84 決闘の申し入れ
『キュルァアア!』
「えっ……」
空を見上げると日の光を受けて銀色の鱗を輝かせるドラゴンが飛んでいました。
「いたわねー!」
「えっ」
「この声は!?」
その場には私と、姫騎士ラーライラ様と騎士達。
リュミエール王国の各地を巡る浄化の旅もほとんど終わった所です。
アルフィナ領へと送った視察隊との合流地点で私達は待機していました。
「きゃあっ!?」
風を纏いながら、その場に降り立つドラゴン。
「──久しぶりね、ルーナ様!」
その背中には、長く綺麗な赤い髪をした女性……クリスティナ様が乗っていたのでした。
◇◆◇
「く、クリスティナ様!」
「クリスティナ!」
「あ、エルトの妹さん」
「ラーライラよ! お兄様を主体で覚えないで!」
夢の中でもあんまり関わらないから知らないわね!
「ルーナ様、久しぶりね! どう? 元気だった? 手紙貰ったわよ! だから来たわ!」
「あ、ありがとうございます。お、お久しぶりです、クリスティナ様」
本物のルーナ様は久しぶりね!
私の方は夢の世界で見慣れてるわ。
ルーナ様、夢の世界でだいたい酷い目に遭ってるけどね!
しかも犯人は私だったりするわ! ……ちょっと罪悪感ね!
「……そ、それよりも貴方。そのドラゴンは何?」
ラーライラ様がクリスティナ様の乗って来た銀色のドラゴンを指差しました。
「クインよ!」
「くいん?」
「そう、この子はクイン! よろしくね!」
「いや、よろしくじゃないわよ。私は説明を求めているのよ!」
「説明?」
何がかしら。見たら分かると思うけど。
「この子は……聞いて驚くといいわ! ドラゴンよ! フフン!」
私は胸を張ったわ!
「ドラゴンなのは見たら分かるわよ!」
「ええ……?」
じゃあ何が言いたいのかしら!
「アルフィナで見つけたから仲間にしたのよ!」
「な、仲間にって」
「倒したら仲間になるって約束したからね!」
『キュルァア……』
何かしら? クインが不本意そうな鳴き声を上げているわね!
ちょっとリンディスっぽい反応だわ!
「……貴方に懐いているの?」
「食べ物のお世話とかはしているわ!」
クインに気を取られているラーライラの代わりに、ルーナ様が話を進めてくれたわ。
「あの。クリスティナ様。今日はどうして……?」
「アルフィナの浄化が終わったわ! だから会いに来たの。ルーナ様を今、アルフィナに迎える事は出来ないからね!」
「え、私……ダメですか?」
「ルーナ様は悪くないわよ。でもアルフィナの浄化の手柄まで貴方に譲ったら私、王都に帰れなくなっちゃうわ!」
「えっと?」
んー。分かってないみたい!
こっちから来て良かったわね!
「エルトがアルフィナに来ずに部下達を送ってきただけなのと同じ理由よ! 民にとっての救世主は『救国の乙女』のルーナ様! だから貴方が来たら、すべて貴方の手柄にされてしまうわ! ルーナ様に悪意があってもなくても事実がそうだもの! だから貴方のアルフィナ入りは認められない! 視察隊には私の力の確認をして貰ったわ! 倒してきた魔物達の素材も残してあるわよ!」
魔物の素材を残してきたのはカイルやリンディスのアイデアだけどね!
恐竜の骨も綺麗に残したのよ?
アレが1番、見た目で分かりやすい手柄になるからね!
「……まぁ、それは賢明ね」
「ところでラーライラ! 貴方が居るならエルトも居るの!?」
「むっ!」
私はキョロキョロと辺りを見回して金の獅子様を探したわ。
「その反応……それに、その宝石のネックレスは」
「ええ! エルトに貰ったものよ! 私、生まれて初めて貰った宝石だから、お礼を言いたいわ!」
「……生まれて初めて……? 宝石の貴族の貴方が」
「そうよ! でも私、マリウス家の実の娘じゃないから!」
フフン! とラーライラやルーナ様が知らなそうだから、私は胸を張ったわ!
「なんで自慢気なの……」
「く、クリスティナ様?」
「あら?」
あんまり悔しそうじゃないわね。
知識自慢をされたら悔しがられると思ったわ。
やっぱりアマネに予言で上を行って鼻を明かすプランはダメかしらね?
「……くっ。やっぱり喜んでるわ。生まれて初めてって何よ……。上手くいかせてなるものですか」
「ラ、ラーライラ様? あのぅ」
「??」
ラーライラが何か暗い顔をして私を睨んできて、ルーナ様が宥めているわね?
ルーナ様ったら、アマネに気を使ったり、ミリシャに気を使ったり、色々と大変そう。
「あ!」
「……これは。……クリスティナ」
「エルト!」
近くに居たみたい。騒ぎを聞きつけた、黒衣の騎士はそこに立っていた。
いつか決闘して別れただけの、現実の時間では、たったその程度しか会わなかった騎士。
お礼も言わなくちゃいけないわ。
宝石もそうだし、騎士や侍女達もそう。
彼は知らないけれど……何度も処刑される夢の中で、私の最期の夜が穏やかに過ごせた理由。
「エルト! 久しぶりね!」
「クリスティナ。……ああ、久しぶりだ。顔を忘れられてなかったのは嬉しいな」
「私の方はアレから何回も貴方の顔を見たからね!」
「……うん? 何回も?」
「フフン!」
私の方がエルトを知っているわ!
「エルト! 貴方、結婚してる?」
「……! いや、してないが」
「婚約者は? いるの?」
「……いない」
うん! じゃあ問題ないわね!
「ま、待ちなさい! 何ですか、その質問は!?」
「何よ!」
私はまっすぐ見つめた彼の翡翠の瞳から目を逸らしてラーライラに向き直ったわ!
「み、み、認めないわよ!」
「何を!」
「あ、あの。そ、そういうお話でしたら、私も、」
「ルナ!? やっぱり貴方もなの!?」
「あぅ! す、すみません、ラーライラ様……! ですが格好良かったんです!」
「そんな事知っているわよ! お兄様よ!?」
ラーライラ様、ルーナ様のことを『ルナ』って呼んでるのね。
仲良くなったみたい! ……いいわね!
「と、とにかく認めないわ!」
「……ライリー。お前は、俺の気持ちを知っているだろう」
「お兄様は黙ってらして!」
エルトの気持ち? 私は首を傾げたわ。
ラーライラは手に着けていた白い手袋を徐に脱ぎ始めた。
そして……私の胸元に向かって手袋を投げつけてきたわ?
「……何?」
「決闘よ! クリスティナ! エルト兄さまに近付くなら……まず私を倒してからになさい!」
「……決闘?」
「そうよ! 手袋を投げつけて、貴方がそれを拾ったら決闘を了承したという証よ!」
「なるほど! ありがとう、ラーライラ!」
「あ、ありが……?」
私はラーライナが投げ付けた手袋を拾って、それをそのままエルトに向かって投げ付けたわ!
「……は?」
「なっ!?」
「──私と決闘よ! エルト・ベルグシュタット! 今度の決闘で私が勝ったら……貴方、私の婚約者になりなさい!」
「……わぁ! ク、クリスティナ様……女性からプロポーズ……、じょ、情熱的です!」
フフン! ようやく言えたわよ!
ラーライラも手袋をよく貸してくれたわ!
凄く気が利くわね!




