(パ)彼女の罪な結い髪
パングラム入り小説です。レアなワードを使いたいなと思って出来上がりました。
ちょっと大人っぽいよっ(恥)
オフィスの廊下ですれ違う時、私と彼女は、互いに目だけで合図を送り合う。
本当は立ち止まって次の逢瀬の約束をしたい所だが、そんな場面を社内の誰かに見られたら大変だ。私と彼女はそういう関係なのさ。
廊下で距離が近づいても私と彼女は歩く速さを緩めたりはしない。何事もないようにお互いの脇を通りすぎる。
ただ、体中の全ての神経は彼女に引き付けられっぱなしだ。
高い位置で後ろに結んだ髪の束がヒールの音に合わせて揺れると、何ともあでやかな香りが私の鼻をかすめるのである。意識が持って行かれそうになると、脳裏には、お堅いオフィスレディが見せる普段とは違う大胆な姿が浮かび、甘い声が響いてくる。
虚ろな意識の中で私は不意に立ち止まり、となりをすれ違う彼女の細い腕をガシリと掴んだ。驚く彼女を強引に抱き寄せると、ちょうど目に入った近くの給湯室のドアを開き、なだれ込む様にして中へと入った。
「いいの? 見られたらダメなんじゃないの?」
「もう……我慢できなくて」
「ふっ、できれば、もう少し丁寧にして欲しいわ?」
「ゴメン。でも……止まらないんだっ……」
・・・
『罪な結い髪のパングラム』
結い髪をほどき下ろし、
こっちへ寄せて、はだける胸。
裾まくれ、膝も露わに――
止め得ぬの……不倫なう♪
(ゆいかみを ほときおろし
こつちへよせて はたけるむね
すそまくれ ひさもあらわに
やめえぬの ふりんなう )
・・・
シャツのボタンを留め直し、その柔らかな髪を後ろに束ねて結ぶ彼女の仕草を、私は横で眺めている。
「わたしが先に出て行くから。次会う時はわたしのオネダリ聞いてよね? じゃあね」
そう言い残して彼女は部屋から出て行ってしまう。
フワッと髪を払う後ろ姿を、私の心に焼き付けて。
(了)
ラジオ大賞のテーマに「不倫」は……無い! 残念!