33 捨てられた地
3章 領地経営編スタート
「フンッ!」
まずは領地の境目の街道に倒されていた大木を『怪力』の【天与】で、ぶん殴って粉砕したわ!
「く、クリスティナ?」
「うん?」
幼馴染のお医者さんであるカイルは、私が大木を粉砕した姿に驚いているわね!
「そ、それが君の【天与】なのかい?」
「フフン! そうよ!」
私は胸を張ったわ!
「……君、ギルドで話しかけただけの僕に問答無用で殴り掛かって来なかった? 今の光る拳で」
「殴り掛かったわ!」
あの時はナンパか何かと思ったし!
でもカイルには何だか不思議な? 押さえ込み方をされたのよね!
「……うーん」
「兄さん。よくぞご無事で」
「いや、殴られてはないけどね」
殴れてないわね!
「まぁ、可愛いから良いか」
「……兄さん?」
「バートン卿?」
フフン! 可愛いですって!
言われ慣れてないわね!
カイルも微笑んでいるしね!
「セシリアさん。もしかして兄君は天然な所がおありで?」
「……否定はしません」
あら。リンディスとセシリアが内緒話よ。
やっぱり仲が良いのは本当なのね!
「とにかくアルフィナに向かうわよ!」
私は馬に乗り直して、とうとうアルフィナ領へと入ったわ。
ここまでけっこう長かったわね!
「……嵐の災害に見舞われたと聞きましたが、木々は折れていませんね」
「ええ」
やっぱりあの大木は切り倒されたのかしらね。
「魔物というより、ただの野性の獣が棲みついていそうな森ですね」
「じゃあ狩りをすれば食べていけるかしら?」
「うーん。領地境ですからねぇ」
ここまで来るのがしんどいかしらね。
「とはいえ、流石に森を切り開く必要までは無いようです」
「元々は、ちゃんとした道があるんだから。ここって前からそんなに嵐が起こる場所だったの?」
「そのような話は聞きませんね」
じゃあ、たまたま起きてしまった災害に巻き込まれてしまったのね。
「あっ」
「ん?」
ヨナが馬車から顔を出して声を上げたわ。
「どうしたんです、ヨナ」
「あっちに小さな、たぶん兎が逃げていったよ」
「野兎ですか」
「捕まえる?」
「いえ。今は良いでしょう」
「そう」
狩りをして飢えを凌ごうとする人は居ないのかしら。
ここまで来たなら他領へ避難するのかしら。
そうして私達はしばらく街道を進んで行ったわ。
その間、誰ともすれ違わなかったわね。
やがて見えて来たのは。
「村かしら」
領地の端の村ね。
木材による柵で囲われている。
ただし。
「村の周囲を覆う柵が壊れたまま修繕されてないね」
「人手が足りず手が回らなくて困っているか。或いは」
或いは。
私達は、まずその村へ入っていったわ。
「……人が居ないね」
「野盗に襲われ、アジトにされて、という事もなさそうです」
「家屋が倒壊している場所もありますね。嵐の被害がこんな領地の端にまであったようです」
村は荒れていたわ。そして裳抜けの殻だったの。
「それでも屋根があるのですから。元の住人でないにせよ、誰かが使っているかも」
「そうね」
でも探してみたけれど誰も居ないようだわ?
「ひとまず良かったわね!」
「良かった?」
「災害でなくなった人達の遺体とか、魔物に襲われた跡とか、そういう痕跡は見当たらなかったもの。つまり災害前に避難を終える事が出来ていたって事よ!」
なら、いつかは帰って来るかもしれないわ!
「うん……」
「何?」
カイルが悩ましげに村の全景を見ているわ。
「領内から外へと避難した場合、きっとこの村の近くを通った事だろう。……ここは、しばらく盗賊のような者達が根城にしていたんじゃないかな」
「どうしてそう思うの?」
「うん。あまり農作業に従事する者が、最後に暮らしていた雰囲気じゃないから。……使えそうな農具が見当たらないんだ。もちろん錆びていたりとか、そういうものは残されているんだが」
農具!
「つまり?」
「……金目の物は根こそぎ奪われている。人が帰って来るだけでは、この村はやっていけないだろう」
「……そう」
そういう事にも目を向けなきゃいけないわね。
「街の壁だけでも修繕していく?」
「どうやって……」
「勿論、薔薇でよ」
「うーん」
「むしろ邪魔になるかしら?」
「……いや。暫定で良いから壁だけでも修繕しておくのは良いだろう。いずれ、ここに帰って来る者や利用する者が助かる」
じゃあ、村の柵の修繕ね!
私は薔薇を操って、折れた木材をどかせる。
そして間に咲かせる薔薇は……そうね。
いずれ除去するかもしれない事を考えて、木材並の強度は欲しいわ?
「折れていた木材を支柱にして薔薇を巻き付けては如何でしょうか、お嬢様」
「それね!」
それから倒壊していた家屋をある程度片付けて。
「屋根って分解しておいた方が良い?」
「廃材を可能な限りまとめておくと良いでしょう」
ふふ。便利ね、薔薇の【天与】って。
重い物を持ち上げたり、運んだり出来るわ。
「あとは」
「各建物の補強もしておくかい? ただ忘れてはいけないよ、クリスティナ」
「なぁに、カイル」
「君から切り離した薔薇が、ただの植物になる事。そうしたらいつかは枯れたりするかもしれない。その薔薇で建物を支え続ける事は出来ない」
「分かったわ!」
一応、周辺の柵には根付かせてあるけど。
「……まぁ、外壁はアレで良いとも思う。しばらくはね」
いつか、ちゃんとした修繕をしないとね!
そうして、奥へ奥へ。
アルフィナ領を進んで行くわ。
それまでにもいくつかの村を見てきた。
街と呼べるような規模の集落は無いみたいね。
「ふぅ……そろそろ休みますか? お嬢」
「そうね。野営にする? それとも」
私は顔を上げて人気を感じない集落を見た。
「建物が倒壊したりするかもしれませんし。村に入ってみるのは明日にしましょう」
「じゃあ野営ね! ふふふ!」
さすがにもう野営にも慣れたものよ!
王都を出てから……もう一ヶ月は過ぎたかしら?
「ここまで色々とあったわね、リン」
「……そうですねぇ」
「婚約を解消された事とか予言は思うところがあったけど。でも、悪くない旅だったわ!」
「お嬢……」
ヨナを助けられたし。
カイルとも再会出来たしね!
「明日には領主の屋敷を目指しましょう」
「うん!」
寂れた村の外で夜を明かし、そうして朝よ。
「あの村も調べて行きますか?」
「そうね。でも通り過ぎるぐらいにしておきましょう」
領主の屋敷は、アルフィナ領で1番大きな平地に建てられているそうよ。
まずは挨拶……と本来はなるのだけど、前の領主は居なくなってるからね。
「……この村にも人が居ないね」
「ちゃんと避難出来たのかしら?」
家を捨てて避難するのだって、民には大変な決断よ。
もちろん、それで被災してしまうよりはマシかもだけど。
そう簡単に故郷を捨てる決断なんて出来ないわよね。
相変わらずお金や必要な農具などは綺麗になし。
復興を考えるなら、荒れた田畑を再興させる必要があるのに、ここには何もかもが無い。
あるのは荒れ果てた土地だけね。
「……お嬢。おそらくアレが……領主の屋敷なのですが」
「……酷いわね」
見た目からして酷い有様だったわ。
外壁は崩れ、屋敷の一部は焼けて壊れている。
窓ガラスはいくつか割れていて。
「……アレは人に襲われたのでしょうね」
「嵐じゃなくて?」
「はい。やはり領主が逃亡した事で残った民の怒りを買ったのでしょう」
「そう」
まだ人が残っていたら、きっと私も怒られちゃうわね!
私達は領主の屋敷へ入ったわ。
外壁は崩されていたし、門も壊れていたわね。
「失礼するわ! 私はマリウス侯爵家の長女、クリスティナ・マリウス・リュミエット! 誰かここに居るかしら!?」
屋敷に入った私は、大声を出して屋敷中に聞こえるようにしたわ。
……でもね。
「返事は無いわね」
「はい」
「つまり、ねぇ、リン」
「……はい」
私は、ふぅと息を吐いてから続ける。
「この領地には領主はおろか、民の1人も残っていないのね?」
「………………そのようです」
守るべき民がそもそも居なかった事で、懸念していた事のいくつかは杞憂に終わったわ。
「領主も居ない。お金も無い。人も居ない。農具も無い。荒れた田畑に崩れた建物。そして……やがて魔物が蔓延る土地ね」
ゼロどころかマイナスなスタートの領地経営よ。
「……やってやろうじゃないの!」
例え、ここが私の流刑地だったとしても。
だったら、このアルフィナを私が住みやすい快適な土地に変えてやるんだからね!
良ければブクマ・評価お願いします。




