73 浄化
「アンタ! 私の仲間になりなさい!」
「お嬢はドラゴン相手に何言ってるんですか!」
だって綺麗なんだもの、この子!
『キュルア!』
「そうね! 私が勝ったらアンタは私のものだわ!」
『キュルァ!?』
何かこっちの言葉を理解している気がするわね、このドラゴン!
ドラゴンと言ってもそこまで大きくないわ。
その辺に生えている大木よりも背丈は小さい。
白銀の鱗に覆われた身体に、細長い首。
背中にドラゴン特有の翼を持っていて、さっきの恐竜よりも両手は大き目ね。
四足で走れそうだし、二足で立つ事も出来そうだわ。
人が2、3人は乗れそうな背中……。乗ってみたいわ!
「ふふふ……名前は何がいい?」
『キュルア……!』
あ、なんかビクッとしてる! 可愛いわね!
「ドラゴンが驚いてるみたいに見えるけど……」
「可愛いわ! 絶対に仲間にするわよ!」
フフン! たっぷり可愛がってあげるんだから!
私はドラゴンに近寄っていくわ!
「お嬢、危ないですよ! 伝説のドラゴンなら火を噴き出したりとか!」
「そんな事できるの!」
「目を輝かせないでください! 明らかにさっきのキョウリュウとやらよりも強い存在でしょう!」
「なら殴れば倒せるわね! 殺さないように気を付けるわ!」
「違います、そうじゃありません!」
何も違わないわよ!
『キュルゥウアアアア!』
あっ、逃げるわ!
翼をはためかせて飛ぼうとしているわよ!
「逃がさないわよ! 薔薇よ!」
『キュルア!?』
ドラゴンの翼や身体に棘なし薔薇を巻き付ける!
とっても丈夫なタイプよ!
「ふふふ! 殴られたくなかったら大人しく私の仲間になりなさい!」
『キュ、キュルァアア!』
ジタバタともがく姿も中々に可愛いわね!
「……ドラゴンがお姉ちゃんに怯えているみたいに見えるんだけど」
「クリスティナは凄いね……」
「……お嬢」
「ど、ドラゴンが怯えるバケモノ……」
誰がバケモノかしら! マルクは後でぶん殴るわね!
「とうっ!」
「とう!?」
私は、ドラゴンに飛び掛かったわ!
「ふふふふ!」
『キュルウウウアアアア!』
私は背中に飛びついてギューっと抱きついたの!
暴れるドラゴンの背の上で延々としがみつく私。
薔薇の蔓を使って振り落とされないようにするわ!
暴れ馬に乗るみたいで楽しいわね!
乗馬は出来るけど、こんなに暴れる馬には乗った事がないもの!
「楽しいわ!」
『キュルウウァアアアアアアア!』
あと、この子、別に火なんて噴かなそうね!
そうして、しばらくした後。
『キュルゥウウ……』
「大人しくなってきたわね! ふふふ! 良い子だわ!」
暴れ馬は疲れるまで乗っていた者勝ちなのよね!
「リン! この子はアルフィナの新しい仲間よー!」
「ええええ……?」
私は満面の笑顔でリンディスに手を振ったわ!
「……凄いね、お姉ちゃんって」
「そうだね。クリスティナは凄いな」
「ひぃぃ……」
さっそく、この子用の鞍や手綱を作りたいわ! ふふふ! 楽しみが増えたわね!
◇◆◇
「ところで貴方、大地の傷っていうのは分かる?」
『キュルア……?』
「たぶん、貴方が出てきた場所じゃないかしら? 空にヒビ割れみたいなのが出来てるの。瘴気が溜まっていそうなところよ」
『キュア……』
あら。ドラゴンが歩き始めたわ?
「心当たりがあるのね!」
とっても利口な子だわ!
「じゃあ、改めて出発よ! 大地の傷が塞げたら恐竜のお肉を食べさせてあげるわね!」
『キュアア……?』
あら? 恐竜のお肉は嫌いなのかしら?
フフン! この子の好みのご飯を探すのも楽しみだわ!
食用薔薇は食べるかしら?
「ん。皆、何してるの? 行くわよー!」
「行くわよー、じゃないんですが」
「……僕、お姉ちゃんに付いていける人は凄い人だと思うな」
「そうだね」
「とんでもねぇ女に連れてこられちまった……」
ふふふ。ドラゴンの背に乗っているわよ、私!
フィオナに話したらなんて言うかしら! 驚くでしょうね!
「貴方、私を乗せて飛べるの?」
『キュルゥアア……』
「飛べそうね! いいえ、飛びなさい!」
『キュルア!?』
ふふふ! 空が飛べたら楽しいわね!
そうだわ、それに空が飛べたら、それこそエーヴェル領にいるフィオナの所へ遊びに行けるかもしれないわ!
「ふふふふふ!」
でも、その前にこの子と仲良くならないといけないわよね!
ご飯を食べさせて、好みを知って、鱗の手入れもしてあげたいわ!
『キュルァアア!』
「あっ! アレだわ! リン! カイル! ヨナ! あれがきっと大地の傷よ!」
「……あれが!」
森の開けた空間。
そこの木々が不自然に枯れていたり、折れていたりしている。
私は、ドラゴンの背を降りて両手を祈るように合わせたわ。
「すぅぅ……」
そして目を閉じて意識を集中する。
薔薇の【天与】は、おそらく私の感情に左右されて性質を変えるの。
憎悪に塗れた感情で咲かせれば黒い薔薇となり、魔物を呼び込む傷を作る。
代わりに……きっと愛情を込めて咲かせれば、浄化の薔薇になるわ。
……この現実にはリンディスは生きている。
地の果てではないけれど、流刑地とまで言われておかしくない、このアルフィナまでついて来てくれた。
ヨナやフィリン達は、暗い運命から抜け出して今は笑っている。
カイルやセシリアは、暗殺者の家系から抜け出し、生き方に胸を張ってくれるようになった。
……私の大切な人達は、ここにいるわ。
そして、このアルフィナの魔物災害を防げたなら。
隣領にいる親友フィオナもきっと喜んでくれるだろう。
私が大切な人達を思い浮かべる程に私の身体を光が包み始める。
セレスティアお母様。私に似ているという本当の母親がいたのだと初めて知った。
……きっと本当のお母様なら私を愛してくれたでしょう。
それから……私は、金色の髪と翡翠色の瞳をした騎士の姿を思い浮かべて。
「──浄化の薔薇よ! 咲き誇りなさい!」
辺り一面を埋め尽くすような……光り輝く黄金の薔薇が咲き乱れた。
「……これは」
「わぁ! 綺麗だね!」
「クリスティナ……」
瘴気を噴き出していた空間の亀裂、大地の傷は癒され、消えていったわ。
「……成功よ!」
光を放つ浄化の黄金薔薇。その光のお陰か、なんだか森の雰囲気が柔らかくなった気がするわ!
「フフン! リン! 誉めなさい!」
これは褒められていいところよね!
「…………お見事です、お嬢。貴方は、素晴らしい人だ」
「──フフン!」
私は満面の笑顔で胸を張ったわよ!
これでアルフィナの魔物災害は……終わったかもしれないわね!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
良ければブクマ・評価お願いします。
まだまだ続きます!




