(寸劇)パングラム研究所の博士と助手
寸劇のわりに2000字近くなっちゃいました。間違いなく茶番です。
都内某所。
閑静じゃない住宅街のなかにある一軒、
『パングラム研究所 本部』
と、書かれた表札を出した、ボロい民家から、
「ついに、完成じゃああ!!」
恥ずかしいくらい近所にまる聞こえな年寄りの声が響いた。
ボロ民家の中では、白衣を着たハゲ老人が年甲斐もなくはしゃいでいる。
「つ、ついに、完成じゃ! パングラム一筋40年、ついに出来たぞぃ。これ以上ない、最高に、最高なパングラムじゃああ!」
――ドタドタドタッ
と、廊下を駆ける足音。勢いよくドアが開き、てんぱった様子の若者が部屋に入ってきた。
「はっ、博士っ!」
「ん? なんじゃ助手くん? 騒がしいぞぃ。近所迷惑も考えなさい」
てんぱってる若者はハゲ老人に言う。
「すいません……それより! 来てます〝あの御方〟が!」
「なに?〝あの御方〟……我が研究所最大のパトロンにして、言葉あそび連載作家の〝あの御方〟がか…」
「はい。自称人気ミステリー作家の〝あの御方〟が……」
「そうか。急じゃな……、失礼のないようにお通ししなさい」
若者はてんぱりながらも、その大物然としたヤツを部屋まで案内した。ヤツはハゲ老人の正面に腰掛け、大股を開いて扇子をあおぐ。ハゲ老人はヤツを丁重に迎えながら言う。
「ようこそ、いらっしゃいました。あの御方さん」
「久しぶりだねー、博士ちゃん。いやー、この間のあれ、エッセイのパングラムはなかなか良かったよ。おかげで、エッセイジャンルでパングラムの知名度が向上したんじゃないかなー」
「誠に、いつもありがとうございます」
「で、あれはできたかなー。詩ジャンルで人気出そうなラブラブキュンキュンなパングラムは?」
ハゲ老人は気まずそうに眼を泳がせる。
「そ、それは……まだでして……なかなか難航しておりまして、その……」
「おい、博士ちゃん。なら私は今日何しにここに来たのかな? 多忙な人気ミステリー作家を手ぶらで帰すつもりなのかな? ん?」
「と、と、とんでもありません。お見せしたいパングラムがあるんです。えっと、えっと……、どうぞこちらです。かねてより研究しておりましたパングラムがついに完成しまして、どうか、ご覧ください……。どうぞ、これです」
ハゲ老人は先ほど完成したばかりのパングラムをヤツに見せる。
「ほう、どれどれ……。んな! なんだよこれは! 使えるわけないじゃんこんなもの! 私の連載はR15アンダーだって口すっぱく言ってるじゃないか!」
声を荒げるヤツに、ハゲ老人はうろたえ、
「あわわ、あわあわ。いえいえ、R15付き短編で純文学ジャンルに出せばセーフかと……」
「そういう問題じゃないだろう! 私のイメージの問題だ! そっち系作家だと思われたらどうするんだ!
却下だよ。ちゃんと使えるものを持って来なよ」
「えっと、えーっと、じょ、助手くん、何かあるだろう。早く持って来なさい」
ハゲ老人は、トボケた顔でボケーっとつっ立っていた若者に助けを求めた。若者は10秒間沈黙した後、はっと何かを思い出し、ポケットから用紙を取り出した。
「あ、あの御方! それじゃあ、ぼくの自信作を見てください! これです、すごくいいパングラムなんです!」
「どれ……。ふむ……」
「どうっすか……」
「却下だね。何なのこれは。何を勝手に好きなアイドルのパングラムを作ってるの君は? あ? 私がドルオタだと思われたらどうするつもりなわけよ?」
ヤツは呆れた調子で若者を叱責する。若者はいさぎよく頭を下げた。
「さーせん! 個人の趣味に走りすぎましたー!」
「はあ。本当に、ガッカリだよ君たちには、帰らしてもらう――不愉快だ」
ヤツはペッと床にツバを吐いて席を立ち、外へ出て行く。
「ああ、あ、あの御方! 次は必ず最高の――」
バタンッとドアが閉めて、ヤツは部屋をあとにした。
ドアの前にたたずむハゲ老人に、若者はトボケた顔で声をかける。
「行っちゃいましたね」
「ああ。こうなったら……」
「はい。こうなったら……」
二人は互いの顔を見合い、
「ワシの名前で投稿するぞい」
「ぼくの名前で投稿します」
「よし」
「はい」
そう言って、二人はケロリと調子を取り戻した。
「ところで助手くん、『ぬ』のつくイヤらしい言葉は見つかったか」
「はい。あとでリストを渡します。次は『ち』の方も調べたいんですが、いいですか」
「なるほど、『ち』も有望だな。引き続きがんばろう。ワシは今から『おっぱい』に着手する」
「はい。がんばりましょう(ハスハス)」
(了)
※
という事で、訳あってこの連載に載せれない作品が博士と助手によって勝手に投稿されています。マイページの「楽しい言葉あそび」シリーズの中に隠れています。この連載とかぶってるのもありますがご了承ください。
遊びやめれぬご気分なら、マイページ。
他に見るのを探ろう♪
無理はせず……、
ちゅょわぉっと、だけでも……ね?