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三話

 何とかアイテムの入手に成功した俺こと御仏真也、このまま武器を持ち帰りいわばRTAのチャートのような物を作成しようかなどと呑気に祠を後にした時、それは起こった。


「う、ぅぅ……」


 蹲っている人影、苦しんでいる声色から女性であることはわかった。そして背中には臀部のあたりから生えた大きな尻尾が揺れている。亜人の特徴の一つとして現れる現象の一つだ。そして、俺はこの声に聞き覚えがあるような気がしていた。そんな筈はない、こんなところで等という慢心と苦しんでいる女性を目の前にして何もせず通り過ぎるなんてことは出来ないと側にかけよった


『ふ、フフフ……ミタナ?』


 顔は狐の面、それまでとは打って変わった低い声。これはまずい、拙い………こいつはこいつは隠しヒロインでるルナ・リッター・ズィズゥーエに憑依している隠しボスの黒妖狐姫だ。なんでこんなところに?


「ようやクこの体にモ馴染んでキたんだ、ボクの肩慣らしニ付き合ってもらうヨ!」


 三日月ような形の両刃刀をどこからともなく取り出し振りかぶってくる黒妖狐姫。厄介だ、本来ならこんな所で対峙するレベルの敵ではないしはっきりいってこちらの準備が整っていない。


「だと、してもぉ!」


 咄嗟に構えた忍者刀で両刃刀から放たれた一撃を受けとめる、衝撃なんてレベルでない。下手な受け方をしていたらこれだけで死んでいたかもしれない、そう思わせる程の衝撃だ。


『多少はやるようだが、ここまでだね。ボクはこの女の体でまだ長くは戦えん故一撃で……?!』


『うぐ、まだ完全では……ない、か……』


 周囲の景色が歪んだかのような感覚に襲われる程の強大な魔力の高まった瞬間苦しみだし倒れる狐面の少女。先程までは巫女服だったのにいつの間にかメイド服に変わっている、言葉通り洗脳が完全ではなかったのだろう。実際劇中においても二人が入れ替わる頻度はそこそこあったのだから、本編より早く登場したということは身体の制御もうまく行っていないのだろうと想像出来る。


「お、おい、大丈夫か?」


 生前を含めて経験した事のない強烈な出来事に背中に気持ちの悪い汗を流している事に気づきようやく息を吐き出し倒れているルナに駆け寄った。


「う……はい、ここ、は?」


「神社の側の空き地だ、君はここで倒れてたんだ」


 どうやら体の主導権も戻っているようだ、これが演技であればお陀仏だがそんな手間をかける必要はないだろうと思われるので少なくとも目の前いるのは額を抑え周囲を見渡している少女は無害な亜人の女の子であり、決して先程までいた隠しボスではない。

意識が混濁しているのか要領を得ない受け答えが続いた為、一先ずこの場から連れて医者に連れていくことにした。

メイド服にはいずれ本編が始まれば入学することになる学園のエンブレムが縫い付けられているのが見えた。

大義名分はついたので学校に連絡したところ病院ではなくこちらへ運んでくるように頼まれた。

少々疑問に思わないでもないが、治癒魔法の使えない俺では対処のしようがないので一先ず指示に従う事にした。


「やあ、わざわざ済まないね」


 待機していたのは学園の保険医ではなく職員が数人と学園には似つかわしくない幼女……もとい学園長だった。前世の俺は何度となく見たが勿論この体においてはまだ出会うはずのない人だ、写真ぐらいは見たことがあるかもしれないが


「ボクの名前はフルール・リッター・ズィズゥーエ。この奉日本学園の学園長をしている、今回はボクの娘を助けてくれたお礼を言いたくてね」


 金髪のツインテールに小さな体躯……おまけにこの幼顔である、そこから娘などという言葉が出てくるのは本当に違和感がある。2次元ならではだと本当に思う、今となっては現実となっているわけだが。


「ああ、ボクは長命種ではないが訳あってこんななりをしているが君よりはずっと年上だ、安心してくれていい」



 慣れた反応なのか特に違和感なく説明された、やはり立場柄もあるだろうが失礼なく聞いてくる人間もいるんだろう。


「それで、その、娘さんの事ですが」


「うん、そちらは問題ない。治癒魔法を使うまでもなくすぐに目覚めるだろう」


 外傷はほぼなかったので問題ない、ということだろうか?内部には人ならざる物が巣食っているという事実を鑑みれば安全とは言い切れないのだが俺から口に出せるはずもなくあちらもそんな事を初対面の人間に話したりはしないだろう。

 

 「ボクが聞きたいのは何故あの娘があんな所にいたかということでね、君はなにか知っているかい?」


「いえ、特には。自分は春からの学校生活を無事過ごせますようにと参拝に来たら偶々彼女を発見しまして」


 まさか隠しアイテム、扱いとしては神器ともいうべきマジックアイテムを取りに行っていました!だの貴女の娘さんは妖狐に憑依されていますとも言えないし、恐らく信じてはもらえないだろう。今はそう、申し訳無いが言う訳には行かないのだ。


「ふぅん……ま、いい。御仏真也君、君は春からうちに入学するんだったね?」


「そ、そうですが。何故、それを?」


 露骨な動揺がどもりとなって漏れ出した。いや、これは尋問ではない。ただの世間話だ、そう言い聞かせないと心臓が飛び出してしまいそうだった。


「申し訳無いが調べさせて貰ってね、まあ君は特に何か持っているというわけではなさそうだが……入学してからで構わないが娘とも話してやってくれ、あの娘は色々抱えていてね。友達になってやって欲しいんだ」


 含んだ様な発言の裏、こちらは理解できる。彼女は設定上出自不明で本当に突然現れたと言っていい、故に目の前のズィズィーエ学園長が引き取り娘として側に置いているのだが……


「勿論構いません、でも悪い虫になるとは思いませんか?彼女、中々のべっぴんさんですし」


「タダとは言わない、入学前だが特別に施設の利用許可を出そう。

……それに、そういう人間でないと私は確信しているからね、期待を裏切らないでくれよ?」


 朗らかな笑顔だか目は笑っていない、これはマジだ……胸に一物もニ物も抱えている事もあるいは感づかれているのやもしれない、だがどちらにせよ学園長ともルナとも交友を持っておいて損をすることはない。 

 その後間もなくして開放された俺は職員に案内され保健室に来ていた。ベッドに寝かされた彼女は静かに呼吸している、憑依され襲いかかってきたは思えぬ程穏やかな表情だ。いや、あの時は仮面で顔は見えなかったか。


「あ……」


「よう、目が覚めたか。今医者を……」



 医者を呼ぶべく立ち上がった瞬間、掛け布団の下から伸ばされた手によって止められた。


「待ってください!あの、先程ルナを助けてくれた御仏真也様ですよね?」


「お、おうそうだけど」


「ありがとうございます、ルナは時々記憶を失って倒れる事がありまして今回もまたあんなところで」


 そう、彼女の意識は乗っ取られている間は精神の奥深くに沈み眠っているような状態である為に一切の記憶がないのだ。黒妖狐姫が弱体化して一度心を通うわせるようになればそういった事態も減るのだが……。だが、それには新月の日に彼女を殺さずに撃退し説得するイベントを起こす必要がある。

そもそも隠しヒロインである彼女が他のルートにおいてはイベントそのものが発生せずモブのまま終わっている、恐らく乗っ取られた儘でいつかは完全にルナという存在が消えるというリスクに怯えたまま。触れられることが無いということはそういうことなのだろう、描写されずとも彼女は生きているというのにこうして……


「本当に何も覚えていないのか?」


「はい、お義母様にも調べていただいているのですが原因がはっきりしないそうです」

 

 これはゲームの展開の強制力なのかもしれない、本編においては主人公が彼女のルートに入って初めて判明する為か時期で言えば半年近くは何もわからないままということなのだから。


「そうか、安請け合いは出来ないがもし何かあったらいってくれ。何しろオレは……一流の忍を目指す男だからな!」


「まあ、忍……あの忍者ですか!凄いですね、実在していただなんて驚きました」


「なんちゃって忍者だけどな!だから、ズィズィーエさん」  


「いいえ、ルナと呼んでくださいな御仏様。それからありがとうございます、春からはルナも入学しますのでその時は是非宜しくお願いしますね」


 パッと花が咲くような華やかな笑顔に見惚れてしまう。この笑顔がまた曇るような仮面に隠されて苦しむような事は避けたい、この世界に転生して僅かな月日ではあるがそう思わせるだけの魅力がある。

だから……


「おう、よろしくなルナ!」


 医者に見てもらい暫くは安静にしているからというルナを背に部屋を出た。爽やかに宜しくなどと安請け合いしてしまったがよかったのだろうかという思いが胸を過ぎる。可能であれば彼女を救いたい、だが俺一人では難しい、知っているだけで成す事ができるほど甘くはないだろう。ともすれば、今必要なのは……


「仲間、だな。あいつにも強くなってもらう必要はあるが」


 かの主人公やヒロイン、スポット参戦の生徒会長や教師の力を借りればラスボスを倒す過程でルナを救うという寄り道ぐらい造作もない筈だ。

俺がやるべきことは大きく2つ、ルナに巣食う黒妖狐姫----クロを引っペ返し倒す。2つ目はこの作品のラスボスを倒す、当面はこの2つの為に忙しく動けるかというとそういうわけでもないので鍛錬と学生生活で出来る限り広く交友を結び仲良くなるくらいだろう。実のところ前世ではそこまでのコミニュケーション能力があったわけではないのでそこも苦戦は否めないだろう。だが、何とかなるし何とかする。

背を向けた学園の校門から振り向き、見上げた。

もう間もなくここで過ごすことになる学び舎を、あるいは世界の運命を左右しかない一年という日々を浮かべ噛みしめるように一度俯くとやるぞと誓ったのであった。

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