69 三女神と大地の傷
「うぅぅぅう……!!」
「お嬢!」
私は跳ね起きる。
「はぁっ、はぁっ……!」
「お嬢、顔色が……それに凄い汗ですよ」
「リン」
私は首元に手を添える。何度も繰り返される首を落とされる感覚。
なんでこんなに現実的な夢なのかしら!
アマネなんて映像をただ見ているだけじゃない。私は体験よ!
「気持ち悪いわ、リン」
「また夢を見ていたのですか? ですからやめた方がいいと」
「そこまで制御できないんだもの」
うー! ジタバタともがく。気持ち悪いわね!
「はぁ……」
力を使いこなせれば心臓を刺されても死ななくなるのかしら。
でも、そんなの試したくないわね! もしもの時だけ思い出しておきましょう。
死んではいなかったけど、ロクに身体が動かせなくなっていたし。
「アレだけ頑張って何度も処刑されたのにアルフィナの情報がまったく出て来ないわ」
「頑張って何度も処刑されたって……」
リンに身体を支えられて背中をさすられる。
今にも吐きそうな気分だもの。
「お嬢の【天与】は一体何なのでしょうか。この窮地に追いやったアマネの予言に対抗する力なのかもしれませんが……」
アマネの世界に生き、予言を体感する【天与】
……何なのかしらね、これは。
「夢の中でエルトは、私の薔薇が『イリスの天与』だって言ってたけど」
「イリス神の……、まぁ、たしかにそのようなものかもしれませんが」
剣と薔薇、法の正義と愛の戦女神イリス。試練を課す神。
力と美を授ける女神……。
「この夢は『イリスの試練』かしら。それともアルフィナで起こる魔物災害こそが試練なのかしら」
「……どうでしょうね」
リュミエール王国で敬われている三女神。
イリス、メテリア、シュレイジア。
メテリア神は、安寧と豊穣、慈愛と救済をもたらす光の女神。
騎士達が戦から無事に帰ってくるよう祈り続け、守りの加護を与えてくれる神。
シュレイジア神は、死と再生の女神。
あらゆる生命の誕生を祝福しつつも、生命の死を静かに受け入れる神。
そしてかの神は、裸の姿で『蝶』を纏っている。
その蝶は肉食でもあるらしく、死んだ生き物の身体を食べ、光となってその魂を天へと導くとも言われている。
「……蝶々」
「はい?」
何度も見かけたあの青白い蝶々は、シュレイジア神の何かを示しているのかしら。
普段の『私』に帰ってきて思い返せば、あの蝶々も魔物を産んでいた気がする。
「……リン」
「はい」
「魔物が溢れて来るっていう『大地の傷』がどういうものか、私は見た気がするわ」
「本当ですか?」
「うん。空に……『空間』そのものにヒビが入ったようなものなの。その亀裂の向こうは闇が広がっているような」
私の薔薇か、或いはあの蝶々によって、その亀裂ができたような気がする。
「つまり、あの大地の傷を見つけて薔薇で浄化してしまえば」
「……アルフィナの魔物災害は止められる?」
「そうよ!」
分かったわ! これを伝えたかったのね、私の【天与】は!
じゃあ、アルフィナでの戦いには『終わり』があるわね!
「帰ったら、色々と考えなきゃいけない事がたくさんあるわね!」
私は気持ちを切り替えたわ!
アルフィナに帰り、皆と合流する。
そして野盗達10人と、カイルの師匠のナナシを皆に披露する。
「戦利品よ!」
「せ、戦利品ですか……?」
「フフン!」
私は胸を張ったわ!
「私が倒して来たんだから戦利品ね! ナナシは別よ!」
「蛮族の理論ですねー……」
「とりあえずナナシ以外は個別の部屋に入れて尋問してちょうだい!」
「尋問ですか?」
「家がどこか家族構成がどうなっているか、どこの誰かを吐かせてまとめてちょうだい。……本当に家に家族を残しているって言うんなら、裏を取って確認してから考えてあげるわ! その代わり虚偽報告だと分かったら今度こそ殺すわよ!」
私は薔薇を咲かせて殺気を放ったわ!
「ひ、ひぃ……!」
「……尋問は任せていいわね! 色々と確認が終わったら……アルフィナで働いて貰うわ!」
色々と仕事が山積みなのよね!
それに『大地の傷』がどんなものか予想できるようになったから……魔物災害の対策に積極的に乗り出せるわね!




