表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/210

51 薔薇城のお墓エンド

「うん! じゃあ、エルトからの贈り物。ちゃんと受け取るわ!」

「ありがとうございます!」


 騎士様は、自分の事みたいに喜んでいる。

 嬉しいのは私の方よね!


「他にもございます、クリスティナ様」

「そう! でも、もういいわ!」

「えっ」


 私はエルトから貰ったルビーのネックレスを大事に持ちながら椅子から立ち上がったわ。


「まずは……そうね! 貴方達みんなの寝る場所を整えなくちゃだわ!」


 10人分だもの。早くしないと夜になってしまうものね!


「貴方達、ここはアルフィナ領よ!」

「は、はい」

「屋敷に着いたからって、すぐにベッドで眠れるなんて思わないでちょうだい! むしろベッドなんて今、使えたものじゃないわ!」


 領主の屋敷は、前領主への余程の恨みがあったのか、部屋の中まで荒らされてたからね!


 元は上等そうなベッドだってシーツは剥ぎ取られているか、破られているかだし。

 ちなみに破られてるシーツの方は、さらに引っ()がして切って、セシリアが雑巾にしているわ!


「早い内に寝る準備から食事の準備までしておかないと、夜にゆっくり休めないわよ! 分かったかしら!」

「は、はい!」

「うん! じゃあ皆、協力してね! リン、カイル。見回りは途中で切り上げた筈だけど大丈夫そう?」

「今のところ問題ないね」

「はい」

「良かったわ! じゃあ、今日はこの子達の生活の場を整える準備ね!」


 そろそろ部屋を本格的に片付けようかしら!


「もう1階の部屋は、薔薇を使って壊れた家具、全部を外に放り出していい?」

「……使えるものと、完全に壊れたもの、それに再利用が出来る物を分けたいですね。それから」

「うん」

「……まず、送っていただいた支援物資がどのようなモノがいくつあるかを確認するべきかと。帳簿も付けましょう」

「そう! ……帳簿は任せていい?」


 とっても面倒くさそうだわ!


「かしこまりました、お嬢様。ですが確認作業はお嬢様もお付き合いください」

「私も?」

「はい。……お嬢様が居ないと困るモノもありそうですので」

「分かったわ!」


 私が居ないと困る支援物資って何かしらね!



 それから皆で作業に取り掛かったわ。

 まずは1階の部屋の片付けからね。

 元々はたぶん使用人達が使う部屋が2つあるの。


 執事用と侍女用の2部屋ね! たぶん偉くなると2階の部屋があてがわれたんだわ。


 今は1階の大人数用の部屋を整える事にする。


「フフン! 掃除用具は私達が稼いだお金で買ったのよ!」

「……新しく来た方に自慢するところではありません、お嬢様」

「なんでよ!」


 掃除用具は大事だと思うわ!


「大丈夫です、クリスティナ様! 私達、地下牢で生活させられてたんです! 暗い部屋で硬い地面でだって生きていけます!」

「……そう! でも貴方達に2度とそんな思いさせたくないわよ!」


 その生活は不本意というものよね!

 心に傷を負った子達だっている……かもしれないし!


「お姉様……いえ、お嬢様。私達はベルグシュタット卿から、根性を買われて送られて来たんです」

「根性?」


 私は首を傾げたわ。


「伝え聞くアルフィナの窮状でも働ける根気のある者だからと私達は来たんです。……けっして貴族や資産家、大商人の屋敷で優雅に仕える侍女の生活など思い描くな。戦場に向かうと思って行けと」

「まぁ!」


 エルトったらこの子達に何を言ってるのかしら!


「なので、むしろ屋敷や部屋があるのは驚いているぐらいです」

「そうなの!」


 外からのアルフィナってどう見えてるのかしらね!


 とりあえず当面の厳しい生活については不満を持たない人達が来てくれたみたい。


 でもだからって、その事にいつまでも甘えてちゃいけないわよね!

 皆が私に仕えてくれるというなら、しっかりと、その生活が向上していく未来を信じさせなきゃいけないわ!


 つまり……お金を稼いで身の回りを整えて、良い生活よ!

 あとお腹も空かせたくないわね!


「……お嬢様」

「なぁに、セシリア」

「改めてなのですが」

「うん」

「ベルグシュタット卿からの個人的な贈答品はどこに運びましょうか」

「うん?」


 エルトからの?


「支援物資とは違うの?」

「はい。……正直、そろそろお嬢様の個室が欲しいです」

「要らないわね!」

「…………」


 なんでセシリアは不満そうなのかしら。

 今は皆の部屋の方が大事だと思うわ?


 侍女達は地下牢で生活していた事もあるけど、だから尚のことベッドや部屋で寝かせてあげたいし。

 騎士達だって同じでしょう。


 私は外で野営してても楽しいからね!

 だから優先事項は皆の方だわ。

 せっかく人手が増えたんだし、片付けも捗るわよね!


「…………お嬢様がちゃんとした暮らしをしないと、下の者に示しが付きませんので」

「そう?」

「はい。絶対に」

「絶対なの?」

「絶対です」


 なんだか怪しいわね!


「セシリアが私を着飾ったり、良い部屋に押し込めるのが趣味なだけじゃなくて?」

「…………お嬢様には感謝しておりますので」


 やっぱりそう言えば良いと思ってるわね!


「クリスティナ様! ベッドのシーツの替えは用意しています! クリスティナ様のベッドをまず新調しましょう!」

「なんで?」


 今、貴方達の部屋の用意をしてるんだけど!


「優先するのはクリスティナ様です! ねぇ! えっと」

「……セシリアです。セシリア・バートン」

「セシリア様も! そう思われますよね! 私達、侍女の先輩であるセシリア様の方針に従いますよ!」

「……では、まずお嬢様のベッドを仕上げましょう。この作業には、この領地の未来が掛かっています。たとえお嬢様に邪魔されても完遂して下さい」

「はい!」


 あら? 私の意見が無視されてるわ??


「どうして私のベッドが、私の意見を無視して整えられるのかしら!」

「……お嬢様、我儘ばかり言っていてはなりませんよ」

「我儘かしら!?」

「我儘です」


 なんだか私の思っている我儘と違うわね!


「……それにお嬢様。お嬢様には『予言』の【天与】を用いて、このアルフィナの未来を見るという重要な仕事がございます」

「んっ!」


 それはそうね!


「危険な魔物、大量の魔物、それらの魔物の現れる時期。……そういった事が事前に知る事が叶うなら、これ以上の働きはございません」


 それだってそうね!


「ですので、お嬢様のベッドを整え、予言の瞑想をなさる場を整える事は今、このアルフィナにとって最も重要な任務なのです」

「……それは、まぁ、そうね!」

「はい。お分かりいただけたなら、文句を言わずに贅沢して下さい」

「んん!?」


 文句を言わずに贅沢するって何かしら!

 あと失礼だと思うわ!


「ねぇ、セシリアと私の関係はなぁに?」

「主人とその侍女です」

「そうよね? でも今のは何かおかしいと思うの」

「……お嬢様には、お嬢様らしく尽くされる事を学んで頂きます」

「んん?」


 やっぱりおかしいんじゃないかしら!


「……先の騎士との会話を聞き、またお嬢様に救われた者として。侍女達の意見は私と同じになったと思って下さい」

「ええ? そうなの?」


 私がセシリア以外の侍女に目を向けると、皆がうんうんと頷いてセシリアを支持しているわ。


 ……私、孤立無縁だわ!


「……当面の目標はお嬢様に贅沢な暮らしをして貰う事だと覚悟して下さい」

「要らないわ?? そういう状況じゃないわよ、アルフィナは?」


 災害に見舞われるかもしれない領地なのよ。


「……それに付いても、やはりお嬢様が鍵であるのは間違いないのです。【天与】を用いた戦闘で、今まで誰も傷付かずに魔物達を退けてこれたのですから」


 まぁ、それはそうなのよね!


「分かってるわ!」

「はい。では話は終わりました」

「終わったの??」


 話は続いているわ?


「はい。では。さっそくお嬢様の部屋を見繕い、ベッドを整え、ベルグシュタット卿からの贈答品を見て貰います」

「ええ?」


 おかしいわね! 皆の生活向上が目標なのに、セシリアに主導権を握られてしまったわ!


「……では、皆さん、準備を」

「はい!」


 セシリアったら、すっかり侍女達のリーダーに収まってしまったわ!


 それからお掃除やベッドの準備まで滞りなく行われ、領主の私室にそれは準備されたわ。

 私は侍女達の手で、綺麗なベッドの上に押し込まれてしまったの。


 ねぇ、主人は私なのよね?



「ねぇ、まだ私も働けるんだけど」

「……お嬢様にはお休み頂きます。支援物資もあるので肌の手入れが出来ますよ」

「ねぇ、セシリアが楽しい事を優先していない?」

「……お嬢様には感謝しておりますので」


 またそれね!

 それで誤魔化せると思っているわね!


「はい。しっかりと横になって。気持ちを楽になさって。よしよし」

「セシリア? 私、子供じゃないわ?」


 だんだんセシリアが暴走している気がするわね!


「眠るまで手を握っていてあげますからね」

「なんで??」


 どうしてそうなるのかしら!

 もうセシリアが分からないわ!


「……もう、分かったわ」

「はい。綺麗なベッドと布団で眠って下さいね」


 セシリアはなんだか優しい目を向けてくるわね。


 ……その目は別に嫌いじゃないわ!


「もう。じゃあ、『予言』を見てみるわね」

「はい。お嬢様」


 私は子供をあやすようなセシリアに身を任せて、綺麗にされたベッドの上で横になり、目を閉じた。


 予言を見る為の瞑想。

 だんだんと意識的に見れるようになって来たわよ。


 呼吸を整えて、意識を集中して……そして。



◇◆◇




(あ、マリウスの家だわ……)


 魔法の板の向こうにマリウスの本邸が見えた。

 久しぶりに見たわね!


 どうもアマネに操られたルーナ様がマリウス家を訪れた所みたい。



「アレは、何?」


 ルーナ様が驚くのも無理はないわ。

 マリウスの家は……外壁全てが『黒い薔薇』で覆われていたの!


 何かしら、あれ!


「あ、あの方……は、クリスティナ様──」


 私? ルーナ様の目には私が見えているらしい。

 でも、予言の黒い魔法板にはそんな姿は無い。


 ただ『メッセージの書かれた窓』には、人影がルーナ様に近付いて来ると書かれているわ。



「……ああ、ルーナ様」

「く、クリスティナ様!? その、お顔は……」


 そこで『私』の顔が大きく映し出されたの。


 足元から間近で見たような『視界の動き』が徐々に上半身へと向かって行き、そして最後に顔を大きく見せて止まって……。


(何これ?)


『私』の胸元から上だけを切り取ったような光景が映し出された。


 その『私』の顔……左眼が潰れて(・・・)いたわ。

 潰れた左眼の代わりに赤い薔薇が咲いているの。


 分かるかしら? 髪の毛に薔薇を生やしたように、左眼に薔薇を咲かせているのよ。



「な、何が……あったのです? あの屋敷は……」

「アレは屋敷じゃないわ」

「え?」


『私』の台詞に合わせて、なんだか怖い雰囲気の音楽が流れている。


「アレはね、お墓なの」

「……お、お墓?」

「そう。アレはもう私の家じゃない。だから、お墓」

「お、お墓って……誰の?」


 そうして『私』は答えたの。


「────の、お墓」


 え?


「……もう2度と、来る事はないわ」


 ……そこで、ザシュッ! という音と共に黒い板は真っ黒になり、血飛沫が舞ったわ。


『メッセージの書かれた窓』が、その後を書き出す。




『マリウス侯爵家の人々は【悪役令嬢クリスティナ】に皆殺しにされてしまいました。』


『そして、ルーナもまた彼女に……。』



『──エンディングG:薔薇城のお墓 grave of rose castle.』



『新しいルートが解放されたよ!』

『トロフィー【傾国の悪女が生まれた日】を取得しました。』



(…………何、これ)


 面白おかしく茶化すように。

 私が家族を皆殺しにしたのだと、文字だけで書き記されて。


 音楽まで流れて、まるで演劇のような演出。

 何故そうなったのかも教えてくれない、私が辿る破滅の光景。


 音声も、半透明の窓に書かれる文字も。

 あの『私』が最後に言った言葉を伏せていた。


 でも……私には聞こえたの。

 あの『私』は最後にこう言ったのよ。



 ──リンディスの(・・・・・・)お墓、って。



 それが分かった瞬間。

 私の意識は、その黒い魔法板の中に……吸い込まれていったわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リンディスころされちゃうEndありますか。 それは皆殺しでも当然かと。 ただ一人の信頼出来る相手だったと思いますし。
[良い点] ハッピエンドタグある!よっし!! 何でこんないい子(若干壊れてる?)に酷いものを見せるのか 添い寝してくれるらしいセシリアちゃん、クリスティナおこしてあげて。んで、リンディスはよ
[一言] この純粋なお嬢を守護らねばならぬ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ