58 アルフィナ報告書
「何もしてないのに! 壊れたわ!」
私は、朝食に集まった皆の前で昨日の『予言』の顛末を打ち明けたわ!
「……そういう台詞を言う人が何もしてないことって大体ないんですよねー」
「お姉ちゃん何か壊したの? 僕が直せる?」
「……お嬢様。物を壊した時は素直に謝ってください」
「クリスティナは今日も可愛いね。はは」
フフン! カイルだけ認めるわよ!
他の皆はたぶん失礼だわ!
「【天与】で予言を見てたら勝手に崩れちゃったのよ!」
「はぁ……?」
「私がレヴァン殿下の側妃になった場合の未来……時間? の光景だったんだけど。何か予言の流れ? に逆らってエルトにお礼を言ったら壊れちゃったの!」
グチャグチャー、バグバグーって感じだったわ!
「……少なくとも、それは『未来』ではないような気がしますが」
「今から側妃に迎えられるというのは考えにくいね。……ないこともないのかな?」
「それに何もしてないことはないんじゃ? 予言がどういうものかピンと来てないけど。明らかにお姉ちゃんが途中で介入してるんじゃ?」
何よ!
「予言の光景に取り込まれてる時にエルトが出てきたから、ついでにお礼を言っておいただけよ!」
「……見えている予言に思いきり干渉しているように聞こえますねぇ」
じゃあ、黙って側妃になった後の行動を見届ければいいの?
なんだか私の意思と違う言動をする時もあるし、ストレスが溜まるのよね!
「アマネの『過去』にぜんぜんアルフィナのことが出て来ないわ!」
よく分からないけど、ルーナ様を操って色々な行動をする『別の時間』を見ているみたい。
「……予言の聖女は、色々と分岐している未来の記された書物を読んでいたんだっけ?」
「そうね! 私にはアレは本に見えないけど……でも、きっとアレが異世界の本なのね!」
魔法の黒い板のことよ!
音が鳴ったり、私達の話す言葉や状況が文字に書き起こされたりするわ!
「あと相変わらず纏わりつくような不気味な声が聞こえるわね!」
「声……ですか」
ルーナ様という聖女を狙っているくせに、やたらと私に纏わりつくのよ!
私の手でルーナ様を穢させたいってことなのかしら?
『穢れろ、穢れろ』って耳元でうるさい『すとーかー』だわ!
「ルーナ様を付け狙っている子爵のご令息が居るらしいのよね。レヴァン殿下が、その人からルーナ様を庇う光景が何度も見えたわ!」
アマネが『またこの展開かー、スキップしよ』とか言っていた光景よね!
なんで急に陽気に歩き出したくなるのかしら?
あんまり外に出てスキップしたくなるような光景じゃないのに。
それにアマネだってスキップなんて結局してないし!
「もう『予言』の【天与】は使わない方が良いんじゃないですか?」
「どうして?」
「お嬢に悪影響があるような気がします。もしかしたら予言のアマネが、やたらとお嬢に対してだけ不吉な予言をしていた事と関係があるのかも……」
関係って。
「何かしら?」
「うーん。こう、順番が逆なんですよ。アマネの予言書は、そもそもお嬢を陥れる為に用意された……とか」
ええ? それは流石にないんじゃないかしら!
◇◆◇
「んー!」
私は、使えるようにした机を前にして、報告書を作成しているわ。
1人じゃ困るから皆にもアドバイスを貰うわよ!
「騎士団の人間として、まだ見回りが必要な箇所があります。……我々でそれを行って来ても良いでしょうか?」
「もちろんいいけど。私も行く?」
「……いえ。今回は見回りだけです。危険な兆候があれば、すぐ逃げて参ります」
「そう! わかったわ!」
そういうのは、やっぱり専門家に任せるべきね!
アルフィナの今後の安全確保の為にも、必要な状況確認と報告書よ。
「じゃあ魔物関係は調査を待つとして」
1日で終わらせる事でもないものね。
「あとは私の【天与】についての報告よね」
「……そうなりますね」
薔薇に付いては王都を出てから目覚めた。
予言は、以前に殿下に話した事もあるけれど。
「薔薇はともかく予言は証明し難いのよね!」
「……アマネの世界の姿が見えるんですよね? 気乗りしませんが、アマネにのみ分かる言葉などで確認させるのはどうですか?」
「それね!」
何があるかしらね!
分かりやすい言葉があれば良いのだけど!
「それからマリウス家との絶縁ね! 幸い、レヴァン殿下はミリシャと婚約したらしいし……。侯爵家の跡継ぎはリカルドお兄様がいるわ。これ以上、私を政略結婚に使わなくても平気でしょう!」
なにせ王家の婚約者がいるんだものね!
そして今や私は流刑の身……なんだか、王命を賜った身なんだか、よく分からない状態!
愛されてもいなかったんだから、お父様達も私と縁を切れればお喜びになるでしょう!
「……【貴族の証明】を陛下に返却した方が良いかしら?」
「……そうですね。お嬢が本気という事は、それで伝わるかもしれません」
フフン。じゃあ。
「私は今日から、ただのクリスティナね!」
「……決断に対して、態度が軽いなぁ」
「何よ!」
塞ぎ込んでても仕方ないじゃない!
「あとは薔薇で出来る事とか……」
浄化薔薇と大地の傷……あの予言で見た薔薇から生まれる魔物に付いても書いた方が良いかしら?
でもアレって現実で起きた事じゃないのよね!
まぁ、とりあえず今分かっていることまとめて報告しておきましょう。
予言の証明については……んー。
「あれね!」
アマネが予言書に光を灯す時に最初に文字が浮かび上がるの。
そこには薔薇の花びらが舞っていて、それにルーナ様やレヴァン殿下の肖像画が浮かび上がったりするわ。そして。
『リュミエール恋物語』という文字が書き出されるのよ!
「フフン!」
あとはアマネがびっくりするようなモノを探さないといけないわね!
ご両親の名前とか分かるかしら?
あのトロフィーっていうのも大事だったりする?
アマネが住んでいた『ゲンダイ』っていう国の知識も分かれば、それを突きつけられたあの女はビックリするでしょうね!
「じゃあ、あとは……エルトへの感謝のお手紙ね!」
私はお気に入りになったルビーのネックレスを手に取ったわ!
【貴族の証明】の黄金のペンダントの代わりに、これからはネックレスを首に付けておこうかしら?
「ん! でも狩りには邪魔ね!」
「……今から感謝の手紙を書く為のネックレスを邪魔呼ばわり……」
フフン!
「……ところでお嬢様」
「なぁに、セシリア」
「ベルグシュタット卿への感謝はよろしいのですが……。卿の贈答品は、そもそもネックレスだけではありませんよ?」
「そうなの?」
そうだったかしら?
「忘れられている……!」
「……まず、そちらをしっかり確認してから返礼の手紙をしたためるべきかと」
「そうね! そうするわ!」
私は、皆と一緒にエルトからの贈り物を確認したわ。
ネックレスに合うように仕立てられた赤いドレスみたい!
身体のサイズは、ある程度の誤魔化しが効くようなデザインね!
もしかしたら学園の制服のサイズとか調べたのかも?
王宮に伝手があるなら、そっちにも私のドレスの情報がある筈ね。
予言の光景の中で、エルトはレヴァン殿下と親しそうにしていたし。
「……このドレス、売ったらお金になるかしら!」
アルフィナの経済が潤うかもしれないわよ!
「今から感謝の手紙を書くのに、その贈り物を売ろうとしないで下さいよ……」
「……ドレスはあっても損はありません。意味もなく着飾る日を設けましょう、お嬢様」
「なんで??」
それってセシリアの趣味だと思うわ!
「まぁ、しばらく薔薇の栽培や、魔物素材の加工をした後で……また街に資金調達に行きましょう。すぐさまドレスを売ったりする必要はありませんよ」
「そう! じゃあ、それまでに沢山の魔物を狩りに行かなきゃね!」
魔物退治で領地復興だわ!
「フフン!」
私はアルフィナの未来を思い描きながら、手紙を書き終えたの。
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