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66 汎用バッドエンド

「身ぐるみを剥がすわよ!」

「……ええ?」

「暗殺者ってたくさん服の中に細かい剣を持ってるのよね! 安全の為に奪っておくわ!」

「へ、偏見では?」


 え、違うの?


「……まぁ一理はあるかな?」

「そうよね! カイルもこう言っているわ!」

「バートン卿やセシリアさんが、そんな暗器を使っているところ見た事ないんですけどね」

「……暗殺にも色々と手段がございますので」

「フフン!」


 じゃあ間違ってないわね!


「完全な無力化をして、捕まえて……どうする?」

「そうね。ヨナを捕まえていた連中と一緒に……」


 警備隊に付き出したら揉めそうね。

 こっちの被害は……最終的に無いわ!

 みんな無事だものね!


「捨て置くワケにはいかないでしょう。その、バートン卿」

「…………ここで殺しておくべきだろうね」


 カイルが冷たい目をして言い放つ。

 その目は……ああ、『夢の中』で見たカイルの目ね。


「ダメよ!」

「え……?」

「私を殺してカイルがああなるんだったら師匠を殺したって同じでしょう! だから赦さないわ!」


 何よりも、この師匠の『狙い』を私は知っているのよね!


「……この男は、カイルに殺されるつもりなのよ!」

「え?」

「えっ……」

「私を殺した後のカイルの前に現れて、わざと殺し合いになるよう仕向けて貴方に殺される気よ! それで暗殺者として完成だからってことらしいわ!」


 そこにルーナ様が居た上でカイルとの絆が深いなら、彼は暗殺者の闇に堕ちたりしないみたいだけど。


 ルーナ様はここには居ないからね!

 私がカイルを支えてあげなきゃいけないわ!


「だから、こいつも殺さないし! ……ついでにマルク達も殺せないわね!」


 じゃあ、どうしようかしら!

 あんな事をする連中だもの。警備隊に突き出して、どんな罪があるかないかの問答をして、証拠があるだのないだので……そこまで私達は付き合っていられないから……。


 もしかしたら、そのまま無罪放免になってしまうかもしれないわ。

 そうしたら私とヨナにしたみたいな事をまた誰かにするかもしれない。

 あそこで殺してしまうのが正しい……。

 監視があれば……。


 そうね!


「──流刑(・・)に処すわよ!」


 これだわ!


「る、流刑……?」

「そうよ! こいつも連中も……アルフィナ領へ流刑よ! その後は騎士達の指導で労役ね! 畑を耕させるのも良いわ!」


 なんていったって、アルフィナは『見捨てられた領地』なんだから!

 領民もいない、田畑は荒れている、お金もない、領主もいない、魔物が蔓延る最果ての地よ!


「フフン! 労働力だわ!」

「あー……、まぁ、はい。上手くいけば……でしょうかね?」

「さっそく準備をしてちょうだい! 安全は確保してね!」


 私達は、男の身ぐるみを剥いで武器が無いかの確認をしつつ、馬車の準備をしたの。

 それから、またマルク達が居る場所へ向かうわ。

 今度はそのままアルフィナへ帰る予定ね!


「……むぐ」

「起きたわね! また殴る?」

「いや、いいよ。クリスティナ。口の中まで調べたからね。何も出来ない筈だ」


 リンディスとカイルで厳重に警戒しながらカイルの師匠を見ているわ。

 馬を引いているのはセシリアよ。


「……師匠。貴方の処分は『流刑』に決まりましたよ」

「むが……?」

「そうよ! アンタはこれからアルフィナに流刑だわ! フフン!」


 私は胸を張ったわ!


「むご、ぐ……」

「……話ならばアルフィナに着いてからで良いでしょう。今日は、まだすべての問題が片付いていませんので」

「じゃあ殴る? 殴って気絶させておく?」

「……お嬢は、もはや殴りたいだけの人になってませんか?」


 そんなことないと思うわ!


「ところで、こいつの名前って何なの?」

「……名前は知らないね。クリスティナこそ知らないのかい?」

「ずっと師匠としか呼ばれてないわね!」

「……私も聞いた事がありませんね」


 カイルもセシリアも知らないの?


「暗殺者のプロ、という事ですし。そもそも名前が無いのかもしれませんよ」


 そんな事もあるのね!


「じゃあ、アンタは『ナナシ』ね! アルフィナで真面目に仕事をしたら、皆で素敵な名前を考えてあげるわよ!」

「むぐぅ!」

「……今のは私の予測なだけで、普通に名前はあるかもしれないのですが」

「名乗らないのが悪いのよ! フフン!」

「むぅぐう!」


 ジタバタとうるさいわね! やっぱり殴っておこうかしら!



 そうして準備を終えた私達は馬車と荷車を引いて、マルク達の所へ戻って来たわ。

 私を襲おうとしていた連中は全部で10人も居た。


 そろそろ何人かは気が付いてる頃ね。


「……大人しく待っていたわね!」

「ひぃっ!?」


 丈夫な薔薇の蔓で檻を作ってたけど、特に逃げてはいないわね!


「あんた達はアルフィナへ流刑に処すわ!」

「は……?」

「え?」

「警備隊に突き出して、ああだこうだとごねられて釈放……なんてなったら困るからね! だからアンタ達はアルフィナへ連行するわ!」


 私は10人の男達に宣言したわ!


「そ、そんな……」

「何? 不満があるとでも言うの?」


 悪女の殺気を放つわよ!


「ひぃ……!?」

「あ、あの、い、家が……ですね」

「…………子供に刃を突き付けて女を襲おうとした連中が、まさか『家に帰れば妻や子供が待っているんです』なんて言わないわよね?」

「うっ……その」

「もし居たとしてもハッキリ言ってあげるわ! いない方がマシな親もいるわよ!」


 私は男達を睨み付けながら宣言したわ!


「私やヨナを売り飛ばしてお金が欲しいだけって襲うなら、まだ赦したわ。それなら、お金に困っていただけでしょう。妻子を養うお金がなかったんでしょう。……でもアンタ達がそんな言い訳できると思う?」

「う、あぅ……」


 だから害悪だって言ってるのよね!


「仮に妻子が居るのなら……アンタ達は死んだと思われた方が、その人達にとって幸せよ!」

「ひ、ひでぇ……」

「なんて事言いやがるんだ……いないけど……」


 どこが酷いのかしら! 反省が足りないわね!


「フンッ!」

「ふげぴっ!」


 バギィ! と。とりあえず殴っておくわ!


「アンタらの性根をアルフィナで叩き直してあげるわ! 途中で魔物に殺された時は諦めなさい! そういう運命よ! 死んだら死んだで、その時はその時! 分かったわね!?」

「ひ、ひぃ……」


 とりあえず労働力を11人分、確保ね!

 以前よりは食料事情も改善してきているし、このぐらいならまだ大丈夫だと思うわ!



◇◆◇



「罪人の連行ですか……。しかし、アルフィナを流刑地にするつもりは無いのですが」

「他所から見たら流刑地でしょう?」

「まぁ、不名誉ですけどね」

「アンタ達、感謝する事ね! 王都の地下牢や処刑台なんて、こんなものじゃないんだから! フフン!」

「…………地下牢、処刑台?」


 あ。まずいわ。


「……お嬢? まるで見て来た……いえ、体験した(・・・・)かのような」

「…………ちょっとねー。なんていうか『多い』のよね」

「多い、とは?」

「アマネ越しに見ている『オトメゲム』の追体験」

「何が多いのでしょうか」

「…………んー……」


 リンディスを心配させちゃうと思うんだけど。

 でも、ずっと黙っているのもどうかと思うし。


「私が処刑される『エンディング』 かなりの頻度でそうなるみたいね。あのアマネですら困ってるみたい」

「処刑……? お嬢、それは」

「んー。気を抜くと、そっちに引っ張られちゃうの。何かアルフィナの事を知れるかもって思って見ているんだけど、だいたい同じ内容なのよね!」


 流石に憂鬱な気分になるのよね!


「ちょ……何を言ってるんですか? そんな夢、見るのは今すぐやめてくださいよ!」

「仕方ないじゃないの! アルフィナに魔物災害が起きる予言が全然見れないんだから!」


 ルーナ様の行動次第で、あっという間に予言の内容は途切れる。

 そして、その分岐先の多くの終着点で私は処刑されてしまうのよね。


 リュミエール王国に及ぶ被害は、その時によって違うんだけど……。

 私が暴れたところで結局、最後には処刑台に送られるのよ。


 マリウス家を虐殺した私は、あちこちで薔薇を咲かせて魔物を呼び出す。

 そしてルーナ様を中心とした騎士達と対決する事になって。


 色々と些細な違いはあれど、結末は同じ。


 既に貴族でなくなった私は、王都にある平民を入れるものと同じ地下牢へと入れられ、処刑の日を待つ事になる。


 ……その体験が凄く現実的なのよね。


 処刑台の私を見ているのはレヴァン殿下と……王妃になったミリシャ。


 ルーナ様は色々な人と恋をする運命みたいなんだけど。

 そんな運命の中でレヴァンとさえ『仲良くなれなかった』場合は、ああしてミリシャが王妃の役目を担うの。

 その時のルーナ様は、あんまり私と関わらないわ。


 そして私は、その夢の中で首を──



「うっ……」


 クラクラする。【天与】を乱発し過ぎたのと、最悪で現実的な光景を思い出したせいね。


「リンディス、ちょっと私、休むわね」

「……は、はい。お嬢。……いいですか? 夢を見ては行けませんよ。そんな顔色の悪い状態で」

「うん……でも」


 予言の【天与】って完璧なコントロールは、まだ出来てないのよね。


 だから。


 ……私の意識は、また(・・)最悪な夢に引き込まれたわ。


 流血と散る肉片。時折、私の前に舞う青白い光の蝶々に導かれて歩いて。

 レヴァンやルーナ様、そして……エルトにまで追われる日々の記憶。


 勝てないと分かっていて戦い、無益なのに沢山の人を傷付けて。

 何度も、何度も、何度も……こうなる。




『エンディングE:悪女の処刑 Execution of a villain.』



 何度も辿り着いた、その結末。

 トロフィーを取得した、なんてメッセージはもう二度と記されない。


 ……その筈だったんだけど。



『新しいルートが解放されたよ!』

『トロフィー【悪女を50回、処刑した】を取得しました』



 黒い背景に青白く光る蝶々がヒラヒラと舞う。



『ルーナの前には【天与】を持つ新しいヒロインが現れて……!?』



 そんなメッセージが窓に書き記される。


 そして『リュミエール恋物語(ラブストーリー)』という大きな文字と、レヴァン殿下やエルト、カイル、ルーナ様の肖像画が浮かぶばかりだった光景に変化が訪れた。


 そこには青い髪の男と、同じく青い髪をした女性の肖像画が浮かんで。

 その中央にルーナ様が憂いを帯びた表情で浮き上がる。


 それから彼らの『背景』を彩っていた薔薇の代わりに、青白い光の蝶々が舞う光景に変わった。

『リュミエール恋物語』の文字の色合いも、ピンク色から青い色に変化しているわ。



(…………50回)


 さすがの私も嫌な予感にもがきながら、黒い海のような世界に意識を沈めていったの。



良ければブクマ・評価お願いします。

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