156 王族 vs 王族
「な……」
レミーナ第2王女を盾にしても全く怯む様子を見せない私に、令嬢達は驚愕していた。
「あ、あなたが王族を名乗るなど。認めるワケにはいきませんわ!」
「陛下が認めていらっしゃるので、王女様に認めていただかなくても結構でございます」
「なっ……! 陛下が認めたのは、貴方が子爵風情でしかないという事よ! 王族としての振る舞いを認めたワケではないわ!」
「あらあら。たとえ王女と言えど、陛下のお考えを否定なさるとは。皆さんもご存じの事ですが……私、凱旋式の日に初めて自身が王族である事をルーディナ様に教えていただきました。
その日の内に両陛下の前で継承権の放棄を願い出たのですが……、後日、陛下は私の王位継承権の放棄を撤回させましたのよ?
その場で私が欲した、お気に入りの領地を下賜いただく事も認めていただきまして……。
欲をかかなかった私は騎士爵で十分でしたのに、陛下は私に期待をかけてくださっているご様子。
まさか、子爵まで賜ったのでございます。
……ええ、本当にありがたい事で。
それだけでなく、私の能力に期待されているご様子で、自らの直轄組織を設営し、この職を任せていただいたのです。……令嬢・令息に手をあげた事など、もちろん私の方からも報告致しましたわよ? 皆さんの家からもでしょうね? ですが今現在も不問との事ですわねぇ……」
「……!」
私の鼻っぱしらを折ろうとした連中に悪女スマイルで現実を突きつけてあげるわよ!
その程度で大人しくなると思われてはたまったものじゃあないわ!
「……よくも口が回るわね!」
「あら、何か?」
「あ、貴方はそんな人間ではないと……お噂になっているのよ? すぐに手が出る、野蛮な女だと」
「まぁ、そうね? 陛下の前でも言ったわよ? 蛮族でけっこう、と。……身分制度に、王に敬意は払うけれど……。それは私が、かような立場に敬意を見せているだけ。一度、私を害する者だと断じたならば。私を縛り、侮る者と見たならば。私は、ルールもマナーも尊ばない
私の前に立つならば覚悟をしなさい。
貴女達は牙剥く野獣に向かって礼儀を説きますか?
肉を引き裂く鋭い爪を前にして身分が違うと命乞いをするのですか?
……社交界であれば私を蔑み、野蛮と罵れる言葉でも……。
今、敵として眼前に立つならば、それは貴方達の脅威となりましょう。
ドレスで着飾った今の私でさえ、百万の獣を殺す大量の槍を抱えているのと変わりないのです。
……このように」
テラスの庭側、私の背後に薔薇槍を広げ、伸ばす。伸び切った蔓は槍の鋭さを持って私を飾った。
令嬢達から小さな悲鳴が上がり、震えが走る。
レミーナ様も私に怯えているようで腰が引けていたわ。
「……私は国王陛下に敬意を持っておりますわ。王制も身分制も認めております。私自身が王族と分かった事もありますし、貴族の矜持も忘れてはおりません。
ええ。皆さんにも誇りがありましょう。矜持がありましょう。
私とて、それを軽んじたいワケではない。
……ですが。
私が宿したのは女神イリスの天与なのです。
この力を持つ者として、そう易々と侮られるワケには参りませんのよ?
ええ、時には……王族にさえ牙を剥いてでも。
どうかわたくしに最後の一線を踏み越えさせぬよう、気を使ってくださいませね?」
悪女スマイル、悪女スマイル、と。
「て、天与を持ったからと言って、そんな風に傲慢に振る舞う者など……! 神殿が認めるとでもお思い!?」
「はぁ」
私は首を傾げたわ。
「ルーディナ公女は毎日、大神殿で祈りを捧げていらっしゃるわ! 彼女こそ、国の聖女と認められるでしょう! そして……ルーナ嬢は王太子であるお兄様の婚約者となった! 民からの信頼もあつく、支持されているわ!
……2人に比べて貴方はどう? 誰も居ない、見てもいない場所で魔獣を殺しただけ!
王国の誰も貴方に救われたなんて思っていないわ!
神殿を利用して婚約をとりつけるだけ取り付けて、後は祈りを捧げにもいかない!
そんな貴方が女神の威光を盾にして傲慢に振る舞うだなんて……!
誰も貴方を認めていないわよ!
ええ、王女としてそう宣言してあげるわ!」
まぁまぁ。本気ねぇ、レミーナ様。
言っている事は分かるわよ。
「貴方の仕事だってそう! 憑依? 悪魔憑き? そんなのあるワケないでしょう! ありもしないものを報告して、陛下に取り入り、公金を無駄にしているのが貴方よ!」
無駄ってほど、使った覚えないんだけど……。
今のところ、王都近隣からの嘆願書にしか応えてないし……。
あと馬車で移動するならクインの背に乗って空を飛んでいくし……。
移動費以外で使うお金って、まぁ手紙代かしら……?
私とエルトの人件費はまだ渡されていない。
……ていうか、予算管理するのも今のところ私だから、自分達の給金を決めるのも私かしら?
うーん。
「証明してみなさいよ! 悪魔憑きがあるってことを!」
「その必要性は感じないわねぇ」
「はぁ!?」
「あるかどうかの証明は私の仕事じゃないの。私は助けを願った人達を助ける為に行っただけ。
後ろに控えるご令嬢達も私に助けを求めてきた筈だけど?
ふふふ。良かったじゃない? 悪魔憑きなんてなかったなら。
それって王国が平和で令嬢・令息達が健康って事でしょう? 私も誇らしいわ」
今度は女子爵スマイルよ! フフン!
「バカにしているのかしら!?」
「れ、レミーナ様。どうか落ち着いてください……」
「あら?」
なんとなく私にとっては、こんなものと思っていたけど。
そう言えばレミーナ様、今日は荒々しいわね?
青いのをパートナーに連れてきて、ある意味で勝ち誇ってても良いのに。
まぁ、エルトが好きだったのだから、たとえ身分が上の男を連れてきても、あんまり意味がないかもしれないけど。
「……うーん」
「な、何よ!?」
「ううん。流石に……違うわよね?」
私はさっきまでの喧嘩を買うわよな姿勢を解き、彼女の顔を覗き見た。
「貴方達、今日のレミーナ様はずっとこんな風だった?」
「は……、は?」
態度を変えた私に彼女達はついてこれないみたい。
まぁ、そんな事はいいとして。
「それほどレミーナ様と深く関わった事がないのよねぇ。別に私を嫌ってる程度なら良いんだけど……」
とりあえず……殴っとく?
私の正式な身分は女子爵以外の何者でもないけど。
王族や女神の巫女、陛下直轄組織の室長、という面を押し出せば1発、王女を殴るぐらいは許されるわよ。たぶん。
私は右手を翳して、天与の光を溜めた。
「なっ……」
殴る事がメインではなく、光によって悪しき影を身体から押し出すのがメイン。
祈りに近いけど、この光だけで追い払えれば苦労はない。
アカネの時の手応えを参考に『あちらの世界』へ送り還す事を祈りながら……、殴っ、
「クリスティナ様!」
っと!
テラスに続く扉……窓を開けて、声を張ったのはルーナ様だわ?
ええ、助けにきてくれたのかしら? 格好いいわね!
「ベルグシュタット卿とユリアン公子が!」
「へ?」
ええ、そっちがそっちに絡んできたの?
それは想定外だったかもしれないわね!
もう、2人揃って迷惑なダンスパートナーだわ!




