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64 悪女スマイル

「ごめんね、お姉ちゃん……。その。この人達、殺しちゃった、の?」

「殺してないわ! ……たぶん……」

「今、小声で『たぶん』って言ったよね!?」


 ヨナったら細かいわね!


「殺すつもりなら、そもそも薔薇槍(ばらやり)で刺し殺してるわよ!」

「……うわぁ。嫌な説得力……」

「ヨナが殺されてたら、ちゃんと殺してたわ!」

「うん。うん……? うん。ありがとう……?」


 フフン!


「でも今はフィリンの居場所を吐かせないといけないからね! ここには居ないみたいだし、生け捕りよ!」

「あー、なる、ほど?」


 納得したみたいね!


「左眼はどうしたの?」

「これ?」


 私は左眼に棘なし薔薇の蔓で眼帯をしてから、その上に薔薇の花を咲かせているわ。


「ハッタリよ! この姿が『傾国の悪女』なの! アマネをビックリさせる為に練習してたのよ!」


 フフン! 驚く顔が目に浮かぶわね!

 とりあえず、今は邪魔だから枯らしておくわね!


「あいつらを脅す為に効果的だと思ったからやったわ!」

「そうなんだー……」


 それをそうと倒した連中は薔薇の蔓でぐるぐるに拘束しておくわ!


「ヨナは怪我はないのね?」

「うん。クリスティナお姉ちゃんのお陰で」

「良かったわ!」


 とりあえず抱き締めておくわね!


「お、お姉ちゃん……」

「フフン!」


 あとはフィリンを助けるだけね!

 リンディス達の方は上手くやっていると信じて……私は、ここに居る男達から情報収集よ!


「……お姉ちゃん、さっき王様みたいだった」

「王様?」

「うん。なんていうか、こう。優先するものの順番とか、決断とか」

「そう! これでも王妃教育を受けて来たんだからね! 王妃って何も内政とか、貴婦人の取りまとめばかりが仕事じゃないのよ! 国内情勢とか、外交も視野に入れて陛下の支えにならないとダメなんだから!」


 フフン!


「それでああいう発想になるんだ」

「そうね! あとは……悪女スマイルよ!」

「悪女スマイル」

「夢の中での、あの恐ろしい感じを出せたら交渉に便利だわ! だからセシリアと笑い方とか怒り方の顔の練習をしてたのよ! フフン!」


 王妃候補スマイルと傾国の悪女スマイルを身に付けたわ!

 これは褒められるべきね!


「……混ぜてはいけないものが混ざって、とんでもない事になってる気がする」

「気のせいよ!」

「そうかなぁ」


 ヨナったら心配性なんだから!



 それから、とりあえず馬を呼び戻して、男達の荷物を漁ったわ。

 近くに男達が乗っていた馬とかはいないみたい。

 荷物もそんなになさそうね。


 当然、フィリンが捕まっている様子もない。


 ここまで何も起きないならカイルの師匠は向こうに行ったのね!

 姿を隠しているなら私に不意打ちするチャンスぐらいはあったと思うわ!



「ヨナは少し離れていてね。とりあえず他の男達は、さらに薔薇で包んでおいて」


 マルクを叩き起こすわよ!


「フンッ!」

「げぼぉっ!?」


 とりあず、お腹に1発入れといたわ!


「げぐ、がは……ごへっ……!」

「起きたわね! 話をしてあげるわ、マルク!」

「……うん。容赦ないね、お姉ちゃん」


 容赦は必要ないと思うわ!


「うぐ……ひぃ!?」


 とりあえず、また悪女スタイルで薔薇の眼帯を付けてるわよ! こうすると気分は傾国ね!


「マルク。フィリンはどこ? ヨナと一緒に居た私の侍女よ」

「……ひっ……」

「質問に答えないなら今度こそ殺すわよ!」

「ひぃい!」


 ひぃひぃうるさいわね!


「マルク! アンタに怯える時間なんて許してないわよ! ただ質問に答えなさい!」

「あぐっ!?」


 私は薔薇でマルクの首を絞めつけたわ!


「フィリンはどこ!?」

「し、知りません! 知らないです!」

「なんで知らないのよッ! 嘘吐いたら足を切り落とすわよ!」

「うう、嘘じゃありませんッ!」


 むー!


「どういう経緯でヨナを誘拐したのよ! あの高価そうな手枷はどこで手に入れたの!」

「そ、それは……」

「早く答えなさい!」

「ひぃぃ!」


 まったく! 今もフィリンが怖がっているかもしれないのに!


「私が時間の無駄だと判断したらアンタはそこで終わりよ! 命を賭けて私の質問に答えなさい! アンタに泣いて怯える暇はないわよ!」

「うぐっ……ほ、本当に……知らない……!」

「……はぁ」


 私は溜息を吐いたわ。


「じゃあ、どういう経緯なのかを話しなさい。あとは、こっちが判断するわ」


 本当に知らなそうなのよね!


 マルクに吐かせるに、やっぱりカイルの師匠っぽい人に唆されて集まったみたい。

 ヨナを直接に誘拐したのも、そいつ。

 魔術を封印する手枷を用意したのも。


 だから侍女のフィリンを誘拐したのもカイルの師匠。

 フィリンは、そっちに隠されているって事ね。

 ……無事かまでは、ここで判断できないわ。


「アンタ達をどうしてやるかね!」

「うっ、た、助け……」

「口約束で赦せる線引きはもう越えてるわ! 自分達がしようとした事を考えてみる事ね!」


 私は薔薇を操って、気絶していた男達を締め付け、叩き起こす。


「うぐぅ!」

「ぎっ……!」

「がぁ!」


 人間に対する薔薇の攻撃。その感覚は夢の中で掴んでいるわ。


「ちゃんと起きる事ね!」

「ぐぅ……」


 男達を締め付けながら宙に浮かせ、磔のようにする。


「私はどこにでも薔薇を咲かせられるのよ、マルク」


 そして私は悪女スマイルを浮かべたわ!


「たとえば貴方達の『身体の中』にだって。こんな風に」

「もごっ!? もがぐ!」


 薔薇の花弁部分だけを大量に口の中に咲かせたわ。

 今回はサービスで棘なしよ!


「その気になれば薔薇で貴方達を窒息させる事もできる。いつでも。今度、目に付いただけでも」

「……ひっ」

「ねぇ、マルク? 今度からは女を抱きたいなら心の底から愛して貰えるように死ぬ気(・・・)で努力しなさい? じゃないと……今から貴方の身体の中に咲かせる薔薇が……あんたの肉を食い破るから」


 私は、表面にあるマルクの傷口に薔薇を咲かせ、軽く根を張らせた。


「ぎぃいぃいい!?」

「そう。こんな風によ。今、貴方達の身体の中に私の薔薇の『種』を植えたわ。……貴方達が、今日と同じ過ちを犯そうとした時。その時に身体の内側から薔薇が咲いて、貴方達は死ぬ(・・)。……嘘じゃあないって理解してくれるわよね?」


 ここで最凶の悪女スマイルよ! フフン!


「私がまたここに戻って来るまで、この薔薇の檻の中で待っていなさい? 全員よ。……ええ、生死は問わないわ。だから死んでも全員で、この薔薇の檻の中で待っていなさい。たとえ私が戻る日が何日も先だろうと、飢え死にしようと絶対に。大人しく全員で待っていたら……今日の罪を赦す方法を考えてあげるわ」


 脅すのは、このぐらいでいいかしらね!


「さぁ、ヨナ。行きましょう」

「うん……、ん、はい、クリスティナ様」


 あら。ヨナも私を怖がる演技をしてくれているわ。

 賢い子ね、ヨナって! ……本当に怖がっているんじゃないわよね?



 それから私達は馬に乗って、その場を離れたわ。

 脅しはしたけど信用も出来ないから、薔薇檻のさらに外側に薔薇の大きな檻を作っておいたわ!


「……お姉ちゃん、さっきの薔薇、本当?」

「うん?」


 私は背の低いヨナを前に座らせて、背後から抱きかかえるような姿勢で馬を走らせているわ。


「ハッタリよ! 出来るかもしれないけど、やってないわ! リンディスが『薔薇のコントロールが出来なくなった時』を考えて、あんまり勝手に動くような薔薇は生やさないようにって言ってたもの!」


 夢の中で薔薇から魔物が出来てた光景だって見ているしね!

 ちゃんと管理できる範囲で運用しなくちゃいけないわ!


「そうなんだ。そういうのはリンディスさんがちゃんと考えてるんだね」

「そうね! 私も考えてるわよ!」

「……うーん?」


 なんで、そこで首を傾げるのかしら!


 そうして馬に乗って戻った私達は……リンディス達の姿を探して。


「あっ! フィリン!」

「お嬢様!」


 フィリンは無事だったわ! それにリンディスもカイルもセシリアも!


「良かった! 無事だったのね、フィリン!」


 私は馬を降りて駆け寄ってフィリンに抱き着いたわ!


「うぅ、申し訳ありません、お嬢様……!」

「何を言うの? フィリンが無事なら、それでいいのよ!」

「お嬢様……!」


 怖かったでしょうに。誘拐されたのだって二度目なのよ。

 もうこんな事、この子に起こらないで欲しいわ!


「それで……」


 その場所にはリンディス達と同じような銀色の髪をした男が1人。


「そいつがカイルの師匠?」

「……そうだね」

「そう! じゃあ、これを使って!」

「うん?」


 私はヨナに掛けられてた魔術封じの手枷をカイルに投げ渡したわ!

 使えるかもと思って持ってきてたのよ!


「ヨナは火の魔術を封じられてたわ!」

「……魔術か。リンディス殿」

「はい。貸してください」


 リンディスが、その手枷を調べてくれているわね!


「はぁ……。まったく、ここまで予想外の行動をするとは。あんたのどこが貴族令嬢なんだか」

「ん!」


 私のことを言ってるのかしら!


「何よ!」

「……はぁ。なぁ、クリスティナ様? 俺を捕まえてどうするんだ?」

「どう?」

「カイルがそっちに付いてるんだ。知ってるだろ? お前の暗殺を望んだのは次期王妃(・・・・)だぞ」


 次期王妃。……ミリシャ。


「聖女アマネの差し金じゃないの?」

「いいや? 暗殺依頼なんて大それた情報を知っていたのは、どうも聖女様の予言でって事らしいが。実際に依頼するよう手を回したのは、あんたの妹だよ」


 ……予言で見る限りのアマネの性格からして、首を傾げていたけど。

 ミリシャが主導なのね。

 アマネったら予言の内容を教えるにしても、もう少し考えて欲しいわね!

 私も同じ事をしてるかもしれないけど、それはそれね!

 とりあえずカイルに会えたから、いいわね!


「今からお前の立場で、王家の婚約を止められるか?」

「……知らないわ」

「そうかい。でも今や、この情報を知ってるお前は次期王妃とマリウス侯爵家の『政敵』って事になる。もちろん? 黙っていれば良いって話でも済まないだろうさ。向こうからしたら弱点になりうるしな」


 弱点? 弱点かしら?

 私の暗殺依頼を、次期……王妃のマリウス侯爵の次女が出していた。


 …………証拠が揃ってたら一大事ね!


 例えば私が陛下にその事を伝えたとしたら、流石にミリシャとの婚約も破棄になってしまう。

 マリウス家だって大打撃だわ。



「何が言いたいの?」

「大人しくここで死んでおけよって事だ。そうだろう? 向こうからしたらお前は死んで黙って欲しいんだから。お前が生きてるだけで、お前の周りの連中には今回みたいな不幸が舞い込むぞ。王妃と実家と殺し合いなんてしたくねぇだろ? お前が死ねば八方丸く収まるって話だ」


 何が収まるのかしら? 全然収まらないわよ!


「腑抜けになったカイルと夫婦ごっこがしたいんなら、もうここで2人で死んじまえばいい。俺がその報せを王妃様に伝えてやるよ! どうだ?」


 カイルと心中しろって?

 そこまで悲観してないわよ!


「お断りね!」

「……へぇ? じゃあ、これからアンタは次期王妃になる妹君と、実家と殺し合うワケだ。見物だねぇ?」

「んー」


 とりあえず。


「──フンッ!」

「ぐぎっ!?」


 私は縛られている男を思い切り殴りつけたの!


 なんだか態度に腹が立つから殴って気絶させておくわっ!

 あとフィリンを悲しませた分をまず反省させる。話はまずそれからね!



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― 新着の感想 ―
[一言] 悪女ロール身につけた王妃教育済みの女傑はもう女王だってそれいち
[良い点] 混ぜるな危険が一周回って気持ちいいです カイルの師匠も一度折られてたらされたりするのかなぁ? ミリシャは一線超えてるのにアマネはゲーム脳 聖女様とやらに危害加えられないといいね [気にな…
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