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79 シスター・クリスティナ

「んー」


 私は手を握り込んだり開いたりして身体の確認をする。

 ちゃんと思い通りに動くわね!


「床も触れる……石畳の感触もあるわ」


 不思議な感じだわ!

 だって『私』は確かにアルフィナに居る筈なのに。

 ここは『限りなく現実的な夢の世界』なのね。


「別の世界に迷い込むってこんな感じなのかしら」


 アマネの世界に行けたりもするのかしら?

 でもアマネが居た場所と、ここはまた別よね。


「んー」


 天与の光を灯せたりも出来そうね。

 でも、この感じだと『怪力』を使おうとしたら世界が壊れてしまいそう。

 力を出し過ぎなければ平気かしら?


「薔薇は……」


 私は手の平に一輪のバラを咲かせた。

 薔薇の天与は普通に使えそうね。


 今までの夢からすると【悪役令嬢クリスティナ】は薔薇の天与しか持っていない、から?


 でも多分だけど『この時点での彼女』は薔薇の天与も使えてない筈よね。


 でないと王都から、ほとんど罪人みたいな扱いで修道院行きなんて事態にはならなかったでしょう。


「この夢を壊す力はあるわね!」


 夢の世界に閉じ込められる感じじゃないわ!


「よいしょっ」


 天井近くにある窓。

 そこには鉄格子があるわ。

 ジャンプして鉄格子に捕まって外の景色を見る。


「……やっぱり地下牢じゃないの? ここ」


 まぁベッドがあるだけ王都の地下牢よりはマシね!


 それはそうと『外』にもちゃんと景色があるわ。

 本来の、この夢にいる【悪役令嬢クリスティナ】が見てないだろう場所まで再現されている……?


「ん……お腹減った」


 この身体、今日はほとんど何も食べてないみたいね。

 それに凄く疲れているみたい。


「夢の中でまた寝たらどうなるのかしら」


 ひとまず今は危険というワケでも騎士団に追われているワケでもないわ。


「……寝ましょ」


 しばらく、ここで暮らす事になるかもしれないわね!

 私は簡素なベッドに横になったわ。


 身体の疲れに任せて息を整えていると、あっという間に眠れてしまったわね。


 そうして朝。

 私は予定された時間前に起きた。


 鐘の音が聞こえた気がするわね。

 正確な時刻というより、起床の為の鐘の音かしら。


 私は白と黒の飾り気のない修道服に着替えて食堂へと向かったわ。


 部屋のドアの鍵は掛けられてないわね。

 地下牢みたいなのは雰囲気だけかしら。


「おはようございます」


 食堂に向かうと何人かの修道女が既に集まっていた。

 私は見覚えのある院長に挨拶をしておくわ。


「……おはようございます、シスター・クリスティナ」


 ふふふ。シスター! なんだか新鮮ね!


「昨日来たばかりです。今日は構いませんが、貴方にも朝食の準備をして貰う事になりますよ」

「……分かりました、院長」


 私はお淑やかに頭を下げるわ。

 かなり溶け込めている感じね!


 修道女達は歳をとっている人もいるけど、若い女の子もいるみたい。


 飾り気のほとんどない食堂。

 質素な木の長机。


 座る席は決まってはいないみたい。

 今日は大人しく食事を待っていれば良さそうね。


 やがて運ばれてきたのは小さなパンが2つにお野菜。

 飲み物は……ただの水ね。


 そういえばアルフィナでは、あんまりパンは食べてないわ。

 お肉とお野菜は用意できるようになってきたけど……。


 お肉の調達が手軽に出来るのはアルフィナの良いところよね!


「…………」


 皆、無言で食事を進めたわ。

 私語厳禁っていう感じね。たぶん戒律にもあるんだと思うわ。


 それでも皆がチラチラと私を見ている。


 自己紹介とか、そういうのは院長に任せて良いのかしら。


 夢の中の筈なのに、たしかな意思を持って活動している人々。


 ……この夢は、私個人がすべてを作り出している幻じゃあないのね。


 この建物もそこに住む人々もおそらく現実に存在する……。


 こんな光景を見れるのは天与の力以外にない筈だわ。

 でも、そこに罠を張るって?


 どうやってかしら? 邪教徒は天与に介入する技術を持っている?


「…………」


 私は大人しく食べ終わると周りの人に倣って食器を片付けるわ。


 アルフィナで食べるよりボリュームは少ないけど、まぁ王国の地下牢で何日も過ごした私には平気な量ね。


 処刑を待つ身に食事なんてなかったし。


「シスター・クリスティナ」

「はい。リムレッド院長」

「……礼拝堂に向かいます。そこで朝のお祈りを皆とするように」

「分かりました、院長」


 この夢が現実に沿ったものだとして私が調べるべきは何かしら?

 ここで普通に暮らしていて病死するとしたら……何故?


 医者を呼んで貰えないとか?

 何か重大な秘密があるとか。


 ……どうせ現実じゃないし。

 世界を壊さない範囲で自由に動いてみるべきね!


 まず修道院の施設を大まかに確認してから、普通なら行ってはいけない場所とかあれば強行突入よ!


 怒られたって現実じゃないからね!


 あとは……しばらく様子を見てから病気になったフリをしてみましょう。


 そこで対応を見てみるわ! あとは。


「……暗殺」


 王妃候補になってからもミリシャは私を殺そうとしていた。

 しかも現実でもよ。


 もしかしたら、ここに暗殺者が来るのかも?

 でもアルフィナへの派遣は王命で、王都へ復帰の目処はあったけど。


 修道院行きになっている【悪役令嬢クリスティナ】にまで暗殺の必要性があるかしら?


 ……もしもあるのなら、一体何故?


「んー……」


 とりあえず礼拝堂に行ってお祈りを捧げる。

 食事は朝と夕方だけみたいね。


 お祈りが終わった後は少しの休憩時間。

 それが終われば各自に割り振られた労働時間ね。


 今のところ特に問題はなさそうな修道院だわ。


「…………」


 ルーナ様は私がここで病死すると言ったけど、アマネの予言では私は脱走するんじゃなかったかしら?


「……ずっとここで暮らしていたら嫌に感じるのかしら」


 あまりにも不本意な生活でしょう。

 それに、こうして修道院に追いやられた事自体が言い掛かりだった。


 だから【悪役令嬢クリスティナ】は今も赦してなかったかもしれないわ。


 ……脱走してみようかしら?

 そうね。これは現実の予行演習、偵察みたいなものなんだから……脱走計画ぐらい立てておきましょう!


 そうと決まれば……探検よ! 修道院の中を色々と見て回る事にしましょう!


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