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四話

  うってかわって数週間、桜が咲き始める時期になっていた。あれから俺はズィズィーエ学園長の言葉に甘える事にして学園内のいくつかの施設を利用していた。育成SRG要素のあるマギウスジェネレーションは学園での会話、授業、訓練で主にステータスを上げる。さらにいえばダンジョン攻略でも勿論上昇するが今は入場許可書が無い今は考慮しなくていいだろう。


「えー……忍法・火の玉の術!」 


 訓練所に入り、図書室から借りて来た参考書を読み指で印を切りながら唱えると火の玉がでた。

 この世界において呪文というのは精神的高揚を促すという意味合いが強く、教科書的な呪文こそあれど必ずそれを使う必要はなく頭にイメージさえ描ければ良いとされている。無論そのままが弱いというわけではない、理論付けられたそれは歴史があり必要な素養と魔力さえあればある程度までは誰でも使えるというものだ。ーーーという理由付けで各ヒロインや一部の敵キャラがオリジナルの詠唱をつかうとされている、この辺りはゲームが発売された時代が時代であった為かそれ程叩かれはしなかったが実のところややこしかったのではないかと今は思う。そしていくつか試した中で一つ確信出来た事がある。やはり此の身体にはスカウト……忍者的な物が馴染むようだ、と。本格的な訓練は入学後になるがまた一つ目指すべき方向性がわかったのが何よりの収穫だ。この方向で鍛えていくとして、次にやるべき事といえば……飯だ。 訓練所で一汗かいた俺の足は自然とカフェへと伸びていた。

ここはマジックアイテムを始めとした雑貨屋もある総合店として学内でも特に人が集まる施設の一つだ。何かとお世話になる事になる場所ということで下見を兼ねて何度か顔を出している、スチルやテキスト上で美味い美味いという物と実際に味わうのはどのぐらい違うかという興味があったのも事実だが。


「いらっしゃいませ〜、見かけない顔ねあんたここの学生じゃないわね……どこの馬の骨かしら?」


「おいおいそりゃあないぜ、ここは一般開放されてるところだろ?」 


 ウエイトレスとして注文を取りに来た女性とのとんでもないエンカウントに腰が上がりそうになる。彼女はヒロインの一人、レイラ・フォン・ヴァッフェシュタインーーー金髪、縦ロール、ツンデレかつヤンデレ気質あり、爆乳とあらゆる属性を詰め込んだ人気ヒロインの一人である。当初こそ攻略キャラではなく悪役令嬢ーーー(当時はそういうカテゴリーはなかったが)的ポジションで主人公やヒロインの前に立ち塞がり時には敵対し最終的には仲間になりその人気っぷりからファンディスクや全年齢版を通して正式ヒロインに昇格し専用ルートを獲得したのだ。そんな彼女ではあるが最初のうちはかなり高飛車で人を見下すきらいがある、高い家柄と魔力を持つ故かプライドが非常に高く魔力を持たない種族を嫌っていた。主人公やヒロイン達と交流する中でそれが和らいでいくわけだが……


「貴方に魔術の素質があるようには見えませんけどねぇ……ま、いいでしょう。ご注文は?」


「Aランチだ!」 


訝しげなレイラの視線を余所に頼んだメニューはオーソドックスなランチ、ゲームではステータスの微上昇や疲労度回復などがあったがまあこれは現実、そういったものが実感できるかは分からないしあるいはないかもしれない。


「あんたも春から入学するの?」


「おう、そうだぜ。あんたもってことはそっちもかい?俺はてっきりここのスタッフかと」


「馬鹿ね、私はここのマスターに恩義があってね。入学前だけど特別に手伝いをしているのよ」 

 

 ちなみにここのマスターというか店長さんは主人公の母親でメインヒロイン達を始めとしたメインキャラ達の駄弁り場となるのでユーザーが教室かそれ以上によく見る場所となる。 などと雑談に花を咲かせているとランチを載せられたお盆を片手に若い女性がやってきた。


「あらあらー?レイラちゃん、珍しいじゃない、男の子と話しているなんて」 


「み、美鈴さんそういうのじゃないですってば」 


明日野美鈴、主人公とその妹・美奈の母親で二次元においてはデフォルトともいえる美人なママさんだ。十代の子供が二人もいるとは思えず20代と言われても違和感のないレベルだ。


「いやあ美人に囲まれて照れるッスねぇ〜」


「あんたも調子に乗らない!」 


 ほわほわとした美鈴さんの前である為かあるいは本編前はこんなものだったのかわからぬがレイラの反応が思っていたよりも優しい。先程から警戒していたのだが、どうも勝手が違う。

「全く……美鈴さん、私厨房に戻りますからね!」


「あらあら♪ごめんなさいね、ええと」


「真也、御仏真也っす」 


照れ隠しなのか肩を揺らして去っていくレイラの背中を頬に手を当て笑顔で見送る美鈴さんも絵になるものだなどと考えていたら今度こそこちらに興味が湧いたのか声をかけられた。


「真也君、今後も贔屓してね?レイラちゃんがあんなに楽しそうなのは初めて見たから」


「ははは、いやあそうですかね?何だか俺、睨まれてた気がしますけど」


「ふふっあれは照れ隠しね。あの子は色々と難しい立場にいるから気が合う子が中々いないのよ、だから重ねるようだけど宜しく頼むわね」 


勿論それはよく知っている。サー・ヴァッフェシュタイン議員の娘、名家の生まれでプライドが高くその実打たれ弱さもある多感な10代の女の子の部分も持ち合わせている。故に悪役のような立ち位置でありながらデザインの良さもあり後にヒロインとして抜擢されたのだ。そもそもこの世界がゲームと全く同じであるという証拠は何処にもない。ここが例えフラスコの中だったとしても内側にいる俺には知識と照らし合わせてそうかもしれない。と精々自分を納得させることくらいだ。


「了解っす、任せといてください」


 ドンと胸を叩き自信ありげに安請け合いした俺を見て何が可笑しかったのかクスクスと美鈴さんは笑っていた。 そうして更に数日、入学式の日を迎えた。日本によく似た島国、扶桑国の中心部に建てられた水上都市に奉日本たかもと学院は存在している。学院を中心とした一つの都市であり関係者であればここから一歩も出ずに生活が成立すると言われるぐらいにはあらゆる施設が網羅されている、ゲームの都合上といってしまえばそれまでだが。つつがなく入学式終えた俺はクラス表と席順の一覧が学園から配られた携帯端末に送信されたのを確認し眺めていた。

ここまでメインヒロインとは顔を合わせることがなかった。

だからありうるとすればここだろうと思っていたが案の定この世界の主人公ーーー明日野未来あすの みらいとその幼馴染である炎堂茜えんどう あかねがいるのを確認できた。未来が正ヒロインルートを辿るかは置いておいても俺の目的の為、何より世界を救う為には彼等にも強くなってもらう必要がある。


「よう、お二人さんはじめまして!仲がいいねぇ、カップルかい?」


 そう、ここから始まる、始めるのだ。俺という存在がこのマギウスジェネレーションというゲームによく似た世界に生まれ落ちそして生きていく為の物語が……

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