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93 幕間 マリウス家④

 物心ついた時には、私の傍には声だけの家族が居たわ。


「リンディスー!」

「はい、お嬢」

「きゃっ!」


 声だけリンディス。

 姿が見えないから、いつも私の傍にいるのか居ないのか分からないわ!


「リン、遊んで!」

「構いませんよ」

「わー! 空を飛んでるみたいよー!」

「ははっ」


 姿が見えないけど確かにそこに居るリンディスはこういう時に楽しいわね!

 見た目は私が宙に浮かんでるみたいよ!


「……何しているんだ、クリスティナ」

「あら、リカルドお兄様」


 私より5つ上のリカルドお兄様。

 髪の毛は赤いけど私より少し柔らかい赤なの!

 私の髪の毛は真っ赤よ!


「リンディスと遊んでるのよ!」

「勉強はどうした?」

「やったわ!」

「……勉強に終わりはない。やった、で済ませていいとでも?」


 キッとリカルドお兄様が私を睨む。

 でも見えないリンディスに肩車されてるから、私の方が上から目線よ! フフン!


「……リンディス。クリスティナを下ろせ」

「分かりました。リカルド様」

「えー……!」


 まだ遊び足りないわ!


「お嬢。また遊びましょう」

「……分かった」


 いっつもリンディスと遊ぼうとすると、何処からともなくリカルドお兄様が邪魔しに来るのよね!

 侍女達が見張りでもしてるのかしら?


 リカルドお兄様は、なんでリンディスと遊ぶ事ばっかり邪魔するのかしら?


「来い、クリスティナ」

「うん?」


 リカルドお兄様は何故か私の手を引いて行こうとするわ?


「リンディス。お前は父に雇われた世話係に過ぎないんだ。出過ぎた真似は止めろ」

「……承知致しました、リカルド様」

「チッ……」


 姿の見えない場所に向かって怒ってるお兄様ったら、なんだかお間抜けさんに見えるわね!


「お兄様ったら何を言ってるの?」

「……クリスティナ。お前は、もっと貴族らしい嗜みを身に付けろ」

「痛いわ、お兄様!」


 リカルドお兄様が、ぎゅーっと私の腕を掴む。


「何するのよ!」


 力で勝てなくても私が引く理由はないから、ぎゃあぎゃあと喚き立てたわ!


「……大人しくしろ!」

「はぁ!?」

「黙って大人しくしていればいいんだ。お前が我が物顔で、この屋敷で過ごしていいと思っているのか?」

「何よそれ、意味が分からないわ! 離しなさいよ!」

「黙れっ!」


 バシンッ! と音を立てて衝撃が私を襲った。


 腕を掴まれたまま頬を叩かれた。

 理解が追いつかずに一瞬、固まる私。


「……お前は大人しく俺に従っていろ。あんな奴に懐くなんて、」

「何をするのよッ!」


 私は頭からリカルドお兄様の顔にぶつかったわ!


「ぐげっ!?」

「よくもやったわね! 覚悟しなさい!」


 怯んだリカルドお兄様に掴み掛かって、追撃しようとしたわ!


「ちょっ……お嬢!?」

「ぶん殴るわよ!」

「もうやってます!」


 リンディスが私を掴んで引き離す。


「まだ手では殴ってないわ!」

「手でも頭でも1発は1発です! やり過ぎですよ!」

「先に手を出したのはリカルドお兄様なんだから3倍にして返すわ!」

「どこでそんな理屈を学んだんですか!?」


 ガルルルって私は犬みたいに吠えるように声を上げたわ。


「…………お前っ!」

「ワケ分かんない! なんで叩いたのよ! あんたの頬も叩いてやるわ!」


 ガールルルル!


「どこの獣だ!」

「やられたらやり返すわよ!」


 キーキーと喚きながら、私はリンディスにドウドウと抑え込まれる。


「何をしているのっ!」


 そこにヒルディナお母様がやって来たの。


「母上……」

「リカルド!? 何が……クリスティナ! リカルドに手を上げたのね!」

「お兄様が先に私を叩いたのよ!」

「お黙りなさい! 誰か! 誰か来なさい!」


 お母様に呼ばれてやって来る執事達。


「クリスティナを部屋に入れなさい。良いというまで出さないように!」

「なんで私ばっかり責められるのよ! お母様!」

「黙りなさい! ……ああ、リカルド」


 お母様は私をキッと睨み付けた後、リカルドお兄様を慈しむように抱き締めたわ。


 ……そして、私は部屋に閉じ込められた。


「納得いかないわ! 先に叩いたのは、お兄様よ!」


 ドンドンドン! と鍵の閉められた扉を叩く私。

 でも誰も扉を開かなかったわ。


「……なんで」


 私はひとしきり扉を叩いた後、不貞腐れてベッドに横になったわ。


 しばらく時間が経って、ご飯も与えられなかったけど、不思議とお腹は空かなかったの。


「はぁ……」


 最低な気分だわ!



◇◆◇



「お父様、お母様ー!」


 私とは離されて育った妹のミリシャ。

 中庭で2人に駆け寄る小さな彼女を、お父様とお母様は微笑みながら受け入れていた。


 私が縋りつこうとすると、穢らわしいモノを見るように突き放すのに。


「……?」


 離れた所で、その光景をじっと見ていた私と、ミリシャの目が合った。


「あの方は誰?」


 あの方ってどの方かしら? と首を傾げたけど、ミリシャが指差した方向には私しか居ない。


 ミリシャったら、今いくつだったかしら?

 もうちゃんと喋れて賢いわね!


「アレは……、……お前の姉だよ」


 お父様が渋い顔をしながらそう説明する。

 どれだけ言いたくないのかしら?


「まぁ、お姉様!」

「ん?」


 ミリシャが私に会いたがっている。

 でもお父様とお母様は会わせたくないみたい。


 どうしようかしら。

 立ち去った方が良いかしら?


「……お姉様! はじめまして!」

「はじめまして」


 水色の髪と瞳をした可愛らしい女の子。

 その髪色から、はっきりとお母様の子供だと分かる。


 それに比べて私の髪は、両親のどちらとも違う。


「クリスティナ」

「……はい、お父様」


 睨み付けるような顔で、お父様は私を見た。


「お前はミリシャの姉なんだ。ミリシャを傷付けないように心掛けろ。それぐらいは出来るな?」

「……はい、お父様」

「……?」


 ミリシャは可愛らしく、何もわかっていないような顔で私とお父様達の顔を見比べたわ。



 それからも、屋敷の中での私の立場は変わらなかった。

 前までは優しかった侍女も居たのだけど、何かの拍子に辞めていったわ。


 お父様とお母様、お兄様、そしてミリシャは食堂で一緒に食事。

 私だけは……両親と一緒に食事をした記憶がない。


「……フン!」


 この頃になると、私は……お腹が空くようになったわ!

 前は閉じ込められて食事を抜きにされても、全然へっちゃらで、まるで何かを食べた後のようだったんだけど!


 成長期っていうものね! 困ったものだわ!


「わぁ……!」


 侯爵家のお抱えの兵達が庭で訓練をしているのが見えた。


「剣……! あれ、やってみたいわ!」


 私は、部屋を抜け出して玄関から出るとうるさそうだから、窓から抜け出たわ。


「私もやりたいわ!」

「……は?」

「剣! 私もしたい!」

「えっと、あー……」


 目をキラキラさせて剣を持った男達の前で腕を組んで、胸を張ったわ!

 フフン!


「まぁ、良いんじゃないか? 怪我させても文句は言われないだろ、こっちは」


 ヘラヘラと笑う男は、なんだか感じが悪かったけど、どうでもいいわね!


「わぁ! 重たいわ! ふふ!」


 木剣を貸して貰うとズシリと重たかったわ!


「フン! フン!」


 これ楽しいわ! 木登りするぐるい楽しいわね!


「重たい! あはは!」

「あー……」


 周りにどう見られてるのかも気にせず、私は夢中になったわ!


「あら。何をなさってるの、お姉様ったら」

「フン! フン! ふふふ!」


 私は見様見真似で木剣を振り続けるわ!


「……何を! なさっているのかしら!?」

「フフン?」


 何か声を荒げられたわ。


「あら、ミリシャ。元気?」

「何故、私を無視したのかしら?」

「元気みたいね!」


 私は木剣を振りながら、元気確認をして、話を終わらせたわ!


「ねぇ、打ち合いもしてみたいわ!」

「……ちょっと! 無視しないで!」

「んっ?」


 私は首を傾げたわ。


「その手を止めなさいよ!」

「何で?」

「私がお姉様に話しかけてるからだわ!」

「話は終わったわよ!」

「終わってないわ!」


 えー……? ミリシャと話す事、特にないわよ?


「まぁまぁミリシャ様。クリスティナ様は、兵との打ち合いがしたいらしいですから。望みを叶えられては?」


 ヘラヘラした男がミリシャに媚を売るようにそう提案したわ。


 中々良いアシストをするわね!


「いいの!?」

「……まぁいいわ。お姉様のお願いですもの。叶えて差し上げて?」


 まぁミリシャったらお母様みたいな喋り方よね!

 お勉強頑張ってるのかしら? えらいわね!


「あんたが望んだ事ですからね? クリスティナ様」

「ええ! ありがとう!」

「……は」


 少し態度がアレだけど、私は剣を握って打ち合いをする方が楽しかったわ!


「やぁあああ!」


 重たい剣を頑張ってる持ち上げながら、私は男に突っ込む。

 気分は騎士の一騎打ちよ!


「ハッ!」

「きゃっ!」


 ガギィ! という木剣を打ち据えられる衝撃が、簡単に私の手の中の木剣を弾き飛ばす。


 指が痺れて、私はその場に尻餅をついたわ!


「オラっ!」

「……ッ!」


 男はすかさず追撃をしてきたわ!

 倒れ込んだ私の二の腕を思い切り打ち据える!


 木剣だから手加減はしてるかもしれないわね!


「痛っ……!」


 痛いわね! 私は目に涙を溜めて打たれた左腕を支える。


「うぅぅ……!」

「お、おい、やり過ぎ……」

「まぁ、素晴らしいわ! 騎士様! ちゃんと真剣にお姉様の相手をして下さったのね!」

「勿論、それがお嬢様の望みでしょうから」

「…………」


 ミリシャは満足そうに私を見下ろし、私に勝った男はニタニタと笑っているわ。

 その後ろには、同じように笑う男と、青い顔をして引いてる男が半々って所ね!


「お姉様? 満足して頂けたかしら?」

「……これが戦いなのね!」

「は?」


 私は、ゴロゴロと地面を転がりながら、片手で何とか立ち上がったわ!


「相手が倒れても手を緩めない……これが戦い! シビアなせかい(・・・)だわ!」


 奥が深いのね! 少しの油断が命取りっていう奴ね!

 負けられないわ!


「もっとやりたいわ!」


 私は片手で掴んだままの木剣を持ち上げようとする。

 けど手の平が痺れて上手く持てないわ!


「まぁ! 凄いわよ、ミリシャ! 直接叩かれてないのに腕が痺れてるわ! 凄いわ! これが本物の戦い! 本物の戦士なのね!」

「…………何言ってるの、お姉様」


 ミリシャが楽しげだった表情を曇らせて苛立ったように私を見据えていたわ。


 なんでかしら?

 私は新しい発見に目が輝いているわよ!


「お前達、何をしている!」

「あら、リカルドお兄様」

「お兄様!」


 そこにリカルドお兄様がやってきた。


「……何だ? これは何なんだ?」

「……リカルドお兄様。お姉様が騎士達の稽古中に横槍を入れてきたんです」

「そうね!」


 間違ってないから私も頷いておいたわ!


「……、……はぁ」


 リカルドお兄様は私に向かってズンズン歩いて来たかと思うと私の腕を乱暴に掴んだわ!


「痛い!」


 左手はまだ痛いままだわ!


「うるさい! 問題ばかり起こしやがって! 猿か、お前は!」


 問題かしら! 私はとっても楽しかったんだけど!

 剣ね! 私の生きる道はきっと剣だわ! ふふふ! お父様に木剣をねだりましょう!


 いつもミリシャに綺麗な服を買ってるから、木剣ぐらいならきっと安いわ!

 私は地味なドレスしか持ってないから安上がりなのよ! フフン!


「ふふふふ!」

「……この状況の何を笑えるんだ、お前は」

「騎士様達、また『戦い』をするわよー!」


 私は痛む上に痺れ、引っ張られる左手の感覚を無視して、右手で手を振ったわ!


 なんかミリシャと一緒に皆、ポカンと私の姿を見ていたわね!

 今度は私の方が仕留めてみせるわ!


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