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145 特殊災害対策室

「騎士団はどうかしら、エルト」

「前回の件で休みで抜けていた気が引き締まったようだ。幸い、騎士団内に重傷者は居ないな」

「そう。それは良かったわ」


 ルーナ様と違って私は彼らの傷を癒してあげられないからね。


 私とエルトは2人で馬車に揺られているわ。

 王宮に向かっているの。

 王家から私に邪教対策を任せるにあたっての話があるそうだわ。


「最近、訓練に参加しているな。どうだ、クリスティナ」

「楽しいわよ。天与のお陰で身体が軽いの」

「ふむ……。クリスティナは、おそらく元から運動神経は良いのだろう。天与がなくても、それなりに動ける筈」

「そうかしら?」

「ああ。騎士として訓練していればライリーとも剣で戦えた筈だ」

「それは嬉しいわね!」


 天与が使えなくなった時のことは考えておかないといけないものね!

 基礎って大事だと思うわ!


 女神の天与……。やっぱり必要がなくなれば使えなくなったりするのかしら?

 一時期は私もまともに使えなかったし。


「……護衛や従者について悩んでいると聞いたのだが、何かあったのか?」

「うん?」


 護衛や従者? ああ!


「うーんっとね。前に話した事が起きる気配(・・)がするから、距離を置くようにしているの。特にリンディス、カイル、ヨナとはね」

「うん?」


 エルトが首を傾げてるわねー……。


「階段を降りていると急に見えない力に足を引っ張られて、そこにたまたまカイルやリンディスが居たりするのよ。そういう時は薔薇で階段の手擦りに無理矢理に掴まるわ」

「……ふむ?」

「変に避けずに受け入れれば今まで通りで済むのかもしれないけれど……。私の婚約者は貴方だからね」


 これが身内のリンディスやカイル、ヨナならまだ良いけど、大っぴらな場所でレヴァンや青いの相手に起きたらたまったものじゃないわ。


 ……ルーナ様はどうしているのかしら?

 私が知る限りの知識やアマネの反応からして、この現象は本来はルーナ様に起こるべきもの……だと思う。

 彼女も私と同じような状況になっているのかしら?


「でも、丁度いいかもしれないわ。この感覚は邪教と、この王国に起きている現象と繋がっている筈よ」


 なにか変だわって感じる場所へ行けば、そこに何かあるのかもしれない。

 修道院みたいにピンポイントで怪しい場所を視る事がなくなったのは……、邪教が事前に用意した『シナリオ』とは既に大きくかけ離れているから?


 何か大きな流れ。王国を取り巻いているのかもしれない。

 それは今までは嵐の災害や大地の傷という形で王国を覆っていた。


 でも、ルーナ様が各地の浄化をした事で、きっとそれらは正常な形に戻っていて……。


 なんて言えばいいのかしら? エネルギーのようなものが弱っているのよ。

 だから、そういうのが……私に狙いを定めて襲ってきている。そんな感じ。


 けっして女神はやられっぱなしではないの。

 邪神が招く異常に限りがあるのなら……そして、狙いが本当に私だけなら。


 ある意味それは歓迎すべきかもしれないわ。

 ルーナ様やルーディナ様にこの謎の負担はかかってないって事だからね!



 王宮に馬車が着き、招待された旨の手紙を見せて入る。

 なんだかんだで縁があるわね、王宮。


 王都を追放されてから、またこうして平然とここに来るとは思ってなかったわ。


 そうして案内されたのは王宮の一室。


「あ」

「クリスティナ様!」


 そこにはルーナ様がいらっしゃったわ。


「ルーナ様! 元気にしていた?」

「はい! あの……大変ですけど、色々」


 うん。落ち込んではいないようね! 何よりだわ!


 ルーナ様の他にも人は居るけれど少ないわね。

 どういう形の依頼になるのかしら、今回の件は。


「クリスティナ様。ベルグシュタット卿。来て頂きありがとうございます」


 頭を下げてきたのは男性で、まだ若い方だったわ。

 騎士よりも文官といった感じかしらね?


「ルーナ様も邪教対策のお仕事?」

「ええと、それに近い事です。ただ、私は……その。王妃教育が始まりまして」

「そうなの」


 ええと。


「ルーナ様が王妃なの?」


 私は首を傾げたわ。ミリシャはどうなったのかしら?


「それは……、とても難しい話なので、まだ何とも」

「そう?」


 王妃なのか、側妃なのかは、さっさと決めて貰わないと勉強のやる気に繋がると思うんだけど。

 でも、元から陛下はマリウス家の後ろ盾を欲してたからね。


 なのに三女神の巫女にして、国を救った救国の乙女が現れて……、国民感情的にはたぶんルーナ様が王妃に求められると思うわ。

 でも実質の権威は、有力侯爵のマリウス家にある。


 ルーナ様は男爵の令嬢だからね。

 王妃になるとなったら、どこか有力貴族の養子になって後見人を付けるかもしれないわ。


「今の私は、勉強に励むのみです」

「そうね。まずはそこからよね」


 と、そこで私達に、というか私に注がれる妙な視線に気付いたわ。

 少ない人数の人達が私の顔色を窺っているの。


「……なにかしら?」


 私は首を傾げたわ。


「……クリスティナ。キミは今、すごく対応に困る質問をしていると思うぞ」

「え? 何が?」


 ますます私は首を傾げたわ。


「王妃が誰かについてもそうだが、キミが言うとさらにギョッとする。……そういう事だと思うが。キミが言うのか、と」

「私が言うと?」


 エルトが補足すると、無言でコクコクと頷く文官達。


「んー……?」

「あのぅ。クリスティナ様にはまったく他意はないと思いますし、もっと言うと未練もないと思います。そのような方ですので」


 あら。何故かルーナ様にまでフォローされてしまったわ?


「まぁ、なにか悩み事があるんなら誰かに相談しなさいね、貴方達!」

「……はぁ」

「あはは……」


 どうして苦笑いされているのかしらね!



「えー……、ごほん。では早速ですが……国内で起きている不可思議な現象、及び特殊な災害、或いは邪な団体に対する対策室の発足をここに宣言させて頂きます。この件における責任者にクリスティナ・イリス・アルフィナ・リュミエット子爵様。貴方が任命されました。こちらが国王陛下より、その任命書であります」


「謹んでお受けします」


 私は礼をして、その任命書を受け取る。


「『特殊災害対策室』の『室長』?」


 何かしら! 格好いいわね!

 私は目を輝かせて、その役職を見たわ。


 私が室長クリスティナよ! フフン!


「はい。陛下に認められたのは特殊捜査権。また対策室の人事権。及び、王宮内の一部利用権でございます」

「……まぁ」


 凄い。なんか格好いい雰囲気の権利が与えられているわ?


「主にクリスティナ様が捕らえた異教徒の暗躍、それに関係しているであろう不可思議な現象、はては大地の傷が及ぼす魔獣災害についての解決を目指していただく部署……となっております」


「そうなの。国王陛下の承認印があるわね……。ううん、本物ね」


 流石に王妃教育で見ているし。王家の紋章の捏造とか重罪だからね。

 王宮内でそんな捏造なんてバカな事はしないと思うけど、真剣に確認しておくわ。


 こういう時は疑いの目を持って見る必要がある。

 あと、すぐに好き勝手に権利を振るうのではなく、この権利がたしかに発行されたものなのかの裏付けも必要ね。

 国王陛下かレヴァンには確認を取っておきたいわ。


 私に敵対意思を見せたレミーナ王女様は論外ね。


「……特殊捜査権、というのは?」


 隣に居るエルトが私の代わりに質問する。


「それなのですが……随時、陛下に確認していただく形になるかと」

「ふむ?」

「どこまでの権力が必要なのかが不明瞭でして……。一定以上を望まれる場合は、その都度対応させていただく事になるかと」

「……つまり、実質今の段階では形だけの権利だと」

「そうです。ですが、初期の行動方針に沿って、こちらも対応させていただく次第です」


 うーん。まぁ、懸念しているのは確かなんだけど。

 今すぐ何を、どこを、誰を調べれば問題を解決するのかって不確かだものね。


 加えて言えば邪教に関する事は、私が多く関わり過ぎている。

 私の身内にしか、それらを確認したものは居ないのよ。


 つまり私への信用度がないなら、邪教が引き起こす異変はないも同然のこと。



「室長はクリスティナ様ですが……、それに次ぐ者としてベルグシュタット卿も任命されております。また特別協力者としてルーナ・ラトビア・メテリア・リュミエット男爵令嬢も」


「まぁ。つまり私とエルトの2人が最初の正式メンバー、ルーナ様は特別なサポートメンバーという事ね」


 何かしら、この組織! 私の楽しいが詰まっていそうだわ?


「あ、あのぅ。予算にも限りがありますので、遊びのように捉えて貰っては困るとは言わせてください」

「え、予算あるの?」

「それはまぁ、もちろん。国王陛下が承認した特別部署でありますから」

「まぁまぁ!」


 人事権もあるとなると『クリスティナ軍』を入れる事も考えてしまうけど……どうなのかしら?


「……この部署の立ち位置は?」

「国王陛下の直轄、という位置付けであります」

「また破格の待遇ね」


 陛下直轄。近衛騎士団ではないけど、その名前だけで大きいわ。


 それに今はふんわりしているけど、陛下直轄組織が持つ特殊捜査権、っていうだけである程度の無理は押し通せそう。

 陛下が個人で組織した捜査部隊……みたいなものね。


 実際には陛下直属のそういう者達は別に居る筈だけれど、こっちは表立って動くもの?


「こんなトンデモ役職を私に任せるなんて。議会は通ったの、こちら?」

「……はい。件のフェイン家の令嬢の身に起きた出来事は目撃者もあり、陛下も報告を受けています。それもあって、このような形になりました」

「クシェルナ様の件が……」

「はい。私も見ましたから、証言いたしました」

「なるほど」


 レヴァンの婚約者、王妃候補として招かれた救国の乙女ルーナ様の証言があって、迫る危険として認知されたのね。

 あの時に集まった令嬢達にも聞き取り調査とか入ったのかしら?


「差し当って……クリスティナ様。『悪魔祓い』の嘆願が、いくつか来ているのです」

「悪魔……祓い?」


 えっと。あの子、おそらく異世界の人間の魂っぽい子。

 あの子が悪魔扱いって事かしら? ……まぁ、見た目が黒いモヤモヤの瘴気の塊みたいなのだったけど。

 それはそれとして悪魔と言われてしまうと何か違う気もするわね。


 良くて悪魔の卵とかじゃないかしら?


「自身の娘、息子……或いは親兄弟が、そういった悪魔に取り憑かれていないかをクリスティナ様に診断して欲しいと」

「診断って……あの時、最初に異変を感じたのってルーナ様なんだけど。私はぶん殴って、元の世界に送り還しただけよ?」


 私だけでクシェルナ様みたいな転生者の『憑依』を診断するとしたら……片っ端からぶん殴る事になるわね!

 ……あら。それで良いのかしら?


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