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30 薔薇売りの4人旅

「んー、んっ」


 私は馬で街道を移動しながら、手の平で何度も薔薇を咲かせたり、萎れさせたりしたわ。


「こう、こうね」


 咲かせた薔薇と私には繋がりが出来ている。

 その繋がりを切り離すと、そこから薔薇はただの植物になるわ。

 今、髪飾りや服の装飾に使っているのが繋がりを切った薔薇ね。


「セシリア。貴方のお兄様はいつ私に会いに来るの?」

「……それは私には分かりません」

「そう! でも楽しみね!」


 彼、どんな風に成長したのかしらね。


「お嬢? 再会を祝いに会いに来るんじゃないですよ、彼は。お嬢を暗殺に来るのですからね?」

「知ってるわ!」


 フフン! そんな事は分かってるんだから!


「はぁ……」


 リンディスが失礼な溜め息を吐いているわね!


「それよりもリン! 見てなさい!」

「はい」


 私は薔薇の蔓を太く柔らかく、しなやかに伸ばしたわ。

 今回は花がオマケよ。そして手頃な太さにした蔓を右手で掴んだの。


「薔薇の鞭……ローズウィップよ!」


 自由自在にしなるし、伸びる武器よ! 剣を蔓先で掴んで操ったりも出来るわね!


「おお……。令嬢なのに武器……パワー系じゃないから良いですかね、もう」

「フフン!」

「リンディスさん、お気をたしかに」


 何故かリンディスが遠い目をしてヨナが慰めているわね!


 私達は、街に着く度に拵えておいた色取り取りの花色をした薔薇を売って旅を続けたわ。

 それで4人分の必要な品を買い足して行く資金は何とか賄えているわね!


 やっぱり元手が掛かっていないから負担が少ないと思うわ。

 それにヘルゼン子爵から食糧を分けて貰えた事がかなり大きかったわね!


「やっぱり食べ物を買うお金が困り物なのね」

「そうですね。野山で狩りをしても良いのですが……。街に近い狩場となると当然その土地にそれを糧とする者達が住んでいます」


 うんうん。


「彼らと獲物の取り合いにならないようにするには森の奥へと進む必要がありますから……。それに慣れた方が良いというお嬢の意見も分かりますが、それではアルフィナへ着くのがますます遅くなります」

「……それは良くないわね!」

「はい」


 アルフィナへの旅程はかなり大詰めよ。


「幸い、魔物の進軍がここまで来たなんて話は聞かないわね。聖女の予言なのだから、まだ起きていない災害かもしれないし」

「はい。そうなると……お嬢は尚のこと、早々にアルフィナへと赴き、浄化の薔薇を咲かせてしまうべき……なのですが」


 うん? リンディスは何を迷っているのかしら?


「……リンディス様は何を懸念しておられですか」


 セシリアが落ち着いた声色で尋ねたわ。

 彼女ももう慣れたものね!


「……お嬢は既に『何もしていない立場』から『未来の罪』で流刑に処されました」

「そうね」

「お嬢の浄化薔薇は有効かもしれません。危機に陥るアルフィナを救う手立てとなる事でしょう」

「うんうん」


 それでこそ【天与】よね!

 民を救ってこそだわ!


「……ただ」

「ただ?」

「アルフィナで浄化薔薇を咲かせる。お嬢は流石に領地全域に一気に薔薇を咲かせられないでしょう?」

「そうね! 目に見える範囲程度だわ!」


 見えないところまで伸ばせるのかしら?


「すると、お嬢の居ない場所から魔物が湧く懸念が残ります。……印象としてです。薔薇が先か、魔物が先か」

「……なるほど」

「えっと?」

「んー」


 つまりアレよね。

 また聖女に因縁を付けられるかもって事よね!


「私の薔薇のせいで魔物が湧いたと思われるし、そう決め付けられるって事ね?」

「……はい。民を苦しめない事が最善とはいえ、事前に魔物の予防をするのは……きっと予言の聖女アマネと『聖守護』のルーナ嬢がやるべき事でしょう」


 リンディスの言っている事は理解できるわ。

 私だって王妃候補だったんですもの。

 綺麗事だけじゃ食べていけないのだものね!


「じゃあどうするべきだとリンは思うの?」

「……薔薇のシェルターを作るべきです」

「しぇるたー?」


 私は首を傾げたわ。


「アルフィナに残された民を守る安全地帯を作って貰います。……浄化薔薇はそこにだけ咲かせ、魔物の脅威を民に痛感して貰った所を……『怪力』の【天与】などを用いて連中を蹴散らし、英雄としてお嬢を見せます」


 んー……。理屈は分かるけど。


「どの道、我々には『大地の傷』なるモノが確かな元凶か分かりませんし、その存在も認識していません。なにせ邪教徒の伝承なんですし」

「それはそうね!」


 情報元はそうだったわね!


「ですので民を守るシェルター、薔薇の防壁を持った安全地帯を作っていく方針で当面は……問題なく、やれそうなのですが」

「……まだ何か?」

「いえ。薔薇って目立つんですよね」

「?」


 だから何かしら。


「薔薇の目印を付けた所に魔物がやって来たなどと噂をされる可能性もあるなぁ、と」

「それじゃ何にもできないじゃないの!」


 それじゃきっとダメだわ!


「はい。そうなんですが……んー。いっそのこと『怪力』でひたすら魔物を屠り続けて貰った方が変な言い掛かりを付けられないような」

「それね!」


 それなら疑われようがないわ!


「しかし。一騎当千と噂される令嬢とは……? 嫁の貰い手が……ただでさえ王子から婚約破棄をされて立場が危うく……くぅ」


 リンディスが心配するところなのかしら!


「……どの道、アルフィナの現状を確認してからでないと結論は出ないかと」

「それもそうね!」


 とにかく私達は急いでアルフィナ領まで着く事が大事よね!



◇◆◇



「この街は活気があるわね?」

「いえ、これは……活気というか。単純に人が多いのでは?」


 ホントね!

 そんなに賑わう町なのね!


「……おそらくアルフィナからの避難民を受け入れているのでしょう。そもそもアルフィナでは嵐の災害が起きた事で、他領へ逃れた民が多く居たのです」

「ああ、なるほど」


 じゃあ、ここに居る人々の中にはアルフィナ出身者がいるかもしれないのね。

 話を聞いてみたいところだわ!


「お嬢様。そろそろ花を商品にするのは、そぐわない地域となりました」

「……ええ!」


 そうすると私達の生活や旅費が苦しくなるのよね!

 少なくとも薔薇の値段はかなり下げなきゃいけないわ!


「よりアルフィナに近い街へと向かい、魔物の討伐などで生活が賄えないか探ると良いでしょう。領地の様子も探りやすくなるかと。それに」

「それに?」

「……ハンターギルドでは、野盗に堕ちた者達の捕縛を請け負っていたりもします。街の治安は衛兵が守るものですが……やはり手が回らなくなる場合もございますから」

「そう」


 被災地付近で野盗に堕ちているという事は、かなりの確率で元アルフィナの民が生活に困窮してやむなくそうしていると予想されるわね。


「……分かったわ! そうしましょう」


 王都の近くでただ女を攫おうとしてた男達や、雇われてセシリアを追いかけていた男達とは事情が変わってくるわよね!



 ◇◆◇



「ハンターギルド、また来たわね」


 建物の外観的にはそこまで立派ではないわ。


「賑わっているようですよ」

「良い話かしら、悪い話かしら」

「……彼らにも生活がありますからね」


 どちらとも言えないワケね!


「魔物の討伐依頼は出ている?」

「ん……。ありますね。アルフィナに入っていないのに、けっこう」

「……そう」


 ここで依頼を受けて楽しく魔物狩りと言いたい所だけど。


「どの地域で、どんな魔物が出ていたかの話を集めたいわね。魔物はアルフィナから来てるのか、それともこの地方のものなのか」


 とにかく情報収集よ!


「……お嬢様。リンディス様と共に買い出しに出て良いでしょうか。1人で行けと言われればそうしますが」

「私はいいけど、リンは」

「……まだ流石に。警戒はさせて頂きます。早く彼から話し合いの場を設けて貰えれば良いのですが」


 リンディスはまだセシリアの事を疑ってるから1人にさせたくないのよね!


「では、必要な物を買いに」

「……お嬢も変な輩に絡まれないでくださいよ」

「大丈夫よ! 絡まれたらぶん殴っておくわ!」

「……ヨナ。お嬢のフォローを頼みましたよ」

「は、はい! やってみせます!」


 どうして私から目を逸らしてヨナに全てを託すような態度なのかしら!

 リンディスったら失礼ね!


 それからヨナと2人になった私達はひとまずハンターギルドに出ている依頼と、その地域の確認から入ったわ。


 その後でギルドの職員や、ギルド会員に話を聞いて。

 ナンパしてきた男をぶん殴って。

 ヨナを馬鹿にした男を蹴り倒して。


 私とヨナはテーブルに付いたの。


「んー。アルフィナから来てるかもしれない魔物はいるわね」

「そうだね」


 やっぱり、もう魔物がたくさん湧いているのかしら。


「お姉ちゃん。僕も役に立つよ」

「ヨナが?」

「うん。リンディスさんに魔術を教わって……火を放つ魔術が使えるようになったんだ」

「そうなの!? 凄いわね!」


 火の魔術ですって! とっても便利そう!


「えへへ。僕は筋が良いんだって、リンディスさんが」

「さすがは魔王になれる男ね!」

「魔王になんてならないよ……」

「フフン! 私も悪女にならないわ!」


 とにかく今はアルフィナよね!


「──失礼。お嬢さん。同じ席に座っても良いかな?」


 何よ。またナンパかしら?

 とりあえずぶん殴るわね!


「フンッ!」

「おっと」


 椅子に座っている状態から振り向き様に声を掛けた男を殴ろうとしたわ。


 ……でも肩の付け根を押さえられて、私はストンと椅子に押し付けられてしまったの。


「あら?」


 男は、そんなに力尽くではなかったわ。

 なのにただ抗えなくて、力を出し切れなかったのよ。


「落ち着いて。僕は君と話がしたいだけだから」


 そこに立っていたのは……黒髪に黒い瞳をした青年だったわ。


「あーーーっ!! 貴方じゃないの!」


 私は大声を上げて、そこに立つ『幼馴染』を指差したのよ。



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