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99 修道院の調査へ

 アルフィナに駐屯していた視察隊も呼んで、今後の話を詰めていく事にしたわ。


「視察隊はまだ現状を確かめた方が良いかしら? 別に好きなだけ調べていっていいわよ」

「そうですね……。浄化の手際も見させて貰いましたし……」

「都合よく『大地の傷』が生じたようにも見えましたが?」

「うん?」


 私は首を傾げたわ。


「どういう意味?」

「その……確かに何度となくアルフィナではあの現象が起きていると聞きましたが。我々が居る間に生じるのはどうかと」

「何がどうなの?」


 今はエルトの騎士達とセシリアが傍に控えているから、リンディスは離れているわよ。

 こういう時はリンディスが要約してくれるんだけど。


「魔物が溢れて、とまでは言わないけど。倒してきた証拠は見せているわよね?」

「……クリスティナ様の天与が魔物を生み出す、という話を耳にした事があります」

「おい!」


 何か視察隊にも変な話が溢れているみたいだけど。

 でも、その指摘には心当たりがあるわね。

 アマネが予言したのかしら?


「『毒薔薇』の事ね」

「……はい?」

「アマネから聞いていたんじゃないの? 私の薔薇の天与によって大地の傷が開いて魔物が生み出される可能性がある、っていう」

「……認めるのですか?」

「やった事はないけど、多分できると思うわ?」

「お嬢様。そこは認めない方が」

「でも本当の事だもの」


 夢の世界の私はそうして魔物を出していたみたいだし。


「でも浄化薔薇で『大地の傷』が浄化できる事も本当の話よね。それは貴方達も実際に見てくれた」

「ですが」

「『毒薔薇』を咲かせれば……たしかに私は大地の傷を開く事が出来ると思うけど。今は難しいわ」

「難しい、とは?」


 うん。


「私の天与はイリスの天与って言われているらしいわね。そしてイリスは愛の女神。だからね。浄化の黄金薔薇は私の『愛』で咲いているの。愛に満たされていれば大地の傷を浄化できるわ」

「…………」

「そして愛が失われれば、貴方達の危惧する『毒薔薇』が咲くの。だから今、毒薔薇を咲かせるのは無理よ。だって私、好きな人と婚約してきたばかりだもの。とても愛は失えないわね!」

「婚約ですか」

「ええ。ベルグシュタット卿と神殿で婚約してきたわ!」

「ああ、噂の」


 噂なのね! 本当に何してるのかしら、エルト。

 別にいいけどね!


「そのぅ。出来はするんですか、その毒薔薇」

「ええ。夢の世界……、んー。予言の天与で見た世界ではね。ちょっと今の私と違うから難しいけど。そういう力もあるにはあると思うわ」


 この身体を【悪役令嬢クリスティナ】の感情に溢れさせれば出来なくはない気もする。

 今のところ、それをする意味はまるでないけれど。


「可能だからって、やってはいないけど。それも『疑わしいから』『予言されたから』と私を貶める報告をする? アルフィナの外に魔物は出してない筈だけど?」


 ルーナ様の旅のように各地に魔物を溢れさせ、自作自演で浄化したならば別だけど。


「それをする場合、私は……そうね。陛下に認められて王都に帰れるメリットがあるのかしら。だけどね。貴方達が、そうやって疑い、あくまでアルフィナから私を出したくないと言うんなら……別にそれでもいいわよ? 関係もないし、王都にも戻りたいワケじゃないし。結局、貴方達もアマネと同類なのねと呆れ果てるだけだわ」


 どうなのかしらね。

 この人達はそこまで私に悪意があるかしら?

 陛下の耳に入る前に握り潰されるとかはありそうね!


「それらの事も報告致しますが……」

「ええ、そうしてちょうだい」


 駆け引きしたい所だけど。ここでする要素はないし。

 貴族同士だったら利得を握らせて都合のいい報告をさせるのかしら?

 んー……。


「陛下が心配されていた魔物災害は、アルフィナでも収まったわ。そしてルーナ様はここには訪れていない。これは私が王命を果たした功績。私が彼女の来訪を拒んだからだけど……ルーナ様本人とは話もしたし、仲良くもなれたの。それでも陛下があくまで私は信用できない。ルーナ様に浄化させよというのなら……まぁ、その時はその時かしら」


 少なくとも交流のあった私とアマネの予言を比べて私にああいう処分を下された方。

 今は女神の天与を得た巫女という扱いと、神殿との兼ね合いで衝突中?


 頑なに私の事を認めない、とまではないと信じたいわね。


「……そうですね。クリスティナ様。我らと共に王都に一緒に帰られますか?」

「そうね。それもいいのだけれど。貴方達はベルグシュタット卿が率いる騎士団とも合流して凱旋するのよね?」

「はい。そのつもりです」

「じゃあ、その前に一緒に仕事をして貰わなくちゃね! 陛下にも報告が必要な事かもしれないわよ!」

「……はい?」


 今、動かせる人は揃えておかないとだわ!



◇◆◇



「リンディス」

「お嬢」

「私の婚約、祝ってくれる?」

「勿論ですよ」

「んー……」

「何かありましたか?」

「ううん。意外と素直だなって」

「はぁ……」


『私』と私の気持ちは混ぜちゃいけないのよね。


「言いたい事は分かりますよ。ですが……お嬢。私が貴方に対して抱く想いは……きっと、簡単には言い表せないものです。セレスティア様と共に抱いてきた感情ですから。そうですね。それこそ……『家族』と。家族愛なのだと思っています」

「……そっか」

「ええ。ですがお嬢? ひとつよろしいでしょうか?」

「なぁに?」

「ベルグシュタット卿ともまだ婚約の段階だそうで」

「そうね」

「しかも私の知る限り、卿とはまだ会った回数も少ないですよね?」

「2回だけね!」

「……はぁ」


 何かしら!


「貴族の婚約なんて、会った事がなくても決まるものじゃないの」

「それを今のお嬢が言いますかね。ご自分で決めてきたんでしょう?」

「そうよ!」

「……ふぅ。で、まぁ、まだ婚約者に過ぎないので。卿との婚約関係まで破棄されないように頑張ってくださいね」


 むー……。


「……もしも貴方がまた婚約破棄をされてしまったら。今度は……そうですね。きっと、その時は王命も何もないでしょうから。その時は私が貴方をさらって差し上げます」

「さらうの? リンが?」

「ええ。お嬢に優しくないこの国を捨てて……私の国にでも連れていきますよ。魔族の国です。どうです? 怖いでしょう」

「えー……、怖くない……」


 私の知ってる魔族ってリンディスとヨナ、ナナシだけだし。


「普通は魔族の国なんて言われたら怖がるのですよ」

「そうかしら……」

「ええ。ですので……そうならないように。ベルグシュタット卿と、貴方が選んだ方と、お幸せに。お嬢。心からそう申し上げます。きっとセレスティア様も……お喜びになった事でしょう」

「リン……」

「……お嬢の天与に感謝しなければ」

「うん?」


 何をかしら。


「セレスティア様の事を貴方に言うべきではないと考えていたのです」

「どうして?」

「あの方はもう亡くなられているのですから。お嬢が前を向く足を止めるものかと。少なくともマリウス家に居た頃は……契約の縛りもありましたが……言わない方が良いと思っていました。『本当の家族は迎えになど来ない』と……希望と共に絶望を与える事になると思っていましたから」

「んっ」


 そう。本当のお母様が居ると幼い頃に知っていたら。

 ……きっと希望に溢れて。そのすぐ後に、その死を知って。

 高く上げられてから叩き落とされるような絶望を味わったかもしれないわ。


「マリウス家を出てからは……その。言うタイミングを見失っていました」

「忘れん坊ね!」

「そうですね……」

「ねぇ、リンディス」

「はい」

「……私の本当のお父様の名前は?」


 合えて聞かなかったワケじゃないけれど。

『本当のお母様』についてはリンディスは、実は小さい頃から匂わせていたのよね。

 だから納得と興味が強かったの。


「…………身分のある方です」

「身分?」

「はい」

「どこの身分? リンの国とか……」

「いいえ。この国で身分のある方です」

「え?」


 リュミエール王国で? 王国の貴族?


「……お嬢」

「うん」

「お嬢がレヴァン殿下の婚約者であった時は、運命なのだと思っていました」


 うん? めい?


「どうして?」

「王族と結婚するのですから。きっと何の問題もありません。それなら一緒ですからね」

「んん?」


 何でかしら。何が一緒?


「……誰が知っているのか分からない以上、私が口を閉ざすべきだと思っています。お嬢本人でさえも」

「ええ?」

「……父君が何者なのか。お嬢は知りたいですか?」

「もちろんよ!」


 知りたいわね!


「では、ベルグシュタット卿を見定める時間を下さい」

「エルトを?」

「はい。確かにその婚約関係をお嬢と続けていける方なのか。それを知ってからにしたいのです」

「それは……いいけど」


 私は首を傾げたわ。


「……ここまで言えば察してしまう人は居るのですが、お嬢はその点は安心ですね」

「それは何か失礼じゃないかしら!」

「ふふ。いえ、まぁ笑い事じゃないのですが。……そうですね。気に食わない予言ですが、あえて言いましょう。お嬢はまだ『傾国の悪女』になれる素養をお持ちですよ」

「…………それは天与を抜きにして?」

「いえ。天与があるから余計にですね。それも女神イリスの天与ですから。……陛下の頭も痛いなぁ、と」

「陛下の頭が痛い……」


 私がイリスの巫女だから。

 大義名分ありの王命とはいえ、私が理不尽な境遇に追いやられたのは間違いない。


 私の名誉の回復は……陛下のご判断に対する不満をもたらす。

 そういう話だから?


 でもリンディスは私の本当のお父様の事を問題視しているのよね。

 侯爵家の出身だったセレスティアお母様ではなく。


「……あんまり考えない方がいい?」

「うーん……。考えても仕方ない、という事でしょうか。少なくとも現状では」

「そうなの?」

「はい。ですが、お嬢がもしベルグシュタット伯爵夫人になるのでしたら。うーん……どうなのでしょう」

「リンディスに分からない事は私には分からないわよ」

「それも天与で見えたりしません?」

「私が何か……血筋で『傾国の悪女』になる運命?」

「はい」


 今のところないわね!


「だいたい天与を使って暴れ回るぐらいしか傾国してないわよ! 政治的な? 活動はした覚えがないわね!」

「……うーん、この……」

「とにかく今は知らない方が良いのね?」

「お嬢がこの先、どういう立場を取るか次第ですから。別にお嬢はこの国を変えたいとか。或いは王家を恨んでいるとか。そういう気持ちは全く持ってないのでしょう?」

「ええ! まったくないわ!」


 処刑エンディングの時も暴れた結果だしね!


「……はい。では、まずベルグシュタット卿を見定め、お嬢がどう生きたいかを知ってからにさせてください」

「分かったわ! リンがそう言うなら信じるわね!」

「……ありがとうございます」


 お父様の事だって気にはなるけど。

 でも、結局はお父様もお母様も死んでいるのだから。


 ……だから気にし過ぎても仕方ないわ!


「じゃあリン。次の話だけれど」

「はい」

「今度ね。エルトやルーナ様と一緒に……修道院を襲いに行くわ! だからリンディスとナナシには一緒に来て貰うわよ!」

「……修道院を襲う」

「フフン!」


 邪神が居るかもしれないからね!


 かつて一度戦った触手がウネウネってした気持ち悪い邪神。

 姿を消せるリンディス達に調査させようとかと思ったけど……ああいうのが居たらリンディスが危ないからね。


 それに戦闘になったら……やっぱり戦力が居ると思うし。

 前みたいに苦戦しながら戦うのは良くないわ!


「ちょっと付いていけないので1から説明して貰えますか? 婚約の話をしただけじゃないんです?」


 ふふふ。色々と連れて行って邪神を倒して?

 アマネの存在が結びついてる証拠でもあったら良い? わね!



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