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34 拠点作り

「じゃあ。まず何から始めようかしら!」


 ひとまず領主の屋敷の庭に出てから私は4人の仲間達を見渡したわ。

 今、この領地で確認できる民は0人。


 だから、ここには私を含めた5人と馬が3頭しか居ないの。 


「……はい。お嬢様」


 セシリアが挙手をするわ。


「はい! セシリア!」


 私はセシリアを指差して、その意見を聞くわね。


「……お掃除をしましょう」

「掃除?」

「はい」

「この領主の屋敷をかしら」

「そうです」


 私は振り返って屋敷を見上げたわ。

 屋敷は2階建ての木造。


 一部の部屋が焼けて壊れてるけど、全焼まではしてないわね。

 屋敷の周りは庭のスペースがあって、そこに馬小屋もあったわ。


 それから屋敷を取り囲む外壁ね。

 外壁は嵐で崩れたのではなく、人の手によって壊された様子よ。

 外門は根っこから破られてるわね!


「片付けることは良いけど」

「けど?」

「ここを片付けても先の生活が続かないわ」


 私達が運び込めた当面の食糧はあるけれど。

 その先が続かない。

 まず食べる物を確保できる道筋を作らないと私達が飢えてしまうわ。


「……それもそうですね」

「うーん。じゃあ次は僕の案」

「はい! カイル!」


 今度はカイルを指差すわ。

 リンディスが『お嬢、はしたない』とか言っているけど気にしないわよ!


「まず薔薇の農園を整備しよう」

「薔薇の……農園?」

「クリスティナの薔薇を薬草化して、領地復興の資金にする……というのは良いアイデアだけど。このアルフィナは明らかにそれ以前の問題だ」


 うんうん。


「だから、まず当面の『食糧』に出来る薔薇を開発しよう。つまり野菜薔薇だね」

「野菜薔薇!」


 それって栄養あるのかしら?


「まぁ、急成長で咲かせて、棘なしに出来て、蔓の密度も上げられるワケですから」

「……食べ応えのある草には出来そうですね」

「味が怖い気もするよ」

「うん。だからまずは食用に足る実りを。そして、その毒性の点検を。最後に味の吟味だね」


 それは、ちょっと楽しそうね!


「栄養は?」

「……贅沢は言ってられないかな。吐く程じゃなければ栄養にはなる筈。そもそも栄養にすらならないなら薬草や毒草にもし難いだろう。逆にそれらが出来るなら」

「食用薔薇にも出来る筈、と」


 要するに食べ応えのある薬草みたいなイメージで咲かせれば良いのね!


「良いわね! 手始めにまず野菜薔薇の農園作りよ!」

「あ、あのぉ」

「はい! ヨナ!」


 次にヨナを指差すわ。


「魔物が大量発生するっていう話じゃなかったの? お姉ちゃん」

「……そうね!」


 でもここまで、まだ魔物は見てないわね!


「夜型の魔物が居たなら道中で襲われていた気がしますが……」

「まだ未発生なだけかもしれないな。……実は聖女の虚言で、クリスティナを貶めたかっただけかもしれないけど。魔物が出なかろうと、この有様は酷いだろう」


 それはどっちにしても最悪ね!


「たしかに。普通の令嬢だったら、これだけで泣き暮れていますよ。相手はお嬢ですが」

「そうだね。もしかしたら、そうやって追い詰める事が目的だったのかも。相手はクリスティナだったけど」


 何か含みがある言い方ね!

 とっても失礼な気配がするわ!


「……薔薇農園でしたら、わざわざ本来の畑を用いずとも、この領主の屋敷の庭には十分な広さがあります。薔薇の成長速度と合わせて、5人分を賄う程度ならそこで十分かと。それに」


 セシリアの意見ね。


「それに?」

「……この屋敷の外壁は崩れていますが、それでもこの領地で最もしっかりとした壁に囲われています」


 うんうん。


「魔物の襲撃を懸念する場合、補修が出来るならば、ここが1番拠点に相応しい、と?」

「……はい、兄さん。外には井戸もありました。アルフィナの中央を流れる川もそう遠くありません」


 ふぅん。領主の屋敷だけあって立地や建物は十分に立派なのね!


「分かったわ。じゃあ、まずは外壁の補修! それから食用薔薇の畑を作って……領主の屋敷の大掃除よ! それと」

「それと?」


 私は息を吸って。


「この領地、当面のお金は要らなそうだから今ある資金で必要なモノを買うわ! 生活しながら必要な品の購入リストを作る事! 買い出しだけど、大きな移動はしばらく5人チームでするわ! 魔物の襲撃もあるかもしれないからね!」


 当面の方針として打ち出した指示に皆は頷いてくれたわ!



◇◆◇



 ひとまず私は外壁の補修の担当ね。

 リンディスと一緒よ。


 カイルとセシリア、ヨナは井戸水の確認から畑候補の見繕いね。


「お嬢。まず崩れた外壁の外側に防壁となる薔薇を咲かせてください」

「ええ。浄化薔薇を咲かせる?」

「……直接的に魔物と戦う時は良いのですが、平時では逆に『光』が魔物を呼び寄せてしまうかもしれません」


 たしかにそうね!


「まずは丈夫な薔薇を。棘付きで」

「分かったわ! 薔薇よ!」


 固くて、丈夫で、太い、皆を守ってくれる薔薇の蔓ね!


「……これ。聖女は『怪力』にだけ目覚めたお嬢を見て、何を考えてこの地に送り込んだんでしょうね」

「知らないわ!」

「薔薇の【天与】に目覚めたから良いものを。そうでなければ拠点作りすらままならず、休む間もなく……」


 怪力だけなら私、体力切れで死んでたかもね!

 ……聖女ってホントに未来が視えているのかしら?


「それか、お嬢のことを大量の魔物相手でも無限に体力と戦闘意欲が続くバケモノか何かだと見ていたとか」

「……もう一度ぶん殴りに行くわ!」


 もしそうだったならね!

 流石の聖女もそんな事はないわよね?


「お嬢、次はあちらです。流石の暴徒もそう全ての壁を壊したりはしなかったようですね」

「ええ!」


 壁が崩れてる場所は2箇所だけよ。


「壁を直した後は門なのですが……」

「うん」


 リンディスが何かを考え込んでいるわね。


「お嬢。繋がりを切らないままの薔薇は、維持するのが大変ですか?」

「うん?」

「いえ。いっそのこと薔薇で屋敷の外周を囲ってしまえば良いかと」


 薔薇で外周を?


「出られなくなるじゃないの!」

「はい。ですから外に出る場合はお嬢の許可を貰ってから出るのです」


 んー……。出来なくはないのかしら?


「まぁ、幸い魔物の存在をまだ確認していないですからね」

「そうね」

「……最悪、この屋敷に立て籠れるようにしておき、内部で自活できる仕組みを整えておけば……ですが救援の見込みはありませんでしたか」

「そうね。きっとここまで助けは来ないわ」


 だったらどうしようかしら?


「……罠を作っておく?」

「罠ですか」

「エルトは魔物相手に騎士道精神は無用だって言ったわ。何をしてでも皆で生き残るの」


 あと罠を作るのってなんだか楽しそうよね!


「ふふ。お嬢が楽しまれているなら良いでしょう。お嬢の【天与】なら即興で作れる罠も色々とありそうですしね」


 うんうん。


「あとね、リン」

「はい、お嬢」

「私、抜け道を作っておきたいわ!」

「抜け道ですか?」

「ええ! 王城にも、もしもの際の抜け道がいくつかあるそうよ!」

「……お嬢、それ他言無用ですからね?」

「知ってるわ!」


 でも抜け道なんて楽しそうよね!


「籠城と罠、それに抜け道ですか。何の戦争準備なんですかね」

「楽しいわね、リン! こんなの王妃になってたら体験出来なかったわよ!」


 私はワクワクしながら笑ったわ。


「……お嬢。ええ、そうですね。楽しみながら生き残るとしましょう」

「ええ! そうするわ!」


 フフン! どんな魔物が出て来るのかしら? 返り討ちにしてあげるわよ!


いつもありがとうございます。

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