46 襲撃者
「私は皆の……用心棒なんだから!」
フフン! と私は胸を張ったわ!
「またお嬢が何かおかしな事を言っている……」
「……お嬢様が用心棒とすると私達は何の集団なんでしょうか」
「僕は彼女の主治医だ。ふふ」
「……私は侍女ですので」
「私も従者ですからね?」
「つまり」
私はヨナを見たわ。
「ヨナがご主人様かしら!」
「なんでそうなったの!?」
人には役割を与えられた方が動き易いものなのよ!
「……冗談はさておき」
「冗談なの?」
「冗談以外の何だと……」
楽しいから、その役割で過ごしてみるのもいいわよね!
「……まだ御用がおありですか、貴方達」
「なに?」
「ひっ!?」
私はカイルに絡んで来た男の仲間を睨みつけたわ。
「セシリア。この前の股間潰しはやっていいの?」
「こ、こか?」
「……そうですね。不埒な目的で来たみたいですから。一度、ここで体験してみるのも」
「ひぃいいい!!」
あ、逃げていったわ!
「お嬢。追わなくて良いですからね」
「追わないわよ!」
私が殴り飛ばした男も持っていってくれるみたいね!
ちゃんと仲間思いじゃないの!
「そろそろ次はハンターギルドね!」
「そうですね」
薔薇は余っているけど、食用薔薇は十分に売れたわ!
私達は広げていたものを片付けてから、ハンターギルドに向かったの。
「魔物の素材の買い取りは主にハンターギルドが取り扱っている分野になります。物によりますが、まぁ加工に癖があるものが多いですからね。専門家に任せるというやつです」
「そうなのね!」
「へぇ」
私とヨナが初めての魔物素材の買い取りに目を輝かせているわ。
「でも、ある程度はカイルやセシリアがやってくれてたわ」
「……あのまま時間を掛けてから街に持ってくると、流石に内臓が腐ったりして売り物にならないからね。ある程度は仕方ないとはいえ、出来るなら処理をしてからの方が値は高くつくんだよ」
へぇ。ハンター達も大変なのね! とっても勉強になるわ!
「いつかアルフィナにもギルドを誘致できるかしら?」
魔物がこれからも湧いてくるのなら領地興しの一環としてはアリよね。
「……その方針で進めますか?」
「荒れた畑を1から耕して貰うよりは現実的かもしれないわ」
「開拓時代の領地経営と考えればまぁ……」
でも結局、畑も何とかしないといけないわよね!
「クリスティナ。買い取りは済んだよ。君のお金だ」
「私の?」
お金の入った袋をカイルに手渡される。
中にはリュミエル銀貨と大銅貨がいくつか。
「高く売れたの? 安く売れたの?」
「適正価格じゃないかな」
「そう! なら良かったわ!」
じゃあ、元からあったお金と合わせて必要な品の買い出しね!
「セシリア! 何を買うの?」
「そうですね……。まずはお嬢様の洋服を」
「要らないわ! まず皆の生活向上と狩りに必要なものよ!」
「…………」
セシリアが不満そうね!
「納得できない?」
「いえ。私の趣味の充実はおいおい」
「趣味? 趣味って言った? 私の洋服なのに」
「……お嬢様には感謝しておりますので」
それを言えば済むと思われている気がするわ!
「とはいえ、武器類は……今、誰も必要としてないね」
「防具は?」
「……重くて動き辛くなる方が良くないだろう。僕達の場合、魔物に見つかったら引いて逃げて、リンディス殿の幻術で罠に嵌め、クリスティナが一網打尽にするのがベストだから」
「そう!」
身軽でいたいわよね!
「じゃあ農具を買いに行く?」
「……その前に生活に必要な物であれば調理器具類を揃えていきたいです」
「うんうん」
あとは何が必要かしら。
「……ヨナに本を買ってあげたいわ!」
「え?」
「本、ですか。そうですね。ヨナを教育するのも私達の役目ですし」
「え、で、でもいいよ。そんなの。生活を考えた方が……」
「将来的な展望というものがあってこその生活よ!」
ヨナが成長していく事は、きっと私達の希望になるわよね!
「……ヨナ。お嬢にとっても、私にとっても君が健やかに成長してくれるのは嬉しい事だ。だから遠慮なく。あと、お嬢が言う事を聞かないので揉めるだけ無駄な時間です」
「何よ!」
失礼だわ! リンディスったら!
「あ、あはは……うん。そうだね。ありがとう、お姉ちゃん!」
「いいのよ! でも本を読むのが嫌だったら投げ出しなさい!」
「なんでそうなるんですか、お嬢は……」
「子供に窮屈な勉強ばかりさせたくないわ!」
同年代のお友達とかも作らせてあげたいわね!
私にだってフィオナが居たし、ヨナにもお友達が居て欲しいわ!
「……言い返しづらい事を。しかし、勉強は必要ですので」
「うん。分かってるよ、リンディスさん。僕、頑張るから」
「ヨナは、やっぱりとっても素直で良い子ね!」
私は嬉しいわ!
「うん。じゃあ、必要な物を買ったら帰ろうか」
「ええ! そうしましょう! 今日中に帰るの?」
「宿を取っても良いけれど、クリスティナ次第だね」
「うーん……」
「……気持ち的にはお嬢に宿を取らせたいですが」
「いいわ! 野営で済ませましょう!」
お金が勿体ないわよね! せっかく皆で稼いだお金なんだもの!
「……リンディス殿。セシリア」
「はい、兄さん」
「心得ていますよ、バートン卿」
「ふふふ」
やっぱり皆で一緒に過ごすのは楽しいわね!
◇◆◇
「クリスティナ。街のハンターギルドに活気があったように、こちらでも多少の魔物や野生の獣が居る。なので、しっかりと野営の際に番をつけなければいけない」
「うんうん」
「……ただし、クリスティナは我々の生命線だからね。君は、必ず体力を回復させる必要がある。今のところ【天与】が使えなくなったりは見られないけどね」
「分かっているわ!」
私が薔薇を咲かせられなくなったり、怪力を振るえなくなったら皆が困るものね!
「なので、夜はしっかりと休むように。いいね? 幸い、僕もセシリアもリンディス殿も夜の番は苦ではないし、3人も居るからね。交代もできる。だから何の心配もせず、僕達を信用して休んでくれたらいい」
「わかったわ!」
カイルが話している間もリンディス達は、ちゃっちゃと準備を進めているわね!
「馬をこちらに寄せて、馬車はこちらに」
「薔薇を咲かせておく?」
「……いや。それに安心して油断するのも良くないし、浄化薔薇の光は、ここでは別のものも呼び寄せる」
「別の物?」
「んー、まぁ。もう少し離れて……いや、立地としてはベストだと思うけど」
カイルには何か考えがあるのね!
「……クリスティナは気にせず休んでくれたら良いんだよ。それとも」
「うん?」
カイルが、優しく私の頭を撫でたわ。
「子守歌が必要かな、クリスティナ」
「……! 要らないわ!」
なぁに? ちょっと恥ずかしいわね!
カイルったら昔はヨナみたいに可愛らしかったのに大人な雰囲気ね!
「そうか。残念だ」
「残念なの?」
「クリスティナのことは甘やかすと決めているからね」
「それは良い事だわ!」
「……良くないんですよねー」
「なによ!」
リンディスったら!
「ヨナは私と一緒に寝る?」
「えっ!? な、なんで!?」
「だってリンディス達は3人で夜の番をするって言うし」
「い、いや……その。それは、ちょっと」
「そう?」
やっぱりヨナったら、まだ女の人が苦手なのかしら。
ちゃんと癒してあげないといけないわね!
それで夜になったわ。
私は一度眠ったんだけど、なんだか夜中の内に目を覚ましたの。
別に花を摘みに行きたくもなかったんだけど……何かしら。
「ん……」
馬車の中で毛布にくるまって眠っていたわ。
もう外の焚火も消えているみたい。
ヨナは御者席の裏で寝ていて、私とは離れた場所よ。
どうせ馬車の中なんだから一緒に引っ付いて寝れば楽しいのに。
「へへ、あのアマぁ……、昼間の礼をたっぷりしてやるぜ」
「……?」
んん? 鋭くなっている私の耳に、仲間達以外の言葉が聞こえてきたわ!
まさかまた襲撃者かしら!
まずヨナを守らないといけないわよ!
私は、気付かれないように音を立てずにヨナに近付いたわ。
……眠っているみたい。起こすのは可哀想よね。
「……リンディス。いる?」
もしかしたら姿を隠したリンディスが近くに居るかもしれないと思って、小声で話し掛けたわ。
「……はぁ。居ますよ」
「ふふ! やっぱり。久しぶりの声だけリンディスね!」
「まぁ、お嬢とヨナを守る場合、これがベストの布陣ですからね」
そう。
「あの声、もしかして昼間の?」
「声が聞こえたんですか?」
「ええ。【天与】のお陰なのか耳も良くなっているの」
「なるほど。まぁ、私には声まで識別できないのですが。そうなんでしょう。お嬢は目を付けられていましたからね」
「そうなの。気絶していたのに?」
「……お嬢が殴り倒す前から見られていたので」
そうなの! それは知らなかったわ!
「なんで私を狙うの? もしかして、私じゃなくてカイル達が狙われてる?」
「…………それは、その。今、その説明をするとややこしくなりまして」
「じゃあいいわ!」
とりあえず考えがあるのね!
「私はどうしたらいい?」
「今は大人しくなさっていてください。或いは、幌の隙間から様子を窺い、表には出て行かずに薔薇で援護などであれば」
「わかったわ!」
ふふふ。それは悪戯みたいで楽しそうね!
私はヨナを守れる場所に居つつ、外の様子をこっそりと覗いたわ。
……来たわね! 昼間の男達よ!
「剣を持ってるわ。もう殴っていいんじゃない?」
「判断が早過ぎます……いえ、剣を持ってるなら良いかもしれませんが」
じゃあ、いつでも駆け出せる準備をしておくわよ!
「問題は順番なのです。ですのでお嬢。我々を信じてください」
「……分かったわ! 殴って良い時は教えてちょうだい!」
「御意」
ふふふ! 私の仲間に手を出したら容赦しないんだから!
「恥をかかされた分、たっぷりと可愛がってやるぜ、へへ」
何か気持ち悪いわね!
「──じゃあ、二度とそんな事を思いつけなくなりたいかい?」
「!?」
あら! カイルったら一瞬で背後に詰め寄ったわ!
音も立てなかったわよ!
「誰だ!?」
「……はぁ」
「ふげっ!?」
男が振り向こうとした勢いを利用して、カイルがあっという間に男を引き倒したの! 凄いわね! 私には出来ないわ、あんな事って!
「でも殴った方が気分がいいと思うわ!」
「……そういう問題じゃないんですよねー」
カイルは男が何もしない内から倒して、剣を奪って見せたわ!
「対人の荒事でしたら、そこらの相手には負けなそうですね、バートン卿は。頼もしい限りです」
「リンもああいうの出来る?」
「多少は」
出来るのね! 私も今度やってみようかしら!
「いっ……て、てめぇえ!? は、離しやがれ!」
「……命までは奪わないでいてやりたいが」
え、殺すの? それは良くないわ!
カイルにそんな事させられないもの!
「ダメよ、カイル!」
私は思わず飛び出していたわ!
「クリスティナ!?」
「お嬢!」
「貴方に人殺しはさせられないわ!」
「避けっ、」
よけ? 何を?
「お嬢様!」
ドン! と私は突き飛ばされたわ!
突き飛ばしたのはセシリア……、そして私が立っていた地面に矢が飛んで来たの!
「何!?」
「……ハッ!」
カイルが何かを森の中へと投げ付けたわ!?
途端に広がる煙! 煙幕っていうものかしら!
「ぁあ!?」
さっきまで剣を持っていた男が立ち上がって、カイルを突き飛ばそうとして。
「──フンッ!」
「ぶごぉお!?」
私は、その場に落ちていた石ころを投げ付けたわ!
ちゃんと男に命中したわね! フフン! 練習した甲斐があるんだから!
【天与】の光を乗せれば、ただの石でも良いダメージになるのよ!
「……仲良く暗殺対象と食事に宿泊か? カイル・バートン、セシリア・バートン」
何!? 森のどこからか薄気味悪い声が聞こえてきたわよ!
「……仕事の期限は決められていなかったと思うが? ただ全てを僕が完遂せよと言われていた筈だ」
カイルがいつもとは違う冷たい声で森の声に応えた。
「ははは。つまり、まだその女を殺す気があったと? これは申し訳ない事を。当主が初仕事に恐れおののき、逃げたかと思っていたぞ」
この声……カイルやセシリアの実家に関わりがある?
「……魔術ですね。私の姿も見えているようです」
スッとリンディスが姿を現したの。
消えていても見破られてしまうのね!
「……どうするの?」
「敵の狙いはお嬢、そしてご兄妹という事になりますかね」
やっぱりカイル達の家の者……暗殺者なのね!
「じゃあ! これね!」
「え」
声がするのは……その辺りだわ! 全方位の薔薇槍!
ザァッ! と音を立てながら、私は四方八方に貫く薔薇を咲かせたわ!
良ければブクマよろしくお願いします。