61 誘拐
アルフィナの外での寝泊まり。
宿を使うのも久しぶりね!
本当は贅沢なんだけど、前に森で襲われそうになったから警戒の為にこうしてるのよ。
「お嬢様」
「んー」
セシリアが膝の上に私の頭を乗せているわ。
エルトから騎士や侍女が送られて来たぐらいから、セシリアは偶にこうして私を甘やかすようになったの。
なんでそうなるのか分からないけど、悪い気分じゃないわ。
「また夢を見られるのですか?」
「そうねー」
リンディスからは制御出来るなら、予言の夢を見る頻度を下げた方が良いと言われてるの。
どうしても、あの変な声が気になるからって。
聖女を穢せーってやつね。
そんな事言われても私、別にルーナ様のこと恨んでないし。
それにルーナ様の呼び名って『救国の乙女』じゃなかったかしら?
「今日はやめておくわ。またアルフィナに戻ってからにする」
「……かしこまりました、お嬢様」
今、夢の中で確認した予言について大きく紙にまとめているの。
あの予言の光景は、ルーナ様が『聖守護』の【天与】を授かってからの、たくさんの可能性を見せているみたい。
まさに世界の中心はルーナ様、ってやつね。
少なくともアマネの予言がああなのは元々がルーナ様を中心とした出来事をまとめた予言書だったから。
でも私の予言は、たぶんアマネとは微妙に違うみたいなの。
アマネはルーナ様の目で見た可能性しか見ていない。
でも私は、そのルーナ様が辿る可能性を『私』の視点で追体験するの。
アマネの予言が『ルーナ様視点で描かれる物語』だとしたら。
私の予言は『私の視点で描かれる物語』……ってところね。
アマネからすれば、文字通り物語を読んでいる感覚みたいだわ。
ルーナ様を操って、その未来を探っているみたいに見えた。
……まるで神の所業のようね。
遊び気分でルーナ様の運命を覗いていくの。
それで気付いたんだけど、ルーナ様ったら、けっこう危険みたいなのよね!
アマネも何度かルーナ様が死ぬ運命を見ていたの。
つまりアマネが予言書で学んだ事って、ルーナ様が生き残る為にどうすれば良いか? っていうことなんだわ。
そして、その大半の死因が……何故か私にあるみたいだった。
失礼だわ!
だから、あの予言書の中での私は、微妙に私と違う……そう、【悪役令嬢クリスティナ】と呼ぶべきよね!
悪役っていうのは、侯爵とか男爵みたいな爵位の名前じゃないみたい。
文字通りの『悪役』よ。あの私はルーナ様にとっての悪役でしかなかった。
(アマネが私を警戒していた理由は、なんとなく掴めて来たわ)
でもまだアルフィナの災害については何も分かってないのよね!
そこが肝心なんだけど、いつになったら分かるのかしら?
ルーナ様の視点で見る運命。
そのいくつかには、どうも終着点があって、アマネの予言書『オトメゲム』では、その先は見れないみたいだったわ。
エンディングと銘打たれた運命の終わり。
本当に『物語』としか言いようがないのよね。
予言の内容を覚え易くする為にああなのかしら?
私が確認したのは、まだそう多くはないの。
リンディスの忠告もあったし。
それに私の優先すべき事は、アルフィナの防衛と食糧事情の充実だったし。
まだまだ経済的にも貧しいアルフィナでは、魔物素材の確保もかなり優先度が高いわ。
お肉にもなるものね!
それに今は『食用薔薇』以外に畑も整えてるの。
領主の屋敷に1番近い場所の畑。
そこを薔薇を操って耕して整えて、作物を植えているわ。
アルフィナに来てくれた侍女達にも手伝って貰って、早くに実るお野菜を何種類か育ててるの。
フフン! 今いる皆の分ぐらいの食糧は賄えそうよ!
……でもいい加減、冬備えも考えなきゃいけないのよね!
まだまだ冬の季節は遠いけど、直前にさぁ蓄えましょうとはいかないもの。
「やっぱり畑を管理する人員は欲しいわよねぇ」
「……そうですね」
領主の屋敷にかろうじて残っているアルフィナの資料だけど。
そういうモノの調査もしているわ。
これまでのアルフィナの畑の収穫量とかの情報よね。
でも前領主が前領主だっただけに、あんまり参考に出来る数字なのかは怪しいみたい。
人手があれば元のアルフィナの住人を探して色々と教えて貰いたいわ。
「……今はたくさん魔物を倒して。保存出来るお肉は燻製にして。それから魔物の素材はハンターギルドに買い取って貰って……」
前に倒した熊の毛皮は高く売れたのよ?
そのお陰でお野菜の種とか、たくさん買えたわ。
ヨナの勉強の為の本とかは、この街ではあんまり揃ってなくて、中々買えていないの。
「……ヨナの教育をしっかりしてあげなきゃいけないわよねぇ」
「はい。リンディス様も頑張っていますね」
「ふふ。そうね。2人共銀髪だから、まるで本物の兄弟みたいだわ!」
「……どちらかと言えば親子のような」
「そう?」
リンディスって魔族だから見た目と年齢が違い過ぎるのよね!
本人の感覚も私達と違うらしいわ!
どちらかといえば実年齢よりも『見た目年齢』の方が精神的には近い感覚……って言ってたわね!
つまりリンディスったら、アレでせいぜい私達でいう25歳ぐらいの感覚らしいの。
「やっぱり兄弟だと思うわ!」
「……まぁ、たしかにリンディス様はお若いですね」
ふふ。リンディスはヨナを特別に面倒見てくれてるの。
私だってヨナは可愛がっているわよ!
私とリンディスが見つけて育てたから私達の子供みたいな感覚よね!
家族だわ! フフン!
そこでコンコンとノックの音が鳴った。
「……お嬢、セシリアさん。起きていますか?」
「噂をすればだわ!」
「……はい。リンディスさん。どうぞ入ってください」
私はセシリアの膝の上から頭を起こして、ドアを開けに行った。
「リン! どうしたの?」
「……お嬢。ヨナを見ませんでしたか?」
「ヨナ?? 見てないわよ! セシリアは?」
「……ずっとお嬢様の傍に居ましたので」
「そうよね!」
「そう、ですか」
「どうしたの?」
「ヨナが……居ないんですよ」
……ヨナが誘拐されていた事がはっきりしたのは、それからすぐ後だったの。
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