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62/210

62 囚われのヨナ

 ヨナの行方を捜そうとして、ひとまず皆で集まろうとしたの。

 今、アルフィナを離れているのは、私とリンディス、セシリア、カイル、ヨナ、そして侍女の1人のフィリンよ。


「フィリンも居ないの?」


 カイルが戻って来て首を振ったわ。


「……やられたかもしれない。クリスティナ」

「やられたって?」


 どういう事かしら!


「ヨナとフィリンは……誘拐されている」

「誘拐!?」


 なんですって!


「誰に! どこに!?」

「場所は分からない。でも手口は知っている」

「……兄さん、それは」


 つまり。


「カイルの師匠?」

「……おそらく」


 しっかりと姿は見たワケじゃない。

 でも私は予言の【天与】で知っている。

 リンディス達と同じ魔族らしい人。


 ……カイルに迷いがあったら殺されかねない人。


「カイル……今の貴方に迷いは無い?」

「迷い、か」

「私は【天与】で貴方が師匠と戦う事を見ているわ。その時の貴方は……私を殺した後で。それで迷っていて殺されちゃったの。ルーナ様も守れなかったわ」


 私が生きてるから、あの時の状況ではないわね!


「その令嬢の事は知らないけど……。クリスティナを殺さなかった事に後悔なんて一度もしていないよ。僕には初めから向かない仕事だったんだ……」


 凹んでるわね! カイルったら! 今は元気を出さないといけない時なのに!


「そんな事ないから元気出しなさいよね! カイルったら!」

「…………うん?」

「お嬢? それではバートン卿に暗殺者が向いているという方向の励ましになってますよ?」


 そうかしら? でも元気は必要よ!


「とにかくヨナ達が攫われたのね! なんで攫ったのかしら!?」

「……おそらく、人質にして私達を分断したいのかと」


 人質ね。


「ならヨナ達は生きてるわね!」

「うん。それは確かだと思う。……おそらくクリスティナの『薔薇』を警戒しているんだろうね。アレがあれば姿を隠しても無意味になるし……。人質が居れば巻き込む事を考えて、全方位への無差別な攻撃は出来なくなるから」


 そうなるのね!


「姿を隠せる暗殺者なら、そもそも薔薇を咲かせる前に殺すべきだと思うわ!」

「なんで自分の暗殺方法を前向きに考えてるんですか……させませんからね!」


 フフン! 知ってるわ!


「そうだね。でも今回は僕やセシリアが居るのと、そもそもの狙いが誰なのか」

「……! お嬢様!」


 ん?


 私以外の3人が私を庇うように窓側に移動したわ!


 ガシャァアンッ! と窓が割れる音!


「何よ!?」

「お嬢!」


 リンディスが窓だけじゃなく背後を警戒しながら私を庇う。


「矢、でも爆薬でも、毒でもないね。セシリア」

「……はい」


 カイルが警戒して立ったままで、セシリアが何かを拾う。

 石ころかしら? それが窓に投げ入れられたの?


「……手紙が貼り付けてあります」

「手紙ですって!?」


 随分と乱暴じゃないの!


「ヨナを攫ったヤツ!?」

「……おそらく」


 セシリアが私を庇う姿勢になりつつ、手紙を素早く開くわ。


 何が書かれているの?


「……やはり分断が目的ですね。はたして、私達とお嬢様のどちらが狙いなのか」

「見せて、セシリア」

「……はい」


 セシリアが窓の破片を払い除けながら私に手紙を渡す。

 そこには、こう書かれていたわ。



『赤い髪の女、1人で指定した場所に来い。従わなければ銀髪のガキを殺す。花畑のマルク』



 ……ですって!


「殺すわよ!」

「……それは、お嬢様が相手の方を?」

「そうよ!」


 ヨナを殺そうだなんて赦せないわ!

 私の家族なんだからね!


「お怒りはごもっともなんですが、どうか冷静に。バートン卿、どうするべきですか?」

「……目的がどちらかだね。僕の師にとって仕事をこなす上で邪魔なモノが3つある」


 3つもあるの?


「1つ目はクリスティナの薔薇。2つ目はリンディス殿の隠蔽を見破る目。3つ目は僕とセシリアそのもの」

「……敵の狙いとしては、そもそも依頼のターゲットであるお嬢の暗殺か。或いは」

「……裏切り者の私達の抹殺ですね」


 どっちもダメに決まってるわね!


「私が1人で行けばいいのね!」

「ダメですよ。絶対に」

「リンディスが隠れて付いてくればいいわ!」

「……それを見破る目を持った方が、向こうに居るのでしょう。しかし花畑のマルクとは?」

「知らないわ!」


 ふざけてるのかしらね!


「……その名前は、知っています」

「誰なの!?」

「……以前、お嬢様を襲おうとし、返り討ちしてから『頭に薔薇を咲かせた』男です。その姿を見た人々から花畑のマルク、と蔑まれるようになりました」

「……ん!」


 あいつね! つまり。


「……逆恨み?」

「そのようですね。しかもしつこい……。命を取られないだけ感謝して欲しいものを」

「じゃあ、私が恨まれてるのは確かなのね!」

「そうだけど。クリスティナ?」


 なら話は簡単だわ!


「私が本当に1人で行くわ! リンはカイル達と協力して、カイルの師匠を何とかして!」

「……そんな事させられるワケがないでしょう」

「リンディス」


 私は彼の目を見て言うわ。


「私の予言だとカイルが死に掛ける可能性がある。でも、そっちのお馬鹿さんは別よ。私1人でも何とか出来るわ。恨みがあるって言うんなら尚のこと私だけに用がある筈だし、そこにはヨナかフィリン、どちらかは居る筈」


 どんな用件であってもよ!


「リンディスも敵にとって厄介なら……尚のことカイル達と離れちゃダメよ! 遠くからでも私達の関係を見たことがあるのなら、リンディスが私に付いてくるのは予測できる筈! そうしたら貴方の姿が確認できなくても、敵は警戒をしなくちゃいけないわ!」



 つまり『私+リンディスの気配』チームと、『リンディス、カイル、セシリア』のチームで別れて行動ね!


『0.5リンディス』分がお得な分け方だわ!



「…………なんでそういう時だけ頭が回るんですか」

「そういう時だけって何よ!」


 失礼だわ!


「とにかく! もう決めたわ! 素早く行動して! 一刻も早くヨナとフィリンを助け出して! ここで悩むと思われてるだけ時間の無駄よ! 今動けば手紙を投げ込んだ1人分ぐらいは敵の準備が出来てないから有利だわ!」


 完全に待ち構えられるよりはマシよね!


「私は手紙の差出人のところへ突撃するから! 後はカイル達が何とか考えて! 私が暴れて囮になるわよ! それだって敵からしたら驚きの筈なんだから!」


 特に私達の関係を見ていたなら尚更よ!



◇◆◇



「はっ!」


 指定された場所はアルフィナに続く森の中だった。

 私は監視の目もあるかもしれないから馬を走らせて駆け抜けたわ!


 監視者ぐらいは居ても撒いてあげるわよ!

 これで更に敵を減らしてあげるわ!


「ここね!」


 そこは以前、その男……花畑のマルクってヤツを撃退した場所だったわ!

 本当に私に思うところがあるみたいね!


「来たわよ! 出て来なさい! そしてヨナとフィリンを今すぐ返しなさい!」


 いくら私でも明らかな気配ぐらいは察せるわ!

 森の中には男が……数人。

 やっぱり1人じゃないみたいね!


「……随分とはえぇなぁ? さっき手紙を投げ込んだばっかの筈だろうが」

「すぐ来てやったわ!」


 私は男を睨み付ける。


「ヨナとフィリンはどこ?」

「女の方は知らねえよ。けど、ガキはこっちだ」

「ヨナ!」


 ヨナが猿轡をされて腕に何か宝石の付いた金属の腕輪? をされていた。

 それで両手が拘束されているの。


 ……たぶんヨナの魔術対策か何か。

 高価そうなその器具が、裏にカイルの師匠が居るだろう事を証明している。


「まず馬から降りろ」

「……分かったわ!」


 私は素直に従って馬を降りる。


 男は顎で、馬を離すよう示したわ。


「……あっちへ行っていて。危ないからね」


 私は馬に触れて指示を出す。


 男達はけっこうな人数が居た。

 馬には興味もないようで道を開けて無視する。


 でも、私の周りには取り囲むように立ち塞がっているわ。



「……約束通り1人で来たわ! ヨナを離しなさい! フィリンが何処に行ったのかも教えなさい!」

「おいおいおい。てめぇが指図できる立場だと思ってんのか?」

「思ってるわ!」


 周りに何人居ても私には関係ないわね!


「……てめ、……ふぅ。いや、気が立ってんだよなぁ、お嬢ちゃんはよ。でもな。それじゃ交渉が成り立たねぇだろ?」

「交渉?」


 私は眉根を寄せたわ。


「何か目的があるの!」

「あるさ、もちろん」

「じゃあ、さっさと言いなさい! ヨナを解放するんだったら叶えてあげるわ!」


 私は胸を張って答えたわ。

 下賎な男達の視線が私の身体に向けられる。


「服を脱げ」

「……はぁ?」

「はぁ、じゃねぇよ。クソ女が」


 男はヨナに短剣を突き付けながら私を睨む。


「お前は今日ここで俺達、全員の相手をするんだよ! 売女(ばいた)らしくな! それでこそ『花売り』だろ!?」


 男はそう言いながら笑ったわ。


「つまり貴方の、貴方達の目的は私を犯す事?」

「そうだよ! お前にはそれ以外の価値なんざねぇだろうが!」


 ああ、そう。


「へへ……。大人しくしろよ。何だったら脱がせて欲しいか?」


 後ろから別の男が近付いて来る。


 周りの全員はニヤつきながら、その光景を眺めている。


 私は。


 私は……、涙を流した(・・・・・)わ。



「おうおう。泣いちゃったか? 可愛いところもあるじゃねぇか」


 私の涙を見て男達が笑う。


「ヨナ」

「……むぐぅ」

「…………ごめんね」


 私は悲しくて涙を流したの。


「むぐぅ!」

「おい、暴れるなっての!」


 ヨナは魔術が使えないと、まだ力が弱い。

 だから男をどうにも出来ないみたいだった。


「へへ、安心しろよ。ちゃあんとお前も楽しませてやるから、」


 背後の男が私に触れた瞬間。



「──フンッ!」

「ふごげっ!?」


 私は『怪力』の【天与】でその男を殴り飛ばしたわ。


「なっ!?」


 涙が止まらない。


「てめぇ、何してんだ!」


 騒ぎ立てる男達に私は告げた。



「──交渉は決裂した(・・・・・・・)わ。あんた達は……1人残らず、今日殺すわよ!」


 私は吠えるように声を絞り出す。


「は、な、何を、」

「ヨナ!」

「……むぐ?」

「貴方は、ここで! 顔も知らない、名前も知らない……無辜の民の為に、命を諦めなさい!」


 ……私はヨナに別れを告げた。



「て、てめ、何を言ってやが、」

「……あんた達は今! 『子供を人質にして』『女を犯す』害悪だと証明したわ! そんな奴らは生かしておけないわ!」


 だって、そうだもの。


「あんた達が生きてるだけで、無辜の民が傷付けられる! 『子供を人質に親を』『親を人質に子供を』傷つける! 『夫を人質にして妻を犯す』! そういう奴らが生きてるだけで……善良な人々がこの先、不幸に見舞われるかもしれない!」


 だから。


「だから今、私が優先するべきなのは。ヨナを助ける事でも、私の身を守る事でもない。……あんた達を1人残らず(・・・・・)殺す事(・・・)。それが最優先なのよ」

「は……」


 私は近付いて来ていた男に駆け寄って殴り掛かったわ!


「フンッ!」

「ぐべ!?」

「はぁ! やぁ!」


 殴って、殴って、殴りつけるわ!


「ヨナを使って交渉したいなら! 命乞いをするべきだったわ、あんた達は! でもそうじゃなかった! 子供を人質に女を犯すような人間を放置は出来ないのよ! ……私は上に立っている人間だわ! だから私の大切な者よりも……善良な民の安全を守らないといけないの!」


 だから。


「だから、ここで……死になさいッ!」


 1人目の男の顔を殴って潰して、気を失わせたわ。


 こんな男達と交渉は出来ない。してはいけないもの。


「……ひっ、ひぃ……!?」

「話が通じねぇ!」

「に、逃げ、」

「誰が逃げていいと言ったの! 薔薇よ!」


 私は周囲の男達ごと薔薇で一帯を取り囲んだ。


「言ったわよ。今日ここであんた達を全員殺すって」


 私は、その場に居た全員に向かって言い切ったわ。



良ければブクマ・評価お願いします。

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― 新着の感想 ―
心を打たれました。上に立つものはかくありたい。
[良い点] ここのシーンがとても好きです。 潔くて苛烈でカッコいい!!
[良い点] テロリストと交渉はしない!! かっこええ……
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