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122 視線

「お待ちでしたか?」


 しばらくテラスでエルトと過ごしていると、ルーナ様とルーディナ様が約束通りにいらしたわ。


「気になる程じゃなかったわよ。ね、エルト」

「ああ。むしろ遅れてくれても良かったな」

「ふふふ」


 私は片手を彼に差し出すと、その手にキスをされたわ!


「まぁ、むしろお邪魔だったとは」

「く、クリスティナ様。ベルグシュタット卿も、そのぅ……」


 ルーナ様が可愛らしく照れていらっしゃるわね! ふふふ!

 やっぱり妹に迎えようかしら!


「それにしてもクリスティナ様は私の天与をお気に召さないのかしら?」

「あら、何の話?」

「……何の話も何も」


 私は首を傾げたわ。


「……いいえ、なんでもありませんわ」

「そう?」


 さっき光翼蝶の2匹目を潰したことかしら?

 ルーディナ様は見ていないと思ったのだけれど。


 んー……、離れた蝶の状態が分かるのかしら?


 私は薔薇を操れるけど視認できる範囲外になると細かく操れないのよね。

 相手の服の中とかその程度ならいけるんだけど。


 それでも潰れたかどうかまでの感覚はないわ。

 ルーディナ様の光翼蝶は生きているように見えるし……。

 私の薔薇がちゃんと植えれば育てられる事を考えると、そういう感覚も鋭いのかしら?


 じゃあ、放置せずに近くに来たら潰した方がいいわね! フフン!



「……ところでお話をする前に。ベルグシュタット卿。女神の巫女として3人で話がしたいのですけれど」

「そうか」

「エルトはここに居ていいわよ?」

「そうするつもりだ、クリスティナ」


 うんうん。


「……女3人だけで話したいのだけれど」

「じゃあ、今度、会えるように日程を合わせるわね! エルト、ベルグシュタットの庭を貸して貰える?」

「もちろん構わない」

「……ここで3人になれれば、それでいいわ」

「ならないわよ?」


 私は首を傾げたわ。


「……どういう意味かしら?」

「今日はね、エルトと一緒に行動するって決めてるの。だから私もエルトにここに控えていて貰うわ!」


 彼もパーティー前に男だけっぽい場の話に私を連れて行こうとしたものね。

 だからこれでおあいこってものだわ! フフン!


「……クリスティナ様。先程から感じていましたが、あまりにもマナーや配慮が足りないのではないですか?」

「そう?」

「ええ。それでも貴方、王妃教育を受けてきた淑女なの?」

「残念だわ。教育が身についていなかったのね! だから私は王妃にも王族にも向いてないの。ご容赦お願いね!」


 フフン!


「…………」

「どうしたの?」


 私は首を傾げたわ。


「ベルグシュタット卿は(わきま)えてくださいますわよね?」


 ルーディナ様は、私から顔を背けてエルトに向き直ったわ!


「弁えないが?」

「は?」

「今日はクリスティナと共に過ごす予定だ。陛下のご命令ならばいざ知らず、令嬢の指示に従うつもりはまるでない」

「……ただ女同士で話をしたいだけなのですけれど」

「そうか。そういう気持ちだけは理解しておく」

「……行動に移して下さらない?」

「移さないな」

「え、ええーと」


 私とエルトに譲る気がまったくないからルーナ様が困ってるわね!


「じゃあ、こうね!」


 私はエルトの両耳を掴んだわ。


「──花びらの耳栓!」

「ん……」


 パッと光が灯る。

 害のない薔薇の花びらだけを固めてエルトの耳に詰めたわ!


「これは」


 エルトが耳栓をされて驚いて手を添えているわね。


「これでテラスの端に居て貰いましょう! 視覚だけでもエルトは頼りになるから大丈夫よ!」


 私は耳を塞がれた彼の手を引いてテラスの端に移動して貰ったわ!

 とりあえず、ちょっと時間を置いたらすぐに薔薇を枯らせて霧散させれば完璧ね!


「そんなに彼と離れたくないのですか? 子供みたいですね、クリスティナ様は」

「エルトを一人で放り出したら人に囲まれちゃうでしょう? 女なら男を守らないといけないわよね! フフン!」


 私は胸を張ったわ!


「一般的に逆なのでは……?」

「あら?」

「あとベルグシュタット卿に守りが必要なのかと問われると……」


 まぁ、おかしいわね!

 ルーナ様が私の味方をしてくれないわよ!


「ラトビア嬢には話が通じるのですね……」

「え? ええっと、は、はい?」

「フフン! ルーナ様は可愛いでしょう!」

「……どこまで本気なのかしら」


 ルーディナ様の目が呆れたようになっているわね!


「それで? 天与のお披露目の打ち合わせだったかしら?」

「……ええ。そうですよ」


 ニコッと微笑み合う私達。ここからは当たり障りのないやり取りが続いたわね。

 途中からエルトの耳栓もしれっと失くしてあげたわよ。


 ……ルーナ様は彼女の兄、ユリアンに対して物凄い違和感を感じたらしいけど。

 ルーディナ様に対してはそんな風じゃないのね?


 天与に干渉する邪教が存在しているから、私達の感覚は狂わされている事もあると思う。


 でも合理性のある考えは私の担当じゃないわ。

 私は直感を信じて行動する。

 それ以外は私の周りの人に任せるの。


 その方向性で行くと……ルーディナ様の天与はたしかに彼女の力よ。

 偽りの天与とか、そういうものじゃない。

 彼女は、私とルーナ様と同等の人。


 ──でも今のままだと味方じゃないわ。


 予言の夢で見た内容が絶対じゃない事はミリアリアの件で分かった。

 夢の中で【悪役令嬢クリスティナ】を陥れた可能性は見えたけれど……それが現実では間違っている可能性が大いにある。


 特に天与持ちの私達を仲違いさせるような話なら尚更ね!

 邪教を相手にするのなら、この3人は手を取り合うべきでしょう。


 それでも無条件で彼女を信じたくない気持ちがあるの。

 ……だから彼女への警戒は続行だわ!


 合理性や論理性より感性よ! フフン!



「お互いの天与の見せ場を作って、最後はルーナ様ね!」

「は、はい。すみません。私の天与はそのお2人と違って多彩ではなく」

「……あら。私の天与こそ多彩ではないわ。光る蝶を舞わせるだけだもの。神殿で象徴として振る舞うぐらいしか出来ないわ。ラトビア嬢の力は多くの騎士を、民を救ってみせた素晴らしい力じゃない」


 うんうん。ルーナ様の方はそうね!


「ルーディナ様の天与も必要なら色んな事が出来ると思うわよ」

「……あら。どうしてそう思われるのかしら?」

「そりゃあ、だって。私の天与だって『ただの薔薇』だもの」


 私は右手に一輪の薔薇を咲かせて見せたわ。


「一番初めに『薔薇を咲かせる』天与を目覚めさせて。それだけ(・・・・)だと思い込んでいたのなら、私もそこで止まっていたと思うわ。でも幸い私が薔薇を咲かせたのは邪悪な魔物との戦いの最中だった。だから『槍』として使ったり、他にも応用が出来たりを考えつけたのよ。だからルーディナ様の光翼蝶も、もっと色々な事が出来るに決まっているわ」


「……そうかしら。クリスティナ様の力が素晴らしい事は分かるけれど。私のとは」


「三女神の天与に格の違いなんてあるワケないわ」


「……へぇ。でもクリスティナ様がおっしゃるの? たしかラトビア嬢の『聖守護』の結界を粉砕して見せたと聞いたけれど」


「そ、そうですよ。クリスティナ様の方が私よりもずっと、」


「それは、あの時のルーナ様に真に守りたい人が居なかったからよ。心から愛する人か。理不尽に虐げられている誰か。そんな人がルーナ様の守りを必要としている状況ではなかった。だからあの時だけ押し負けたに過ぎないわ」


 ルーナ様はあの時の私の境遇を理不尽だと感じていたようだし。

 迷いは私達の力に大いに影響するわ。

 

 夢の中の悪役令嬢の薔薇の方が攻撃性だけなら、きっと今の私よりも上だと思うし。


「もしも私やルーディナ様が人々を虐殺して回る悪女だったなら、ルーナ様の力はきっと私達のそれよりも強く光り輝いて人々を守ってくださる筈よ」


「クリスティナ様……」


「……私はそのような事をするつもりはありませんけれど」


「まぁ、ルーディナ様は流石ね!」


 私はするかもしれないけどね!


「クリスティナ。中で両陛下がお見えになられたようだぞ」

「まぁ! じゃあ行きましょうか、お2人とも!」

「あ、あれ? ベルグシュタット卿、耳栓は?」

「何か途中から消えてなくなった」


 まぁ! エルトったらバラしちゃうなんて!


「……クリスティナ様」

「なぁに、ルーディナ様」

「……いいえ。貴方の方針は理解しましたわ」

「そう? よく分からないけれど、それはありがとう!」


 警戒心なんて簡単に伝わるでしょうしね。


 でも仕方ないわ。彼女のお兄さんが私達の敵かもしれないのだもの。

 最悪、彼女が根っからの私達に友好的な人なら、私はともかくルーナ様とは仲良くできるでしょう。


 疑い、嫌われる立場になるのは悪女の私の役目よね!


「クリスティナ」

「ん」


 私はエルトの手と空っぽのワイングラスを取って会場へと戻っていったわ。


「…………」

「ルーディナ様?」

「ええ、ラトビア嬢。一緒に行きましょう」


 ところで陛下達はともかく、噂のユリアン公子も居るのかしら?

 私もルーナ様と同じく嫌悪感を抱いたりするかも?


「ク、クリスティナ様。どうしたら良いでしょうか。両陛下に会いに行った方が……!?」

「大丈夫よ、ルーナ様。上位貴族の皆がこぞって挨拶に行くんだから今行っても困るわ。話し掛けやすそうな場所に固まってる方が両陛下もやりやすいわよ!」


 エルトとルーナ様、ついでに私とルーディナ様が固まってたら嫌でも来ると思うわ!

 天与と勲章で立場が微妙とはいえ、私達は所詮は小伯爵に貴族令嬢だもの。

 ちゃんとした爵位のある貴族達より先んじて陛下の前に立つワケにはいかないわ。


「ルナ」

「ライリー、ああ、私、失礼のないように出来るでしょうか」

「落ち着きなさいな」


 近くに居たラーライラも合流する。

 ルーディナ様もこのまま傍に居るけど……ユリアン公子は居ないのかしら。

 あとレヴァンもどこかしらね。


 私はパーティー会場全体に目を向けたわ。


 ……マリウス家は来ている。侯爵夫妻だけでなく、リカルド小侯爵も。

 陛下が見えたから侯爵達はそっちに行っているけれど……。


「こっち見てるわねぇ」

「ん?」

「マリウス家のリカルド小侯爵」

「……ああ。彼がクリスティナの元・兄か」

「うん」

「……従者が君の本当のご両親について知っていただろう。年齢的にも立場的にも、彼も真実を知っていたんじゃないか? 少なくとも母親については。つまり君が本当の妹じゃないことについて」


 そうねー……。そうなるのかしら?

 私が生まれている状態でセレスティアお母さまとリンディスはマリウス家へ行った筈でしょうし。


 リカルドも年齢的に既に知っていた筈。

 少なくともヒルディナ夫人のお腹が膨らんで私が生まれたワケじゃない事は。


「知っていたんじゃないかしら?」

「そうか……クリスティナ。彼は家では君に対してどんな態度だったんだ?」

「うん? んー。無関心と横柄かしら」

「ふむ」

「頭ごなしに私にアレコレと指図するタイプだったわね。何かあると私を……閉じ込めたがる? 大人しくさせたがるタイプ。外に出したくないみたいなね」

「…………ほう」

「あとリンディスに対して一番食ってかかる人だったわ。姿が見えないから大半の使用人は不気味がっていただけなんだけど、リカルドだけはリンを敵視している感じ。まぁ、思い返したらブルーム侯爵もリンの扱いは酷かったと思うけど」


 リンディスもよく耐えてくれたわよねぇ。

 改めて労ってあげなくちゃだわ!


「クリスティナ。……君の気分が悪くなるかもしれないのだが」

「うん。なぁに? 言っていいわよ」

「ああ。あの目は……どうも君を妹として、ではなく……女として(・・・・)見ていると思う」

「え」


 って。


「誰が?」

「……リカルド小侯爵がだ。推測でしかないが、家に居る時からも? 従者の彼を敵視していたのは恋敵として、ではないだろうか。今も彼の目はどちらかと言えば俺への敵意と、君への怒りに見えるな。……思い通りにならない君への怒り、だ」

「うぇええ……」

「く、クリスティナ様? 大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、ルーナ様……」

「すまない。気分は悪くなると思ったが、おそらくそうだと」

「いい……、言ってくれてありがとう、エルト」


 リカルド小侯爵、かつてのお兄様が? 私を女として?

 さ、流石に気持ち悪いとしか感じないわよ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] この蛮族カップルの何が良いって、「警戒すべきこと、自分が思ったこと」を即相方に伝えることですね。 漫画小説アルアルですが、ストーリーの都合とはいえ「これは今言うべきことではないな」とか思…
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