47 メッセージウインドウ
『ルーナ! 僕の後ろに!』
『カイル!』
……え? と私は首を傾げたわ。
目の前に見える光景は何だろう。
これは、いつもの『予言』の【天与】……なのだけれど。
今回はいつも見える映像とは何かが違ったわ。
カイルがルーナ様を庇うように男に対峙している。
対峙する男は銀髪……リンディス達と同じ魔族だ。
カイルがルーナ様を魔族の襲撃者から守る予言?
(そんな事……)
私の胸にチクリと棘が刺さったわ。
カイルは私の味方だって思っていたのに、結局はルーナ様の味方になっちゃうの?
……どうしてだろう?
何があってカイルは私の元から去って、ルーナ様の元へ行くの?
そんな疑問に答えてくれたのは映像の中の男だった。
『ははは! 当主様はようやく殺しの喜びを覚えたというのに! 今度は色恋に溺れて腑抜けるのか?』
殺し!? カイルが!? 一体誰を殺すの?
『……黙れ!』
『何を戸惑っている? お前があの女……クリスティナを殺したのだぞ。胸を張るがいい。それでこそバートン家の当主だ!』
(え──嘘)
私、カイルに殺されちゃうの?
セシリアが頑張って止めて、カイルだって医者の道を歩み始めて微笑んでくれていたのに。
ショックで言葉が出なくなる。
……それより、この映像って何かしら?
なんだか作り物みたいな上に……。
ヘンテコな『文字』が下に書かれているわ?
(んー……?)
あれ? 私、この文字、読めるわね?
なんでだろう。
見慣れない文字なのに読めちゃうわよ。
【天与】だからかな?
『怪力』と『薔薇』は使いこなせていると思うんだけど、この『予言』に関しては、いまいちなのよね!
『──カイルの好感度が足りません』
(んん!?)
えっ、何? 何これ。好感度?
急に何か映像が切り替わったわ??
『カイルとルーナは、その日に殺されてしまいました』
(え、ええええ!?)
死んじゃったらダメじゃないの!
なんで!? 何が理由で!?
それこそを教えてよ、私の【天与】ったら!
『──攻略のヒント! 若干のネタバレを含みます。それでも見ますか?』
(あ、あら?)
何かしら。ヒントをくれるの?
いきなり親切になったわね! じゃあ見せて欲しいわ!
私は意識を集中して、その映像に見入る。
でも、いつもと違って……映像じゃなくて、文字。
なんて言えばいいのかな?
【メッセージの書かれた窓】みたいな印象よ?
『ヒント! ルーナ達を殺したのはカイルの師匠! 生き残る為にはカイルが勝つ為の条件を整えなくちゃいけません! 実はカイルは【悪役令嬢クリスティナ】を殺す事を躊躇していて……? ルーナの為に彼女を殺してくれたカイルの心の傷を埋めてあげましょう! 愛の力が勝利の鍵です!』
は……?
何言ってるのよ! ううん、書いてるの!?
とっても失礼だわ!
あと悪役令嬢って何かしら! なんとなく失礼だわ!
ルーナ様の為に……私を殺してくれたって何よ!
私は混乱したわ。でも混乱する内容はそれだけじゃなかったの。
『ぁああ! またバッドエンド回収したぁ! ねぇ、この乙女ゲーム、バッドエンド多過ぎない!?』
あら。この声、喋り方って確か?
『また騒いでぇ、アマネ。あんたいつまでゲームしてるの?』
『お母さん、ゲームは途中でやめられないのよ! 私は絶対ルーナを幸せに導いてやるんだから!』
『……テレビもう一台買おうかな』
『あ、それ嬉しいー! 私の部屋に置いてくれる? おっきい奴ね!』
…………これって。この光景って。
予言の聖女、アマネ・キミツカの世界の光景……?
◇◆◇
「……お嬢! お嬢!? 起きてください!」
「…………え。リン……ディス?」
あら? 私、リンディスに抱き抱えられているわね?
なんでかしら?
「ああ、良かった……! 本当によかった!」
「毒じゃないと思っていたけど、あいつは狡猾な男だから」
「カイル……」
カイルも心配そうに私を覗き込んでいるわね?
とても私を殺してルーナ様の元へ行くような雰囲気じゃないわ??
「ん……私……『予言』の【天与】を見てて……」
「予言の?」
「うん……あ、そうか」
もしかして、これはアレよね。
「……『予言』って、なんだか体力使うみたいだから……見過ぎた……のかも」
私が見たのは聖女アマネの世界だったわ。
そして私を殺して、ルーナ様を守ろうとするカイル。
……結局、彼とルーナ様も殺されちゃったみたいだけど。
「……襲ってきてた……男は……? カイルの、師匠……?」
「!? 何故それを……」
ああ、そうなんだ。
じゃあ予言で見た内容は正確なのね?
「……お嬢が追い払ったんですよ。姿が見えないからって、こんな……」
私が四方八方に徒に伸ばした薔薇の槍。
そのどれかが、ちゃんと当たったのかしら?
「……手応えアリでしたよ、お嬢様」
「ふ、フフン……」
「褒められた事じゃありませんからね、お嬢」
「褒めなさいよ……ん、眠い……リン……」
私はそのまま目を閉じて眠ったわ。
予言についてしっかりと考えるのは、また今度の機会ね!




