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85 決闘再び

「な、何を言ってるの!? 人が投げた手袋を拾ってそのまま他の者に投げつけるなんて! 作法を守りなさいよ!」

「うん! ありがとう、手袋を貸してくれて! 貴方、良い子ね!」


 そういえば前に貰った魔法銀の剣も、この子のなのよね!

 とてもありがたいわ!


「貸したんじゃないわよ!」

「そうなの?」


 私は首を傾げたわ。


「じゃあ、なんで手袋を投げたの?」

「私が先に貴方に決闘を申し入れたのよ!」

「……私に? なんで?」


 ラーライラと決闘する理由がないわね!


「今、貴方が口走った事を言わせない為よ!」

「口走った事?」

「え、エルト兄様に婚約の申し入れなんてさせないわよ! ……って言おうとしたのよ!」

「なんでよ!」


 じゃあ良くない子ね!

 私は頬を膨らませたわ! フーンだ!


「貴方とエルト兄様との婚約なんて認めないからよ!」

「なんでよ! じゃあ、その決闘は受けないわ!」

「手袋を拾った時点で成立してるのよ!」

「手袋は借りただけだから無効ね!」

「無効なワケないでしょ! それから貸したんじゃないわよ!」

「貴方、勝手ね!」

「どっちが!?」


 エルトの妹さんだけど、サクッとぶん殴ろうかしら!


「ふっ……。ライリー。少し下がれ」

「お、お兄様! クリスティナとの決闘は私が先です!」


 エルトが私の投げつけた手袋を拾ったわ。


「クリスティナに投げる為の手袋を貸したのだろう?」

「お兄様まで! 違います! 私が決闘する為です!」

「ふむ? まぁ、それはさておき」

「それはさておき!?」


 彼が私に近寄ってくる。

 私は腕を組んで胸を張って堂々と立った。


「クリスティナよ。決闘に何かを賭けろと言うからには、お前も同等のモノを賭けて貰わねばならん」

「……同等のもの?」

「そうだ。クリスティナが俺に勝てば、俺にお前の婚約者になれと言ったが……。俺の婚約関係を賭けろと言うならば、お前も自身の婚約関係を賭けなければ決闘は成立しない」


 むー。それはそうね!


「どうしたらいいの?」

「簡単だ。クリスティナ。この決闘。俺がお前に勝てば……お前には俺の婚約者になって貰う!」

「エルト兄様!?」

「ば、バカップル……! これがバカップルなんですね! ラーライラ様!」

「ルナは自分の恋心はどこへ行ったの!?」

「この関係には割って入れません!」

「それでいいの!?」


 エルトが私に勝ったら私が彼の婚約者になる?

 問題ないわね!


「それでいいわ! 受けて立つわよ!」

「ふっ……」

「フフン!」


 満足そうに私達は笑い合ったわ!


「これって決闘する意味は何処にあるのでしょう!? ラーライラ様! 私、気になります!」

「くっ……! なんでお兄様はこの女と絡むと頭が悪くなるの!?」


 ルーナ様とラーライラ、それからエルトの部下達が騒がしいわね!


 エルトの部下達は、嬉々として決闘の準備をしてくれたわ。

 ラーライラはルーナ様とエルトが宥めてくれたわね。


 私は、クインの肌を撫でながら準備が整うまで少し待っていて。



「さて、クリスティナ。決闘の内容には変更はないな」

「ええ! 変更はないわね!」


 私が勝ったらエルトは私の婚約者。

 私が負けたら私はエルトの婚約者よ!


「……何を言ってるのか分からないが……隊長の春だな」

「ああ。決闘する意味がまるで理解出来ないが、何かケジメのようなものなのだろう」

「ラーライラ様の手袋がただのダシにされたワケだが」

「普通に婚約関係の手続きを進めれば良いのではないのか……?」


 フフン! 今回は観衆が多いわね!


「で、では! 僭越ながら私が開始の合図をさせていただきます」


 ルーナ様が少しだけ離れた所で審判役をしてくれるわ。


「双方、怪我をしないように。死んだら私でも治せませんので、絶対それだけは避けるように」


 私達は互いの剣に軽い鞘を付けて、しっかりと外れないように柄と固定。

 切れないように工夫されたわ。

 木剣を使わないのは私への配慮かしら?


「では……はじめっ! です!」


 ルーナ様の合図で私はエルトに突進する!

 切れないようにした魔法銀の剣で切り掛かったわ!


「あまり剣技は上達していないな、クリスティナ」


 ガン! という鈍い音を立てて剣を打ち合う。


「魔物相手には殴った方が早いから殴り倒してきたわ!」

「ふっ、そうか。お前らしい!」


 そのまま何度か剣を打ち合った。


「剣は徒に振るものじゃない。ほらそこ。まっすぐ振り下ろすんだ」

「むー!」


 剣を振る私は、エルトに軽くあしらわれてしまう。

 これはアレね。カイルやセシリアに体術を教えて貰う時みたいに、理屈が私の上をいっている感じ。


「はぁっ!」

「はっ!」


 ガン! と私達は剣をぶつけた状態で接近する。


「……戦いには慣れたみたいだが、まだまだ荒いな、クリスティナ」

「そういう貴方は、やっぱり強いのね!」


 純粋な剣技だけなら、当然だけれど私が及ぶ相手じゃなかったわ。

 夢の中では薔薇すら掻い潜って私の心臓を刺し貫いた人だもの。


「贈ったドレスは気に入ってくれたか?」

「ええ! でも一番嬉しかったのは宝石よ!」

「宝石が?」

「そうよ。私、生まれて初めて宝石を贈って貰ったわ。マリウスの者達にも、レヴァンにも貰った事はなかったの。だから……貴方が私の初めてよ、エルト・ベルグシュタット」

「……っ!」


 瞬間、彼の顔に少し赤みが差した……気がしたわ!


「はっ!」

「んっ!」


 剣ごと弾き飛ばされ、彼の身体が目にも止まらない勢いで回転する。


 体勢を崩した私は後ろに転びそうになって。

 あっという間に駆け寄ってきたエルトが私の身体を後ろから抱き支えた。


「クリスティナ。生憎とプロポーズは先にされてしまったが。こちらは先手を打たせて貰おう」

「ん……!?」


 ガイン! と手に握っていた魔法銀の剣が弾き飛ばされ、飛んでいく。


 そして肩を掴まれた私は、彼の手でくるりと回転。


 エルトも剣を手放して、私の手を取った。


「俺はお前が好きだ、クリスティナ。あの時の決闘から……お前の事が愛しくて仕方ない。今日、再び会ってもその気持ちに変わりはなかった。今日まで思い描いた理想のお前ではなく、自由に振る舞う現実のお前に……惚れ直したよ」

「んっ!」


 私は顔に熱が篭るのを感じたわ。

 それから胸が音を立てて高鳴るのも。


「……私も貴方が好きよ、エルト。でも勘違いしないでよね!」

「勘違い?」

「私、別に宝石を贈られたから貴方を好きになったんじゃないわ!」

「……では一目惚れか?」

「違うわよ!」


 別に一目では好きになってないわね!


「夢で貴方と出逢ったの! 天与が見せる予言の夢よ! 現実に限りなく近くて違う、夢の世界で何度も私は貴方に会ったわ!」

「……夢?」

「そうよ! いつも貴方は、私を殺しに来るの。そして貴方は私の心臓を剣で貫いたわ。数えてないけど50回ぐらいね!」


 数えてたらキリがなかったからね!

 50回って書いていたから、きっと50回よ!


「……身に覚えがないが」

「それはそうね! 私はね。何度も何度も夢の中で処刑されたの。傾国の悪女として首を切り落とされたわ。……でも処刑される前の日は決まって穏やかに過ごせた。王都の地下牢。処刑待ちの罪人である私は……何をされてもおかしくなかったでしょう」


 私は……私の顔は美しい。それは理解している。

 だから死ぬ前の私を穢しに来るような下衆な者達が現れてもおかしくなかった。


 ……もし逃れられない悪夢の中でそんな目に何度も遭っていたら、いくら私でも狂っていたかもしれないわ。


「……でもそうはならなかった。夢の世界では地下牢の前に貴方が居てくれたわ、エルト。いつも、ほとんど変わらない言葉を交わしただけだけれど……【悪役令嬢クリスティナ】は心穏やかに最期の日を迎える事が出来た」


 私は目を閉じて『彼女』の気持ちを思い出す。


「悪役……?」

「夢の世界の私ね! 怪力の天与が使えない子なの。あと私よりも辛そうよ!」


 親友のフィオナに出逢えてないから、かしら?


「エルト。貴方が居てくれるだけで、私は私のままで居続けられたのよ。……だから。この現実でも私、貴方が欲しいわ! 力ずくでも手に入れてやるんだから!」

「……そうか。俺に惚れた理由さえ理解出来ないとは……お前は、やっぱり面白いな、クリスティナ」

「フフン!」


 褒められたわ!


「……天与を使えばお前は俺に勝てるだろう」

「そうね! でも……この決闘、勝っても負けても結果は同じみたい!」

「ああ、そこは理解しているんだな。理解していないかと思った」

「何よ!」


 今、失礼な事を言われた気がするわ!


「で、それでも決闘では俺に勝ちたいか?」

「……夢の中の貴方は、私の薔薇すら掻い潜って私の胸を剣で貫いたわ。私が天与を使えば貴方に勝てるみたいに……エルトに私を殺す気があれば、この決闘は貴方が勝つのよ」


 初めの決闘だって彼は私を殺す気はなかったしね!


「互いにその気があれば、か」

「そうよ!」

「そうか」


 剣を取らないままエルトが私に近寄ってくる。

 そして私の頬に手を添えたわ。


「……お前の気持ちも俺と同じだと思っていいんだな?」

「そうね!」


 私は添えられた彼の手に手を重ねたわ。

 ……流石に顔に熱が篭って仕方ないわね!


「では、きっとコレが剣より効く攻撃(・・)だろう」

「あっ……」


 エルトの顔が私に近付いてきて。


「んっ」


 そして私の唇は彼に奪われたわ。

 これも生まれて初めての……キスよ。


 唇と唇を重ねるだけのキス。


「…………」

「どうだ? この決闘はどちらの勝ちだ、クリスティナ」

「……私が決めるの?」

「ああ」

「じゃあ……」


 そうね。キスをされて胸がドキドキしているから。


「──私の勝ちね! 私は貴方を手に入れたもの! フフン!」


 私は満足して胸を張ったわ!


 ……ちょっと身体が熱くて、心臓の音がうるさいわね!


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[良い点] イチャつきおるーーーーーーー(੭ु˙꒳˙)੭ु
[良い点] 良かったーー!!! ストレートにくっついてよかったーー!!!
[良い点] 私、気になりますいただきましたーー!笑
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