26 薔薇の馬車
「フフン! ねぇ見て! リン、ヨナ!」
私は馬の上から馬車の2人に話しかけたわ。
「ん……。あ、お姉ちゃん、綺麗」
「フフン! そうでしょう!」
もっと褒めていいわよ!
「薔薇の装飾、髪飾りですか」
「ええ! いくらでも生やせるし、大きさも自在っぽいわ!」
髪に差す薔薇の花飾りを【天与】で作ってみたの。
片側にだけ飾り付けるのがポイントね!
「服にも付いてるよ」
「本当ですね」
そう。薔薇の装飾として大きさも自在。
それを良い形に揃えてみたわ。
「これなら、ちょっとした服さえあればいつでも豪華っぽいドレスに仕立てられるわね!」
私は馬の上で胸を張ったわ。
「そうですね。緊急の際にはそれでまかなうと良いでしょう。……ドレスを持たないお嬢を招いて陥れようとする貴族令嬢が居たら、その薔薇のドレスで一泡ふかせてやれそうです。ふふふ……」
「り、リンディスさん?」
フフン! 褒めてるのかしら!?
「お嬢を陥れようとする敵は赦しませんので。ヨナも良いですか? これは常識です」
「えっ」
リンディスはいつもヨナの魔術や勉強の面倒を見てくれてるの。
偉いわね!
……私の王妃教育の時もそうしてくれてよかったんじゃないかしら!
「薔薇の【天与】で他には何か出来そうですか、お嬢?」
「んー」
服に生やしたりして薔薇の装飾にする事は出来たわ。
あとは蔓を自在に伸ばして操り、人や魔物を拘束したり。
それから武器として敵を貫く事も出来るわね。
薔薇の蔓の強度も中々。
でも、これはある程度は変えられるっぽいわね!
「薔薇の蔓で重い物を運んだり引っ張ったり出来そうだわ!」
「何故そんなパワー方面に進むんですか……。もっと、こう……薔薇の魔術って搦手というか、間接的な方向性じゃないんですか?」
「何よ!」
じゃあどういうのが良いのよ!
「浄化は? 自在に出来そうですか?」
「出来るわ!」
私は服の袖から伸ばした蔓の先に薔薇を咲かせる。
そして浄化の光を灯したわ。
「おお……」
「綺麗……」
「暗い時は灯りになるわね!」
「まぁ、確かにそっち方面でも便利そうですが」
「フフン!」
でも、この浄化の光はあんまり長続きしないのよね。
「強く光らせる時は、あんまり長く続かないわ」
「そうですか。私達は『大地の傷』とやらまで確認していませんが……継続的な癒しが必要になるかは未知数ですね」
「そうね!」
でも。
ルーナ様が『救国の乙女』となって国内を巡るのであれば。
それは『一度の訪問の浄化で、一つの地域を癒し切れる』って事じゃないかしら?
……まぁ、それも聖女の予言を元にした考察に過ぎないんだけど!
「淡い光を発し続ける事は出来ますか? 浄化の継続性を重視した薔薇です」
「やってみるわ!」
光の出力を弱めて、持続的な光を発する薔薇をイメージして咲かせる。
「……こうかしら?」
淡い光を放つ薔薇。出来るわね!
「良いですね。その2種類の薔薇があれば、きっとアルフィナの魔物災害をかなり抑える事が出来ますよ。あとはその持続力の確認と、それによるお嬢への負担がどれぐらいかですね」
うんうん。今のところ私には問題ないわよ!
「じゃあ馬車に咲かせておくわ!」
私は幌馬車の幌部分の外側に薔薇の装飾を付けたわ。
淡く光り続けるタイプの浄化薔薇ね!
「けっこう綺麗よ!」
「あとで馬車を停めた時に拝見させていただきます」
「フフン!」
あとは何が出来るかしら?
薔薇を咲かせて操る【天与】で。
浄化みたいに薔薇に特性や性質を持たせる事ができる?
じゃあ……毒、とか?
「毒の薔薇とか咲かせられそうね!」
「……あー。確かに、そちらの方が薔薇の『天与』っぽいですが。ですがお嬢」
「なぁに?」
「毒の扱いは慣れた者でなければ身を滅ぼします。毒を作るというのなら……先に薬を作れるようになって下さい」
「薬ね!」
毒と薬は紙一重だものね!
「アルフィナで私が居なくても栽培できる薔薇を開発するのはどうかしら!? 薬の原料が作れるなら領地の復興にも役立つわよ!」
「…………もし出来るなら、それは素晴らしい考えです」
「フフン!」
【天与】は降って湧いたモノだし。
いつか勝手に消えてしまう力かもしれない。
なら栽培によって残したり、増やしたり出来るモノを作っておくのがいいわよね!
「そうしたら薬や毒の専門家を雇いたいですね。やはり専門知識がある方が居ると心強い。お嬢の【天与】と組み合わされば、かなりの……様々な成果が見込めますよ」
「フフン!」
楽しくなってきたわね!
薔薇の品種改良で領地復興大作戦よ!
「あ、色も変えられるかもしれないわ! それなら薬や毒を扱うよりも簡単かも!」
「おお。あくまで花ですからね。色鮮やかな薔薇となれば、それだけで売り物になります。……アルフィナに着くまで、そちらを売りながら移動しますか?」
それって楽しそうだわ!
「行商人みたいね!」
「間違いありませんね。ただ花を買うのはやはり余裕のある民でしょうから。被災地にあってはそう簡単に売れる品ではないでしょう」
「そうね!」
アルフィナの正確な現状を知りたいわね、
民がお腹を空かせてるのに沢山の薔薇なんて持ち込んでも反感を買うだけだもの。
「あとは売り物にするなら……やはり、しばらく経過観察をしてから人に害を及ぼさないか見ませんとね。自然に咲いた花ではありませんし、ひとまずは3日ほど私達の手元で保管してみましょう」
「分かったわ!」
そうして色々な事を話しながら私達3人は旅を続けていったの。
ヨナはリンディスに魔術と教養を教わって、私は薔薇の品種改良……【天与】で何が出来るかの研究よ。
次の街に寄った時には管轄の商業ギルドへ顔を出して、薔薇売りの許可をリンディスが手配してくれたわ。
【貴族の証明】を持っていたお陰で割とすんなり許可が下りたわね!
「フフン!」
私は胸を張って薔薇で着飾ったドレスを見せる。
表通りではあるものの端っこの方。
他の店の邪魔にならないけど、集客はあまり見込めない場所に馬車を陣取ったわ。
なんでその場所なのかは他の人達との兼ね合いがあるからよ!
一等地を勝手に占拠するワケにはいかないものね!
「綺麗なお嬢さん。薔薇を売ってるのかい?」
「ええ! 4日はちゃんと花らしく咲いてくれる薔薇よ! それ以上は管理次第ね!」
薔薇には様々な改良の余地があるみたいだけど、薔薇は薔薇みたいね。
生やした後はただの植物に出来るみたい。
なら栽培もできそうね!
「変な売り文句だねぇ。でも……綺麗だね」
「フフン! 何か危ないことがあったらすぐ捨てればいいわ!」
「……薔薇を売りたいのか売りたくないのか分からない台詞だねぇ」
「安全性の説明よ!」
「……いや、確かに言いましたけど、そんなド直球に説明しろとは言ってないです、お嬢」
フフン!
「褒めてませんよ?」
「褒めなさい!」
「……商売向かないね、お姉ちゃん」
あら! ヨナが生意気な事を言うようになったわ!
元気になった証拠ね!
「ふふ。あらぁ。お嬢さんだけじゃなく、売り子さんみぃんな綺麗なのね」
フフン。褒められたわ! 悪い気はしないわね!
「良ければ一輪でも如何でしょう? マドモアゼル」
何だかリンディスがキザったらしく口にしているわ!
それだけで集まった女性陣から黄色い声が上がる。
……おかしいわね!
私よりリンディスが前に立った方が売れるじゃないの!
「ん、お姉ちゃんも頑張って」
「頑張るわ!」
ヨナは本当に良い子ね!
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