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151 初仕事完了

「かはっ、はぁ……な、何をするのよ!」

「何って仕事をしたのだけど」


 私は、手を振りながら彼女の様子を見る。

 力を増す使い方ではなく、天与の光で良くないものを押し出す使い方。

 わりと疲れるのよね!


 そのまま私は、崩れ落ちたフィーネリア伯爵令嬢に近付いたわ。

 ビクリとその身体が震える。


「……あのね。フィーネリア嬢。たしかに私は侯爵令嬢ではなくなったのだけれど。子爵令嬢に落ちたのではなく『女子爵』を賜ったのよ。『令嬢』ではないわ。たしかに貴方のお父様である伯爵よりも身分は下なのだけれど」


 そもそも、身分のことを問われると私、凄くややこしいんだからね!


「でも今の私は、陛下直轄の部署の室長なの。貴方、身分が子爵だからって陛下の元で働く近衛とか、そういった人達にまで身分差で高圧的に振る舞うかしら? しないわよね。もっと敬意をもって対応する筈だわ」


 って、どこまで周知されているのか知らないけど。


「あと、子爵と言っても……王族の一員として認められちゃった後なのよ、私。わざわざ辞退した王位継承権も、陛下が直々に保留した状態ね。それから」


 私は彼女の目の前で光と共に一輪の薔薇を咲かせたわ。


「女神イリスの天与を授かった巫女、という立場もあるわね」

「……!」


 まぁ、これは権力的なものとは別としか言えないけれど。

 神殿においては象徴の1人になったのは間違いないわ。


 そもそも巫女の立場を軽んじられるのなら、レヴァンだって陛下だって苦労してないワケで。

 三女神を信仰する神殿が3人の巫女を特別視するからこそ、王家が私にしたことを反省している態度をとっているのよ。



「肩書きほど、私が動かせる権威はないかもしれない。たしかな身分と言えば『女子爵』だけかもしれない。個人的な財力、家門の力もないわ。でも、このタイミングで私に高圧的に振る舞うのはどうかしら? 本当に家門の力で私に圧力を掛けたり出来ると思う? それに私個人に何をしたって怒らない、黙って微笑んでいる、優しい女性を期待して、いびろうとするのもどうかと思うわ。……あなた、蛮族を前にして身を守る術ひとつないようなものよ? 私が貴方を尊重する意思がなければ……ねぇ?」

「ひっ……」


 まぁ、これぐらいは脅しておいていいわね!


「……ほら、立ってね。良かったわね。貴方は憑依……悪魔憑きではないらしいわ」


 しゅるしゅると棘なし薔薇で彼女を立たせてあげる。


「うぅ……」

「……というか、私を虐めたいにしたって、なんで今なのかしら? 王族に認められて子爵を賜ってからする事じゃないでしょう。やるならレヴァン殿下に婚約破棄されて王都を追放された時にしなさいよ」

「うっ、くぅ……」


 子爵だって男爵だって、派閥や後ろ盾、家の財力があって反撃の余地があるなら、そこまで伯爵令嬢に下手にでる事もないわ。

 もちろん相手の対応がまともなら、身分通りに敬意を払って接するだろうけど。

 爵位だけを盾に自らを軽んじる者には、相応の態度を取る筈。


 ……まぁ、本当にそれぞれの家門の状況によるわよね。

 身分制度を軽んじては困る貴族だって居るのだから、それはもちろん慎重に扱う必要があるわ。


 今の私はこういった件で頼る程の信頼関係を築いてないから別だけど、表向きはベルグシュタット伯爵家が後ろ盾になっていると見えるでしょう。

 こんな反撃の手が色々と考えられる中で私をつつく意味ってあるのかしら?



「で、でも!」

「うん?」


 泣きそうな目をしてお腹を押さえながら青い顔をして私を睨む。

 まぁ、その意気はいいわよね。貴族なのだもの、簡単に折れてはダメでしょう。


「お、王家の血を継ぐと言ったって……貴方の立場は弱いのよ! 公爵でもなく、子爵なんて与えられたのがその証拠! 王位を継承しないでも王族なら公爵になってもおかしくなかったのによ!」


 んー……。


「……だから王家が私を軽んじてる、と?」

「そうよ!」

「……その考え、あんまり吹聴しない方がよろしくてよ? 貴方が思う分に留めるなら良いけれど」

「なんですって!?」


 まぁ。怯えていたのを怒りで押し返してきたわね。


「陛下の、王家の考えも色々とおありなのでしょうよ。王家の努力というものを、それこそ軽んじる結果に繋がるわ。というか公爵って……」


 それはたしかに王族だとは判明したワケだけれど。

 あくまで王弟の娘だったという話でね。

 今の国王の娘ってワケじゃあないわ。


 それも既に亡くなっている方の娘であり、血縁方面での後ろ盾はない状態。


 たしかに血縁で、王族だけれど……っていう微妙な、本当に微妙な立場。

 それでも天与を授かった事で神殿、宗教的な存在意義が大きくなった為、軽々に扱えなくなった。


 それに公爵なんて与えたらレヴァンの今の立場を本当に脅かしてしまうじゃないの。


 私は、レヴァン王太子殿下とユリアン公子の2人の継承権議論をひっかき回す為に投入された立場。

 それはやり過ぎというものじゃない?

 最終的にはレヴァンに負けるのがお約束なのだもの。それ以前にだけど。


「……流石に与える領地も、これといった資産もまともにない中でポーンと『今日から貴方は公爵ね』と言われてもねぇ……」


 形だけが過ぎるわよ。

 アルフィナは狭いし、そもそも人が居ないし、立地も良くないし、男爵で十分だったのが子爵だったの。

 むしろ王族だったからこその破格の待遇?


 私を無下に扱えないのだという気持ちが伝わってくるわ。

 私としては、たとえ男爵相当だったとしても『騎士爵』という立場に格好良さを感じていたのだけど!



「伯爵令嬢としての矜持があるでしょうから、私からはこれ以上、貴方を貶める事はしないわ」

「……訴えるわ! 抗議するわよ、この件で!」

「んー……。いいわよ?」

「なっ……!」


 そう言えば令嬢が殴られたのに護衛や夫人は来ないのかしら?

 って、護衛は来てるわね。夫人はどこへ? 娘に任せっきりかしら?


 あれ、なんで近寄ってこないのかしら。

 ……あ、エルトに睨まれて近付けないでいる?


 護衛としてダメじゃないの、それ。命懸けで来なさいよ。

 伯爵令嬢の、伯爵家の騎士でしょ。



「どこまで知っているか知らないけれど。私は、この件での対応を陛下に任されたわ。ルーナ様がじゃなくて私がね。それは、憑依現象……悪魔憑きについて、問題を解決できる人材が今、私しか居ないからに他ならない。


 私の代わりは居ないのよ。そして私の解決手段は……身体から、その悪意ある何かを殴って追い出す事だけ。色々と考えてみたけれど、そもそも、それでしか解決した事がないのよ。


 ならば、こうする事は私の仕事上、必須な行為。……手紙にもその旨、したためている筈だけど?」


 王宮側の人間に送る手紙の内容を確認して記録して貰ってからね!

 しらばっくれられても困るから、その辺の手は打ってあるわ!



「怪力の天与と言われているけれど、今、貴方を殴ったのは、もっと実体のない何かに向けた力だったわ。

 憑依したものにだけ効くように調整した光よ。


 だから貴方に触れたのは『ただの女1人分の腕力』でしかない。

 今、貴方の身体が吹っ飛ばずに、すぐに立ち上がれてるのがその証拠よ。

 私は、私の仕事をこなしただけ。


 ……幼い頃、大木を拳で叩き折ったという私の話は聞いていない?

 殺そうと思えば殺せる力があったのだから、私には貴方を害する意思はなかった」




 必要な行為を成し遂げるにあたって、ある程度の理論武装はしてきてる状態よ。

 ……まぁ、それでも問題なのは問題だから。


「加えて言えば、貴方はさっき、明らかに態度を急変させたわ。……私は報せがあって、令嬢が悪魔憑きになっているかもしれないと危惧してここへ来た。その先で貴方がそんな態度だったのよ? 一刻も早く、貴方を救命する事が私の責務だった。……お分かりかしら?」


 貴族令嬢なら落ち度のないように遠まわしに嫌味を言うとかあるでしょ。

 即、帰ろうとしたからってあんな態度を取ってはダメだわ。


「……あ、あれは貴方の態度が悪いから……!」


「生憎と、そうして挑発的な態度をとって憑依者なのか、令嬢本人なのかを見極める事も私の仕事なのよ。私の見立てでは憑依者は、貴族のマナーなどは弁えていない。自分本位の考えで行動し、言葉を紡ぐ、平民のような態度の『異世界の人間』よ」


 イメージモデルはアマネね!


「貴方が伯爵令嬢らしく、貴族らしく振る舞い、ノブレス・オブリージュを意識した言動をする相手ならば私も野蛮に振る舞いはしなかったわ。……貴方はそうじゃなかった。だから悪魔憑きの疑いを持った。……良いかしら? 私は、この抗弁を陛下にする事になるけれど。公にしたい?」


「うっ……」


 目を見開いてフィーネリア嬢は固まった。

 貴族令嬢らしからぬ態度だと陛下に直接に報告されるなんて、たまったものじゃないでしょう。


 ……いえ、まぁ、どの道、報告は上げなきゃなんだけど!

 職場の上司だもの。


「……はぁ。でも殴られたんだもの。貴方が私にムカつくのは仕方ないわよね」

「は……?」


 私は溜息を吐いた。そもそもからして、居るか居ないか分からない憑依者を探すのが困った仕事なんだけど!


「1発、貴方も私を殴っていいわよ? 伯爵令嬢らしく、私の高圧的な態度に負けなかった、という花を持たせてあげるわ。アルフィナで魔獣を倒し続けた野蛮な悪女、それが今の私だけれど……貴方は、それに屈しなかった。それで矜持は守られるわ」


「クリスティナ様」

「いいのよ、セシリア」


 私は、武家に嫁ぐ上に戦場に立つつもりの女だし。

 理不尽に引っ叩いてくる相手なら容赦しないけど、今回は必然の行為だったもの。


「…………」


 お腹を摩りながら私を睨む令嬢。逡巡している様子ね。

 身分で私の上に立てると思っていたようだけれど、私が生半可なことで屈したりする事はないと分かって貰えたかしら。


「……け、けっこうよ」

「あら、そう?」


 私は首を傾げたわ。別に1発、やり返すぐらいは良いと思ってるんだけど?

 殴られたのは変わりないものね。


「……王族に手を上げて不敬だとでも訴えるつもりでしょう」


 えー……? まぁ、そうなっちゃうのかしら?


「あ、貴方の態度は訴えさせて貰います……!」

「わかったわ。私も問題にしてくれた方が楽だもの」


 だいたい、ふんわりした『特殊捜査権』なんていう特権をどう扱っていいのか。

 今回の件も、私にどこまで許されているのか良い判断材料になることでしょう。


「じゃあ行くわね。貴方は悪魔憑きではなかったと報告するわ」


 私はさっさとその場を去る事にしたわ。

 エルトの威圧から逃れた護衛騎士達が、私達を避けて伯爵令嬢に集まる。


 去り際にチラリと見たけれど、ヘナヘナとその場に崩れ落ちていたわね。



「……とりあえず初仕事完了ね!」


 フフン! と私は胸を張ったわ!


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