54 目覚めて。そして。
「フン!」
私はベッドから跳ね起きたわ!
「……お嬢様?」
「ここは現実ね!」
だってセシリアがいるもの!
「現実……。……お嬢様。『予言』の収穫はありましたか」
「収穫。そうね!」
色々と気になる事はあったわね!
とりあえず、アマネ・キミツカが私を『傾国の悪女』と呼んだ理由らしいものは掴んだわ。
あと『マリウス家を根絶やしにする』っていう未来もね!
リンディスの名前。私と家族との関係。
それに……セレスティアという名前の人のこと。
「次にアマネに会った時は、ビックリさせられるわ!」
「……ビックリ?」
「ええ! 左目に眼帯を付けて会うわよ!」
「眼帯……」
左眼を隠して薔薇で飾ったら、アマネは悲鳴を上げるかもしれないわ!
『傾国の悪女』はアマネにとって左眼に薔薇を咲かせた私みたいだし!
「フフン!」
なんて楽しそうなアイデアかしら!
私は胸を張ったわ!
「……予言という大層な力を得て見た収穫が、聖女をビックリさせる方法ですか」
「そうよ!」
素敵でしょう!? 驚く顔が目に浮かぶわね!
「……よしよし」
「……なんでセシリアは私の頭を撫でるのかしら!」
なんとなく失礼な気がするわね!
でも嫌いじゃないわよ!
「色々と見れたけど、でも考えものね!」
まず私が見た光景だけど。
『現実』とは違うところがチラホラあったわ。
私が子供の頃に目覚めさせた【天与】が怪力じゃなくて薔薇だったし。
それにレヴァン殿下との関係もあそこまで冷え切ってないわよ!
だいたい殿下から花飾りを貰った時の反応で、そこまで後の関係に影を落としてないし!
私が居た時に学園にはルーナ様は居なかったわ!
燃える水まで掛けたような事件は起きてないし!
いじめ冤罪は現実でもあったけどね!
婚約破棄を切り出されたけど、あんな風に断言されてもいないし。
ミリシャも現実ではそこまで関わってなかったわね!
「予言で見る景色は『現実』とは違うみたい。だから、当てにならないかも」
そこかしこに違和感があるのよね!
「でも、とりあえずリンディスだわ!」
私はベッドから出てリンディスを探しに行ったの。
まだ皆起きてるわよ!
「リンー! リンディスー!」
「……お嬢? どうされました?」
支援物資の整理と運搬をしているリンディスを見つけたわ!
もちろん、ちゃんと生きてるわよ!
「生きてるわね! フフン!」
「……はい?」
リンディスは首を傾げてるわ。
「リンディス、リンディス・ジークハルト!」
「えっ……」
「それが貴方の本名かしら?」
「……何故、その名前をお嬢が知っているのですか……?」
合ってるのね!
「じゃあ! 私がマリウス家の、ブルームお父様やヒルディナお母様の実の子供じゃないのは本当!?」
「えあっ!?」
「えっ……」
「クリスティナ?」
「ま、マリウス家の?」
そこには今のアルフィナに集まった全員が居たわね!
「な、何故!? あと、そういう話をするならば内緒話にして下さい!」
「フフン!」
「褒めてません!」
「褒めなさい!」
じゃあ、これも合ってるのね!
それなら。それなら。
「……セレスティアっていう名前の人は、知ってる? 私によく似た名前の人」
「────」
リンディスは、目を見開いて口を閉じた。
「……どうして、その名前を?」
「予言の【天与】で聞いたの」
「そう……ですか」
リンディスは運んでいた荷物をその場に下ろしたわ。
そして、私の目を見つめながら続ける。
「──セレスティア様は、お嬢の……本当の母親です」
やっぱり。
そうだったのね。
「そう。そうなのね。そして、それが……ブルームお父様達や、マリウスの家の者達が、私を愛さなかった理由?」
リンディスは目を伏せた。
「……そうです」
そっか。なんだか納得だわ。
私が今日まで家族と思っていた人達は、本当は家族じゃなかった。
幼い頃に耽った妄想の通りだけれど。
「私の本当の両親は…………まだ生きてる?」
【天与】がもたらしたのは希望だけじゃなかった。
「……いいえ。お2人とも、既に亡くなられています」
ああ。それも、その通りなのね。
……残念。とても残念だわ。
「リン。話を聞かせてちょうだい。私の両親のこと。それにどうして今まで貴方が、その事を黙っていたのか」
これは私の、家族の話よ。
◇◆◇
私の本当の母親の名前。
──セレスティア・マリウス・リュミエット。
私と同じ濃い赤髪と瞳の色をした女性だった。
お母様は、ブルームお父様……義父のブルーム侯爵の、実の姉だったらしいわ。
リュミエール王国では女が爵位を継ぐ事は稀だけれど、否定する法も無い。
セレスティアお母様はとても優秀な方で、なおかつ容姿端麗だったらしいの。
ただし、領民には好かれる性格だけれど、貴族からの評判は悪かったらしいわ。
そしてブルーム侯爵との仲は良くはなかった。
よく分からないけど、嫉妬されていて、疎んでいらしたらしいわね。
早くからフィル家の令嬢ヒルディナとの婚約関係を結んでいたブルーム侯爵にとって、姉であるセレスティアお母様は邪魔な存在だった。
いつまでも婚約関係を結ばず、豊かな領地であるマリウス領に居座り続ける女。
その癖、民にも人気者となれば……まぁ、分からなくはないわ!
きっとセレスティアお母様が婿養子を取れば、ブルーム侯爵の今のお立場はなかったのでしょう。
だけれど。
そうはならなかったの。
そのキッカケとなったのは……リンディス。
奴隷として、東方の島国から連れて来られた銀髪の魔族。
セレスティアお母様が、ある街に訪れた時に偶然に出逢った子供。
「──貴方、お名前は?」
何もかもに絶望していたリンディスに声を掛けたセレスティアお母様は……とても眩しい笑顔をされていたそうよ。
ルー◯◯ベルグではない。




