表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/210

181 隠し通路へ

 ディグル家の屋敷に私達の一団が辿り着く。

 騎士も何人か連れた訪問よ。門番が驚いている様子。


「な、なんだお前達は……!?」

「……なんだ、か」


 レヴァンが代表して前に出る。もちろん護衛を横に付けて。

 金髪に金の瞳をしいてる若い貴族は私の知る限り、レヴァン以外には居ない。


 別に王族の色っていうワケでもない筈だけれど。

 王妹であるミレイア様はルーディナ様と同じ青髪だったそうだし。


 それでも、貴族の家なりの知識があるならば、その服装、髪の毛、瞳からレヴァンが何者であるかを察する事は出来る筈。



「私の名はレヴァン・ラム・リュミエット。リュミエール王国の王太子だ。此度は国政に関わる緊急の事案があって来た。今すぐ門を開けよ」


 レヴァンが馬上からそう宣告する。

 私は馬から降りて、その近くまで移動するわ。


「お、王太子殿下……だと、しかし」

「どうした。私は王太子として責任を持って名乗り、国の緊急だと伝えている。それを断るか」

「……、あの」


 門番が固まってるわね?

 いきなり王太子が現れて頭が回ってないだけなのか。

 それとも裏事情を知った上で時間稼ぎをしようとしているのか。


 まぁ、どっちでもいいわね!


「──薔薇よ!」

「っ!?」


 門番を薔薇の蔓で絡め取り、動きを封じた。

 私はレヴァンの横を通り抜けて門の前に立つ。


「ま、待てっ……」

「問答無用よ。──フンッ!」


 私は思い切り拳を振り被り、閉ざされた門を殴りつける。


 バギィッ! と音を立てて壊れて開く鉄の門。

 木の扉だったらもっと爽快なんだけどね!


 鉄格子のような形で出来ただけの門はひしゃげて、その役割を失ったわ。


「さっさと行くわよ!」

「……なっ、何をするんだ……!?」


 あら。まだ元気ね。


「私は特殊災害対策室、室長のアルフィナ子爵よ。リュミエールの国王、ディートリヒ陛下から直接、今回の件の捜査権を賜っているわ。後ろめたい事がディグル子爵家になければ良し。私はそれを確認した功績を上げるでしょう。後ろめたい事があるならば良し。私があんた達をぶっ潰して終わりだわ。


 法も名誉も尊びはするけれど、今この私を止めたいのならば純然たる暴力で立ち向かってきなさい。

 蛮族に対話が通じるなどと、甘えた事を考えないように」


 つまるところが問答無用よ!

 私の言い分に絶句する門番達。とりあえず良いって事ね!


 まぁ私相手に門を守れなくても裏切りは疑われないでしょう。

 彼等が全員、善人であった場合のフォローは入るわ。


 私という『天災』みたいなものに抗えるワケがないってね!



「行くわよ! 屋敷の2階だわ!」

「……ああ。行こう、レヴァン」

「……いいけど、これ、僕の責任になるんじゃないかなぁ……」


 この場の最高責任者はレヴァンだからね!

 でも私も王族なのだし? 陛下に任された命もあるし?

 責任ぐらいは私がとってもいいわ!


 そのまま問答無用で子爵家の屋敷に押し入る。


「──フンッ!」


 扉の鍵が掛かっているか否かに関わらず、拳で粉砕して道を切り開いたわ!


「ひぃ……!?」


 明らかに屋敷を襲うような一団に悲鳴を上げる使用人達。

 警戒してやってくる騎士も居る。


「薔薇よ!」


 でも、片っ端から薔薇で捕まえて無力化していくわ!


「うわぁああっ!?」

「なんだ、これ!」

「ひぃ!?」


 薔薇で四肢を拘束し、敵対者を拘束していく。


「……戦いが成り立たないね、これは。騎士団同士のぶつかり合いとかになっても1人で制圧できてしまう。これはひどい……」

「そうだな。ふふん」

「なんでエルトが得意そうなんだい……?」

「クリスティナの力を認められると嬉しい」

「……ああ、そう」


 ズンズンと屋敷の中を進んでいく。

 階段を見つけて、そこを駆け上がったわ。


 一応、他の場所も探して貰うけど、私は隠し地下を探す。


「な、何……なんなんだ、お前達は!」

「誰?」

「……ディグル子爵。レヴァン・ラム・リュミエットだ。貴殿の屋敷の調査をさせて貰っている」

「お、王太子……!?」


 ふぅん。彼がベレザックの父親ね。

 屋敷に隠し地下があった場合、そこにある物によっては彼も罪に問われるかも。


 警戒する必要があるわね。


「書斎に案内していただけるかしら? ディグル子爵」

「お前、貴方は……、」


 子爵は私の姿を見て、レヴァンの時よりも大きく目を見開く。

 あら? 私の方が王太子殿下より気になるの?


「私が何か気になるのかしら? ディグル子爵」

「うっ……いや……、」

「……? わっ」


 エルトが私の事を後ろから抱き締める。


「なに、エルト?」

「……子爵の目付きが気になってな。……男の目だ」

「ええ?」


 なぁに、それ!


「…………王弟との間に生まれた子、か」


 子爵の目が私に釘付けにされ、微妙な言葉を吐く。

 何よ。気持ち悪いわね。


「……それで? これは何のつもりですか、王太子殿下。あまりにも横暴ではありませんか」

「すまないな、ディグル子爵。だが、この屋敷で行われているだろう事が事だけに緊急なのだ。不満ならば後で聞こう。今は速やかに協力してくれ」

「……そんな言い分を受け入れろと? 殿下。王太子というものを履き違えて貰っては困りますな。ただでさえ貴方は、」

「薔薇よッ!」


 ぐだぐだうるさいから薔薇で子爵を絡め取ったわ!


「なっ!?」

「さっさと書斎を探すわよー!」

「おい! ふざけるな!」

「ふざけてたらこんな事しないわよ! 壁に貼りついてなさい!」

「ぐっ!」


 力を込めて拘束する。簡単には引き千切れないように。

 予言で見た世界と照らし合わせて屋敷内を問答無用で進んでいく。


「おい! おい! くそ、こんな事が赦されると思うのか!」

「……クリスティナ。確信があるのかい?」

「なければなかった、その時よ!」

「そ、そうか……。そうかな……?」

「たぶん、ここね! とりあえずぶっ壊すわよ! フンッ!」


 バキィッ! とドアを粉砕して開く。そこには夢と変わらない姿の書斎があったわね!


「今、ドアを壊す必要あったかな……?」

「……お嬢様ですから」

「あの本棚の裏に隠し階段がある筈だわ!」

「そ、そうか。どうやって開くんだ?」

「んー……」


 なんか細々した操作してた気がするけど……。


「ロックを外して扉をズラしていたっぽいんだけど」

「ロック?」

「一見すると普通の本棚だが、さて」

「……私が調べましょうか」

「時間が惜しいわ! 本を全部どかすわよ!」


 薔薇を咲かせて本棚の本すべてを押し出す。そして薔薇の蔓を『網』にして、落ちた本を全部まとめる。


「フンッ!」


 それらを怪力の天与でまるごと本棚からどける。

 これで空っぽの本棚の出来上がり。そして。


「──フンッ!」


 ロックを探すのも時間の無駄なので本棚を粉砕する。

 穴が空いた本棚。その向こうに。


「……あるわ! 隠し通路!」

「……お嬢様が今開けた空間ではなさそうですね。たしかにこれは元からある空間です」

「フフン! 時間の無駄だから、こじ開けるわよ! はぁあああッ!」


 本棚を殴って! 壁を殴って! 叩き壊して!

 光る薔薇で灯りを灯す! 隠し通路の先が見える。

 細かい部分は薔薇槍で削って!


「──フンッ!」


 大勢を突入させられるだけの穴を開けたわ!

 夢で見たようにそこには隠し階段がある!


「……これは」

「どうあれ、子爵家の隠し事は確実ね! 突撃するわよ!」

「クリスティナ。俺が先に行く」

「んっ!」


 天井に光る薔薇を咲かせて明かりにする。

 エルトが私を庇って先行するわ。でもほとんど突撃みたいなものよ。


 気配が……するわね!


「ルーナ様!」

「……! クリスティナ様!」


 居たわよ! 声がしたわ!


「……ルーナ! 無事なのか!?」

「レヴァン殿下も……!?」


 私達は聞こえる声に向かって進む速度を上げる。


 一階部分を通り越し、地下空間へ。

 そこには何かを溜め込んだ倉庫に。管理がしっかりされている様子だわ。

 今も使用されている空間ね。何よりルーナ様の声が聞こえた時点で言い訳不能。


「ルーナ……!」


 光が漏れている。鉄格子があって、地下牢のような空間が……あら、1つだけ?

 夢と微妙に違う……?


 夢の中では私とルーナ様がそれぞれ捕まる展開だったわ?

 ……またイヤな『改変』ね! どこまでも、あの夢は『私』を陥れようとする。


 でも、地下牢が1つだけならミリシャは……。


「レヴァン殿下……!」

「ああ、ルーナ……! 無事だったかい!?」

「はい……! 助けが来ると信じておりましたから!」


 ルーナ様は鉄格子の中に入れられている。

 ご自身の身体の周りを狭く覆う『聖守護』の結界。


 たぶん持続力を重視して、小さな範囲の結界を展開しているのだと思うわ。

 鉄格子は閉じられているけど……。


「どいて、レヴァン」

「あ、ああ! 頼む、クリスティナ!」


 私は鉄格子に縋るレヴァンをどかして拳を振り上げた。


「──フンッ!」


 ルーナ様の方へ飛ばないように、地下牢の扉だけをぶん殴って叩き壊す。

 牢屋の中には……あら。ルーナ様だけね……?


「ルーナ!」

「レヴァン様……!」


 と、駆け寄るレヴァン。結界が解かれて、彼を受け入れて抱き締めるルーナ様。


「リンディス。潜んでいる者は居る?」

「……いえ、見受けられません」


 そう。私達は、ルーナ様達の感動的なシーンを他所に、周辺を探る事にする。

 無事なのは分かってたからね!


 到着が早い方がルーナ様の負担は減るだろうってだけの話よ。

 問題なのはミリシャ達の姿も、攫われたという女性達も居ないという事。


「……ここにラトビア嬢が居た以上、子爵家の罪は免れん。子爵本人が関わっていたかは微妙だが……余罪はいくらでもありそうだ。状況からして子爵令息が犯人の線が濃厚なのだが……」

「ルーナ様を閉じ込めた筈の連中はどこに? って話よね」


 むぅ! 逃げたって事? 私達の接近に気付いて!


「あ、く、クリスティナ様!」

「ん。ご無事で何よりだわ、ルーナ様」

「は、はい! きっと来てくださると信じていましたから……!」

「フフン!」


 信じられるのは悪い気がしないわね!


「ルーナ様もよく耐えてくださったみたいね」

「はい。身を守る事だけは得意ですので……」


 ふふふ。やっぱり汚れ1つも付いてない。

 もしかして肌の周りに薄く結界を張るとかも出来るのかしら?


「それよりも……誘拐されたという女性の姿を私は見ていないのです」

「うん?」

「ルーナ、大丈夫かい? 無理はしなくても……」

「いえ。レヴァン様。私は大丈夫です。……元より、自分の意思で攫われました。心配はお掛けすると思ったのですが……私が誘拐された女性達の元へ辿り着けば守ってあげられると思ったのです」

「それは……素晴らしい事かもしれないけど、危険過ぎる」

「は、はい……。それは、すみません……」


 うんうん。仲良くなってきたわね!

 それはそれとしてよ!


「ルーナ様。他の子は見なかったのね?」

「は、はい……。誘拐された女性達はここには居ませんでした。先程まで……ディグル子爵の息子ベレザックと、リンドン家の令息が居たのです」

「ミリシャは?」

「お見掛けしていません」


 あら……? 色々と推測が外れてるのかしら。

 予言も正しい事とは限らないし。


「さっきまで2人は居たのか? しかし気配がない。という事は更に隠し通路か?」

「隠し地下室の更に隠し通路ねー……」


 でも、心当たりがあるとすれば。


 私は、地下牢の外。横にある通路の壁を睨むわ。

 見た目の違和感はない。ないけれど。


「──フンッ!」


 とりあえず壁をぶん殴っておくわ!

 夢の世界との差異はここだもの!


 ドゴォ! と粉砕した壁の手応えが思ったよりも軽い。


「あ」

「……空間、あるわね!」

「はい。……壁に偽装されたドアのようです」

「となると、ここから逃げたか……」

「どうする? 追う? それとも……」

「ラトビア嬢の保護と護衛、それにディグル子爵を改めて拘束する必要があるな。屋敷の方で人手が足りなくなるかもしれない……が、追わないのも問題だ」


 そう。誰がどっちに向かうかが問題よね。


「エルト。クリスティナ。君達は彼等を追って欲しい。ルーナの保護と子爵の追及は僕らの方で進めるよ。幸い、クリスティナが大半の騎士達を無力化してくれているから……」

「……分かった。頼むぞ、レヴァン」

「ああ」

「……お嬢様。私はこちらに残って殿下のサポートを致します。……それに、」

「それに?」

「……兄さんが先回りしているかもしれません」


 先回り?

 カイルとは領地の途中で別行動を取ったわ。

 隠し通路があると聞いてからそうしたのよね。


 ……カイルは、この隠し通路があると当たりを付けていた?


「分かったわ。エルト、リンディス。私達3人で追いかけましょう。残りはルーナ様達のサポートをお願い」


 頷き合い、さらに犯人達を追いかける私達。


「薔薇よ」


 暗い通路も光る薔薇を咲かせて照らし出す。

 通路を走り抜けていくと、外へと繋がる道が見えてきた。


 屋敷で何かあった時は、こうして地下から脱出できる仕組み?

 こういうの悪くないけど、悪巧みに使わないでよね!


「……あ」

「カイル!」


 外に出た先にはセシリアが言ったようにカイルが居た。

 そして、彼の足元に転がるのは制圧された男2人。


「クリスティナ。彼等を縛るのを手伝ってくれるかな?」

「……ええ! 良い仕事したわね、カイル!」

「ふふ。ありがとう」


 本当に隠し通路の出口を見抜いて先回り? やるじゃないの!


「ぐっ……くそ……」

「お前らは……!」


 ベレザック・ディグル子爵令息とカリス・リンドン子爵令息。

 因縁めいたものはさしてないんだけど。特に現実では。


 ……それはそれとして。拘束され、地面に転がされてる男の顔面目掛けて。


「──フンッ!」


「ぎゃぴっ!?」


 バギィッ! と思い切り拳を叩き込んでやったわ!

 夢の中で気持ち悪かった分のお返しよ!


「ああ、気持ち悪かった!」


『私』の仇は討ったわよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ