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87 婚約締結①

「もっと触れても良いわよ! フフン!」

「そうか」


 婚約者になる約束を取り付けたから私は胸を張ってエルトにそう言ったわ!


「じゃあ」


 触れてもいいと許可を出した私の頬に彼は手を伸ばす。

 そして優しく……なく、私のほっぺたをつねった。


「痛いわよ!」

「そうか。良かったな」

「なんで良いのよ!」

「……お前は先程、夢の中で俺を好きになったと言っていたからな。この婚約も夢の中の出来事だと思われてはかなわん。頬をつねって痛いのだから夢じゃないぞ。だから良かったな」

「むー!」


 そういう事ね! エルトが悪戯っ子のように私に微笑む。

 その表情に私は満足しつつ。

 でもね!


「残念だけど、私の夢は特別なの! だから心臓を刺された痛みも、首を切られた痛みも現実的よ! その判別方法じゃあ現実との区切りをつけられないわね!」

「そ、そうか……。死の痛みを伴う夢……?」

「フフン!」


 私は胸を張ったわ!


「どう考えても絶望的な境遇なのに、なぜ自慢気なんだ?」

「凄いでしょう! 私を褒めても良いわよ!」

「……そうか」


 エルトは私の頬をつねるのを止めて、髪を梳くように頭を撫でてきたわ。

 ふふふ。心地いいわね! セシリアとはまた違った感じよ!


「クリスティナ」

「なぁに?」

「めでたく俺とお前の気持ちは実ったが……まだ俺達は、あまりにも互いの事を知らない」

「そうね」


 現実に会うのは、これで2回目だからね!


「だから……これからは、もっと俺と一緒に居ろ。そして言葉を交わそう。……お前が俺に幻滅するのなら、この関係を捨ててもいい。その為の婚約期間だ。すべての選択肢は、お前にある」

「……エルトにもあるでしょう?」


 私は首を傾げたわ。


「ふっ。悪いがお前と違って、俺は『現実』のお前を好きになったのだ。故にお前がお前らしく振る舞うのは好ましいとしか思えない。今もそうだ」

「むっ……!」


 たしかに私が彼に近付いて安心してるのは……予言の天与の影響だわ。


 動かない身体。私達の住む場所を分けた鉄格子。

 処刑を待つ私と、それを止められない彼。


 想いを交わせる筈もない関係。

 だからこそ、欲しいと思っていた事。


 ……でもアレは現実の彼じゃない。

 夢の中の彼は私に名乗らなかったもの。


「むー……」

「何を頬を膨らませている? それは抗議か?」

「勘違いしないでよね!」

「勘違い?」

「たとえ現実じゃなくたって、私の方が貴方を好きだと思うわ!」


 だってエルトにとっては私は2回しか会った事のない女だけど。

 私にとっては、もう何度も会った相手だからね!

 現実じゃなくても私の方が上だわ!


「フフン!」


 私は胸を張ったわ!


「……そうか。では、俺もお前の気持ちに負けないようにしなければ。いつまでも負けたままでは家門の名に泥を塗ってしまう」


 エルトは、そう言って私に近寄ると……私の前髪を避けて、おでこにキスをしてきたわ。


 頬が熱くなって、なんとなく嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。


「……悪くないわね!」

「それは良かった」


 そして手を取り、指と指を絡める。ふふふ!


「今日はルーナ様に会いに来たんだけど」

「ああ」

「エルトに会えたから、このまま神殿に行って婚約関係を表明しに行きましょう!」

「うむ。良いだろう」


 ふふふ! じゃあクインに乗っていくわよ!


「良いワケなぁああい!」

「!?」

「む。ライリー?」


 大声にビクッとして振り向くと綺麗な金色の髪をしたお姫様のような騎士、ラーライラが怒っていたわ。


「貴族の! 婚約は! そう簡単に取り付けるものじゃありません!」

「気にしなくて良いわよ!」

「良いワケないわよ!」


 何かしら! 本当に邪魔する気なのかしら!


「安心しろ、ライリー。クリスティナが俺の求婚を受け入れた場合を見越して、既に神殿に根回しは整えている」

「そうなの? 手際がいいわね!」

「ふっ」


 エルトが自慢気だわ! やるじゃない! 褒めてあげなきゃだわ!


「何も! 安心できません! お兄様は伯爵家の嫡子ですよ!? お父様の許可も要ります!」

「伯爵の許可は既に取ってある」

「いつの間に!?」

「旅の途中で手紙のやり取りをしていた」

「私に黙って!?」

「……ライリーに話す必要があったか?」

「うん?」

「なっ!」


 私とエルトは一緒に首を傾げたわ。


「神殿に根回ししておいたのは、クリスティナの実家のマリウス家がキナ臭かったからだ。幸い正式な手続きや、クリスティナ本人の確認が出来れば認められる。……世の中には、まぁ親に邪魔される婚姻というのもあるしな」


 あら。マリウス家の事も知ってるのかしら?


「相手は侯爵家ですよ!? 貴族令嬢なのに勝手な事が許されるワケありません!」


 まぁ、そうかもしれないわね!


「あの家や妹の態度を見るに、クリスティナが望む婚約など許可しないに決まってるだろう。どうせ認めないの一点張りだ。相手が俺でなくても、或いは公爵家からの求婚ですら邪魔をしそうだ。そんな家の許可など要らん」


 まぁ! エルトは話が分かるわね!


「じゃあ神殿に行けば婚約成立?」

「ああ。勿論、お前の意思がしっかり確認できればの話だが」

「じゃあ成立ね! そのまま結婚も出来るの!?」


 早い方が良いわね!


「……それは、お前が俺を見定めてからにした方が良いだろう。この根回しは、あくまでクリスティナの境遇を訴えてのもの。俺の欲望を叶えて、お前を縛り付ける為のものではない……と神殿を説得している」

「うん?」


 どう違うのかしら?


「つまりクリスティナの相手は、あくまでお前自身が選べる……という前提の話だ。『イリスの巫女』という風潮も後押ししたな。王権から独立した信仰の組織……それを無下に出来ない理由を今回、知れたよ」

「えっと?」


 私は首を傾げたわ。


「マリウス家がお前を虐げている。そのような家に『イリスの巫女』の婚姻を決める権利は認められない。あくまで本人の意思確認が必要だ、という話を付けてあるんだ。三女神の巫女ではない予言の聖女など、神殿からすれば邪魔者だしな。レヴァンとの婚約破棄の件もあったから、お前の権利を勝ち取っておいた」

「そうなの! やるわね、エルト!」

「ふっ」


 じゃあ私は自由に結婚できるの?


「とっても嬉しいわ!」

「喜んだか?」

「ええ!」

「ふっ。では間違ってなかったようだ」


 彼も嬉しそうね! ふふふ!


「神殿って王都の大神殿に行けばいいの?」

「大神殿で許可を取り、事情をしたためた手紙をいくつか書いて貰って、アルフィナ側の地方の、いくつかの神殿にも話を付けてある」

「い、いつの間にそんな事をなさっていたのですか、エルト兄様!」

「ふっ。俺の黒馬は誰の馬よりも速い。多少は離れた神殿に駆けて、問題ない時間で部隊に戻るなど簡単な事だ」


 エルトの部下達が苦笑いしてるわね!

 なんとなく彼が無茶をしまくっていた気がするわ!


「……色々とやってましたからねぇ」

「ルナ!? 貴方、知ってたの!?」

「はい、まぁ。一晩中走らされたお馬さんが可哀想でしたので回復したりなど」

「その時は世話になったな、ラトビア嬢」


 馬の体力の回復まで出来るの!?

 凄いわね、ルーナ様の天与って!


「一晩中駆け回るとか何してるんですか、お兄様!」

「浄化の旅は卒なくこなしただろう。何も問題ない」

「問題しかありません!」


 なんだかラーライラってリンディスに似てるわね!

 お小言や文句が沢山よ!


「クリスティナ」

「んっ」


 エルトが手を繋いだまま私の肩を抱き寄せたわ。


「お前の気持ちが変わらない内に神殿に行きたいが、良いか?」

「ええ! 今からクインに乗って行くわよ!」

「クイン?」

「あっちに居るドラゴンよ!」

「ドラゴン?」


 エルトは少し離れた場所にいるクインに目をやったわ。


『キュルァア?』

「……ドラゴンだな」

「見てなかったの?」

「お前しか目に入ってなかった」

「まぁ! ふふふ!」


 現実の彼は、私を好きみたいね! 嬉しいわ!


「くっ……! この! クリスティナ!」

「なぁに?」


 今、凄く幸せな気分なんだけど!


「絶対に認めないから! 許さないわよ!」

「絶対に認めなさい! 許していいわよ!」

「なんでそうなるのよ!」

「フフン! 私がそう望んでいるからよ!」

「ふざけないで!」

「ま、まぁまぁラーライラ様。割って入るのは少し、その。両想いのようですし」


 ルーナ様は話が分かる人ね!


「ライリー。祝ってくれないのか?」

「なっ、お兄様……、わ、私の気持ちを知ってる癖に……!」

「ライリーの気持ち?」

「フフン?」


 私とエルトは揃って首を傾げたわ。


「……お兄様のバカ!!」


 あっ、ラーライラが逃げ出したわ!


「……泣いてたわよ?」

「ああ」

「追いかけないの?」

「ライリーは強い女だ。王国一の女騎士だぞ。どのような試練でも打ち勝つさ」

「そう。なら良いのね!」

「ああ」

「か、可哀想……! 流石に! ラーライラ様!」


 でも、これは流石にエルトに行かせた方が良いと思うわよ!


「エルト」

「何だ?」

「私は待ってるから妹さんと話をして来て」

「……そうか。クリスティナが待つというなら言葉に甘えさせて貰おう」

「そうして」

「……良い機会とも思うのだがな」

「うん?」


 良い機会?


「ライリーは俺への憧れが強過ぎる。……騎士の道を選び、誰とも婚姻を結ぶ気がないだけなら、それは構わないのだが……」

「何かあるの?」

「……ライリーは、俺以上の男でなければ結婚はしないと公言している。よくライリーを賭けての決闘を申し込まれたものだ」


 そんな事してたの!


「戦争にそこまで駆り出された事もない俺が何故『金獅子』などと強さで評判なのか知っているか?」


 知らないわね!


「だいたいライリーを賭けた決闘で勝ち続けたせいだ」

「そうなの!」


 私、知らないんだけど! そんな面白そうな話だったのね!


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかここまで蛮族令嬢にお似合いの蛮族令息が居るとは… どっも基本的に脳筋なのにやろうと思えば政治的な思考もできるとか余りにもぴったり過ぎる
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