しりとりで婚約破棄する王子と魔性の令嬢 [イチオシ!]
[あらすじ]
しりとり王国の貴族たちはどんな時でも〝しりとり〟で会話をするのだ。そんな国で起こった王子による婚約破棄の大騒動。当然のようにしりとりで決着をつけることに……。
シリトルゼ王子と魔性の令嬢シリトリーナのしりとり合戦が今始まる!
「シリトリーナ! 君との婚約を破棄する!」
「?……ルール違反ではありませんか、王子?」
「自分のした事が分かっていないようだな」
「なにをしたと?」
「とぼけてもムダだ!」
「だから何をしたというのですか?」
「かくしてもダメさ、しりとりの出来ないシリトレンサをイジメていただろうが!」
学園の卒業パーティの会場にシリトルゼ王子の怒声が響いた。沢山の紳士淑女が集まった華やかな会場の真ん中で、王子は一人の令嬢を指差して婚約破棄を宣言した。
対する婚約破棄を宣言された方の令嬢、シリトリーナは、涼しい顔のまま王子とそのかたわらに立つ不安気な表情の女性を見ていた。
大して珍しくはない場面だと読者諸君は思われるかもしれないが、この〝しりとり国〟の事情は他とはちょっと違う。生まれの尊い王族をはじめ貴族たちが会話をする際には、〝しりとり〟をしなければならぬという伝統というか習慣があるのだ。だから当然、シリトルゼ王子とシリトリーナ嬢もこの修羅場をしりとりでやり合わねばならない。
一応、この地の文もしりとりになっているので良ければそこも合わせて是非楽しんで頂きたい。
いったいこれからこの二人がどんな愉快なしりとりを見せてくれるのだろうか。かくも〝しりとり〟という〝言葉あそび〟を極めた貴人同士の真剣勝負をとくとご覧あれ。
令嬢の方は、魔性と呼ばれるほどに相手を惑わすしりとり能力の持ち主、との噂なのであるが……
「ガッカリです王子、しりとりもろくに出来ないそこの無教養な女にのぼせ上がるとは」
「はずかしくないのか! こんなにも優しくていじらしいシリトレンサを悲しませるなんて!」
「てんでしりとりが出来ないくせに、貴族の男性方に相手かまわず話しかけてばかりいるから注意したまでです」
「好き勝手ほざくな! もうこんなイジメっ子は放っといて、ねえ、シリトレンサ、僕と結婚しようよ!」
横で王子とシリトリーナ嬢の言い合いを見ていたシリトレンサは、びっくりした表情で王子と見つめ合った。
たった今聞かされた王子のプロポーズに声をつまらせながら答えようとするのだが……、いかんせんこの娘、生まれが平民の子よ……
「あ、え、う、あはい。よもやよもや、こんな嬉しいことは、ご、ござりません」
「『ん』で終わっちゃってるじゃないの、何一つしりとり出来てないわよ、あなたそんなので王族になれるとでも思っているの?」
「の、の、の、の、ノリで、、そこはノリで、、」
「できませんよ! その程度のしりとり能力ではこの国の貴族たちを相手にするなんて到底無理よ」
「よせ! シリトリーナ! シリトレンサがかわいそうだ!」
黙っていられなくなった王子は、女性二人の間に割って入った。
助けられたシリトレンサがほっとする一方で、シリトリーナ嬢はいらだちを露わにして王子に詰め寄るのだ。
「だいたい王子はしりとりの学習を怠っておられるのではありませんこと?」
「とんだ言いがかりはよしてくれ」
「練習もせずにしりとりの出来ない女と会話ばかりしていては、しりとり国王にはなれないわ」
「わ、我こそは、しりとり王国の王子シリトルゼだぞ、むしろしりとりで会話しない方が難しい」
いつだって勝ち気な王子にひるむこともなく、シリトリーナは挑発するような視線で余裕のたたずまい。
「言いましたね、ではお尻2文字でしりとりをしましょう」
ようやくしりとり貴族の本領発揮である。ある程度分かると思うが、ルールを説明しておきたい。対峙する二人は、前の会話のお尻の2文字から会話を始めるわけだが、濁音の付け外しはOK、小文字大文字の変化もOK、語尾が『ん』でも終わらない。泣いたら負け。
負けられない最高レベルのしりとり決戦が今始まる。まるで戦場の一騎打ちのようなこのバトルをいったい誰が止められよう。
「ようするに、僕の力量をを試す気だな?」
「たなぼたで国王になれるほど王位は軽くないわ」
「言われなくても知ってる!」
「出る言葉に知性を感じません」
「全然分かってないな、僕はこの国の王子だ」
「舌は回るようですね、なら3文字でいきましょう!」
「しょうがないから付き合ってあげようか」
「用がお有りなら逃げても構わないわ」
「無いわけでもないが、今は君としりとりがしたい」
「次第に苦しくなってくるわ」
「狂わされそうでなんだか怖い……」
「怖いだなんて言いすぎよ」
「……好きよ?」
「――!!…………す……、き、よ……、子供の頃から、ずっと……」
「ずっと君は……僕のしりとりに付き合ってくれていた……」
「手痛く負けた日は、悔しそうに泣いておられましたわ……」
「……したわれる位には上手くなったよ、君のおかげで」
「かげで練習していらしたのを、わたしは知っています」
「今すごく、君としりとりができて、幸せ……」
「幸せですよわたしも、なので勝手に4文字にしちゃったけど、ダメかしら?」
「目頭が熱いよ……」
「――熱い夜を過ごしましょう」
「魔性の令嬢……、君が大好き」
「大好きです、わたしも……、なら次は5文字で、……愛してる――」
「あい……」
・
・
・
・
「あいし………… 」
「シャあ! ウッシャあ! 泣いたからわたしの勝ちですッ! 参ったか!」
( 完 )
本文にもありますが、ここでも解説をしておきます。王子と令嬢の会話は全て最後の1文字、または2~4文字でつながっています。
地の文は「。」を境にしりとりになってまして、直前の会話の尻を引き継いで、元の文字で返しています。「2文字に」と発言の後、勝手に2文字しりとりを始めています。
決着が着いた後は1文字しりとりになっていますね。「ん」で終わってますよ。