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38 食用薔薇と入浴

「見て、リンー! たっぷりと実の詰まった薔薇よ!」


 私は食用薔薇の試作品を持ち上げたわ!


「実の詰まった薔薇って何ですかね……」

「フフン!」


 正確には『茎』の部分が丸く太った薔薇ね!


「サボテンをイメージして試作して貰ったんだ」

「はぁ。サボテン……棘のある植物でしたか」

「そうだね。砂漠に咲いても生きていける植物だ。まぁ、流石に薔薇とは違うけれど」


 花は一輪。その茎が丸く太って食べれるイメージ。

 その茎部分はちゃんと柔らかめに出来ているわね。


「ここまで変な形にも改造できるのね!」

「うーん……。薔薇を操る、という言葉の印象からかけ離れた使い方な気がしてなりません……」


 何か問題かしら?


「ふふ。良いじゃないか。棘を生やした薔薇を背景に『悪女』と呼ばれるクリスティナもそれは美しいかもしれないけれど。……こうして畑から作物を取り上げて微笑んでいる方が彼女らしい」


 あら! カイルの言葉はなんだかムズムズするわね!


「ひとまず、サボテン薔薇に毒がないかの検査だね。……本当は長期的に見る必要があるんだけど」

「お腹を壊したりしないかが心配ね!」


 私が咲かせたんだけどね!


「……当面は持参した食料がありますから。バートン卿が納得されるまで検査して頂きたい」

「心得た。クリスティナの口に合うものを作り上げたいね」


 ふふふ。私達が食べれるモノを咲かせれるようになったら、ひとまず日々の生活は送れるようになるわ。


 食用薔薇の他に、薬草薔薇を研究して開発した後は他領に行商に出掛けるの。

 まずは……農具かしら? いつかは農地に人を招かないといけないし。

 人だけ呼んで『さぁ働け!』とは言えないものね。


「楽しいわね! 陛下と話した時、正式にこの領地を寄越せと言っておけば良かったわ!」

「……まぁ、それは難しかったと思いますけど、この有様を見るとそうですね」


 こうして好き勝手に出来ているのは、このアルフィナの領民がまったく居ないからだもの。


「食用薔薇を咲かせた次は……何をしようかしら? ふふふ」


 まだ屋敷の掃除も大変だからね。


「お嬢様。布を消費してもよろしいですか?」

「布?」

「はい。雑巾が足りませんので」

「良いわ! セシリアに任せるわよ!」

「ありがとうございます。もう少し時間を頂ければ……お風呂を整える事が出来るかと」

「お風呂?」


 セシリアったら、まずお風呂の掃除をしていたの?


「……まずお嬢様の健康と美容を第一に考えさせて頂きます」

「ええ? それは嬉しいけれど、この状況よ? 優先順位を間違えてはいけないわ、セシリア」

「間違えてはおりません」


 あら。セシリアはやっぱり意思の強い子ね!


「というより、この状況だからこそ、真っ先にお風呂を整えるべきと考えています。食事に関しては既に着手されていますので」

「そうなの?」

「はい。……清潔さを保つ事は、人の活力に繋がりますから。健康面においても効果は高いですし。特にお嬢様。現状ですと、お嬢様が倒れる事は私達の全滅を意味します」


 うん。それはリンディスもカイルも同じ意見みたいね。

 でも5人しか居ないのだから誰が倒れても苦しいわよ。


「またお嬢様が綺麗でいて下さると……男性陣のやる気が増します」

「そうなの?」


 私はくるっと振り向いてカイルやリンディスを見たわ。


「そうだね。クリスティナに元気が無いと僕は辛い気持ちになるかもしれない」

「……まぁ、そうですね。若干、セシリアさんの言葉の含みとはズレている気がしますが……。まずお嬢に充足していただく事は、私の望みでもあります」


 リンディスったら私より私の身の回りを気にしているものね!


「お嬢の健康が守られ続ける事は……そうですね。聖女への当てつけ? 見返しになりますから。お風呂にもしっかり入って頂きます。人前に出る時に備えてドレスも用意させますからね」


 ええ?


「流石に今ドレスは要らないわ!」

「……それは弁えていますが」

「うん。リンディス殿の意見は分かるな。何も煌びやかなドレスじゃなくて良いんだ。むしろ質素な素材を用いたドレスが良いかもしれない。『贅沢をしていないながらも気品が溢れている』と人に思わせるべきと思わないか?」

「……バートン卿は話が分かりますね」

「僕も貴族ではないとはいえ、多少は心得があるからね」


 何かカイルとリンディスが仲良しになり始めたわ??


「質素な生地ながら薔薇をあしらう事で見目を整えつつ、清貧を印象づける狙いですね?」

「そうだ。どう足掻いてもこの現状なのは変わりないのだから、下手に華美な宝石など身に付けると逆効果だからね。……それは最終段階だろう?」

「なるほど。徐々に裕福になっていき、最終的には宝石を纏って完成させて人々を圧倒する……良いプランです、バートン卿」


 リンディスが何かヒートアップしているわ??


「……そういう事ですので、お嬢様にはお風呂に入る義務があります」

「義務なの??」


 それはおかしくないかしら?

 権利ではないの?


 セシリア達との現状認識がいまいち合わないわね!


 それからセシリアのお風呂掃除にやたらと協力的になったカイルとリンディスが、せっせと準備を整えていったわ。


 幸いにして浴槽がひび割れているとか壊されていることもなくて、掃除してしまえば使えるお風呂が完成したわね。


「ここって領主の部屋かしら?」

「そのようですね。最も荒らされていた場所ですが……金銭や宝石の類は初めに前領主に持ち去られたのでしょう」

「そう」


 資料類とかは比較的に残っていたのが幸いね。

 冬が訪れた時の領地の様子も知っておきたいし。


 アルフィナには雪は降るのかしら?

 魔物がいなくても問題は沢山ある。

 嵐は毎年起きていたワケではないらしいけれど……その対策はなかったのかしら。


「やらなくちゃいけない事がいっぱいありそうね!」

「はい。ですが、まず身近なところからですよ、お嬢様」

「分かったわ!」


 セシリアが甲斐甲斐しく、私の入浴準備を整えてくれる。

 覗き対策に部屋の外で番もしてくれるらしいけれど。


 ここに居るのって、リンディスとカイル、ヨナだけだから必要無いと思うわ?


「ふふふ。セシリアを雇えたのは幸運だったわ!」

「……勿体ないお言葉です」

「私、セシリアには感謝しているのよ。きっと貴方が居るのと居ないのでは、大きく違っていたもの」


 同じ女の子が傍に居る事は大きいのよね!

 フィオナでもきっとそう言うわ!


 私は綺麗に整えられた湯船に浸かりながら、扉の向こうのセシリアに話しかける。


「セシリアが石鹸を買っていたのは、この為なのね!」

「……ここまで領地が荒れているのは想定外でしたが。必要なものと判断しました」

「ふふふ。ありがとう、セシリア!」


 私は上機嫌で泡まみれになる。

 リンディスが見たら『はしたない』と言うかしらね。


「……感謝しているのは私の方ですから。今の兄さんは家に居た時より、ずっと楽しそうです」

「ふふふ。それだってセシリアが頑張ったからなんだから!」


 カイルを思い止まらせるよう隠れて私を守ってくれてたんだもの。


「……このまま平和に暮らしていけると良いですね」

「そうね!」


 魔物が出たらぶっ飛ばしてあげるけどね!


 それから、ゆっくりとお風呂に入った私を見て……何故かリンディスとカイルが頷き合っていたわ??


 よく分からないけど、2人の仲が良くなって私も嬉しいわね!


読んで頂きありがとうございます。

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