75 クリスティナ様へ
──クリスティナ・マリウス・イリス・リュミエット様へ。
お会いした事もあまりない中、突然のお手紙を送る事、お赦しください。
……どこから書けば良いのか。
クリスティナ様が、どれだけの悲しみと苦労を背負われたのか。
私には思い及ぶ事すら出来ません。
同じく天与を授かった女として、もっと貴方と話をさせていただく機会を持つべきだったと今も後悔しております。
王城でお会いした日から、日々を重ねる中で貴方がどのようなお人柄なのかを聞く機会が多くありました。
……アマネ様に助けられた私ですが、クリスティナ様がけっして彼女が指摘するような悪辣な女性ではないのだと、今では信じております。
今、私は王国内の各地の浄化の旅をしています。
いくつかの領地を巡って今はアルフィナ領の近くまで参りました。
そこでクリスティナ様へお願いがあります。
どうか一度会ってお話できないでしょうか?
この手紙は視察隊の方へ託しています。
彼らからも聞く事になるかと思いますが……。
王都では、クリスティナ様と私の他に、3人目の天与を授かった女性が見つかりました。
その方はルフィス公爵家のご令嬢で、ルーディナ・ルフィス・シュレイジア・リュミエット様です。
彼女は光で出来た蝶々……『光翼蝶』の天与を授かりました。
蝶と薔薇、そして光は三女神の象徴ともいえる天与です。
それが認められた瞬間からクリスティナ様への評価も王都では改められる事になりました。
ルフィス公爵家と神殿が率先して、私達3人を『巫女』として丁重に扱うようにと働きかけがあり……。
またアマネ様の予言の信憑性の是非を問う声も日に日に大きくなっています。
このような状況に加えて……クリスティナ様は『予言』の天与まで授かったと聞き及んでいます。
……クリスティナ様。
私の言葉を信じて頂けるかは分かりません。
お会いして話を聞いていただけるかも。
それでも伝えておきます。
予言を過信しないでください。
クリスティナ様が悪女などではないと信じるからこそ申し上げます。
アマネ様の話す予言書の内容は……どこか悪意が混ざっている気がするのです。
……私もヘルゼン子爵領を訪れ、邪教の企みについて知る機会がありました。
これは確たる証拠がある話ではなく、予感でしかありませんが……。
この邪教の企みとアマネ様が異世界より現れた事。
そして、その予言内容は関係があるのではないかと思うのです。
もしもクリスティナ様が見る予言の天与が、アマネ様と同じ内容であった場合。
その内容を元にした考え方や、行動をしてしまえば……それが何か致命的な事態を招く予感がしてなりません。
クリスティナ様とアマネ様が見たという予言書『オトメゲム』の内容そのものが、何かの悪意に満ちているのではないか。
……そう予感しています。
……アマネ様は今、ルフィス公爵家に匿われています。
各地の災害を予言した功績がある中、不信の目を向けられてる現状を考えての配慮だそうです。
クリスティナ様が王都に戻られた時。
予言を元にした働きかけを考えていらっしゃるならば……どうか慎重に。
貴方が悪女でなかったように。
これから先の貴方の言葉もまた、無実の誰かを悪に貶める可能性を秘めています。
そして予言が、もしかしたら貴方への悪意で綴られた物語なのかもしれない事を忘れないでください。
……私が言える言葉ではないかもしれません。
ですが、アマネ様の友人として。
そして、同じ天与を持つ者としてクリスティナ様の為に言います。
どうかアマネ様をお赦しください。
すべてを、とは申しません。
ただ、予言を頼りにした報復をアマネ様にするように貴方に仕向ける事が……クリスティナ様を窮地に陥らせる為の罠なのではないか。
そう考えています。
……アマネ様は、私がルフィス公爵令息であるユリアン公子とさえ恋愛関係に及ぶ可能性を示唆していました。
ですが、私は彼の事を……恐しいと感じました。
アマネ様の言うようにレヴァン王子殿下や、ベルグシュタット卿に対して、私がそのような恋愛感情を持つ事。
それらの可能性には、どこか納得出来る面がありました。
出逢い方が違えば、きっと彼らを想っただろう……と。
ですがユリアン公子に対して、そのような感情を抱えるとは……どうしても思えなかったのです。
そう感じた時、私には……クリスティナ様とアマネ様が見ていたと言う『オトメゲム』という書物が……とても恐ろしいものに思えました。
それは本当に……私の辿る運命を書いた書物なのか。
惹かれる筈のない男性との恋に溺れる『私』とは一体何なのか。
……クリスティナ様。
私は貴方にお会いしたい。
会って話がしたいです。
予言書に『悪役』なのだと、はっきり示された貴方だからこそ……信じるべきではないかと、私は考えています。
──ルーナ・ラトビア・メテリア・リュミエットより。
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