「あいうえおかきくけこさしす・・・」作文で別れる男女
男と女が、あいうえお作文で会話する小説です。
よろしくお願いしまーす。
朝。
ある男が、スーツの上着に袖を通し玄関へ向かう。
アタッシュケースを持ち上げ、革靴をはくとドアノブに手を伸ばす。
足音を立て、背後から肌着姿の女が追ってきた。
哀愁を漂わす女に、男は振り返り、ほほ笑みを見せる……。
「あ」~「わ」までの、あいうえお作文劇の始まりである。
あっと、ここまで「あ」をキープしている事も見逃さないでほしい。
あまり説明が長いのも良くない。後は2人の男女に任せよう……
男「愛してるよ」
女「行かないで……」
男「嘘でも嬉しいよ」
女「駅まで一緒に行かせて……」
男「お前……」
女「勝手を言ってごめんなさい」
男「来てくれなくていい」
女「くどい女だって思ってる?」
男「……けど嬉しいよ」
女「これっきりなの?」
男「さて……行かなきゃ」
女「仕方がないって言うの?」
男「……好きだよ」
女「せめて最後に――」
男「そうも言ってられないんだ」
女「たった一言だけでも……」
男「遅刻はまずいから」
女「……つれないのね」
男「てことで――」
女「通さないわよっ!」
男「何度も言わせるな!」
女「に、憎らしいっ」
男「ぬかすな!」
女「?……ねぼけてんの?」
男「のんきにしてられないんだよ」
女「は?」
男「ひとの身にもなれよ」
女「フッザケてんじゃないわよッ!」
男「変な気起こさないで……」
女「ほんと何様?」
男「待っててくれってば」
女「認めません」
男「無理言うなよ……」
女「面倒なことになるわよ」
男「もう勘弁してぇ?」
女「やるべき事があるでしょ?」
男「有休が残ってないんだから」
女「よく言うわ」
男「……来週、買い物に、行こぅ」
女「利口なことね」
男「ルイヴィトンでどうだろう?」
女「レザーのバッグよ」
男「ロレックスも付けよう」
女「分かればよろしい」
笑ってうなずく女と。
わびしそうに玄関から出て行く男であった。
( 了 )