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114 王都への帰還

 凱旋式の日取りが決まり、恙なく日々が過ぎていったわ。


 王都への帰還は許されたワケだけど、ルーナ様達と一緒に凱旋していいかは考えもの。


「マルク達の服装がちゃんとしてないものねぇ」

「俺らだけかよ!」

「あはは。皆、似たりよったりだと思うな」


 アルフィナの近くにある街で仕入れた戦闘服……っていうのかしら?

 ハンター用の鎧を仕立てて着ているのよね。


 私の正装は王都から出てきた時のモノと、エルトから贈られたドレスぐらい。


「アルフィナの功績をアピールしたいなら参加するべきなのだけれど」

「……お嬢様のなさりたいようになさって下さい」

「んー。皆、名誉欲とかあるー?」


 宿の1階、酒場で『クリスティナ軍』を全員集めてるわ。

 クインはひとまず屋根の上に屋根を壊さないように休んで貰ってるわよ。


 賊が現れて一気に網を被せて……なんて事が出来ないようにね。


「名誉ってよぉ。こないだまで一緒に居た騎士連中と肩を並べて歩けって事だろ?」

「そうよ。あと王都を時間を掛けて突っ切るからね! 大変よ! げっそりするわよ!」

「いらねぇ!」

「いらないな!」


 まぁ、マルク達はそうよねー。


「カイルやセシリアは? ヨナも」

「クリスティナが行くなら行くよ」

「……こういう場面における侍女はどの道、同行しないのでは?」

「ええー……」

「名誉を訴えるにしても我々が同行する必要性が、ほぼありませんからね。お嬢1人が参加すれば問題ないかと。どうあっても目立ちますからね。1人で心細いという理由であれば同行しますが……」

「お嬢ちゃんが、そんなタマかよ」

「フフン!」


 私は胸を張ったわ!


「褒めてますかね。今の」

「褒めてはいねぇよ」

「はぁ? 立場を分かってないわね、ナナシ!」

「俺の立場は今、どういうもんなんですかねぇ!」


 ぐだぐだ言いながら、結局一緒に活動しているじゃないの!

 カイルやセシリアが心配なのね、きっと!


「クインと一緒に乗り込む予定なんだよね、お姉ちゃん」

「そうよ、ヨナ」

「じゃあ、僕らは行かないでいいんじゃない?」

「まぁ、ヨナったらそれでいいの?」

「うん。だって、そもそも僕らお姉ちゃんに付いて来ただけだよ? アルフィナを救いたいとか、そういう気持ちであそこに居たんじゃないし」

「それはヨナ様の言う通りですね」

「そうだね。僕もクリスティナに付いてきただけだ。助けたかったのは土地でも民でも国でもない。クリスティナという個人だよ」

「それを言ったら私も変わらないけどね!」


 アルフィナに民が1人でも残ってたら話は違ったんでしょうけど。

 結局、好きに暴れて、誰の目も気にせずに過ごしてきただけだし。


「魔物もそこまで脅威じゃなかったしねぇ」

「……あれを脅威じゃないと思うのはお嬢様だけだろよ。何だ、恐竜って。あと一度に現れる魔物の数な。普通のハンターはあれで全滅する」

「全滅は言い過ぎじゃない?」

「何人パーティーで行動すると思ってんだよ。あんな数の角付き狼共に一斉に狙われてみろ。たまったもんじゃない」

「そうなの」


 私の場合、薔薇で『網』を作って皆を守れる。

 そこにリンディスの幻術で混乱させて突っ込ませれば一網打尽だったからね!


「じゃあ、皆、凱旋式には不参加なのね」

「そうですね」

「んー。じゃあ、どうしましょうか」

「どうするとは?」

「貴方達が凱旋式の間の居る場所よ」

「ここじゃダメなのか?」

「クインが目を付けられちゃったからねー。この前の子爵令息は、凱旋式でエルト達が居なくなった隙を狙って貴方達を襲ってくるんじゃない?」

「……んな、あっけらかんと」

「私に悪意を持つ人がいるって、そういう事でしょう?」


 私を狙うなら返り討ちにすればいいワケだし。

 一番心配なのは皆が狙われる事よね。


「というワケで、マルク達はこれみよがしに騒いで、リンディスとナナシは、近くで潜伏している者がいないかの洗い出しよ!」

「見張りはそりゃあ付いているんじゃないですか? 陛下と手紙のやり取りをする程度の期間はここに居るワケですし」

「元から居るの!?」

「たぶん」

「そりゃいるね」


 いるんだ! そういうのって、流石にリンディスよりナナシの方が得意よね。


「で、お嬢ちゃんはどうして欲しいんだよ」

「んー。エルトや私が離れた隙を狙って、皆を狙ってくる人が居ると思ったのよね。それはこの前の子爵令息なのかもしれないし、他の人かもしれない」

「貴族が凱旋式を見ずにこっちに来るのか?」

「貴族の為の凱旋式じゃないもの」


 ルーナ様達の為のものだわ。


「こういう事があるから『お城』が必要なのね!」


 守りに適した場所って大事なんだわ!


「俺らは城で囲って守られるような存在かぁ?」

「まぁ、考え過ぎという事もあるかもしれませんし」

「そうなんだけどねー」


 誰と戦争しているワケでもないんだけど。


「まぁ、気になるんなら見回りぐらいはしてきてやろう。隠れる場所なんてたかが知れてるから」

「2人1組で行動してね。なんなら私が囮になるわよ?」

「……うーん。この、誰を守る為の活動なのか」

「リンディス達に決まってるじゃないの」

「本末転倒では?」


 そうかしらね。


「クリスティナとセシリアの2人で散歩に出た後で、僕が目立つように後を追い、それらを囮にして2人に尾行を確認して貰うのはどうだろう? そこまでやればクリスティナの不安も解消されるよ」

「それはいいけど……その場合、カイルが一番危なくない?」

「大丈夫だよ」

「そう……。じゃあ、やってみるわね! セシリア!」

「はい。お嬢様。お共致します」


 ふふふ。楽しいわね、こういうのも!



 それからマルク達には適当に宿で騒いで貰い、私とセシリアは連れ立って宿を出て行ったわ。


 人目はあるけど、まばらな時間ね。

 既に何日か宿に泊まっているから私の事を目にしている人も居る。


「……監視は、たしかに付いている様子ですね」

「分かるの?」

「ただの通行人がお嬢様に惹かれて見る動きとは違う動きをしていますから」

「そうなの。私を監視する理由って何が考えられるかしら」


 邪教は理由を考えても仕方ない気がするわね。


「1つは治安上の理由。お嬢様はドラゴンを引き連れて暴れますから」

「フフン!」

「2つ目は、まぁ政治的な理由。お嬢様がどう動くかに注目している者は居るでしょう」

「うんうん」

「神殿が巫女として見守っている可能性はありますが……お嬢様は、ここまでの道中で神殿に友好的な態度を示してきましたので。あえて監視のような真似はしないかもしれませんね」


 概ね、神殿は好意的だったわよね!


「3つ目は個人的な理由。ドラゴンを奪おうとして追い返された男のように、個人的にお嬢様やドラゴンを奪ってやりたいと考えている者の傘下……とかでしょうか」

「なるほどねー。セシリアは私の考え過ぎだと思う?」

「いえ。そもそも、前から思って警戒していた点があるのですが……」

「なぁに?」

「お嬢様は以前は王太子の婚約者でした」

「うん。そうよ」


 問題かしらね。


「……兄さんがその立場だったので、申し上げにくいのですが」

「うん」

「ついでにベルグシュタット卿も……あの方は少し違う立場ですかね」

「何が?」

「それはですね。お嬢様。兄さんのような立場の方が……他にも居たらどうでしょう?」

「カイルのような立場って?」


 元暗殺者ってこと?


「お嬢様は兄さんに対して好意的でしたが……、もっとこう、気に食わない相手が同じような感情を抱いているかもしれませんよ」

「どういうこと?」

「つまり……お嬢様に懸想していて、婚約破棄をされた後、ここぞとばかりにお嬢様を手に入れようと動いた人間が居てもおかしくなかったんじゃないかと」

「エルトやカイルがそうだった……かしら?」

「2人は直接的なアピールをされており、また1番に愛する者として好意を寄せられました。そうではなくてですね。もっと、こう低俗的な……例えば、絶世の美女であるクリスティナを囲い込んでやろう、とか。側室にしてやろう、とか。所有欲、コレクションのように……。病的に病んでいる方に愛されていて、近くに来た事を『俺の元に来たんだな!』とか、思ってる輩がいるやも」


 えー……。いるかしらね、そんなの。


「まぁ、天与持ちで神殿や王家との問題もあるお嬢様ですから。侯爵家との関係もありますし、そういった輩と侯爵がお嬢様とは関係のない場所で、勝手に婚姻を結んでいた、という展開もありえますね」

「その時はマリウス家に攻め入る事にするわ!」

「はい。そうしましょう」


 人気のない方向へあえて移動していく私達。


「追ってきていますね」

「すぐ襲ってきそうな感じ?」

「どうでしょうか……」


 しばらく警戒しながら私とセシリアは待機する。

 すると、向こうから騒ぎが聞こえてきたわ!


「カイル!」

「……あっちにいったようですね」


 私とセシリアは、カイルの元へ走って戻る。

 遠くない距離に男達に囲まれてるカイルが居たわ!


「──薔薇よ!」

「ぐあっ!?」


 囲んでいる男達を薔薇で絡めとる!

 四肢拘束と猿轡よ! ここまでワンテンポで出来るようになってきたわ!

 捕らえた男は3人。


「クリスティナ。早かったね」

「カイル、無事なの!?」

「元々、襲撃があるのと援軍がある前提で立ち回ってたから……」


 まぁ、無傷って事ね。流石だわ!


「監視に留めずに襲ってきたという事は、浅はかな者の手下という事でしょうか」

「まだ居る気がするけどね。そっちは簡単に襲ってくるとか、そういう気はないみたいだ」


 ふぅん。何なのかしらねー。


「どこの手の者か分かりそう?」

「ちゃんとした制服を着ているみたいだから、そこらのならず者じゃないらしいね」


 3人がキチンとした騎士服を着ているみたいね。


「んー。貴方達は、どこの騎士?」


 男の1人の猿轡を外す。


「くっ……ぅぅ」

「あら。この制服って」

「知ってるの?」

「この前、ドラゴンを奪おうとしてたリンドン子爵令息の護衛が着ていたものだわ」

「……ああ」


 どうも予感が的中したみたいね。


「貴方達、この前の件で私の仲間を襲えって命令されたのかしら?」

「はぁっ……はぁっ……うぅ……」

「天与を使う私が誰かを知らないワケでもないでしょうに。ドラゴン欲しさにこんな真似を?」


 王都付近では女神の巫女だなんで尊重される流れじゃなかったのかしらね!


「それは、その……ぐぅ、も、申し訳ございません……」

「あら」


 謝るのね。本意じゃないって事?


「……んー。上に言われて言う事を聞くしかなかったの?」

「は、はい……」

「そう。だったら」


 私は、周りを見渡したわ。


「リンドン家からの手の者は貴方達だけなの? 他にも居るなら一緒に捕まえるけど」

「うぅ……わ、我々だけです……」

「3人程度で私をどうにか出来ると思ってたの? エルト程の実力もないでしょうに」


 ルーナ様を擁したベルグシュタットの騎士団を相手にしても【悪役令嬢クリスティナ】は一方的に蹂躙していた。

 エルトが居たから、その剣が私に届いただけで……。


 私と『彼女』の性能が違うと言っても私の方には怪力の天与まであるのに。


「はぁ……貴方達、リンドン家に忠義心はある?」

「え……?」

「たとえ、ここで命を失っても、かの家に仕える気がある?」

「な、なんで……」

「なんでって、ここで私があんた達を殺すからだけど。死に物狂いで抵抗するならしていいわよ?」


 私は薔薇の拘束を強めておく。


「うっ! お、お助けを!」


 他の2人の猿轡も解いたわ。


「この世に言い残したい事があるなら言っていいわよ。恋人や親、妻や子供はいる? ちゃんと伝えてあげるから」

「ぅぁああ……! お、お許しください! 我々は!」


 ギリギリギリと身体を締め上げる薔薇。


「許さないから。言い残したい事だけ言いなさい」

「うぅぅぅ……ぁあああ!」


 泣きべそをかいている男達。うん。悪党じゃなさそうねぇ。


「はい」


 私は薔薇を枯らせて、男達の拘束を解いたわ。


「クリスティナ?」

「ふふふ。命が惜しいようねぇ? でも貴方達……このまま成果を出せずに戻ったら、どうなるのかしら?」

「うぅ……」

「まぁ、いいわ。ひとまず宿に一緒に来て貰いましょうか」

「え……?」

「リンドン家について……洗いざらい吐いて貰うわよ? 私に喧嘩を売って、まだ諦めない根性だけは認めてあげるわ。ふふふ」


 悪女の微笑みよ!


「「「ひぃ……!」」」


 フフン! 悪女には慣れてきたわね!


「くくく」

「ふふふ」

「ひっ!」

「……カイルとセシリアは私の真似をしなくていいのよ?」

「この場合は一緒にやった方が効果的です」

「うんうん。そうだよ、クリスティナ」


 まぁ、それも楽しいわね!

 悪女陣営よ! 悪って楽しいわ!



◇◆◇



 泊まっていた宿についての問題は少しあったけれど。

 いよいよ凱旋式の日を迎えたの。


『クリスティナ軍』の安全についてエルトに相談したら、アルフィナで一緒に戦ってきた騎士達3人に連れられてベルグシュタット家の王都の邸宅に案内されたわ。


 アルフィナでやってきた皆は逞しく育ってるから、部屋がなくても邸宅の庭で野営しても問題なしよ!

 ……といったけど、部屋は用意して貰えたみたいね!


 そうして私は登場するタイミングを待っているの。


『キュルアア……!』

「もう少し待ってねー、クイン」

『キュルア!』


 人々の熱狂に迎えられながら『救国の乙女』のルーナ様が王都に帰還する。


 彼女の傍に控えて白い馬に乗るのは姫騎士ラーライラ・ベルグシュタット。

 どこかの国のお姫様のようにも見える彼女が、屋根のない馬車の上に立って人々に手を振るルーナ様を護衛しているわ。


 そして、それに続いて凱旋用のマントに身を包んだ第3騎士団が華々しく王都の表通りを練り歩いた。


 一団の先頭では立派な黒馬(こくば)に乗り、黒地に黄金の装飾で飾った騎士服の彼が行く。


 誉れ高き黄金の獅子。金色の髪と翡翠の瞳を携えた美男子。

 金獅子のエルト・ベルグシュタット卿。


「ふふふ。輝いてるわね! クイン。あれが私の婚約者よー」

『キュルア!』

「ルーナ様より目立っちゃダメなのにねー。あれ、目立っていいのかしら?」

『キュルア?』


 空の高い所から見てるから実は細かく見えてないんだけどね! フフン!


「中央広場に差し掛かったわねー。じゃあ、そろそろ行くわよ! クイン!」

『キュルゥアア!』


 白銀の竜に乗り、そして今日はエルトから贈られた赤いマントと、宝石を飾った装いよ。

 素材はさておき見栄えには拘るようセシリアやフィリン達が日頃から仕立ててていた戦闘服。


 令嬢風の騎士衣装……といった所かしら?

 私は騎士ではないからね。ズボンは穿かないの。

 スカートとマント、宝石と剣を携えるのが私。


 男の服装の後を追うばかりが女の進む道じゃないわ。

 私は、私のままでいるのが一番なんだもの。


『キュルァアアアア!』


 人々が空から舞い降りる白銀のドラゴンの登場に驚き、見上げる。


 そして凱旋するエルト達の前の開けた場所に私はクインと共に降り立ったわ!


「──クリスティナ・イリス・アルフィナ・リュミエット! 王都に帰還したわ!」


 フフン! と私は胸を張ったわよ!



章、完結。

途中がグダグダしてしまいました。

ここからは敵を千切っては投げしたいな。


良ければブクマ・感想お待ちしております。

ありがとうございました。


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