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77 修道院エンド

「んー……」

「ラトビア嬢の手紙には、なんと書いてあったのですか、お嬢?」

「なんか会いたいって書いてあるわね!」

「それだけ長い手紙なのに要約し過ぎでは」


 結論はそういう事だと思うわよ!


「……んー」

「お嬢様? どうかされました?」


 手紙は何枚かに分けて書かれていたわ。


「あら」


 最後の1枚は手紙じゃないわね。


「それは?」

「……マリルクィーナ修道院?」


 何か、修道院について書かれているけど。これは何かしら?

 場所は……アルフィナから離れて……まぁ、馬で3、4日ぐらいかしらね。


「ん……」


 ルーナ様のメッセージも添えられているわ。


『このマリルクィーナ修道院は、アマネ様の予言の中でクリスティナ様が幽閉される予定だった場所です。もう1つの修道院もあるそうですが……。この修道院でクリスティナ様は生涯過ごす事になり、やがて病に倒れる……という話でした。クリスティナ様の予言にもそういった内容が出ているのでしょうか? もしも予言に悪意が含まれているのなら……この場所には何かあるかもしれません』



 うーん? つまり、アレよね。


「……この修道院を一緒に調べましょう、ってお誘いみたい」

「修道院をですか? 何故?」

「ここ、私が未来で死ぬ場所らしいわよ」

「……は!?」


 まだ私の視ていない『エンディング』ね!


「ルーナ様は、アマネにやり返す時は予言に頼らない方がいいって言ってるわ」

「予言にですか?」

「うん。私がアマネにされたみたいに、可能性だけで誰かを罪人にしてしまったり。そもそも予言の内容が『罠』じゃないかって」

「予言が罠……」


 心当たり、ない事もないのよね。


「あの気持ちの悪い『声』の事を言っているのかしら」

「……それもあるかもしれませんが、お嬢」

「なぁに、リン」

「お嬢とアマネは誰が見ても『敵対者』です」

「うん?」


 そうかもしれないわね。


「仮にですが……その敵対する2人が同時に『予言』をしたとします」

「うん」

「2人の意見が割れている内は皆、冷静にその言葉を聞けるかもしれませんが……」


 そうかしら。


「もしも敵対する2人の意見が一致した予言ならば、どうでしょう?」

「どうって?」

「その予言は利害を越えた真の予言に聞こえるのではないでしょうか? これまでは災害に対する予言であったり、誰にとっても困難な事態を防ぐ予言でした。ですが……(まつりごと)に関わる問題においての予言であれば?」

「んー……」


 私が王都を追放されたみたいに、私とアマネが結託して誰かを追いやるとか。

 予言を根拠にした私達は、自信満々にそんな事をするの。


 ……それで、その予言が根も葉もない間違いだったら?

 アマネ共々、私の信用も落ちるわね。

 その事態を狙った誰かが居るかもしれない……って事?



「予言を外した予言者は、嘘つき狼に食べられてしまいました、ね!」


 どうやってそんな事が出来るか、誰が出来るか、という疑問はあるけれど。

 予言で見たからこうに違いない、で行動するのは良くないっていう事は分かったわ!


「ルーナ様は今、どこにいらっしゃるの?」

「はい。今はアルフィナより北西にある領地の浄化を行っている筈です」

「そう。じゃあ、彼女はそこで私や貴方達の帰りを待っているのね」


 ……行けなくもない距離なんだけど。


「今のアルフィナは、私とクインが揃っているから平和なのよね!」


 少なくなってきたけれど大地の傷が開いたりは、まだしているのよ。

 いっそのこと森全部を浄化薔薇で埋めようかと迷っているんだけど。


 流石に体力的に厳しいのよね!

 無差別に薔薇を咲かせて、いざという時に大地の傷が塞げなかったら困るというヤツよ。


 それに調べるのなら……多分、私の場合は『夢』でその修道院を先に見ておいた方がいいのよね。



「……狙った夢って見れるのかしら」


 それが出来たら、そもそもアルフィナの災害についての予言を見たかったんだけど!



 騎士達に視察隊の案内を任せて私は部屋に戻ったわ。


「お嬢様、お休みになられますか?」

「セシリア」

「……視察と言いますが、アルフィナの窮状も理解しているご様子。いくらかの物資を融通してくださるそうですよ」

「そうなの。ありがたく受け取っておかないとね」

「はい」


 セシリアが、いつもするように横になった私の頭を撫でて寝る準備を整えてくれる。


「ん……」


 アルフィナが今、何とかやりくり出来ているのは私の天与があってこそだわ。


 食用薔薇で食料自給を補って。薔薇を操っての作業で労働力を補う。


 それから魔物からの防衛対策もそうね。

 本来だったら、もっとお金や人手が掛かっておかしくない。


 それらを安くこなす事で、アルフィナでも蓄えが出来るようになっている。


「……冬支度が間に合うと良いのだけど」


 マルク達も態度を改め始めているから待遇を考えないといけないわよね。

 ちゃんと屋根付きの家は用意しているけれど……。


 魔物の発生は冬も続くだろうか。

 続けば続いたでお肉の供給だと思えるけれど。


 ……大地の傷を悪戯に塞ぐのも考えた方がいいのよね。

 だって、アルフィナにとって魔物素材は『収入源』だわ。


 それが自然に育ったものではなく、無から現れるなんて。

 倒せる力があるのなら、放っておく方が良いという事になる。



「……狼の毛皮で繕った防寒具。それから穴の開いた屋敷の壁の修復。薪の確保。色々と進めているけれど、ここで私が抜けた時の皆の負担があまりにも大きいわ」


 魔物の発生を速やかに対処できないと誰かが怪我を負うかもしれないし。


「視察もいいけど。陛下には、さっさと私をこの地の領主だと認めて貰いたいわ。既に十分な仕事はこなしていると思うのよね」

「……そうですね。今回の視察でそれを理解していただき、それが陛下の耳に届けば或いは」


 望みはあるわね。

 まぁ、新しい領主が派遣されてくる可能性も高いんだけど!

 それでも私がいなきゃ、このアルフィナはまだ成り立たないわよ。


「……薬草薔薇の研究もようやく始められてる。カイルが楽しそうだわ」

「ええ。……お嬢様のお陰です」


 薬草薔薇の栽培が出来れば、それはアルフィナの特産品になるわ。

 そうすればアルフィナ特有の収入源が確保される事になる。


 領地復興の大きな1歩よね!



「神殿の声や、三女神の巫女という肩書きが勝手に付けられたり。アマネが向こうでどういう扱いなのかは、いまいちピンと来ないけど。どうあったって色んな問題を起こしそうだし。予言まで何かの悪巧みかもしれないなんて」

「……そういう事は可能なのでしょうか」

「分からないわ。でも、あの邪神を呼び出した邪教徒達なら……或いは? ヨナに異世界からの魂を憑依させようとかしてたみたいだし……」


 そもそも、この世界にアマネ・キミツカを呼び込んだのが、あの邪教徒達の可能性があるのよね。


 とすると、そのアマネが見ていた予言書だって邪教徒が用意したものかもしれなくて。


 私が見ている予言は一体何なのかしら?

 異世界の光景や、時間軸の違う運命が視える事だけなら、まだいいわ。


 それが天与だというのだから。

 何もないところから薔薇を咲かせたり出来るのだし。

 どんな事態を引き起こしても不思議じゃないからこその天与だわ。



「……あの予言書が、邪教徒の用意したもので。アマネはそれに洗脳? されてて。じゃあ私が視ているのは、その洗脳内容? 或いは……」


 私の天与がどういうものかを把握した上で、それを逆手に取って攻撃(・・)してきているとか?


 つまり『異世界視』の天与自体は、元からの授かりもので。

 それに介入して私に嘘を教え込んだり……或いは、苦しめる事そのものには別の悪意があるとか。


 それこそがあの【聖女を穢せ】という声の正体?


 私に力を与えたのがイリス神なら、ありえる事だわ。


『これも試練よー』って言って、見て見ぬフリをしているの。


 ……でも、そうなると、あの声が穢そうとしている聖女って……。


 私はルーナ様の手紙をもう一度読み直したわ。


「やっぱり私、ルーナ様に悪感情って湧かないのよねぇ」


 こう、私を【悪役令嬢クリスティナ】に仕立てあげてルーナ様を攻撃させる作戦かと思ったんだけど。


「ねー、セシリアー」

「はい。何でしょう」

「……私って聖女? ふふっ!」

「違いますね」


 答えるのが早いわね!


「お嬢様が聖女だったら、この国は終わりです」

「そこまで言わなくていいじゃない!」


 私だってそんなつもりないけど!

 王妃とか聖女なんて合わないものね!


「ねぇ、セシリア。もし陛下が私にアルフィナを任せてくれるとしたら爵位はいただけるかしら?」

「……どうでしょう。領主を任されるとして、必ずしも爵位持ちになるとは限りませんが……」

「うん」

「……お嬢様の場合は、侯爵の娘ですし。絶縁を願っているとはいえ……。天与を授かった者を蔑ろに出来ないと言うのであれば……ある程度の立場を用意されるのが自然……」


 じゃあ、そうね。


「準男爵ぐらいは賜れるかしら? ふふふ。そうなったら面白いわ!」

「……欲がないですね。お嬢様は」

「そう?」


 マリウスの家から解放されて、自分の爵位を持つのよ?

 それだけで爽快じゃない!


 一代限りでもいいわねー。ふふふ。


 なんて名乗ろうかしら?


 クリスティナ・アルフィナ・リュミエット?

 あ、今のルーナ様達の現状からすると、イリス神の名前も名乗った方がいいのかしら?


 クリスティナ・イリス・アルフィナ・リュミエット準男爵ね!

 ふふふ! ドラゴンと薔薇をあしらった家門の紋様を拵えないとだわ!



「領地が復興できてきたら、エーヴェル領との流通を考えましょうね!」


 山間に沿って森を薙ぎ倒して道を作るのよ。

 薔薇とパンチで木々を押しのけてエーヴェル領への道を切り開くわ!


 そうしたら沢山フィオナと会えるかもしれないわね! ふふふ!


「そう言えば、予言の中にフィオナが出てきた事がないのよね」

「……現実と夢の内容は違うと聞いていましたが、また根本的な部分の違いに聞こえますね。お嬢様のご学友なのでしょう?」

「そうなの。夢の中の私はフィオナとは仲良くないみたい」


 たとえ家族仲が現実のままで、リンディスを失ったとしても。

 レヴァン殿下との婚約が破断になったのだとしても。


 フィオナという友人の記憶があるのなら、それだけで愛が枯渇するなんてことない気もするわ。


 そうすると夢の中の私、【悪役令嬢クリスティナ】は、友人まで奪われているという事よね。


「……たしかに罠に思えてきたわね」


 どうしようかしら? 夢を見る事自体が罠なら……。


「んー……」


 でも夢を見ないと分からない事もあるし……。


「やっぱり見てから決めましょう!」

「……お休みになられますか」

「ええ! 見たい夢を見れるかどうかも試してみるわ! ルーナ様が手紙で内容を示してくれたから……或いは、それを道標にできるかもしれないわね!」


 あ、でも。


『オトメゲム』の内容は、あくまでルーナ様寄りに描かれた運命だわ。

 その中で私が修道院に行ったかどうかは、あんまり関係ないとも言える。


「んー……」


 私がまだ見ていないであろう『エンディング』


 それは……、ルーナ様と、エルトが結ばれるだろうエンディングよ。


「…………」

「……お嬢様? どうしましたか、頬を膨らませて」

「別に。フーンだ」

「……?」


 そう言えばルーナ様ったら、レヴァンやエルトの事は恋愛対象として見れるみたいに書かれていたわね。

 じゃあカイルの事はどうかしら?


 きっと同じように見れるでしょうね。カイルも素敵な男性だもの。


「あ。そう言えばフィリン達が言うにはヨナも関係してたかもしれないのよね。つまり『ヨナのエンディング』もあるのかも」

「……はぁ?」


 じゃあ、まずはそっちを当たりましょう!


「ヨナー、ヨナー、ヨナのエンディングを見せてちょうだいー、アマネー、ヨナの運命を選ぶのよー」

「……その祈り方で夢は見れるんですか?」


 知らないわね!


 とにかく私は夢が見れるように眠る事にしたわ!


良ければブクマ・評価お願いします。

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