うかもしれないが然るべきタイミングというものがある、よいな?」
「会長?!」
自分に同調して雷の一つでも落としてくれるだろうと期待していたであろうギルファードの信じられない、といったような視線を尻目にペコリと頭を下げておく。こんな状況で本来なら罰せられてもおかしくないところを見逃してくれるというのだから。
「いっておくが次はない、とお嬢様は仰られているのです。心しておくようにということです」
亜々佐さんの念を押すような一言まで加わった一言にやむなく俺はその場を離れざるを得なかった、魔笛関しては慌てず探していくことことにしよう、教訓的な意味はあるが悔しさを残るダンジョン攻略となってしまった。
「おのれ、あんな下等な平民が……御仏真也、その名前覚えたぞ。許さん、許さんぞ……」
俺が去った後に意味深な恨み節が投げかけられるがそれに気づかずまたそこで気づかなかったことに後に後悔することなことになるとはこのときは思いもしなかったのであった……