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04 一人旅

 王都から追放される私には馬が1頭と、質素な旅支度が与えられた。


 王子への不敬罪での追放だけど、同時に困難な地への派遣という王命でもある。

 また婚約破棄こそされたものの、家名も爵位も奪われたワケではない。


「……まぁ、上等な方よね」


 王妃教育に野営の知識は無いんだけど、聖女の予言がある為に従者の1人も連れてはいけない。


 アルフィナ領に着くだけでも、きっと私にとっては過酷な旅になるだろう。


「鉄の剣……」


 訓練用に使われるような木剣ではない、金属の剣を一振り支給されたわ。


 私は目を輝かせてその剣を見る。

 憧れだった剣術はどれも中途半端な腕前。


 魔物の脅威にこの剣と【天与】だけで立ち向かえるとは到底思えないのだけど、それでも。


「……フン!」


 なんだか剣を持っただけでも気分は上がるわね!


「……クリスティナ様。これを」


 王宮の侍女がペンダントを一つ持ってきた。

 黄金に装飾のあしらわれた1品。

 リュミエール王国の爵位持ちである事を平民にも分かるように作られた、家名を記していない貴族共有のシンボル。


【貴族の証明】っていうモノね。


「僻地での貴方の身分の証となるでしょう。アルフィナの領主は、その」

「……知っているわ。あそこの領主は災害が迫ったと予言された時に真っ先に領から逃げたんでしょう。民を置いて」

「……はい」


 場所が場所ゆえに責任を放棄した領主への断罪は遅れた。


 それでどうなったかと言うと……国境も比較的に近い場所だった為、前のアルフィナの領主は私財を持ち出して国外へと逃げたのだ。


 つまりアルフィナ領はただでさえ荒れてる上に魔物が蔓延り、統治側の資産すら壊滅状態。

 というか統治者がそもそも居ない。

 人心まで荒れ放題でもおかしくない。


 代わりとなる者が既に派遣されてはいる筈だけど。

 或いはエーヴェル領などの周辺の領主に管理を委ねられているか。


 とにかく今向かうには最悪の土地だと言っていい。

 そこに単身で向かえというのが王命……。


「……ふ。結局、体のいい流刑に他ならないわね」


 そんな場所に1人で向かえって?

 しかも新たに魔物が氾濫する災害が予想される地域。

 それを知られれば少ない領民がますますアルフィナ領から離れていくだろう。


 知られなくても、魔物が出れば人は離れていく一方だわ。


「でも」


 気になるのは大量の魔物が発生する災害よね。

 フィオナが居るエーヴェル領はアルフィナ領の隣。


 問題が起きた時に誰も解決できる力が無いならフィオナが危険に晒されるかもしれない。


 そして私にはその厄災を防ぐ力がある……という見立てだ。


「フィオナの為に戦うのなら悪い気分じゃないわね!」

「……クリスティナ様?」


 あと魔物ってどんなのかしら?

 剣は通じるの? 私の【天与】を使わないとダメ?


 フフン! 状況は最悪だけど、なんだか興奮してきたわ。

 魔物退治の冒険なんて楽しそうじゃない。


「やっぱり私、王妃なんて柄じゃなかったのよね」


 お淑やかに繕った『外行き』の姿を捨てて、ドレスじゃなく旅の軽装に着替えて。

 腰まで伸ばした長い赤い髪を翻して、私は馬に乗った。


「あっ……」


 頬を染めて私を見上げる、名前も知らない侍女。


「あら。私に惚れた? 赤毛の猿姫、もといこれからは『傾国の悪女』とまで噂される女よ、私」

「そ、その」


 フフン。私も罪な女よね!

 これまで王妃になる為に見た目だけは気を付けていたんだから!

 美しさぐらいは備えてる筈よ!


「お、お気を付けて、クリスティナ様」

「ありがとう。さようなら。名前も知らないお嬢さん」


 ちょっと男性っぽく流し目をして挨拶をしたわ。

 それだけで侍女は更に顔を赤くした。


 フフン。学園での悪評を知らない相手なら、これぐらいの反応はさせられるわよね!



◇◆◇



「解放かーん!」


 王都を抜けて監視や好奇の目も緩まる中、私は馬を走らせた。

 馬術は教育に含まれていたし、学園でも習ったから問題ないわよ。


 貴族令嬢としてのあらゆる未来はほとんど失ったけど、その代わりに私にはこの自由と解放感が与えられたわ。


 いいじゃないの。こういうのも。

 むしろ私の性に合っているのはこっちよね!


 駆ける馬、風を切る感覚。ふふふ。快適よ!


 整えられていた石畳みの街道が途切れ、人々が時間を掛けて踏み鳴らして出来た土の道を行く。


 実質は流刑なのに意外と自由よね。

 まぁ、ただの罪人だったら、そもそも自力で移動じゃなくて街で晒し者にされた後で騎士達に引っ立てられて移動なんでしょうけど。


 いくら何でも今の私にそこまでする程の罪は問えない。

 事情を知らない民達にそんな仕打ちが知れ渡れば流石に王家への不信感が芽生えるでしょう。


 まぁ何もかも私が悪いって話に納得する人々も一定数居るかもだけど。

 学園の令嬢達ならば喜んで私のゴシップを広めるに違いない。


 私って学園での評判は最悪なのよね。

 ほら、レヴァン王子の婚約者になりたい令嬢はミリシャ以外にも沢山いたから。


 私を貶めるのに余念が無い感じだったのよ。


「ミリシャは喜ぶかしら? それとも迷惑かしら」


 私が居なくなって代わりにレヴァン王子の婚約者となり、彼と結ばれるとしたらウキウキかもしれないわね。


 私の心配? ミリシャは多分してくれないわね。


「……お父様、お母様、リカルドお兄様は」


 軽蔑の目を私に送ってくるかしら。

 あの人達ってなんで私のことあんなに疎んでいたのかしらね。


 私はもっと……仲良くして欲しかったんだけど。

 両親にだって沢山褒めて欲しかったし。


 私の心からの味方は、リンディスとフィオナぐらいのものだったわ。

 前まではレヴァン王子も……そうだったけど。今はもう味方してくれないわね。

 聖女アマネもやたらと私に酷い予言をするし。

 本当、私に何の恨みがあるのかしら?


「あら?」


 のんびり馬で街道を進んでいたらなんだか人だかりが出来ているわ?

 こんなところに関所でもあったかしら。

 それとも何か起きたの?


「ねぇ、そこの貴方。この人だかりは何?」


 私は馬上から、その場に立ち往生している男に話し掛けたわ。


「あん? お、おお……?」


 すると男は私に見惚れたように声を上げた。

 フフン! そんなに美しいかしら?

 なにせ元・王妃候補様だからね!

 元ってついちゃうけど!


「あ、その。見れば分かると思いますが……」

「うん?」


 私の姿に見惚れた男は視線を街道の先に向けて指を差す。


「あら」


 するとそこには街道を塞ぐようにして大木が横たわっていたわ。


「折れたの? あんな大木が?」

「ええ。一昨日まではあんなの無かったんですが……。何やら昨日、稲妻がこの辺りに降り注いだらしくて。それであんな大木までご覧の有様で」

「ふぅん」


 昨日ね。

 聖女アマネに言わせたら、なんだかこの事も私のせいにされてしまいそう。


『クリスティナが【天与】を授かったから大木に雷が落ちた!』とかね。


「……フン!」


 じゃあ、これは私が問題を解決しておいた方が良さそう。


「私が何とかします……ううん。私が何とかするわ!」

「へ?」


 もう『外行き』の顔はしなくて良いわよね!

 何せ私は王妃にはならないんだから!


 私は道を塞ぐように倒れた大木の側まで馬を降りて近付く。


「お、おお……?」

「な、なんだ?」

「綺麗……」


 その場に立ち往生していた商人達が私に注目したわ。


「貴方達は危ないから下がってなさい!」


 注目された私はそのまま。

 昨日、ルーナ様と相対した時の感覚を思い出して集中する。


「はぁ──」


 そうすると私の身体を光が包んでいったわ。


「えっ!?」

「こ、この光は」


【天与】の光。そして私が振るう【天与】は……『怪力』よ!


「──フン!」


 ドゴォオオンッ!! と大音量を立てながら大木を殴り付けて粉砕して見せる私。


「「「えっ……ぇえええ!?」」」


 荘厳な雰囲気から繰り出された右拳にみんな驚いたようね!

 たぶん、もっと綺麗に神々しく道が開ける光景を期待されてた気がするわ。


 実際は粉微塵になった木片が前方に吹っ飛んでったんだけどね!


「これで通れるわよ! 良かったわね!」


 私はニコヤカに笑って再び馬に乗り、そのまま街道を進んで行ったわ。


 木片の後片付け? 流石にそれは私の仕事じゃないわね!


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[一言] やっぱり、命掛けて国守る程じゃないよなぁ……って思っちゃう。 それほどの価値もなさそう
[良い点] 豪快すぎますwww
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