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176 予知調査

 フィオナを矢面に立たせて、カイル・セシリア・ナナシが付き添い、ミリシャの足取りを追う作戦を立てた。


「あまり気乗りしないわ。それだったら私が……」

「もう。クリスったら。辺境伯令嬢を舐めないでよね?」

「そういう問題じゃないと思うの」


 私達だけで勝手に動くのではなく、エルトや伯爵家に相談する。

 悠長な事をしていると思うけれど……。


 ああ、ミリシャに対して私の気持ちが動いていないのね。


 フィオナの方が大事だと感じている。

 それはそうよね、とは思いつつも自分自身で何だかな、という妙な気持ち。


 ……私が思う関係かはともかく、やっぱり姉妹じゃなかったものねぇ。


「辺境伯の令嬢を危険に晒すワケにはいかないと思うのだが……」

「ですよね! じゃあ、やめます! ありがとうございます、伯爵様!」

「こらっ、クリスが決めない!」


 えー?


「……しかし、クリスティナ嬢。やり方は問題があるものの、陛下にこの件を追うと約束したのだろう?」

「それは、はい」

「……令嬢を囮に使うのは頂けないが、当てがあるのであれば探らない手はない。もっと慎重に事を運ぶなら我々も手を貸そう。追う者が次の被害になるような事は避けなければいけないよ」


 むぅ。ベルグの家って意外と冷静よね!

 もっと斬って、殴って解決する感じを推していると思ったわ!


「クリスが伯爵家に失礼な事を考えていそうだわ……」

「フィオナって時々、私の考えてること察するわよね! リンディスなの?」

「なの? って言われても。分かりやすいもの……クリス、単純だから」


 単純かしら?

 物事は単純な方がいいわよね! フフン!


「実際、侯爵令嬢が攫われている以上は誰かが動かねばならない。マリウス家も動いていると思うのだが、彼らに協力を申し出るかね?」

「求めません」


 ピシャリと私は言い切ったわ。


「市井の女性と神官が誘拐されているので、彼女達を救う必要があるから動きます。侯爵令嬢からその足取りを追えそうなので、そこから探りますが……マリウス家とは目的が異なり、下手に彼等に情報を与えるのは良くないと考えます。救出したい女性が余計に危険に晒される可能性が高くなるかもしれません。救出対象は令嬢を最優先などと言われては、私の活動の邪魔ですから」


 ……と、私がそこまで言うと、皆が目を瞠って私を見たわ。


「クリス」

「ん?」

「……割と内心で怒ってるんじゃない?」

「んー……。どうかしら」

「なんだかピリピリしている気がするわ? らしくない……とまでは言わないけれど」

「そう、ね。そうなんだけど」


 これは内心で怒ってるとかそういうんじゃなくて。


「……なんか嫌な感じがするから?」

「うん?」

「ミリシャ……。助けるのが正解な気がしないのよね。出来る限り、マリウス家に内密、早めに動きたい。ミリシャ以外の子を助けておきたい気がするわ……?」

「……勘ですか、お嬢」

「そうなの。勘ね?」


 私の言葉を聞いてからエルトやリンディスが顔を見合わせた。


「……クリスティナにしか分からない事は確実にあるからな」

「です、か」

「実際、どうなのでしょう? 推測される行動を取っていたとしたら……」

「侯爵令嬢は、状況から見ればラトビア嬢に対して危害を加えようと考えてもおかしくない立場であり、そういった性格だろう。今回に限って言えば、流石にクリスティナを害する計画を立てるのは意味が分からないと思うが……」


「それをおっしゃいますと、そもそも以前の件も意味不明なタイミングだったのですけどね。婚約破棄から王都追放後でしたので」

「……待ちなさい。何の話かな?」

「あ、こら、リンディス!」

「……いえ、そもそも話しておくべき関係では……?」


 むー!


 私は、エルトと顔を見合わせる。良いかどうかを確認して……。

 バルド伯爵様に事情を話したわ。


 ミリシャが暗殺者を雇って私の命を狙った事がある事。

 返り討ちにして、その者達を雇っている事。

 カイルとは幼い頃に知り合った仲で信用しているし、今までちゃんと私の下で真面目に働いていた事。


「……侯爵令嬢が暗殺者を、な」

「はい。推測通りかは分かりませんけど、当てがあるのはそのルートです。もしまたミリシャが同じ事をしようとしたなら……と」

「自ら一人で行動している所を狙われたか。そうであれば自業自得とも言えるが……」


 まだ確定じゃないからね。


「今のところ、ただの被害者ではあります」

「……既に君が命を狙われているのだが……?」

「その点の罪を問うならカイル達も裁く必要が出てきますから。私は無傷で、かつ有能な仲間を手に入れられました。見ようによっては、かつて妹だったあの子が私に支援をしたのと一緒にしか見えないかと」


 だから暗殺者云々は深堀りする気ないのよね!

 結果として私、得しかしてないし!


 とにかく伯爵家の協力も取り付けつつ動く事になったの。

 フィオナの囮作戦は……続行らしいわ。


 やるのね!?

 リンディスとナナシを隠れて背後に付ける。

 カイルとセシリアも。私とエルトは近くに待機。


 ヨナも見抜く(・・・)素質があるらしいから一緒に来ているわ。

 他のメンバーは伯爵邸に待機ね。


 大規模な集団による行動だった場合、領地に騎士団を戻したベルグでは少し困った事になるのだけれど。


 フィオナの真横に付いているのがカイルとセシリア。

 それを隠れて尾行しつつ、警戒するのがリンディスとナナシ。


 私は近くにあるカフェのテラス席でエルトとヨナを連れて紅茶を飲んでるわ。


 ……友達に危険な事させておいて、私のこの有様はどうかと思うのだけど!


「ヨナ。勉強は進んでる?」

「うん、お姉ちゃん」


 ヨナはねー。ベルグの邸宅に来てから、邸宅で余っていた教材を借りたり出来たのよ。

 魔術に関してはリンディスが見てあげてるし。


 そもそも私の家での教育もリンディスがしたようなものだからね!

 ナナシも囲ったから、色々と教育関係は捗っているのよ。


「んー……」


 チリチリと嫌な予感というか、息が詰まるような感じ。

 最近はなかったんだけど……。


「やっぱり、エルトとカイル、リンディスが近付くと感覚がキリキリするわ」

「俺もなところが性質が悪いな……」

「でも、けっこうマシになった気がするのよね。あの悪霊パーティーの事件以来かしら?」

「……何かしら必要なエネルギーがあるのかもしれないな。それが祓えたのかもしれない」

「となると、やっぱりあの魂……転生者達なんだけど」


 世界を歪める原因が必要なのかしら……?

 女神を害そうと考えて編み出された邪法か何か……ってところよね。


 それこそが邪教が邪神をこの世界に招くエネルギー源?

 だとすると、やっぱり最終的にはアマネの排除と、青いのをどうにかしないと永遠に終わらない気がするわ。



「んっ……?」


 ザリザリと視界が歪む。これは予知の天与……。


 ルーナ様が……例の男、ベレザック・ディグルに誘拐される光景。

 意識を失わされ、隠され、運び出される姿。

 周囲にやはり、あの陰険令息カリスが一緒に居る。


 それだけじゃないわ。


「ええ……?」


 私が(・・)偉そうに男2人に指図をしている?

 少しやつれている気配のする私。憎々し気な雰囲気……?


 男2人を従えて……。


「ぶふっ……!」

「クリスティナ?」


 私が! ルーナ様を! いたぶってる!

 これじゃ、まるで私が犯人! 悪役令嬢(・・・・)だわ!


「誰が悪役令嬢よ!」

「……お姉ちゃん?」


 なんで私が、あのいけすかない男2人を顎で使ってルーナ様を虐めないとなんないのよ!


 ザリザリと視界の歪みが酷くなる。

 あ、深く入り込んじゃいそうだわ。

 意識が夢の中に引っ張り込まれるのは避けたいのよね。


 私は、集中して天与に吞み込まれないように耐えた。

 でも景色には『メッセージの書かれた窓』が現れたわ?



『ルーナ。貴方のせいでレヴァンは私の事を捨てたの! 全部、貴方のせいよ!』



「ぶはっ……! ないないない!」

「クリスティナ」

「お姉ちゃん」


 凄い! 私、レヴァンの事でルーナ様に嫉妬しているわ?

 誰がよ! いい加減にしてよね!

 現実と乖離し過ぎてもはや喜劇だわ!


「……クリスティナ」

「はっ! 戻ってきた!」

「……戻って?」

「お姉ちゃん、それ魔獣の前でしちゃダメだよ」


 ふぅ。やっぱり扱いが難しいのよね、予言の天与。

 ちゃんと落ち着いている場所じゃないと。


「うん、うん……。あー、でも」


 配役(・・)は違っても、類似した出来事が起きる可能性が高いのが私の予言の天与だわ。

 この場合、私が悪役を担うのはあり得ない。だとすると……ミリシャ?


「……フィオナ達と合流しましょう、エルト」

「……分かった」


 待機の予定だったけど、動いた方がいい気がするから動くわ!


 私はエルトを促し、ヨナも一緒に引き連れて足早に動いた。

 正確な位置は事前にナナシ達から聞いてはいる。問題が起きるとしたら……。


「……ヨナ。悪いが、かかえるぞ」

「え、うん」


 エルトがヨナを脇に抱えた。


「音が聞こえた。クリスティナ。争う音だ」

「え、ホント?」


 エルトってやっぱり色々な感覚は私より優れているわよね!

 流石、名実共に王国一の騎士! フフン!


「じゃあ行くわよ!」


 走り、路地に入り込む。光があまり差さないような雰囲気。

 狭い、汚い……。あえて惑わすような造り……。


 私にも音が聞こえた。集団が声を上げずに何かをしている……。


 走り寄ると、フィオナ達が複数人の男に囲まれていた。

 皆、ローブを羽織っている。


 何者かどうかを確認する前に私は駆け抜けた。


「──フンッ!」

「ぎゃっ!?」


 バキィ! と問答無用で。とりあえず殴るわよッ!


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