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175 バートン暗殺一家

 伯爵邸に戻って対策を考える。

 まず、あれよね。身内が攫われてないかの確認だわ。


 別邸で過ごしてくれている侍女達の確認をする。

『ふらぐ』現象のせいで避けていたけど、カイルやリンディス、ヨナとも会うわ。


 フィオナも無事ね!


「侯爵令嬢の誘拐事件かぁ」

「市井の女性や、神官も攫われているらしいから貴族令嬢だけが狙いとは限らないし、そもそも女だけを狙ってるとも限らないんだけどね。今ある情報では、そういうことみたい」

「……目撃情報は?」

「聞いた限りではミリシャが1人で行動している時に攫われているのが見られたらしいけど、確かな話かは微妙なところ」


 又聞きの情報だからね。


「……裏に手、回そうとしたんじゃねぇの、あの嬢ちゃんなら」

「ナナシ?」


 皆を集めた広間でナナシがそう言い出す。


「ウチに嬢ちゃんの暗殺依頼かけた女だろ。護衛なんざ付けずに行動は当たり前。キナくさい事も余裕だ」

「え、暗殺依頼?」

「あ」


 フィオナに知られちゃったじゃないの!

 ……まぁ、別にいいかしら?


「……ナナシ達の組織の事って聞いたら不味い?」

「いや? どうせ裏切りもんだしな。もう」


 今、ベルグの別邸の広間で皆を集めて話している。


 リンディス、カイル、セシリア、ヨナ、フィオナ、ナナシ、フィリン達侍女ね。

 フィオナの侍女も居るわ。


「表向きの家とは別に、暗殺依頼を請け負う裏の受付がある。合言葉が必要だ。依頼する時は気をつけろ。依頼者の事も徹底的に調べられる。ちなみに調べる仕事も俺がしたりする」


 するんだ。

 表向きの家ってのはカイルやセシリア達の家のバートン家。

 医者の家よね。……今、カイル達が居なくなってるけど、どうなのかしら……。


「ちょっと脱線するかもだけど……。ナナシ達のこと、詳しく聞いておいてもいい?」


 人払いするべきよね。フィオナには……。


「……話してもいいよ、クリスティナ」


 と、カイルが言う。


「え、でも」

「……僕もセシリアも人を殺した事はない。君が止めてくれたからね。今の僕はただの医者だ。……まぁ、他所で雇って貰えるとは思えないけれど」

「……そう。フィオナ。あのね」


 私は親友に目を向ける。


「ここでの話は他言して欲しくないんだけど」

「……いいよ。この子も下がらせてもいいし。でもこの子も辺境伯家で侍女やってる子だからね。口は固いわよ」


 国防を担う辺境伯家。たしかに教育が行き届いていそうね。


 集まった一同の確認を取り合う。

 フィリン達侍女も弁えているでしょう。



「じゃあ、改めて。バートン家の事を話そう」

「バートン家……」

「エーヴェル嬢は知っているかな」

「お医者さんの家よね?」

「ああ」


 フィオナが知ってるのって中々よね。


「バートン家は爵位を持たない平民の家だ。だけど代々、医者を務めていて資産も多い。領地はないが大きな屋敷も持っている」

「へぇ」

「爵位はないが、代々、家督を継ぐ当主というものはある。貴族を主に診る医者の家……という感じかな。だから貴族家の礼儀作法なども僕やセシリアは学んでいる。……口は固い方だろうね。医者として貴族の家に招かれた際、余計な事を知った時に言いふらすような者では信用されない」


 貴族を相手にした医者の一族、ね。表向きは。


「というのが表向きのバートン家。でも実態は裏で暗殺も生業にしている」


 医者の暗殺者。……真剣に考えると怖い気がするわね!


「実際の実力行使で仕事をする事はそうはない。鍛えているし、学びはするけどね。……標的が死んだ時に『誰かに殺された』と分かるような形ではなく、分からない形で……という手段を取る事が主だ」

「……でも医者として活動している時にそういう事したらすぐにバレそうだけど?」


「医者として活動する時には何もしないよ。それこそ、すぐに足がつく。毒殺なんてして、直前に医者が診ていたとなったら、それこそ……だからね」


 そうよね!


「だから表向きの医者という顔は……、本当に医者として活動している面もあるし、情報収集の為の役割もある」

「情報収集」

「うん。特定の家門のお抱え医師じゃなくて、依頼があれば活動する貴族用の医者……という立場だからね」

「……爵位持ちの色々な家に招かれる事が多くなるのね?」

「そう」


 なるほど? それは中々……。でも口が固いと信じられてないと務まらないわね。

 貴族だもの。病気持ちだと知られたくない家門も多いでしょう。


 それこそ警戒しなくちゃいけない事は多いから普通はお抱えの医師を据える。

 でも、それだと限界がある事もあるわよね。

 普段、健康な一家なのにお抱え医師って……という家もあるでしょう。

 人件費だってタダじゃないワケだし。

 貴族だからって裕福な家ばかりとも限らない。


 そういう意味では重宝する家ね。


「バートン家の者は様々な教育を受ける。医術を筆頭として、武術方面も。セシリアのように多様な仕事をこなす侍女としても育てられる」

「……何気にセシリアって侍女として有能だものね」


 フィリン達が一緒に私の世話を担当してくれているけれど、かなり侍女能力? は突出してるのよ。

 一家に一人、セシリアね!

 カイルの説明をナナシが引き継ぐわ。


「当主以外にも子飼いが居るぜ。俺みたいなな。そんでそういう連中がカイルやセシリアの教育を受け持つ。全部詰め込まれんのはバートン家直系だからだ。他はもっと技能は尖ってる」

「……けっこう大きい組織ってこと?」

「そこまでじゃねぇよ。関わる連中は少ない方がいいからな」


 ふぅん?


「……魔族はもっと抱えてるの?」


 居ない事はないけれど、そうは見ないのが王国における魔族よ。


「……いいや。だが」

「だが?」

「……俺みたいな連中の受け皿でもあるな。良い就職先って奴だよ。お前のとこのも拾われてなかったら、こういう仕事してたかもな? 誰もが王宮務めってワケにはいかねぇ」


 私はリンディスとヨナを見た。

 まぁ、そうよね。王宮でも魔族は居るみたいだけれど。


「ふぅん……?」

「ナナシはカイル達を追ってきたわよね? 仕事の依頼……私の暗殺依頼を遂行する為に」

「そうだな。あとは上手くやれるかの試験も兼ねてた」

「……カイルはバートン家の裏当主としては失格扱いだと思うけど。それ以降の手は出してこないわね?」


 それっていいのかしら?


「警戒はしてるよ。ただ……」

「ただ?」

「……向こうの出方待ちですね。お嬢様。或いは、兄さんがお嬢様に付いた時、そういう事からは足を洗おうと考えていたのかも」

「……そうなの?」


 あれ、でも、でもだわ。


 私は記憶を引っ張り出す。予言の天与で見た光景。

 もちろん、これは現実ではないのだけれど。


 ……ルーナ様とカイルが結ばれる『エンディング』の時、その後も2人は平和に暮らしていくのよね。

 つまり暗殺一家から足を洗った事を受け入れているし、バートン家からの刺客とかもない……?


 じゃあカイル達の事は自由にさせるつもりなのかしら?



「バートン家はな、お嬢ちゃん。実は……王家からも支援されてんだ」

「えっ」


 それ、聞いていいの? 陛下も知ってる?


「……師匠」

「ハッ。いいんじゃねぇの? だって嬢ちゃんも王族の末席だろ? ……つまりな。医者という表の顔。暗殺一家という裏の顔。その更に……隠された顔は『王家の影』って寸法だ」


 王家の影! やだ、格好いいわね!


「……クリス、今、『格好いいわね!』とか思ってる顔してるよ?」

「格好いいじゃない?」


 フフン!


「医者の顔は平民向け、一般貴族向け。裏の顔は、そういう手を回す悪徳貴族向け。んで実行するしないに関わらず、どう動いたかを王家に筒抜けにさせる家……。まぁ、貴族連中に撒かれた『罠』みたいなもんだ。嵌っちまえば、ほいほいと王家に弱みを握られる。……んだから、王家に見捨てられるでもない限り、バートン家が潰されるって事はねぇ」


「……それ、カイル知ってたの?」

「……正確には。でも何となく、そう思う、察する事は……あったと思う。僕はまだ正式な当主として認められてなかったから」


 私を殺してたら教えて貰えてたのかしら!


「えー……。じゃあ、もしかしてミリシャが私の暗殺依頼を出したのって、王家に知られてるんじゃないの?」

「そういう事になるだろな」


 もしかして、それが原因で正妃の道が閉ざされてたりする?

 なんであんな事したのかしら……。

 王都追放されてる時期だったし、私を殺す必要もなかったでしょうに。


「あの嬢ちゃんに関して言えば、自分で裏事情を掴んだって話じゃねぇだろう。そういう頭や伝手があるとは思えねぇ。貴族の弱みを握ると言うが、そもそも『暗殺の手段があるよ』なんて言葉を聞かなきゃ、バカやらかさねぇ連中も多いだろう。

 だから下位貴族には知れ渡ってねぇ。

 バートン家に暗殺依頼を出せるのは、裏に手を回せる頭のある連中……って事なんだが。あと家門の力もな。当然だが金も要るんだぜ? 大金だ」


「……ミリシャがバートン家の暗殺依頼が出来たのは、アマネの予言のせいなのよね」


「そうだ。あの嬢ちゃんは自力で辿り着いてねぇ。だから暗殺依頼は一回きり。だが、それでも正当な形で依頼され、金は用意された仕事でもあった。……侯爵様は娘のやらかしを知らねぇだろうな」


 アマネが居なければミリシャも暗殺依頼なんて出さなかった。

 別に私は殺されてないし、カイル・セシリアは雇えて、ナナシもなんだかんだで私の部下みたいな立場。

 ……私は得しかしてないんだけど。


 ミリシャは別よね。アマネさえ現れなければ正妃の道だって。

 ……あったかしら? 微妙ね。


「王妃候補の侯爵令嬢の暗殺依頼。それを王家も掴んでいた、と。バートン家がこちらに何もしてこないのは……」

「別に敵対する気もないからじゃねぇの。暗殺一家だからって……親心もないとは思うなよ」

「あら、そうなの」

「……カイルもセシリアも学んだ技能はさておき、わりかし真っ当な感性してやがるだろ。そういうの、親の愛情もへったくれもまるでないだけの環境じゃ身に付き難ぇってのは分かるか?」


 それは……そうね。


「じゃあ、2人はちゃんと親からは愛されてたのね?」

「そういうこった」


 あらまぁ。なんだかイメージが先行していたわ。良くないわよね、こういうの!


「まぁ、だからってバカな振る舞い……。正義感だとか、そういうのを振り回して敵対するってんなら話は別だろが。お嬢ちゃんのところで真っ当に暮らしてぇ、医者やっててぇってだけだろ」

「……はい」

「……そうですね」

「向き・不向きもあるからな。バートン家に戻るってのは難しいだろが……別にってぐらいだろうな。王家も絡んでる。深い恨みでも持ってないんなら放っとくのが一番だろうぜ」


 けっこう緩くないかしら?

 そんなのでやってけるの? 私達が前だから特別なだけかしら?


「……ふぅん。カイルさんは医者で戦えるし……、荒事もまぁまお得意なの?」

「はい? まぁ、そうですね……」

「そっかぁ」


 フィオナが何かカイルを見定めるような目ね?

 何かあるのかしら。


「えっと。カイル達のことを知れたのはいいけど。話がズレたわね」

「……そうだな。あの嬢ちゃん、侯爵令嬢様は、だ。たぶんだが……また暗殺依頼を出そうとしたんじゃねぇか?」

「……穏やかな予測じゃないけど、根拠はある?」


「侯爵令嬢の護衛も侍女も付いてなかったってんだろ? 王家からは……まぁ、正妃は無理と判断されてたから放任気味だった。あの日は、そっちに目を向けるよりもお嬢ちゃん達をメインに見てたかっただろう。

 ……ある意味、王家の目がない時を狙って侯爵令嬢自身が行動したとしてもおかしくねぇな」


「…………そうだとした場合、何か裏付けできそうな事、ある?」


「前回と同じやり方を試すだろう。お嬢ちゃんの暗殺依頼を頼んだ時と同じやり方で依頼を試みようとする。監視のない時、護衛・侍女を引き連れない。単独行動、合言葉を言えば……。だが合言葉は通用しねぇ筈だ。

 門前払いを喰らう筈だが……失踪した場所が前のやらかしに近い場所だった場合は……まぁ、間違いないだろ」


「ミリシャは再び何者かの暗殺依頼を出そうとした、ね」


 それが私かルーナ様かは別として。

 ……ルーナ様狙いっぽい気がするわねぇ。


 私もついでに、かしら?


「……裏付け、してきますか? お嬢」

「ええと。それってリンディスが行くよりは……」

「ま、俺やカイル、セシリアが確認に動いた方が早いだろうな」


 うん。ミリシャの足取りを追うのに役立ちそうね。


「バートン家がミリシャを誘拐する可能性はある?」

「……分からないな。僕らが今、知っている情報の時点ではそんな必要はないと思うけど。……それこそ、もしかしたら何か令嬢がバートン家を脅したとか、そういう事態も考えられなくはない」

「それはあるかもなぁ……。あんまり賢くねぇ嬢ちゃんだったし。暗殺一家を逆に脅して言うこと聞きなさいってよ」


 ミリシャなら……やらかしそうねぇ。

 どちらが弱みを握られているのか分かっていないとか。


「バートン家は王家の影、ね。そんな家を脅して動かそうとしたら……でも、そのケースだと陛下には伝わる筈って考えで合ってるかしら?」


「国王の態度が『問題が起きた、解決しなければ』って焦った態度だったんなら、バートン家は関係ねーな。『こちらに任せて安心しなさい』とか余裕ある態度だったんなら、事情を知ってるって事になる。流石に侯爵令嬢を拉致ったんなら、とっとと報告を入れるだろう。……まぁ、もう2、3日してまた聞いた方が確実だろうが」


「じゃあ今の時点だと、王家もバートン家も直接は関係なさそうね」


 間接的にどうだか、なんだけどね。


「クリス。カイルさんとナナシ? さん。それとセシリアさんを私に貸して貰えない?」

「フィオナ?」


 唐突にフィオナが言い出したわ。


「どういうこと?」

「私が裏付け調査、してきてあげる。クリスは流石に見た目で有名だし……。下手に襲ったら返り討ちに遭うぐらいの事知ってる筈でしょ? だから、私が……単独で動いてみて、襲われないか試してあげる」


「フィオナが事件の囮役をやるってこと?」


 囮に関しては私もしようとしたけど、エルトに却下されたわ。

 却下というか効果がないという判断だったけど。


「私が誘拐されたならクリスが助けに来てくれるでしょ?」

「行くけど、そもそも誘拐されないで欲しいわ!」

「でも、このまま何も起きなかったら、その内にクリス自身が『私が囮になって調査するわ!』とか言いそうじゃない。そういうの、ここの人達はイヤでしょう?」


 むぅ! 既に言ったわね! なんで見抜かれてるのかしら!


「私、けっこう適任だと思うわ。そんなに顔も知られてないでしょう? 特定の個人を誘拐しているのか、それとも無防備な女を悪戯に誘拐しているのか。それは貴族令嬢の方が望ましいのか。

 マリウス嬢の件を素早く知るには、敵に動いて貰うのが一番よ」


「フィオナ……」


 フィオナって、こういう時の度胸とかあるのよねー……。

 なにせ王妃候補時代の嫌われ者だった私に近付いてくるぐらいだし。


 争いの多い辺境伯家出身の令嬢だけあるとも言えるわね!

 ベルグシュタットとはまた違うけど、武家の家門と言っていいわ。



「でも……」

「……予想できる侯爵令嬢の足取りを真似て、裏の方に顔を出して確認だけして帰ってくる。そういうのならやってもいいぜ」

「……万全の態勢で出来るの?」

「お嬢ちゃんの協力があればな」

「クリス、私に任せて!」


 むー。

 なんかおかしな方向になってきたわね?


 私は結局、押し切られる形でフィオナにカイル達を着けてミリシャの足取り調査をして貰う事になったわ。


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