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49 乙女ゲーム

4章スタート

「うーん……。ネットで、いやいや。ここでネットに頼るのはオタクが廃るわ! 待っててルーナ!」

「アマネったら何を熱を上げてるんだか」



 ……私が見ているそこは聖女アマネの家らしいわ。

 そこにはアマネの母親が居て、父親が居た。

 貴族なんかじゃない。

 平民で、母親まで家を出て働いているような家庭だった。


 でも……温かそうに見えたの。


 食事はいつも家族と摂る事なんて私はなかった。

 ……ううん。声だけだったけどリンディスが傍に居てくれたわ。


 でも食堂の開いた扉の隙間から、お父様とお母様、リカルドお兄様、そしてミリシャが楽しそうに笑いながら食事をする姿が見えて。


 私は立ち止まってしまい、その光景に見入ってしまった。

 そんな私と目が合ったのは妹のミリシャだ。


「…………」


 少しだけ。

 ミリシャに期待をした。


『お姉様も一緒にお食事をしましょう』


 ……なんて。そう言ってくれたなら。

 でも。


「ねぇ、扉が開いたままよ。閉めてちょうだい」

「かしこまりました。お嬢様」


 最後にミリシャは微笑んできた気がする。

 閉ざされていく扉。

 手を伸ばす事の許されない家族の姿。


 私だけ。私だけ。


 ズキズキと胸が痛んだ。薔薇の棘が心臓に刺さっている。


 でもいいの。私はいずれ王妃になるんだもの。

 今よりも忙しいかもしれないけれど、そこにはきっとレヴァン殿下が居る。


 だから私は彼と家族を作ればいい。

 暖かい家族。皆で一緒にご飯を食べられる家族……。



『──君との、婚約関係を、破棄しなければならない、かもしれない』


 レヴァンにそう言われた時。

 正直な話だけれど、どこかで『やっぱり』なんて思ったの。


 だからあんまりショックを受けなかったのかもしれない。

 レヴァンの傍に控えるルーナ様を見た時、何となく察した。

 ああ、これはいつもの事だなって。


 それに『予言』の【天与】が私にずっと前から見せていたから。

 レヴァン殿下が愛してくれるのは私じゃないぞって。


 だから、私より相応しい人が現れたと聞いて、すんなり受け入れられた。

 微妙でモヤモヤした気持ちになったけれど、側妃になるのなら……それもまぁ、なんて思えたの。


 やっぱり流石に私も王妃は柄じゃないし、器じゃないって思ってたし。

 何度も逃げ出したくて、放棄したかった。


『それはダメです! それやると直結バッドエンドまっしぐらですよ! 国、滅びます!』


 …………あそこの時点でアマネを即、殴りに行かなかったのは褒められて良いと思うわ。


(そして、私に残された、なけなしの何もかもを奪った理由が、これ)



「ああ、またクリスティナのせいでバッドエンド! ほんと邪魔!」


 誰が邪魔よ! 手が届くなら殴ってやりたいわ!


 アマネは延々と予言の光景を映し出す魔法の板を見ていたわ。


 黒い板の前部分には、ルーナ様を中心とした『物語』が何度も再生される。


 どうもアマネがルーナ様の行動を操っているらしい。

 そして彼女は運命の分岐を手探りで調べていたの。


 まるで神の所業よね。

 三女神様はお許しになっているのかしら?


「これ、恋愛どころの話じゃなくない?」


 恋愛?


「分岐が多いのよねー……。平民エンドとかそういうの実装するから……。ほんと何ゲーなの、これ。コンセプトがブレてるんじゃない? どこが乙女ゲームなのよ、パッケージ詐欺だわ」


 オトメゲー……。アマネが異界で読んでいたという予言書ね。

 全然、本じゃないんだけど。


 んー。ヘンテコな絵本なのかな?

 動いて喋る絵本の板を、手元に持った道具を使ってページをめくるの。


(私の『予言』とアマネの予言は、元を正せば同じもの?)


 そこでの私は、侯爵令嬢じゃないみたいなの。

 常に『悪役令嬢』って呼ばれていたわ?


 悪役ってどんな爵位の名前なのよ。

 没落とか言われるなら分かるんだけど。



「自由度とゲーム性を履き違えてんのよねぇ……。オープンワールドかっての。ジャンル恋愛なの忘れてない?」


 おーぷん? アマネの独り言はよく分からない事が多いわ。


「……最速RTAとかあったら、これクリスティナを速攻で処刑とかがベストよね」


 何が処刑なのかしら。最速あーる……何?


 処刑なんて軽々しく出来るものじゃないわ。

 何の罪で私を裁くつもりなのよ。


「逆にクリスティナをこっちから罠に嵌めるとか暗殺できたら……」


 物騒なこと企んでるわね! やっぱりアマネは私を嫌っていたんだわ!


「そう思った結果がコレかぁ……まさかの暗殺者ルート解放。あるのね……! ていうか居るのね、暗殺者のヒーローも!」


 暗殺者。カイルの事よね。

 ルーナ様を操ってカイルに近付いて、そして私の暗殺を企てる。


 ……指摘どころが満載だわ!

 私もカイルも最悪じゃないの!

 なんだったらルーナ様もお気の毒よ!


「よっしゃあ! クリスティナ暗殺! これは最速ルート来たんじゃない!? 悪役令嬢、討ち取ったり!」


 死んだ。私が。あっさりと。

 アマネのお遊びのような采配で、カイルが私を殺す未来……。

 そんなのカイルだって、とても辛い思いをするでしょう。セシリアだって。


 そして、それを平然と喜ぶアマネ。


(この女、改めてぶん殴りに行かないといけないわね!)


 でも幸い、それは本当に遊びの延長みたいなものだったの。

『現実』には何の影響も及ぼさない虚構の遊戯よ。


 だから、これでアマネを裁くのは何か違うわね!


 それからもアマネの運命の分岐を探る光景が続いたわ。



◇◆◇



「うっ、うぅ……」

「お嬢様。平気ですか?」

「セシリア……」


 目を開けて、横になったままの私はセシリアを見上げた。


 アルフィナに戻った私は、魔物を撃退しつつ、日々の糧を得て、そして『予言』を見る為に祈りを捧げるようになった。


「今日のお祈りは終了よ!」

「……お祈りですか。お昼寝の間違いでなく?」

「違うわよ!」


 現実とは違う光景に目を向けることに集中するから、横になった方が楽なのよ。

 その方が長く『予言』を見れるわ。


 私の日課な魔物退治、畑仕事、そしてこのお祈りね!

 3つも【天与】を授かったものだから3倍のお仕事が待っていたわ!


「だんだんアマネと、その予言の事が見えて来たわよ!」

「それはようございました。ところでアルフィナ領の事は見えませんか?」

「うっ」


 アルフィナの話はまだ見れてないのよね!

 どう運命を分岐させたらアルフィナの話になったのかしら?


「……もしや役に立たない知識を蓄えていらっしゃる……。【天与】を用いた娯楽ですか、お嬢様」

「違うわよ!」


 私だって真面目にやってるんだからね!


「お嬢様は、もっと身体を休められた方が……」

「うん?」


 私とセシリアは、ほぼ同時にある方角に目を向けたの。


 ……馬? 近くの見回りに出ているカイル達じゃないわ。

 領主の屋敷の表門から見て正面の街道。


 そこに変な一団が現れたの。

 まぁまぁ! アルフィナまで来るなんて物好きな一団だわ!


「……お嬢様、警戒を」

「ええ!」


 敵なのかしら? カイルの師匠が私を暗殺に来ないかとは警戒していたんだけど?

 なんだか堂々と来ているわね?


 ちなみに薔薇で整備しているから、街道から他領へ続く道は比較的安全な筈よ!


「……! 赤髪の御令嬢! クリスティナ・マリウス・リュミエット様でお間違いないか!」

「うるさいわね!」


 先頭の騎士の1人が私達の姿を見つけて、馬で駆け寄って来て大声を上げたわ。


「一体、何の用なの? 貴方達は誰?」


 ヨナが魔術で作り直した表門の鉄格子越しにその男に話しかけたわ。


「ハッ! 突然の訪問、失礼致します! クリスティナ・マリウス・リュミエット様。我々は、ベルグシュタットより参りました。金の獅子ことエルト・ベルグシュタット様より、この地に派遣された者です!」


 エルト?


「それって銀の剣をくれたエルトのこと?」

「はい! そう聞いております!」

「そうなの! 元気にしてる?」

「もちろんです! 覚えておいでであること、お喜びになられます!」


 覚えてるだけで喜ばないわよ!


「派遣ってアルフィナの周辺領によね?」

「いいえ。クリスティナ様に仕えるよう、言われています」


 私に?


「なんで?」

「我らはベルグシュタット卿より、クリスティナ様に贈られた『品』です。もちろん、支援物資に貴方様に仕える事を志願した侍女も連れて参りました」


 支援! そんな事があるのね!


「セシリア! これって貰っていいの!?」

「……まずは話し合いからでしょうか。兄さん達が戻るまでを門の外で待っていただくように」

「分かったわ!」


 アルフィナに新しい風が吹くわね!



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[良い点] 「……! 赤髪の御令嬢! クリスティナ・マリウス・リュミエット様でお間違いないか!」 「うるさいわね!」 カエル捌いてるシーンも好きだけど クリスのこの返し秀逸過ぎでしょ! 腹抱えて笑っ…
[良い点] アマネぶん殴りたいにおおみね同意かな この手のでいつも思うけどVRと現実世界の混同って 頭花畑どころではないよね それにしても何でクリスティナってあんな冷遇されてたんだろ
[一言] 当事者視点の追放処刑あり乙女ゲームほど残酷なものはない お嬢の心の平穏を祈る
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