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116 帰ってきたクリスティナ

「クリスティナ様!」

「ん!」


 ルーナ様が、馬車台を降りてきて、真っ先に私の所にやってくる。

 クインの背中から降りた私に、駆けつけるまま抱き着いてきたわ!


「ん、ルーナ様?」

「ふふふ。私達が仲良しだって皆に伝えるべきですから」

「まぁ! 優しい人ね、ルーナ様は! 私の妹にするわ!」

「そ、それはけっこうです」


 えー? いいと思うのだけど!


 抱き留めた後は彼女の手を握ってぶんぶんと振り回してみる。

 困惑する顔も可愛いわね! ふふ!


「クリスティナ」

「エルト!」


 黒馬を降りてエルトが歩いてやってくる。


「待っていたぞ」

「ん」


 そして徐に片膝をついて跪いた彼は、私の手を取ってキスをしたわ。


「フフン!」


 恥ずかしいわね!


「ふっ。よく来てくれた。道のりは残り少しだ。共に行こう」

「ええ!」


 エルトが私の手を引いて、私がルーナ様の手を引いて凱旋した騎士達の列に合流する。


「ルナ。ほら、手を貸して」

「はい。ラーライラ様」

「ライリーでいいったら、貴方は」

「ふふ。はい、ライリー」


 まぁ! 私もライリーって呼びたいわ。

 勝手に呼ぼうかしら!


 ラーライラに手を引かれて、再びルーナ様はオープンな馬車の上に乗る。


「クリスティナ。君はこちらだ」

「んっ」


 エルトは私の手を取って、黒馬の上に抱き寄せた。

 私は横座りね。バランスは彼の腕に任せるわ。

 邪魔にならないように、その胸板に寄りかかる。


「ふふふ」


 私は彼に身を預けて微笑んだわ。

 たぶん、私を歓迎しない者も居るんでしょうけど、一連のルーナ様とエルトのやり取りのお陰で、誰も文句を言えない空気になってるの。


「クインはそのまま歩いていいわよー」

『キュアアア!』


 気持ちよさそうに鳴き声を上げ、エルトより先をドコドコと歩く白銀のドラゴン。

 ふふふ。ドラゴンって歩いてると可愛いわよね!


「ふっ。皆、もうどこに目をやればいいのか困っているようだぞ。クリスティナ」

「私ならクインを見るけどね!」

「そうだな。はは」


 凱旋式の目玉はもちろんルーナ様だと思うわ。

 ここまでの道のりでは十分に魅せてきたと思う。


 私は派手に登場したけれど、その後はしれっと凱旋式に紛れ込んだだけの女ね! フフン!


「見えてきた」

「ええ」


 凱旋式の終わりに合流したから、すぐに到着地点が見えてきたわ。王城の前の開けた空間。

 そこに……ディートリヒ国王陛下と、王妃様。

 そして、レヴァン殿下に名だたる貴族達が並んでいたわ。


 まぁ、ミリシャにブルーム侯爵も居るわねー。

 ヒルディナ侯爵夫人も並んでいるわ。


「っ……!?」


 今って正式にはレヴァンの婚約者はミリシャなのよね?

 ルーナ様は候補ってだけで。

 ルーディナ様も一応、候補に挙がったのかしら?


「く、クリスティナ……」


 誰よりも先にレヴァンが私に反応したわ。


「エルトと友人なのよね?」

「ん?」

「気まずいかしら?」

「俺はレヴァンの前でもお前への気持ちを隠した事はないぞ? 好意を寄せたのも婚約解消の後だ」

「そうよね!」


 じゃあ問題なさそうね!


「お姉様……」


 ミリシャの声が聞こえたわ。お姉様?

 よくよく考えたらミリシャはなんで私を姉と呼ぶのかしら。


 血縁者じゃないと知ってたからこそ、沢山の嫌がらせをしてきたと思ったんだけど。


 王族・貴族達が英雄達の凱旋を迎える。

 そして凱旋した騎士達は陛下の前まで到達したわ。


「クリスティナ、ほら、手を」

「うん。ありがとう、エルト」


 彼の手を取りながら馬から降り、エルトも一緒に馬から降りる。


 馬車を引いていた馬達が横に引き取られていき、クインは予め決めていた場所に落ち着いて貰うわ。


 エルトが率いる騎士団とこの辺りの打ち合わせはしていたからね!


「ルナ。こっちよ」

「はい、ライリー」


 ルーナ様とラーライラがエルトの隣に並び、私は反対側のエルトの隣に並んだわ。

 そして他の騎士達は私達の後ろに並び、膝をついた。


 ルーナ様だけが令嬢としてカーテシーを行い、私とエルト、ラーライラは臣下の騎士として敬礼を行った。


「…………」


 注目されているのが分かるわ。場違いだっていう目もあるわね。

 フフン! 知ったことじゃないわよ!


「王国の太陽、国を照らす希望。ディートリヒ国王陛下。エルト・ベルグシュタット以下、第3騎士団。陛下の御前に参ります。そして天与を授かり、王国を守りし、女神の巫女()をお連れしました」


 代表としてエルトがそう告げたわ。


「……ふむ。ご苦労であった。王国が誇る剣、金の獅子たるベルグシュタット卿よ。長い旅であっただろう。我が王国はどうであったか」

「恐ろしき魔獣達は我らが剣に敗れ。魔獣の源泉たる不調和の源は女神の巫女()が浄化し、すべてを解決して見せました。陛下。王国を脅かす災厄は退ける事が出来ました」

「ふむ……」


 ディートリヒ陛下は、エルトの言葉を否定はしなかったわ。

 それはつまり、暗に私の功績も認めたということ。


「よくやった。英雄達よ。お前達のお陰で我がリュミエールの苦難の日々は終わりを告げた。民も大いに喜んでいるであろう。ここにお前達、英雄の帰還を祝うとしよう!」


 国王陛下が高らかに宣言すると、その声が届いた民が『わぁあああああ!』と歓声を上げたわ!


『キュルァアア!』


 ふふふ。クインも驚いているわね!


「今度の件を解決した英雄達に褒賞を贈ろう。それぞれの功績に見合った物を用意する故、謹んで待つが良い」

「有難き幸せにございます、陛下」

「うむ」


 凱旋式は恙なく進行していくわ。


「差しあたっては騎士団を代表して、ベルグシュタット卿にドゥメニム勲章を与える」

「はっ!」


 ドゥメニム勲章は、騎士が大きな功績を上げた時に与えられる名誉の証ね!

 かつての王国の英雄の名前が由来なのよ!


「……そして」


 あら?


「天与を授かり、その力を王国に、そして民の為に振るった巫女ルーナに、メテリア神の威光を示す黄金の装飾『メテリアの祝福』を与える事とする」


 メテリア神。光の女神ね。

 つまり、これはルーナ様に贈られる特別な品だわ。

 エルトにとっての勲章みたいなものね!

 たぶん、本当に黄金だけで出来た装飾なんでしょうね。


「……?」


 ルーナ様にメテリアの装飾が与えられる話を聞いて、何かさっきまで私を睨んでいたミリシャが今度は、こっちを見ながらニヤつき始めたわ。

 何があの子をそうさせるのかしらねー……。

 幼い頃に何かしたのかしら、私。覚えてないわね! フフン!


「そして」


 うん?


「同じく、その授かった天与を用いて、王国で最も危険な地・アルフィナの平穏を取り戻した巫女、クリスティナにイリス神の威光を示す銀とルビーの装飾『イリスの祝福』を与える事とする」


 あら。私にもくれるのね。

 ディートリヒ陛下ったら意外と太っ腹だわ!


「なっ……!」


 そこでミリシャが『くわっ!』って感じに目を見開いたわ。

 私がかつて父母だと思っていたブルーム侯爵やヒルディナ夫人も不満そう。


 この人達、何に腹を立てて私の勲章を嫌がってるのかしら……。


 放っといてくれたらそれでいいんだけど。

 どうせ家族じゃなかったんだし。


「3人は余の前に来るように」

「はっ!」

「は、はい」

「はい」


 そしてエルトにはドゥメニム勲章が。ルーナ様にはメテリアの祝福が与えられた。

 私にはイリスの祝福……ルビーの宝石に銀で薔薇の形と剣を象っている装飾ね。

 陛下から私はそれを受け取ろうと前に出て……。


「お待ちください、陛下」


 ……ストップが掛けられたわ。

 まぁ、なんていうか、そう来そうな気はしてたわよ!


「今回の凱旋式では、ベルグシュタット卿とラトビア令嬢へのみ勲章を与える予定だった筈です」


 口を挟んできたのは……ミリシャね。

 水色の髪と瞳をした見るからにヒルディナ夫人の娘と分かりやすい、かつて妹だと思っていた女。

 実際は、ただの親戚なのよね!

 それを妹扱いしていいのなら、同じ天与持ちのルーナ様を妹扱いしても許されると思うわ!


「王太子殿下ですら聞き及んでいないような勲章を……殿下に不敬を働き、王都を追放された女に与えるとおっしゃるのですか?」


 勲章なんて放っておけばいいのに。

 わざわざ、こんな人が見ている前で異議を唱えるなんて凄いわねー……。


 こんな薔薇と剣の装飾を付けた特注品なんて、前から陛下が準備させてなきゃ用意できる筈もない。

 だから、そこには少なからず陛下の予定していた何かがあるワケで……。


 フフン! 中々、やるわね! ミリシャ!

 なんで陛下の意向に背いてまで、そんなに私を評価されたくないのかしら!?

 筋金入りって、こういう事を言うのね!


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― 新着の感想 ―
[一言] 筋金入りの馬鹿って事ですね。 候補でしかないのにとても不敬な。 気分を損ねなくても、その不見識で一発で候補から陥落して当然かと。
[一言] 候補なのに最低限の貴族教育も出来てねえのはやべえだろ
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