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120 ルーディナ公爵令嬢

「ベルグシュタット卿も。勲章の授与、おめでとうございます」

「ああ。ルーディナ公女。初めて会うな。礼を言っておく」


 優雅にカーテシーをするルーディナ様。


「はじめまして、ルーディナ様。私も貴方を見てみたかったわ!」

「ふふ。ありがとうございます」


 公爵令嬢だからね。天与の目覚めが早かったなら、私じゃなくて彼女がレヴァンの婚約者になっていても不思議じゃなかった筈。


「久しぶりの王都で、旧知の方との会話は楽しまれましたか?」

「まぁ、それなりね!」


 フィオナ以外に友達もいないからレヴァンに挨拶したら会話は完了よ!

 あとはエルトの友人にでも挨拶すれば良いぐらいかしら。


「そう……。先程の騒ぎを聞いてしまったのですが……レヴァン殿下は貴方の事が忘れられないご様子でしたわね」

「アレは彼なりの思いやりに過ぎない説が浮上してるわ!」

「はぁ……?」


 コテンと首を傾げるルーディナ様。


「クリスティナ様は……マリウス侯爵家との縁を切られたいと聞きました。本当ですか?」

「陛下には私の境遇について手紙は送ってあるわね。なにせ予言で彼らを根絶やしにするとまで言われたもの」


 出来なくはないと思うわ!

 やる時は考えてやりたいわね!


「そう……。では彼女に熱心に話し掛けられたのでは?」

「彼女?」

「はい。貴方の……元・妹と言えばいいかしら」

「ああ、ミリシャ」


 絡まれたわね! ちょっと、よく分からない感じに!


「クリスティナ様も大変だったでしょう?」

「何がかしら」

「彼女。レヴァン殿下の婚約者の候補と見たら、何かと言ってくるものだから。ラトビア嬢は離れていたから難を逃れたけれど、私にもよくね。私も最近、社交界に顔を出し始めたところだから、随分とねぇ」

「まぁ……それはまた」


 ミリシャが絡んでいったのね。想像できてしまうわ。

 でもあの様子だと。


「返り討ちにしたの? やるわね!」

「返り討ちだなんて。彼女に品の無さを説いただけですよ」


 私が居ない間に王都ではバチバチとやり合ってたのかしら?

 まぁ、関わらないで済んで良かったわね!


「それよりもクリスティナ様」

「なぁに?」

「……私の顔を見て、何か思うところはありますか?」

「貴方の顔……?」


 何がかしら? 私は首を傾げたわ。


「……んー。綺麗?」

「まぁ、ありがとう。でも、それは自画自賛かしら?」

「は?」


 何がかしら……。


「……、……クリスティナ?」

「ん? なぁにエルト」


 エルトが考え込むように、私とルーディナ様を見比べるわ。


「ふふ。ベルグシュタット卿には、私の言いたい事が分かっていただけた様子で。そうね。マリウス家の話よりも、クリスティナ様個人の話をしましょうか。クリスティナ様は陛下の前で本当の母親の名を語られたとか」

「ええ」

「本物のお母様のお名前は何とおっしゃるの?」

「セレスティアよ」


 隠す事じゃないからね!


「──では、お父様の名前は?」

「知らないわね!」


 フフン! 聞いてないし、天与でも見なかったからね!


「……本当かしら? 母の名を堂々と語り、父の名だけは黙っていらっしゃるのは、何か思うところがおありなのでは?」

「思うところって何よ」


 何もないわよ。


「勲章を授与された英雄にしてレヴァン殿下の親友、ベルグシュタット卿を婚約者に据えての登場。ふふ。見る人が見れば、これ以上ない挑発だと思われますけれど」

「……何が言いたいのかしら?」


 こういうまどろっこしいやり取り、嫌いなのよね!


「私達、似ていると思いません?」

「……何が?」

「顔ですよ、私達の」

「は?」


 顔。私とルーディナ様の? そうかしら……。


「……何故、似ていると思う」

「それはまぁ、親戚ですからね」

「親戚?」

「親戚……?」


 誰と誰が。


「ふふ。クリスティナ様。今の王太子はレヴァン殿下ですわね?」

「? ええ」

「王位継承権の第1位は当然、レヴァン王太子殿下。そして第2位はレミーナ王女。では、その次は?」

「継承権の第3位?」

「そうです」


 急に何の話かしら……。


 レヴァンが一番で、その次は妹のレミーナ王女。

 国王陛下の息子と娘だからね。


 その次は……、王家の血が流れているのが公爵家。

 だからルフィス公爵家の……。


「ルフィス公爵様?」

「残念。そうではありませんね」

「ん? 違うの?」

「はい。……ルフィス公爵家は、元から王家の血筋の混ざった一族でした。現在の王家と繋がりがなかったとしても、です。でも王子の兄弟が生まれる度に公爵家が増えては王国が混乱してしまいますよね?」

「まぁ、そうね」


 王国も歴史が長いものだから、そんな事してたら周りが公爵家だらけになってしまうわ。


「王の兄弟である公爵であれば継承権があるでしょうが、ルフィス公爵は違います。王家の血を継いではいるものの、今のディートリヒ王の系譜ではありません。ただし」

「ただし?」

「ディートリヒ陛下には2人の弟妹がいらっしゃいました」

「……うん」


 聞いた事はあるわね。


「ディートリヒ陛下の妹こそが私の母、ミレイア・ルフィス・リュミエット。つまり王家に近い血筋なのは父ではなく母なので。この青い髪も彼女から受け継いだものですわ」

「へぇ……だから、つまり王位継承権の第3位は、」

「はい。我が兄、ユリアン・ルフィス・リュミエット。『青の貴公子』という名は聞いた事があるかしら?」


 あったりなかったりね!


「3位はミレイア公爵夫人じゃないの?」

「……母は既に亡くなっていますから」

「それは……ごめんなさい」

「いいえ。随分と昔の話です」


 結局、何が言いたいのかしら!


「でもディートリヒ陛下には弟妹が居たと言ったでしょう?」

「うん」

「では、王弟殿下はどこにいらっしゃると思います?」

「王弟殿下は……」


 あら。知らないわね。


「既に彼は亡くなっているそうです」

「そうなの……」


 陛下のご兄弟が全員亡くなっているなんて。それは悲しいでしょうね。

 ……悲しいのかしら?

 ちょっとミリシャやリカルド小侯爵の顔が浮かんで微妙な気持ちになったわ!


「アーサー・ラム・リュミエット王弟殿下。公式な記録はないけれど、ミレイアお母様は兄である彼が1人の女性を愛していた事を教えてくださったわ」

「……アーサー」


 悪くない名前ね! あら、誰かを愛した?

 でも既に亡くなっているのよね。

 そしてルーディナ様は継承順位の話を私に振って来たわよね。


「アーサー王弟殿下は、公爵に降りる前に自由に生きておられたそうよ。その段階ではまだ継承権を持ったまま。とはいえ、ディートリヒ陛下に王位を譲る事に何の躊躇もなかったようで……王位争いを起こさない為にも自由人として振る舞っていたのね。その彼が愛した女性が居た。……誰かを愛し、そしてそのまま……死んでしまったわ」

「…………」


 死んだ。いつ。ううん。誰を愛したのか。


「アーサー様が愛した女性の名前は……セレスティア。とても美しい深紅の髪と、深紅の瞳を携えたご令嬢だったそうですよ」


 ────。


「……それって。私のお母様、って事?」

「ええ。そうですわ。クリスティナ様。我らがリュミエール王国では血の繋がりも大事ですけれど。天与を授かるか否かもまた、著しく王位の継承に左右されます。それは幼き頃、天与を目覚めさせただけで王太子の婚約者となられたクリスティナ様ならば、よくご存じでしょうね」

「…………」


 ええっと。だから、つまり?


「ユリアンお兄様は公式の記録上では王位継承権は第3位です。……ですが、本当の継承権・第3位は、貴方。アーサー・ラム・リュミエット王弟殿下と、セレスティア・マリウス・リュミエット侯爵令嬢の娘にして、女神イリスの薔薇を咲かせた女、クリスティナ・イリス・マリウス・リュミエット」

「……私が、王位継承権持ち……」


 要らないわね! そういうの!

 リンディスが黙ってた理由って、もしかしてこういう事なのかしら!

 私が知らなくても他の人が知ってるじゃない!


「国王陛下にも既にこの事は伝えてありますわ。……この件が広まれば、誰を支持するべきかについて貴族達も神殿も荒れる事でしょう。王家の血と天与、そして民の心を掴んでいる者。神殿の支持を得ている者。たくさん考えるべき事がありますわね」


 何を私の知らないところで公にしてるのかしら!

 私が知らないんだけど!


「でも王太子はレヴァン殿下だわ。そこを覆す必要はないでしょう」

「……本当に?」

「何がよ」

「女神の巫女たる貴方を、予言に従って放逐した王子殿下。その予言が正しいものなら、クリスティナ様は『傾国の悪女』という事になる。正しくないものとして予言が覆されたなら……婚約者を一方的に捨てるような王子になってしまうわね。王太子殿下は、貴方の前で聖女様を庇った事もあるようだし。……貴方は、どうなさるのかしら、クリスティナ様?」


 アマネの予言を地に貶めないと私は『傾国の悪女』のままね。

 何かをする度に王にすら疑われる人生。


 でも予言に打撃を与えた時、レヴァンの評価も落ちてしまう。

 自業自得な面はあると思うけど、別にそこまで望んでないのよね。

 ましてや王太子の地位を剥奪とか、そこまでは。


 ……これ、アマネが今みたいに大人しく? してる場合はいいけど。

 前みたいに『クリスティナは悪役令嬢だから!』って私を貶めようとしたら、私は迎え撃って潰すしかないわよね。


 そうすると必然的に私の手でレヴァンを追い込む形になって。


「ルーディナ様は何が言いたいのかしら?」

「ふふ。レヴァン殿下にプロポーズされていたでしょう? クリスティナ様」

「ええ。それが何?」

「本当に王太子殿下の手を取らなくていいのかしら? 貴方が市井の者を恋人にしたのなら、きっと問題も大きくはなかったでしょうけれど。誉れも高い金の獅子、民の英雄にして王子の親友、ベルグシュタット卿を婚約者に据えて出てきたものだから。……きっとレヴァン殿下も気が気じゃなかったでしょうね」


 そこまでレヴァンと敵対するつもりなんてなかったのだけど。

 エルトにとっても友人なんだし。


「仮に私に王位の継承権があったとしたって、そんなの辞退するわよ。必要ないもの。王家周りや公爵家が私の存在を気に食わないのなら、すぐにでも王都を去るわ。……幸い、今は帰る場所を作って貰えたからね」


 私はエルトに視線を向けて微笑んだわ。


「ふふ。そう。クリスティナ様のお考え、聞けて良かったわ」


 微笑んだルーディナ様。

 うーん。私に似てる……かしら? そうかしら?


 名前はルーナ様に似てるのに容姿は私に似てるのね!

 ……何か意味でもあるのかしら?


 予言書(オトメゲム)の影響が出ているとかじゃないわよね?


 前にアマネが夢の中で言っていた『使いまわし』とかだっけ?

 アレよ。名前が違うのに顔がソックリな人が何人も出てくる現象を差す言葉よ。


 考え込む私に『光翼蝶』がヒラヒラと舞い、寄ってきたわ。


「ふふ。お近付きにどうぞ? 可愛いでしょう?」

「…………」


 光の蝶。現実で出くわすのは、これが初めてかしら。

 んー……。


「──フンッ!」


 バチン! と思い切り床に叩き落としてみたわ!

 まぁ! この蝶、物理的に存在するわよ!

 天与の光で殴ったからこそ触れられるだけかしら!?


「……っ、な、何をなさるの……?」

「ちゃんと潰せるのか確認したわ! 潰せるのね! フフン!」


 なら、この光翼蝶が私に害を為そうとしても潰せば問題なしね!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 天与の蝶をコバエ扱いなんて、さすが蛮族(笑)
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