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44 ノータイム

「次はどんな魔物(おにく)が出て来るのかしら!?」


 カエル肉はとてもヘルシーな味わいだったわ!


「とうとう魔物のことを、おにく呼びし始めましたね……」

「私には狩りをして皆をお腹いっぱい食べさせてあげる義務があるのよ!」

「……ないですよ。いや、あるのかもしれませんけど、何かがおかしい」


 フンフンと鼻息を荒くしながら目を輝かせたわ。


「クリスティナ。油断はいけないよ。いつ強力な魔物が出て来るか分からない。それに森を出てこちらに進軍してくる可能性もある」

「カイル」


 そこが問題なのよね。

 領主の屋敷も壁は作ってあるけど。

 どうしても人手が足りないわ。


「まぁ、仕方ないわね!」


 ないものねだりはしても仕方ないものよ!


 そうして私達は今日も森の方へと狩りに出掛けたわ。

 はじめは狼、次はカエル。それぞれ決まった場所に棲んでいるのかしら?


「……浄化の薔薇には、ある程度の魔除けの効果を見込めるかもしれないね」

「カイル、それ本当?」


 だったら、とっても嬉しいわね!


「森の前に咲かせる?」

「……それでアルフィナが救えたとしても、もしかしたら別の場所に向かってしまうかもしれない。魔物を倒しているワケではないからね」

「じゃあダメね!」


 山をあちら側に越えられたらエーヴェル領。

 フィオナに迷惑を掛けてしまうわ。


「どちらかと言えば民に害を及ぼす危険の無いアルフィナに呼び寄せたいだろう。……クリスティナの薔薇なら集まった魔物を一網打尽にも出来る」

「フフン! そうね!」


 じゃあどうしようかしら?


「魔物が通る『道』を作っておこう」

「道?」

「うん。浄化薔薇を咲かせる配置を考えて、平地に降りて来るように仕向ける。それもこちらが戦い易いようにね」

「面白そうね!」

「うん。でも今回はお預けかな?」

「ええ?」

「買い出しに皆で行くんだろう? なら僕らの居ない間にアルフィナを荒らされるのはちょっとね」

「まぁね! でも他領に迷惑を掛けるわ!」


 どうするべきなのかしら?


「罠を作っておこうか」

「罠! 楽しそうだわ!」

「うん。君はそう言うと思った、クリスティナ」


 そんな事を話しながら移動する。

 カイルが見繕った場所に……私が薔薇で穴を掘るわ!


「薔薇よ! 土を掘り返すのよ!」


 集落跡からは離れた地面に大穴を開ける。


「お嬢の力は便利ですねぇ」

「フフン!」


 このぐらいの薔薇の操作はもう慣れたものよ!


 草をむしって、土を掘り返して、それから。


「ん! 大きな岩があるわ! アレはどうするの、カイル」

「……薔薇でどけられるかい?」

「どければいいのね!」


 私はジャンプしたわ!


「お嬢!?」

「──フンッ!」


 そして手に光を込めて、その大岩を殴り付けたの!


 ドゴォンッ! と音を立てて大岩を粉砕したわよ!


「フフン!」

「……うわぁ」


 私は胸を張ったわ!


「すごいね、クリスティナ」

「そうでしょう! リンディスも褒めるのよ!」

「うわぁ、褒めたくない……」

「なんでよ!」


 褒めるところよ!


「これが王妃候補の令嬢の姿ですか?」

「もう王妃候補じゃないわよ!」


 一ヶ月以上前の話じゃないの!


「……お嬢はまた殿下の婚約者になりたいとか思わないのですか? 憎く思っていたワケではないでしょう」

「リンディス殿。それは」


 また殿下の?


「んー……」


 実際になれるかはともかくの話よね?


「ならなくていいわ!」

「……そうですか」

「ホントよ?」

「はい」

「何か疑われてる気がするわ!」

「疑ってませんが、まぁお嬢にはそういう目が向けられますよ。これから」


 めんどくさいわね!


「……そういう『役割』を求められるかもしれないのは事実だね。特に貴族令嬢達はそういう話を好むから」

「めんどうくさいわ!」

「……とっとと別の相手を見つけておくのが無難なのですが」

「別の相手?」


 私は、リンディスとカイルを見つめたわ。


「……こほん。な、何も身近な所から選ぶ必要は無いよ? クリスティナ」

「そうなの?」

「そ、そうだね。まぁ否定する必要もないんだけれど」

「そう!」


 じゃあ、また今度考えたら良いわね!



「今日は街に買い出しよー!」


 新しい種類の魔物は増えなかったから、ひとまず角付き狼の角や毛皮を整えた物と、色違いの薔薇を用意したわ!


 それで馬と馬車に乗って5人で仲良く隣の領地を目指す事になったの。


 アルフィナには大穴を作って、下に落ち易い薔薇で蓋をしておいたわ。落とし穴ね!

 帰ったら真っ先に確認しに行かなきゃいけないわ!



「……ヨナ様。近々、馬術をお習い下さいませ」

「え、馬? 良いけど……どうして?」


 セシリアが何か面白そうな話をしてるわね!


「目を引くお嬢様が馬に乗って先を進むのはどうかと思うのです。絡まれ易さが倍増するかと」

「私が悪いの?」

「悪くないよ、クリスティナ」

「そうよね!」


 でもヨナが馬に乗れるようになるのは歓迎よ!


「……あと馬車にお嬢様が乗っていたら道中の私の暇潰しが出来ます」

「そっちが主目的じゃないですか、セシリアさん……」


 セシリアは私の髪を梳いたり、肌を整えてくれるけど、それが行き過ぎな時があるわ?


「セシリアは私のこと玩具にしていない?」

「……お嬢様には感謝しているので」


 それは答えになってないと思うわ!


 お喋りしながら私達は森に入って、領の外を目指したの。


 そういえば王都からの騎士団の派遣は、そろそろ叶うかしら?

 聖女が言う程の脅威はまだ無いけど、民の安全を考えたら早くして欲しいものよね!


「……兄さん」

「うん……」


 ん?


「どうかしたの、カイル、セシリア」


 2人の様子がなんだか真剣になっているわ?


「まだ気にする事はないよ、クリスティナ」

「気にする?」

「ちょっと、ね」

「??」


 まぁ、気にしなくていいなら気にしないけど。


「体調が悪いなら、ちゃんと言うのよ、カイルもセシリアも。身体が資本なんだからね!」

「……心得ております、お嬢様」

「ならいいわ!」


 2人ともしっかりした大人だものね!



 私達は来た時よりも比較的近い場所にある隣領の街を目指したの。


 ……もしもアルフィナで魔物が溢れた場合は、1番危険に晒され易い街よ。

 そして同時にどうにもならなくなった時、私達が逃げ込める場所かも見ておかなくちゃ。


「わぁ……」

「お、おお……?」


 なんだか注目されているわね。

 ちなみに隣領に着く前に野営で夜を明かしているから今はお昼前ぐらいの時間だわ。


「クリスティナはやっぱり目立つみたいだね」

「カイルが注目されているんじゃないの?」

「僕じゃなくてクリスティナだよ」


 そうかしら? 婦人方がカイルを見ている気がするわ。


「お2人に注目されているんですよ、お嬢、バートン卿。纏われてる雰囲気が違うのです」

「あら」


 じゃあ、どっちも注目をされてるのね!


「……お言葉ですが、リンディス様も注目を集めているかと」

「はい? 私がですか? ……ああ、この地域でも魔族は珍しいですからね」

「……主従揃って自覚の足りない」

「はい?」

「もう少し自覚されているかと思いました」

「……たぶん、僕達って全員、自覚した方が良いと思うよ。セシリアさんも含めて」

「……私は顔を見せておりませんが」

「……だめだ、この人達……僕がしっかりしなきゃ……」

 

 ヨナが何か決意しているわね!

 とにかくリンディスが目を集めているなら鼻が高いわ!


「フフン!」

「……私が注目されてるとして、お嬢が胸を張るのはおかしいかと」

「おかしくないわ!」


 嬉しいもの!


 それから薔薇を売る許可を得る為に商業ギルドに顔を出したの。


「薔薇ですか、それ?」

「食用薔薇よ!」

「あ、怪しい……なんで薔薇の花が? 食用薔薇とは?」


 でも加工した食用薔薇はウケが悪いみたい。


「けっこう美味しいのよ?」

「お嬢。諦めてください。それは我々の今後の食糧にするという事で」

「えー……」


 頑張って作ったのに残念ね。


「じゃあ後でオヤツにするわ」

「お、おやつに……なるんですか?」

「なるわね!」


 アルフィナでは今、魔物肉か食用薔薇が主食なんだから!


「し、失礼ですが……1つ分の代金はこちらで払います。今この場でご自身達で食される事は可能ですか? ……そちらの赤髪の貴方が代表なら、貴方が」

「貴方がお金を払うのに私が食べるの?」


 それっておかしくないかしら。


「……お嬢様。毒が無いか証明して見せろ、というお話です。やましい事がないかを見せてみろと」

「そうなの! それなら代金は良いわよ!」


 私は食用薔薇に齧り付いてみせたわ!


 売り物にする食用薔薇は、たくさん水気を含んでいて食感も良く仕上げてるのよ!


「うん! 爽やかな味に仕上がってるわ!」

「食べながら喋るのは、はしたないですよ、お嬢……」


 だって食べてって言われたんじゃないの!


「躊躇なく食されましたね……」

「……そもそも毒ではありませんので」

「そうですか……。はい。売れるかは貴方達次第ですが、許可は出しましょう」

「本当!?」


 やったわね!


「……早速ですが。いくつかギルドで引き取らせて頂いても? 珍しい品ですので」

「え、ここで買うの?」

「はい」


 表通りで売るのとは別なのね?


「……売り子がこれなら目は引くでしょう。ですが取り扱う商品が商品だけに未知数……。取り入るべきか迷う方達です……」

「??」

「お姉ちゃんは商人じゃないから深く考えなくて良いんじゃない?」

「そうね!」


 皆が詳しそうだから任せておくわ!


 とにかく食用薔薇を売る許可を得たわよ!


「ヨナも食べる?」

「えっ」


 あら。何かしら。

 私の齧り掛けを差し出すと、ヨナが顔を真っ赤にしたわ。


「……リンディス殿」

「はい。なんでしょうか、バートン卿」

「……今更だが、クリスティナに花を売らせた場合、良からぬ輩に目を付けて絡まれないか?」

「い、今更……」


 んん?


「……その対策は以前から私とリンディス様で詰めております。兄さん」

「……そうか。考えていたか。さすがだね、セシリア」

「何よ、リン」

「お嬢は私やセシリアさんの指導の通りに働くんですよ」


 いいけど。何か腑に落ちないわね!


「問題なのは全員だって僕思うんだよね……」


 ヨナがなんだか大人びてきているわね!


 街で食用薔薇と観賞用の色違い薔薇を売り始めたわ。

 角付き狼の素材は後でハンターギルドに卸しに行く予定ね!


「あらぁ、綺麗な業者さん達!」

「フフン!」


 私も売ろうとしたんだけど、何故か傍で突っ立っているだけにしろと言われたわ!

 だから胸を張って仁王立ちしてるの。


「ふんぞり返れとは言ってないんですよねぇ……」

「なによ!」


 難しいわね!


 食用薔薇の売れ行きは上々よ!

 店を広げた最初から買い物客は来てくれたわ!


「……あとは品が良ければ継続的な客も見込めるかもしれませんね、お嬢様」

「フフン!」

「……しかし、安定した供給と販売ルートの確立、その為の人手に、安全性……様々な問題があります」

「……そうね!」


 やっぱり領地内でどうにも出来ないのは大変だわ!


「おお……なんだぁ?」

「ん!」


 食用薔薇もそこそこ売れて、あとは色違いの薔薇を残すところになってきた。


 まだ日は暮れてないけど、傾いては来ている頃合いよ。


「『花を売る』美女が居ると聞いてきたが……こいつはまた」


 来たのは大柄な男だったわ。

 1人じゃなくて4人組の男ね。


 そいつらは店先のカイルやリンディスを無視して、私に視線を送って来たの。


「……お嬢様。パターン3です」

「3番ね!」


 とりあえず黙っておくわ!


「……何か勘違いをされていたら困る。我々は正真正銘、薔薇を売っているだけだよ」


 カイルが売り物の薔薇を一輪、(かざ)して顔の近くに寄せたわ。

 それだけで遠巻きに見ていたご婦人方が感嘆の声を上げたの。


「フフン!」


 絵になるというヤツね!


「……お嬢様。まぁ、兄さんですからね」

「そうでしょう!」

「だめだこの人達……」


 ヨナったら今日はどうしちゃったのかしら!


「へっ。そういう建前なんだよな?」

「……はぁ。違う。だから勘違いするなと言っているんだ」


 あら。カイルの声色が怒っているわね。


「ぁあ? それが客に対する口の聞き方か? せっかく花を買いに来てやったんだろうが!」

「やれやれ……。どこにでもこういう男が湧く……」


 カイルが凄むとなんだかドキドキするわね。

 例の殺気っていうヤツね!

 ふふふ! 掴んで来たわよ!


「てめぇ! 売り子風情が何言ってやがるんだ!」

「その手を……」

「あ」


 そいつはカイルの胸ぐらを掴んだわ。

 リンディスが声を上げて私を振り返るのが見えた……。


「──フンッ!!」


 バギィ! っと私はその男の顔をぶん殴ってやったわよ!


「ほげぇあ!?」


 光る拳でぶん殴った男は通りの先まで飛んで行ったわよ!


「カイルに何するのよ! 失礼ね!」

「ああ、もう、判断が早過ぎるんですよ、お嬢は……」

「……ノータイムでしたね」

「あは、はは」

「クリスティナ。……うん」

「フフン!」


 私は胸を張って見せたわよ!


「褒めてないんですよ、お嬢」

「褒めなさい!」


 リンディスったら、だんだん意地悪になってきたわね!


良ければブクマ登録お願いします。

3月中は毎日投稿の予定です。

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