勇者パーティを追放された僕はパングラムで〝ざまぁ〟します [イチオシ!]
パングラム入り小説
[あらすじ]
冒険者の僕は突然、パーティをクビにされた。クビを言い渡したのはリーダーの勇者だった。僕の固有スキル〝パングラム〟が役に立たないと勇者は言う。でも本当に僕なしで大丈夫なのかなあ……
「ぶっちゃけ、お前……」
ギロリと、パーティリーダーの勇者が冷たい目で僕をにらんだ。
「お荷物なんだわ。このパーティから出ていってくれ」
それは突然言い渡されたクビ宣告だった。
どうして? 僕だって一流の冒険者を目指して毎日頑張ってるんだ。勇者に比べたら地味かもしれないけど、僕なりにちゃんとパーティに貢献しているはずさ。
納得なんてできっこない。
「待ってよ! 僕だって――」
「黙れ! オレたちのパーティはもっと上を目指してんだよ。実力のない奴はいらねえんだ。さっさと出ていけ!」
もはや勇者は聞く耳を持ってやしなかった。このパーティのメンバー、みんな苦楽を共にした仲間だと思っていたのに。でもそれは、
僕だけだったらしい。
言葉を失った僕に、勇者は追い打ちをかけるように言葉を吐きつける。
「〝パングラム〟とかいうレアスキルを期待して雇ってやったけどよ、何の役にも立ちゃしねえ。ハズレだったみたいだな。はっ」
勇者が鼻で笑った大事な僕のスキル、
〝パングラム〟
それは僕だけに天から授かった固有スキルだ。素早くひらがな全文字を使って文章を作ることができるという珍しいスキルなのだが、冒険の役に立たないと言われれば……確かに言い返せない。さげすむような顔で僕を見くだす勇者が憎らしいよ。
でもきっと。このスキルは成長すれば何かに活かせるものになるはずなんだ。きっと……
「ハズレじゃないさ! きっと成長すればもっと――」
「あーばーよっ! ハズレスキルくん。ふふっ……さあ。とっとと出て行け!」
くそっ。何を言ってもだめか。
悔しいけど、勇者の戦闘力はずば抜けているし、彼は冒険者たちの羨望の的だ。彼の判断には誰も口をはさめないのさ。
僕は話し合いをあきらめ、もう何も言わずに彼の前から立ち去ることにした。きっと何を言ってもバカにされるだけだろうから。
勇者パーティとはこれでお別れだ。
悔しさに歯を食いしばりながら、僕は重い足取りで勇者とパーディメンバーたちから離れて行った。
毎日のように通ったパーティ宿舎から外へ出て、僕は一人になった。
これからどうすればいいのか。
たった一人、あてもなくさまよいながら、この先のことを考えた。
パーティから追放されてしまったけど、僕は夢をあきらめる事なんて出来ない。冒険者になって世界中で活躍するんだ。きっと僕の、この固有スキルがいつか花開き、立派な冒険者になってみせるんだ。そして、あんな事もして……こんな事もして……。そして……
そして必ず、僕をあざ笑い、ゴミのように捨てたアイツを、
見返してやるんだ!
・・・・・
『 勇者パーティ追放のパングラム 』
勇者と揉め、ぼっちに。
不利をはねのけ、スキル覚醒。
変な娘ら戯れ、怯えぬぞ。
見てろよ、ざまぁ!
(ゆうしやと もめ ほつちに
ふりを はねのけ すきる かくせい
へんな こら たわむれ おひえぬそ
みてろよ さまあ )
うん、なかなか良いパングラムじゃないか。本当に良い固有スキルだ。僕は最高に気に入ってるスキルなんだけど、勇者は見る目がないや。
「あ」~「ん」までのひらがなを1個ずつ使って文章になっているんだ。こんなのを一瞬にして作れるなんてスゴいじゃないか。
それにしても、パーティに金品を支援してくれている王族や貴族、それから大商人たちとの交渉を全部僕が一人でやっていたんだけど、大丈夫かな。パングラムが出来ると、教養を重んじる上流階級で贔屓にしてもらえるんだよな。勇者は粗暴だから、きっと上手くできないだろうなあ。
まあ、今となっちゃどうでもいい事だけどね。
後で泣きついてきても知らないからね。
・・・・・
『 ざまぁな没落勇者のパングラム 』
励む僕の寄与を知らぬ 彼、
末に不憫な道へ……。
許せ? 目障り!
謝ったところでね……、
「もう遅い!!」
(はけむ ほくのきよを しらぬ かれ
すえに ふひんな みちへ ゆるせ めさわり
あやまつた ところてね もうおそい )
ふっ。またつまらぬパングラムを作ってしまった……。あっ!
レベルアップだ! スキルがレベルアップしたみたいだ。
おそらく、パングラムを作る度にスキル経験値が貯まっていたのだろう。そして遂にレベルアップと来た。きっとスキルの性能がアップしたはずだ。
どれどれ……
僕はステータス画面を呼び出した。右手の手のひらの上に呼び出したディスプレイが現れる。ディスプレイに表示されたステータスから、スキル〝パングラム〟の解説を見てみた。すると、ステータスの解説にはこう書いてあった。
『
スキル名:パングラム Lv.2
・素早くパングラムが作れる
・パングラムで唱えた事が、現実に起こる
』
現実に!?
これは……、スゴい! パングラムで唱えた事が……現実に……、とんでもないスキルだぞっ!
いいぞ。これならきっとやれる。
僕はこの、スキル〝パングラム〟で無双するんだ!
よしっ。さっそくダンジョンへ行って試してみよう。
僕はとなり町のダンジョンを目指して草原を駆け出して行った……
早くスキルを試したい。明るい予感に胸を躍らせ、小川を飛び越え、林の中を駆け抜けた。
新緑の木々を揺らす風が、僕の背を後押ししていた。
・・・・・
・・・・・
その後、
僕はダンジョンを攻略しながら、ひたすらパングラムの技術を磨き、思い通りの未来を瞬時にパングラムにする事ができるようになった。そしてスキル〝パングラム〟によって、それを現実にすることができた。あ、でも、よほど非現実的なことは不可能だったんだ。例えば自傷願望の無い敵を自傷させるとかね。それでも冒険者として成り上がるには十分だった。
僕は今、各地の最高難易度迷宮を攻略しながら、時にのんびり平和に過ごしながら、世界中を旅して回っている。とてもハッピーな毎日なんだ。
だけど一つ困ったことがあって……、メイド服のお姉さんや、ケモミミのおてんばな女の子とか、聖女の見習いさんとか、あとなんかいろいろな人達が追いかけてくるんだよなあ。静かに過ごしたい時はちょっと困るんだよね……。なぜか〝パングラム〟ではどうにもならないんだ。
ま、でも寂しくないからいいんだけど。
「ちょっと主ぃ~。パングラムばっか作ってないで、お料理手伝ってよ~」
「あ、うん。今行くよー」
「し、師匠! は、早くっ、わたくしめに手取り足取りパングラムを教えてください! はっ、あのその、下心とかではなしに、その、真面目にパングラムを追求したいだけですの……」
「あーはいはい。あとで教えてあげるから、待ってて。ね?」
こんな感じ。
まだまだやりたい事も沢山あるし、行きたい所も沢山ある。パングラムだってまだまだ作りたいんだ。もっともっと、
明るい未来を描いていこうと思うんだ。
パングラムで――
『 エピローグのパングラム 』
僕ら急かす世の広さに、胸も躍り。
笑みを分けて、次なる街へ行こう。
ファンタジーは、ヤメれぬぞ――
(ほくらせかす よのひろさに むねもおとり
えみをわけて つきなる まちへ ゆこう
ふあんたしいは やめれぬそ )
(了)
ありがとうございました。
パングラムを使ってファンタジー小説にしてみました。
パングラム自体はこのお話に限らず、なろうらしいファンタジー小説を意識して作りました。
ファンタジーファンのみなさんに、気に入って頂けるととても嬉しいです。




