乙女ゲームの悪役令嬢に転生しちゃったんだけどパングラムで破滅を回避するッ
パングラム入り小説です。
[あらすじ]
トラック事故で死んじゃったわたしは、乙女ゲームの世界へと転生した。でも転生したキャラは悪役令嬢だった。ゲーム通りなら卒業パーティで破滅に向かう運命。どうしたらいいの。わたしに出来ることと言えば…パングラムくらい……
ゴツンッ!
痛ッ……。あいたたたぁ……
まっ平らな屋敷の廊下でスッ転び、おもいっきり頭を打った、その時だった。
痛ぁぁ――なっ!
頭を巡る前世の記憶。
残業続きでへとへとな毎日。たまの休みはアパートに引きこもり、乙女ゲームと少女漫画で過ごす25才の女子。夕食のお弁当を買いにコンビニへと向かう自転車に乗りながら、スマホでガチャを引いてる時だ。
駐車していた大型トラックに自ら突っ込んで、死亡。
まあ、なんと言うか、
控え目に言って、パッとしない人生ね……
・・・
意識を取り戻したわたしは、屋敷の廊下に倒れたまま天井を仰いでいた。
「パン様ぁぁ! 大丈夫ですか!」
執事が慌てた様子で駆け寄ってくる。
身なりの良い執事、格調高い屋敷の壁、華やかな絵画。王国内随一の名家、グリマス公爵家の一人娘、パン。それが今のわたし。
欲しい物ならなんでも手に入る、どんな自分勝手をしたって、とがめる者なんていない。やりたい放題で、わがまま放題、傲慢、高飛車。
引っ込み思案で、卑屈だった前世とは真逆の性格だ。
「パン様? 痛いところはございますか?」
「え、あ、いえ。ちょっと頭を打っただけ……で、ですわっ」
まだ不確かな意識の中、わたしは執事の手をとり、支えられながら起き上がった。
「パン様。ドレスがシワになってしまいましたね。さっそくお着替えを用意させますので。コットゥーバー学園の入学パーティに相応しいドレスを用意しましょう」
「は、はぁ…………ん?」
コットゥーバー学園……。聞き覚えのある響きだった。まさか……
「一度お部屋に戻りましょう。グッテル王子がお迎えにいらっしゃる迄はまだ時間がありますので」
「グ、グッテル王子?!」
それは、前世で夏のボーナス全額をガチャに突っ込むほどにハマった乙女ゲーム「Let's GoTo LOVER」に出てくる、まつ毛の長い美形王子の名前だった。
グッテル第三王子。わたしが全力で攻略していた愛しのキュート&エレガントガイだ。
コットゥーバー学園で日々繰り広げられる熾烈な恋の駆け引き。あぁ、あのゲーム……また朝までやりたいよぉ……。
ん? 待てよ。わたしはパン……、公爵令嬢の傲慢な女……。
確かあのゲームでパンと言えば……、グッテル王子の婚約者で。主人公をイジメぬき、これでもかと恋の邪魔をする――悪役令嬢。
そしてエンディングでは、数々の悪行を断罪され――処刑!
ショ……ケ……イ?
「ダメェェェエエ!!」
屋敷中に響き渡るわたしの叫び声。
横にいる執事が口を開けて、こちらを見ている。んまあ、それはいい。
マズイマズイ。
このままじゃわたし、処刑じゃん。なんで悪役令嬢なんかに転生しちゃったのよ。なんとか、
なんとかしなきゃ――
・・・・・
『 トラック転生のパングラム 』
休まぬ過労、塞ぎ、
トラックにより歯、骨も折れ致死。
遊び、夢を見たゲームの、
悪な子へ転生。
(やすまぬ かろう ふさき
とらつくにより は ほねもおれ ちし
あそひ ゆめをみた けえむの
わるなこへ てんせい )
あ、なんか、出来ちゃった。ひらがな全部を使った作文、パングラムね。
勉強なんて全くできないわたしなんだけど、パングラムだけは両親の影響で出来ちゃうのよね。だから何なんだって話なんだけど。
そんなことより、せっかく乙女ゲームの世界に転生したのに破滅エンドなんてゼーッタイに、イヤッ。しかも極悪人として断罪されて死ぬなんて。
というか。お金持ちの貴族の娘なんだから働かずにダラダラした生活がしたいなあ……。
そうだ!
ここがあの乙女ゲームの世界なんだったら、これから起こるイベントはほとんど分かってる。上手く振る舞えば、断罪される未来を変えられるかも。悪役っぷりを抑えていけば、処刑じゃなくて、追放で済ましてもらえるかもしれないじゃん。
うん。がんばる。
まずは今日の入学パーティのイベントね。パンはさっそく魅力満点の主人公にイジワルを仕掛けて男性陣との接近を邪魔するのよ、これをまずは変えてみよう。みんなに丁寧にあいさつとかしたら良いんじゃない。無難に、無難に……
ん、でも待てよ。
主人公と王子がそこで接触して、そんで王子がメロメロになっちゃって、で二人がくっ付いちゃったら……、わたしは罪を着せられ婚約破棄、
そして――処刑。
ってじゃあ、どうしたらいいの!!
・・・・・
『 悪役令嬢のパングラム 』
悪役令嬢、非難数多でヘド。
譲らぬ誇り胸に、その深き御知恵も見せ、
破滅を避けろ!
(わるやくれいしよう ひなん あまたて へと
ゆすらぬ ほこり むねに
その ふかき おちえも みせ
はめつを さけろ )
て、威勢の良いパングラムだけは出来ちゃうんだよね。
一応説明しておくけど、悪役を「わるやく」と読ませているのは「あくやく」だと「く」が2回入っちゃってパングラムにならないからだよ。って誰に説明してるんだろ。あー、やんなっちゃうなー。
はぁ……。このパングラムって何かの役に立つのかなぁ……
・・・・・
・・・・・
月日は流れ、
学園の卒業パーティの日。乙女ゲームのエンディングイベントの時がやってきた。
ゲーム通りならパン(=わたし)は悪行の数々を糾弾され婚約破棄、そして処刑の運命。今日はこれまでのわたしの行動の審判が下される日。
お願いだから処刑だけは許して。せめて島流しで勘弁してくださいな。
と、目を閉じて祈っていると、明るい女の子の声が聴こえた。
「パン様ぁ! パン様ぁ! 探しましたよ。どうしてこんな隅っこに?」
手を振って駆け寄って来たのは主人公のマリーだった。相変わらず主人公オーラ全開で可愛さを振りまいている。こんなに可愛いのに、この子の決断一つでわたしの運命が決まると思うと……
「マリーちゃん、あのぅ。誰にするの?」
「はい? 何のことです?」
「い、いるんでしょ? 意中の男性が……」
「あはっ。いるわけないじゃないですか。私はパン様たちと一緒にパングラムを作るのがイッチバン楽しいんです!」
とか何とか言っているが、なんせこの愛嬌と主人公オーラだ。男どもが放っとかない、この子だけは油断ならない。
「パンちゃん。ここに居たのか。今日も本当に、綺麗だよ」
やって来たのは、伯爵令息のルイスだ。キザで女性慣れしている甘いマスクの男性だ。たまたま作ったパングラムを勝手に見られて、「どうして俺の本心を知ってるの?」とかよく分かんないこと言って、それ以来いつも近くにいるのよね。
「おいルイス。パングラムの一つも出来ないクセに僕のパンに近寄らないでくれるか」
ルイスの腕をつかみ割って入って来たのは、成績学年トップの知的クールガイ、カイエルだ。〝僕のパン〟なんて言っているけど、ただのパングラム仲間なんだけどね。でも学園祭イベントで、照明が倒れて来た時に体を張って守ってくれたっけ。急に体を抱えて持ち上げられたのには、さすがドキドキしたわね。あー恥ずかし。
「――ちょっと君たち」
うっ……つ、遂に、やって来てしまった……。
グッテル王子。
わたしの婚約者。そして、わたしを処刑へと追い込む最重要人物。
「ルイスもカイエルも。分かってるのか? パンは僕の婚約者なんだぞ」
グッテル王子が男性二人を抑え、一歩ずつわたしへと近づいてくる。王子は真っ直ぐにわたしの目を見てる、けどわたしはその審判の時が怖くて顔を背けてしまった。
王子がわたしの前で止まり、片膝をつけて右手を差し出した。
「パン? 踊ってくれるね? 僕と一緒に」
王子はにこりと微笑んだ。
「あ、あのー。婚約破棄とか? 処刑とか? そういうの、興味あったりしません?」
恐る恐るたずねるわたしに、王子は不思議そうに首をかしげる。
「何のことだい? よく分からないけど。一緒にこの王国にパングラムを広めようと誓い合ったじゃないか」
「そ、そうですわね、あははー。あの、わたし、死にませんよね?」
「そんな事は絶対に! 僕が守ってみせるさ、一生! あっと……しばらくはダラダラしたいから、結婚はもう少し後にするんだったね……。うん、分かってる」
わたしは王子の手を取って、彼に体を寄せた。
王子は優しく腰に腕を回した。その手の感触に、わたしはホッと安心することができた。
彼のリードを頼りに、バイオリンの音楽に合わせてゆっくりとステップを踏む。わたしはダンスが苦手だから、ほとんど体を揺らしているだけなんだけど。彼を信じて、体を預けるだけ。
学園に入ってからはずっと破滅回避に忙しくってダンスの練習なんてやってる場合じゃなかった。でもこんな結末なら、もっと練習しておけばよかったな。
なにはともあれ、これはつまり、
ハッピーエンドってことね。
・・・・・
『 乙女ゲームに転生のパングラム 』
予習でチート。
変えろ。無様な身をのんびりへ。
解せぬ抱っこに頬染める。
狙わずも、逆ハーレム♡
(よしゆうて ちいと
かえろ ふさまなみを のんひりへ
けせぬ たつこに ほおそめる
ねらわすも きやくはあれむ )
こんなの、ゲームには無かったシナリオだ。この先どんなイベントが待っているんだろう。
でも自信がある。きっと幸せなイベントになるはず。
だって、
こんなに素敵な人達に囲まれているんだもの。
(了)
ありがとうございました。
なろうを代表する乙女ゲーム小説をイメージして作りました。3つともお気に入りのパングラムです。異世界恋愛ファンの方々にも気に入って頂けると嬉しいです。