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160 未明と再会

「はぁ……」


 周りを見回す。全部片付いたみたいね。


「あ……」


 クラクラと眩暈がして私の意識が遠のく。

 いつもは踏み堪えられていたけど、流石に無理。


 私は、身体に力が入らなくなってその場に崩れ落ちる。


「クリスティナ!」

「クリスティナ様!」


 エルトが駆け寄ってくる。床に頭がぶつかる前に抱き留められた。


「……エル……」


 彼の声が遠くに聞こえるわ。ルーナ様の声も。

 視界の端でヒラヒラと光翼蝶が舞っている……。


 そこで私の意識は途切れてしまったの。



◇◆◇



 暗闇の中に私の意識がある。これは……予言の天与と似たような状態ね。


 別の世界に意識が沈む私。

 囁き声が聞こえる。


 ああ、よく聞いた声だわ。


 それは傾国の悪女、クリスティナが断頭台に向かうまでの道のり。

 見覚えのない罪で糾弾される私。


 王国を滅ぼした、民を無差別に蹂躙した魔女の私……。


 すぐ間近から恨みがましい声も聞こえる。

 そう、彼女の声。私であり、私でない彼女の言葉。


「────」


『なぜ貴方はこうならないの』と。


 何故って……だって私は『貴方』ではないもの。

 こんな歪められたリュミエール王国に生きた私。


 貴方の怒りも憎しみも理解は出来る。力を思うままに振るって、マリウス家に日頃からの恨みだって晴らしたかったでしょう。

 リンディスを理不尽に殺された事も赦せない。


「────」


『なら、どうして私のようにならないの』と。


 そりゃあ、だって。貴方の事を見せてくれたもの。

 貴方が私の代わりにマリウス家の連中を皆殺しにしてくれた時は胸がスッとしたわ!


 だから現実ではせいぜいぶん殴るぐらいで許してあげてもいいわね、って思えたのよね。

 ミリシャにしてもそう。


 昔から色々と嫌がらせは受けてきたけど……。

 カイルをけしかけてきた時は、結局、良い縁に繋がったわ。


 それに……私の両親がマリウス侯爵夫妻じゃないって聞いた時……ビックリするぐらい、興味がなくなったわ。

 納得してしまったの。あの家は家族じゃなかったんだって。


 私を大事にしない者達にいつまでも興味を抱いていられないわよ。


「……ねぇ、クリスティナ(・・・・・・)。リンディスは生きているわ。貴方の世界では死んでしまった彼だけど。……それは幻よ」


「────」


 不思議な話。私を基点にしているからか、貴方には意識がある。

 人格があり、自我がある。……私の中で生きなさい? 悪役令嬢クリスティナ。


 あなたが生き、そして死んだ世界は不確かで曖昧な別の世界だけれど。


 私は貴方を受け入れるわ。


「……ねぇ、クリスティナ。貴方、リンディスのこと、好きだったの?」


「────」


 ……そう。貴方の気持ちを感じていたけれど、やっぱりそうなのね。

 ごめんなさいね。世界の果てまでリンディスと旅をしてみたかった貴方の夢は叶えてあげられない。


 私と貴方は、きっと好きになる相手が違うのね。


 ……うーん。こればっかりは、譲れないのだけど。


 じゃあ、成仏したり、する?

 貴方に確固とした魂があるのか……はっきりしないけれど。


「────」


 あははは。いいの、いいのよ。リンディスとの恋は私の身体で叶えてあげられないけれど。

 そういう気持ちはたしかにあったんだって認めてあげる。


 私の中にいらっしゃい、クリスティナ。


 たとえ、貴方が邪教が企てた計画の一部に過ぎなくて……悪女となるよう歪められた人生を歩んできたのだとしても。


 私は、貴方を赦し、認めるわ。

 ……私であって私じゃない、クリスティナ。


 それに貴方にはまだ協力して欲しい事があるし。


 最後に一暴れ、してみたいでしょう?


「────」


 ええ、ええ。いらっしゃい。いつか彼との間に子供が生まれたら……きっと貴方を思い出すのでしょうね。



 私は、暗闇の中でずっと嘆いていた彼女のすべてを……私の中に受け入れた。




◇◆◇



「……あ、起きたね、クリスティナ」


 どこかの部屋のベッドで横たえられていた私。

 その傍に居たのはエルトだけじゃなかった。


「…………フィオナ」


 そこには懐かしい顔があったわ。

 青い髪色と瞳の色をした大人しそうな見た目の令嬢。


 私の学園時代からの、たった1人の友人。

 西の辺境伯の娘、フィオナ・エーヴェル。


「……久しぶり、だね? クリスティナ」


 フィオナは優し気な表情で私に微笑みかかけたわ。

 夢の世界ではフィオナの居場所はなかった。


 邪教の用意したシナリオには『登場しない人物』

 私と彼女の決定的な違い。……ここは現実だわ。


「ふふ……久しぶり、フィオナ」


 私は手を伸ばして彼女の手を握ったわ。


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