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72 大いなる鱗を持つもの

『魔物の森』に出てくる魔物は様々な種類がいる。

 狼だったり、カエルだったり、熊だったり。


 どこかで見た事もあるような魔物の強く大きくなった姿。

 前に倒した『邪神』のようなパターンは滅多にないわ。


 だからソレ(・・)を見たのは初めてだった。



『グルゥゥウアアアアア!』


 ビリビリと空気を震わせる鳴き声。

 大木そのもののような体躯に尻尾。

 短い手に筋肉質な太い両足。

 そして全身を覆う固そうな鱗……。


「大きな……トカゲ!?」

「違うわ。アレは」


 私の脳裏にはソレの名前が浮かぶ。

 予言のどこかで見た知識。


 正しくは個体の名前じゃなく種族の名前と言うべきか。



「──恐竜(・・)よ」


 森を進み、一際(ひときわ)に瘴気が濃い場所を選んで進軍した結果、その怪物に出くわしたの。


「薔薇の壁!」


 私は壁を作るけど……。


『グルゥアアア!』


 丈夫な筈の蔓の束をブチブチと引き千切りながら突進してくる恐竜。

 私は、その恐竜を──



◇◆◇



 ──恐竜と遭遇する半日前。



「マルク! 石を持ちなさい!」

「はぁ……はぁ……てめっ」

「文句あるの?」


 ギロッと私は歩兵のマルクを睨みつけたわ。


「ぐぅ」


 とりあえず拾っておいた手頃な石つぶてを袋に入れてマルクに持たせているわ。

 もちろん一人で持ってたら疲れるから歩兵で交代しながらよ!


 歩兵の何人かはそうして荷物を持って付いてこさせているわね。


「石ころとか……何に使うんだっての……」

「きたわよ!」

「ぁあ!?」


 角付き狼の群れ! もう定番ね!


「──フンッ!」


 私は受け取った石を『怪力』の光で包み、思い切り投げ付けたわ!


『ギャンッ!』


 石の当たった狼が1匹ぶっ飛んでいったわよ!

 まだまだ遠い距離だけど、ばっちりね!


「なっ……」

「お見事です、お嬢様」

「腕を上げられましたね!」

「さすがは卿が見込まれた女性だ!」

「フフン!」


 エルトの騎士達3人は素直に私を誉めてくれるから良い人達よ!


「……お嬢は、またすぐ調子に乗って」

「クリスティナは可愛いなぁ、はは」


 リンディスは相変わらずちゃんと褒めないわね! 照れてるのかしら!


「お姉ちゃん、倒れた狼は拾っていく?」

「そうね! 皆の夕食にでもしましょう!」


 でもその前に。


「薔薇の壁! リンディス!」

「ええ!」


 私は棘薔薇の壁を築き上げ、リンディスは幻覚を見せて狼をその壁に突進させる。


『ギャゥ!』

『ォッ……』


 フフン! 私とリンディスが協力したら、こういう小型(・・)の魔物の群れは一網打尽なんだから!


「大漁だわ! でも運び切れないわね!」

「そうですね。しかし、あれだけ倒してきたにも関わらず、この数の襲撃がまだあるとは」


 そう。角付き狼は際限がないくらいに出てくるのよね。

 いくら、こっちから打って出る機会が少なかったとはいえ、数が多過ぎると思うわ!


「自然の成り行きなのか否かですが」

「私達には分からないわね!


 だから悩んでも無駄ね! 私達は彼らの命を糧にして生きていくのよ!


「フフン!」

「…………」


 私はマルクを馬上から見下ろしたわ。


「ひっ……」

「マルク。今みたいに私が投げる石を渡しなさい。遠くに魔物が居る時は、薔薇で攻撃するより、こっちの方が手応えがいいの」

「お、は、はい」


 少しは従順になってきたわね!



 それから何匹かの魔物の群れを相手したわ。

 今日は倒した魔物の数で引き上げたりせず、進軍する事を優先する。


『大地の傷』らしきものの形が掴めたから、早い内に魔物問題を片付けて畑の管理に集中したいのよね!


「リン。ここで魔物問題が早期解決したら、私の手柄なのかしら?」

「と言いますと」

「特に災害は起こりませんでした、じゃあ陛下は手柄だなんて認めないかもしれないわよね」

「…………理不尽な話ですが、そうかもしれません」


 やっぱりそうよね。


「地方に飛ばされて忘れられる領主、なんてお話だけと思ってたけど。もしかしたら私もそうなるかもしれないわね」

「お嬢……」

「その場合は、ちゃんと私に領地の経営が任された事を認めてからにして欲しいわね!」


 いい加減この曖昧な立場からは抜け出したいものだわ!


「王都に戻りたいとは思われませんか?」

「んー……。ロクな夢の内容じゃないんだけど。『王都にいる』っていう感覚なら何度も味わってるのよねぇ、私。学園もそうだし。だから特別に恋しいと思わないの」


 マリウス家は帰ってもロクな事にならないしね!


「そうですか……」

「皆が居るなら私、このアルフィナで暮らしていいわよ!」


 その方がよっぽど楽しいものね!


「……いつまでもお支えしますよ」

「フフン! 当然ね!」


 時折、休憩を挟みつつも瘴気を色濃く感じる方へと森を進んでいく。


 魔物の襲撃は、だいたい私とリンディスの協力で蹴散らしたり。

 大きめの個体が出てきても薔薇で足を取り、騎士達が連携してトドメを刺すわ。


 ヨナの火魔術は基本的には温存ね。

 カイルも騎士達との連携が出来てきている。


 カイルと騎士達3人は槍が主武装よ!

 リンディスとヨナは騎馬魔術師ね!


「……なぁ、お嬢様」

「なによ」

「これ、俺ら必要か……?」

「うん?」


 何がかしら。


「ただ歩いて付いてきてるだけで、アンタらが全部倒していくじゃねぇか」

「なぁに。役に立ちたいの?」


 私に媚を売りたいのかしら。


「ハンターやってた連中が大半だ。魔物退治なんざ俺らでも出来る。騎士様に任せなくてもな!」

「ふぅん」


 魔物に怯えてないのは良いことね!


「血の気が多いのは嫌いじゃないけど。今のアンタ達の役目は荷物持ちに近いわ。アンタ達が荷物を持っているお陰で騎士達が身軽に立ち回れるの。十分に役に立っているわよ」


 こういう一見は地味な役割をバカにしてはいけないわよね!


「道も整ってない森だから全員が馬っていうのも邪魔だし、歩兵は要るわ。今の私達はチームで行動中よ。個人のハンターとしての活躍がしたいなら、また次の機会にしなさい。この森なら、まだまだ活躍する機会はあるわ!」


 野盗達の心を掌握したワケではないから、何かしらの現状打破を考えてるでしょうけど。


 反省したと判断が出来なくちゃ解放はしないわよ!



「フンフーン!」


 私達の快進撃は続いたわ。

 けっこう森の深くまで進めたと思う。


 そろそろ日も沈みかけの頃。


 そこで私達はソレにあったの。



『グルゥゥゥァアア!!』


 空気を揺らがせる咆哮! 恐竜との遭遇よ!


「きょ、恐竜とは!? これはまるで伝説のドラゴン……!」


 ドラゴン? 馴染みがあるような、ないような不思議な感じ! でも。


「違うわ! 恐竜よ! 翼がないじゃない!」


 薔薇の蔓で編んだ壁をぶち破って突進してくるパワー!

 馬じゃ()が悪いわね!


「薔薇の壁を突き破れるみたいだけど!」


 なら片足だけ(・・・・)を引っ掛けてあげるわ!


『グルゥゥゥァアア!』

「薔薇よ!」


 突進の勢いを利用して、その巨体を転ばせる。

 辺りにある木々は予め倒されていたみたいね!


 ズシィイイン……! と地響きを立てて倒れる恐竜!


「……パワーのあるタイプに薔薇戦法は不利ね!」

「お姉ちゃん!」


 ヨナが代わりに前に出て火魔術を放つわ!


「肌を焼いても即・致命傷には至らなそうですね……!」

「全員まとまって後退! バラバラになったら私が守れないから固まって引きなさい!」


 ハンター経験があると言っても流石に相手が悪いと判断したのか、野盗達も大人しく引いていくわ。


「──浄化(じょうか)薔薇(ばら)(やり)!」


 光を放つ薔薇の槍で恐竜を刺す!

 ……硬い鱗に弾かれて通らないみたい!


「憎しみパワーが足りてないのかしら!?」

「何を言ってるんですか!?」

 

 夢の中では騎士の鎧すら貫く薔薇槍だったんだけど!

 その代わり、愛情パワーが大事っぽい浄化の光はちゃんと使えるのよね!


「落とし穴に落とすのが無難かしらね!」

「あの巨体なら上手く嵌りそうですね!」


 でも森深くまで進んだから落とし穴までは遠いわ!


 そうこうしている内に恐竜が起き上がってしまう。


「……仕方ないわね!」

「! お嬢、まさか」

「はぁっ!」


 私は薔薇の鞭を伸ばして大木の枝を掴み、馬から飛び降りるわ!


「お嬢!?」


 そして薔薇の鞭の収縮をコントロールして勢いを付け、恐竜に飛び掛かる!


『グルゥゥゥァアア!』


 起き上がる前の恐竜が口を開いて噛みつこうとするのを薔薇で無理矢理に閉じる。

 そして、その横っ面をぶん殴るわよ!


「──フンッ!!」


 光の右拳を思いっきり!


『グルゥアッ!?』


 ドゴッ! という鈍い感触! 流石に硬過ぎる相手なのか、いつもは平気な私の拳が痛んだわ!


「!?」

「!?」

「お嬢!?」

「はっ!?」

「いや流石にそれはどうかと!」


 でも気にしてられないわ!


 殴って! 殴って! 殴って!


「口の中から咲きなさい、薔薇よ!」

『グルヴゥゥ!?』


 殴って! 殴って! 殴り続けるわ!


 魔物でも『邪神』みたいにウネウネ・ニュルニュルしてないから殴りがいがあるわね!


「フンッ! フンッ! はぁあああッ!」


 殴って! 殴って! ぶん殴るわよッ!


「──フンッ!!」

『ギャブッ、』


 最後に思い切り振りかぶって私は渾身の拳を叩き込んであげたわよ!


「勝ったわーー!」


 私の勝利だと思うわよ!

 恐竜でも殴れる相手なら倒せるのね!

 可愛いものね!


「ええええ……」

「あはは……」

「ひ、ひぃいい……」

「ば、バケモノ……」


 恐竜はバケモノっていうほどの見た目じゃないと思うわ! 可愛いトカゲみたいなモノよね!


「食べたら美味しいかしら、恐竜」

「ひぃぃ……」


 ふふふ。ご馳走様ね!

 大地の傷目当てで来たけど、もうこの戦利品を持って帰ろうかしら!


 あと自信たっぷりだった野盗達が怯えて、こっちを見ているわね!

 恐竜にそれだけビックリしたのかしら?


「……!? クリスティナ、待った! 向こうから気配が!」

「!」


 私も何か感じたわ!

 殺気? ううん、もっと何か凄まじい。



『──キュルゥアア!』


 恐竜が木々を薙ぎ倒して出来た広い空間。


 そこに……銀色の翼を持った何かが降り立って……。



「ど、」


 アレは。


「ドラ……ゴン……」


 そう、そこには。


 白銀の鱗に包まれた、翼と鱗、牙と尻尾を持つ伝説の魔物。

 ドラゴンが舞い降りていた。


「────」


 綺麗。


 私はそう思ったわ。



「……リンディス」

「お嬢! 流石にアレはダメです! 撤退を!」

「あれ……」


 私は目をキラキラと輝かせた。


「私、アレ欲しいわ!」

「はぁ!?」

『キュルア!?』


 私はその白銀の竜を手に入れると決めたわよ!



ハイファンタジーと言えば!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「アレ欲しいわ!」 じゃねぇんだわwww
[良い点] 夢の中のお嬢が辛すぎるから、ぶん殴ってるお嬢をみると心がほんわかする
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