70 エンディングリスト
「ふぅ……」
私はベッドだけはちゃんと綺麗にされた部屋に入り、1人で横になる。
「んー……!」
意味もなく手足をジタバタと動かしてもがいた。
「気持ち悪いわ!」
何度も首を落とされる体験! なんでこんな事をしなくちゃいけないのかしら!
そうだわ。ちゃんと見た予言をまとめなきゃいけないわね。
アマネ程の予言の知識は得ていなくても苦労して知った事なのだから、ちゃんと覚えていられるようにしなくちゃいけないわ。
私は、紙に予言で見た内容を書き留めていく。
異世界の予言書『オトメゲム』の内容。
アマネの私生活? から拾った単語は別にまとめて、と。
あの予言書は、ルーナ様を中心とした演劇のように運命の分岐を示している。
私が知らなかった事実を見る事もあるわ。
セレスティアお母様の事とかね。
でも、どこまでが現実に合うものとして信用していいのか曖昧な部分があるの。
ルーナ様はアマネに操られて行動し、その時々でいくつかの選択を迫られる。
そうして運命が分岐するわ。
現実のアマネもルーナ様を操ろうとしているのかしら?
【天与】を持つルーナ様を自在に操って何を企めるのか。
既に『予言の聖女』として名を知らしめているアマネ。
いまいち、その目的が分からないわね。
悪意があって私を王都追放したつもりはないらしいわ。
ただし、それが善意であってもなくても、どんな事情があろうと。
彼女は私と敵対する道を選んだ。
その事には変わりない。
だからもし私が王都に戻る日が来たのなら、落とし前は付けないといけないわね。
「その為にもアマネが分かっている事は、私も分かっておきたいんだけど」
これが中々に難しいのよね!
ひとまず分かりやすいまとめ方として『エンディング』という指針があるわ。
いくつもの運命の終着点。
ルーナ様が幸せになって終わる運命はいくつもあるみたいだけれど。
『私』の運命は、ほぼ悲惨なものらしいわ。
私が見た『エンディング』は、これぐらい。
エンディングA:すべてかゼロか All or Zero.
エンディングB:足もとに注意! Be careful of your feet!
エンディングE:悪女の処刑 Execution of a villain.
エンディングF:友情と恋と Friendship and love.
エンディングG:薔薇城のお墓 Grave of rose castle.
エンディングH:彼はもうただの人 He's just a person.
エンディングI:貴方を愛している I love you.
エンディングK:王と王妃 King and queen.
エンディングL:側妃が見ている Looking at the concubine.
エンディングP:王子様のキス Prince's kiss.
エンディングR:逆ハーレム? Reverse harem?
エンディングT:ここに獅子はいない There is no lion here.
エンディングW:誰にも会えずに Without meeting anyone.
エンディングZ:ゼロかすべてか Zero or All.
「んー……」
何かね。
『本当に言ってるの?』って言いたくなる運命もあるのよ。
例の『体験』はしてないんだけどね。
たとえば『エンディングB:足もとに注意! Be careful of your feet!』という運命。
……これね。ルーナ様が黄色い果物の皮に滑って転んでしまうの。
学園には異国から『バナナ』という果物が仕入れられる事になるの。
これだけでも意味が分からないのだけれど、その果物の皮がよく滑るらしいのよ。
それで学園の中でいくつも転倒事件が起こってしまって……って。
私もそうだし、アマネも首を傾げていたわよ。
アマネが言うには『クソエンド』らしいわね! ちょっと気持ちが分かるわ!
『BってバナナのBかい!』とも叫んでいたわね!
あとは、すべてがお芝居だった……っていうエンディングもあるの。
それが『エンディングA:すべてかゼロか All or Zero.』っていう運命ね。
悪役令嬢だと私は言われるんだけど、それは本当は全部、学園のお芝居で……最後はルーナ様と手を取り合って終わるのよ。
こうだったらいいなぁ、とは思うわね!
「これって、やっぱり現実の未来を示している予言書じゃあないんじゃないかしら?」
ルーナ様が恋に多忙な女なのも気になるわね。
なんだか運命によって言っている事が……その。都合良過ぎるっていうか。
カイルと恋仲になるのは、
『エンディングH:彼はもうただの人 He's just a person.』ね。
レヴァンと恋仲になる運命はいくつかあって。
『エンディングK:王と王妃 King and queen.』
『エンディングP:王子様のキス Prince's kiss.』
『エンディングI:貴方を愛している I love you.』
……その時々で、彼らの心に響くような声掛けをするルーナ様。
いくつも見ていると、なんだか胡散臭く見えてしまうの。
だって、カイルとくっついたり、レヴァンとくっついたりするし。
運命の相手って感じじゃないのは分かっているのに、そんな風に言い合ったりもするし。
エルトにフラれてしまう、
『エンディングT:ここに獅子はいない There is no lion here.』なんていうパターンもあるわ。
「ルーナ様って、なんだかイメージと違うわね……。でも、これもやっぱり現実のルーナ様とは違うのかしら……」
私、ルーナ様とそこまで会話してないものね。
この『オトメゲム』の印象に頼ってしまったら、私もアマネと同じ轍を踏む事になるわ。
「……ここまで見て来たのに1つもアルフィナの災害については出て来ないわ」
何かが間違っているのかしら?
段々と魔物の数も増えてきているし、はやくちゃんとした情報が欲しいんだけど。
ただアマネの災害予言については何となく分かってきたわ。
見落としそうになるものも多いけど、どこの領地で災害が起きたっていう話が、散らばっていたりするの。
「ああいうのを聞き逃したらいけないのね……」
困った予言書だと思うわ。
もしかしたら既にアルフィナの災害についても話していて、私はそれを聞き逃しただけかもしれない。
「はぁ……」
とりあえず1番厳しかったのが私が処刑される運命よね。
ルーナ様がレヴァンやカイル達と上手く関係を結べると、自動的に私は処刑される可能性が高い。
特にレヴァンとくっつく時が危ないわね。
「んー……」
アマネは、あとなんて言ってたんだっけ。
そうだわ。修道院に入ってもダメだとか。
あとは国外追放よね。
ルーナ様の恋路が上手くいくと処刑される私だけど、処刑じゃなく追放処分を受けるとしたら……その理由は?
「……エルトが処刑から庇ってくれるのかしら?」
その可能性は高いわよね。地下牢に囚われている時、彼がいつも来てくれるもの。
だから、あの調子なら……ルーナ様の傍にエルトが居る時は、処刑を免れるのかもしれない。
「……、……、……そうね」
エルトがルーナ様と結ばれる運命はまだ見ていないわ。
その光景だって見なくちゃいけないのよね?
ただ、思うことはあって。
「──なんだかイヤだわ、それは」
私は、ベッドに入る。
あの夢の地下牢でいつもそうしていたように横になって、天井を見上げて。
モヤモヤとした気持ちのまま、また休むことにした。
いつも読んでいただきありがとうございます。




