16 新たな予言
アルフィナに向けての旅もかなり進んだと思うわ。
「ふふふ」
エルトに貰った銀の剣。中々に私好みなのよね!
これは本当に大事にしなくっちゃ!
「……ご機嫌ですね、お嬢」
「ええ! これ、私の剣よ!」
馬を走らせつつ、新しい剣を手に入れて上機嫌な私にリンディスはなんだか冷ややかな態度だったわ。
「お嬢がこんなにプレゼント攻撃に弱いとは……。くっ、そうですよね。今まで王子殿下の婚約者であったので、そういった贈り物など貰う筈もなく……。はぁ……チョロい……」
何か失礼な事を言われてる気がするわね!
「お嬢。ご提案があるのですが」
「何?」
「……もう少し人の多い街から離れた道を進みませんか?」
街から離れた?
「どうして?」
「お嬢は目立ち過ぎます。ベルグシュタット卿のような方は別ですが……ジャネット嬢のような方にも目を付けられていますし。またお嬢の身分を知らない男達は、お嬢の容姿を見ただけで寄って来ます。……ここまでトラブルが起き過ぎです」
そうかしら。それが旅というものじゃないの?
「幸い、魔物の数が増えているワケではなく、元からある魔物発生の騒ぎが聴こえてくるだけですから。街から離れても何とかなるでしょう」
「ふぅん。まぁいいわ。じゃあ、また野営ね!」
「はい。……お嬢に立派な宿を取る事が出来ず、申し訳ありません」
「野営は楽しいからいいわよ!」
「……ありがとうございます」
フフン。またテントで眠るのね!
◇◆◇
大きな街から離れても、小さな村なんかがあったりするものよ。
リンディスの提案で街道を逸れて、比較的アルフィナへの近道となるルートを辿るわ。
馬に負担を掛けてしまう気がするわね。
この子とリンディスには、ちゃんとご飯を食べさせて休憩させる必要があるわ。
「あら」
「……村ですね。地図にも載らないような小さな」
視界の向こうに木材で出来た壁があるわ。
王都や街なんかは魔物対策に石の壁を築いてあるものだけど。
小さな村々はこうして木材を立てて防壁にしているのよね。
「あの村に寄るの? それとも無視して森で野営する?」
「そうですねぇ。宿などなさそうな民家だけの集落に見えますし。……大人しく野営にしておきますか」
「分かったわ!」
そうして走る方向を変えようとした時だわ。
「きゃあああ! 魔物よ!」
村から悲鳴が聞こえたの。魔物ですって!
「リン!」
「はい、お嬢!」
すぐさま私達は村に向かう。
なんて事かしら。木材の切れ目を探して走っていたら……入り口らしき場所が破られているわ!
魔物に侵入されたのね!
「行くわよ!」
破られた門を馬で超え、魔物の姿を探す。
……居たわ!
魔物の姿は……大型の猪よ!
「魔猪……ワイルドボアという所でしょうか。瘴気を纏って黒化しています。お嬢、お気を付けを」
「ええ! 私が惹きつけるからリン! 貴方は村人を逃しなさいッ!」
「っ! 分かりました!」
馬で近付き、途中で飛び降りる私。
【天与】を纏って手足を頑丈にしておくわ!
「はっ!」
私が手放した手綱をすぐさま握り、馬を駆るリンディス。
襲われているのは……村人の夫婦ね!
「やぁあああッ!」
勢いを殺さずジャンプ。声を張り上げてワイルドボアの注意を私に惹きつける。
そして銀の剣を抜き放ちながら、猪の頭を掠め斬る!
「浅いわっ!」
『グルァ!』
とっとっ、とステップを踏みながら夫婦を庇うように前に立つ。
間に合ったかしら! 他に襲われてる人はいない!?
「私が相手よ!」
剣で斬る! 斬れる! 私の身体は素早く動く! けど……。
「こっちの方が速いわね!」
まだ使い慣れてない剣よりも先に私は拳を繰り出したわ!
『グルァ────!?』
ワイルドボアの横っ面をぶん殴って吹っ飛ばしてやったの!
「フフン! どうかしら!」
「……もう少し華麗に勝てるようにしませんとね」
何よ! まず褒めるところから始めなさい!
とりあえず他の魔物は……居ないみたいね!
1匹だけなのかしら!
◇◆◇
「その、すみません。こんな……ありがとうございました。旅のお方」
「いえ。災難でしたね。まさか村の門を破られるなど」
野営する筈があれよという間に村に泊めて貰う事になったわよ!
「本当に助かりました。このような事滅多に無いのですが……」
そうでしょうね!
たくさんあったら村なんかやってけないわ!
「でも、お陰でお肉が食べられるわ!」
さっき倒した魔猪は倒した後でただの猪の死骸になったの。
変異タイプっていうヤツね!
……アルフィナで湧く魔物も倒せば食べられるのかしら?
「お嬢。本当にはしたないですよ」
「フフン」
「ですから褒めてませんよ」
「褒めなさいよ!」
でも今は何もしてないかしらね!
「ふふ。お2人は夫婦で旅をしていらっしゃるの?」
「夫婦?」
「ふっ……! ち、違いますよ!」
そう見えるのかしら、私達って。
「あら、違うのかい? 綺麗な2人だからお似合いだと思ったのだけど」
「は、はい。違います。私達はただの主従関係です」
「フフン!」
私は胸を張ったわ。
「あらまぁ」
夫婦はニコヤカに笑って、それで。
──ザザッと私の視界が揺れたわ。
「えっ」
そしてその光景が見えたの。
またルーナ様だったわ。
ルーナ様ったらまた? 捕まってるの。
ううん? 捕まってるのかしら。
山道で手を前に縛って歩いているわ。
横には変な衣装を着た男達が数人。
槍を持っているわね。
神官様? いいえ、あんな衣装じゃなかった筈だけど。
でも雰囲気が似てる?
「まさか、邪教徒?」
「……お嬢?」
リュミエール王国には王家からは独立した権力を持つ機関が2つあるの。
1つは法機関。もう1つは三女神を信仰する機関よ。
でもその三女神を敵視する邪教があるっていう話を前にレヴァン王子から聞いていたわ。
「……な、何故?」
「何を」
私が口走った言葉に驚愕する夫婦2人。
……ここで『予言』の【天与】が発動したのは何か理由があるのかもしれない。
ルーナ様が関係している? ううん。
前に聖女アマネが言っていたわよね。
世界はルーナ様を中心に回ってるって。
その予言はルーナ様頼りだとも。
……もしかして、この映像に見える出来事は必ずしもルーナ様の身に及ぶ危険じゃないのかしら?
ルーナ様が『遭遇するかもしれない可能性』を私が見ているとか?
だったら……映像の先にあるのは。
私の視界が2つに割れる。
1つは現実の光景。もう1つは予言の映像。
予言の先の映像では……また場面が変わっていて、私より幼い少年の姿が……。
「うぅ!」
「お嬢!?」
クラクラするわね! この映像、あんまり見過ぎると負担が掛かるのかも!
「リン……。また『予言』よ。邪教徒っぽい人達がルーナ様を……ううん。人を縛って槍で脅して山道を歩かせてて……それから関係あるか分からないけど小さな男の子が」
「お嬢、お休みください。顔色が悪いですよ」
「……平気、よ。これぐらい。それよりも」
私は目の前の夫婦を睨みつけたわ。
「貴方達、邪教徒という言葉に反応したわね? 何か知ってるんじゃないの?」
こうして私達は新しい事件に巻き込まれる事になったのよ。
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